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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
大陸編
45/359

43、落ちて連行困りごと

塔が崩壊し、空に投げ出されたケイ達の運命はいかに!?

倒壊した塔から朝日が見えた。

塔のガレキはガラスに変化し、次第に砂のように消える。

(完全にオールだな)と、落下しながらケイは冷静に感想を思い浮かべる。

ケイ達は高い位置から落下しているため、地面との距離はかなりある。

例えるなら、パラシュートなしのスカイダイビングのようである。


「ちょっと!どうするのぉぉおおおお!!!」


落下しているシンシアの声が至近距離で聞こえたため、耳が痛い。

「地面まで距離はあるから、もうちょっと楽しもうよ!」

「何馬鹿なこと行ってんのよ!なんとかしなさいよ!!」

シンシアの怒鳴り声が響く。

地面激突よりシンシアの声による自分の耳を心配したので、創造でなんとかしようと考えた。


「【フライ】!」

【フライ】風属性魔法。

     範囲指定可能の魔法の一つで、空を自由に飛べる。

     効果時間:地面に到達するまで


異世界なら空を飛べて当然とばかりにサクッと創造し、魔法を発動する。

それにより、全員の落下が止まり宙に浮かんだ状態になる。


「ケイ・・・これは何の魔法かしら?」

「風属性の魔法で空を飛ぶ魔法」

「聞いた私がバカだったわ」

「いや、おまえなんとかしろって言ったんじゃん!」

ある程度想定していたが、やっぱりと言った感じでこめかみを押さえるシンシア。

「ケイ様は、何でもできるなんて素敵ね!私も見習わなくちゃ!」

「さすがケイさん、空を飛べる魔法もお持ちなんですね!」

「お前達が褒めるから、どんどんケイが調子に乗る気がするんだが・・・」

アレグロとタレナからの株爆上げを横目に、アダムがため息をつく。


エミリア達にいたっては、状況について行けず戸惑っているようだ。


身体を動かすと、前に倒せば前進、後ろに倒せば減速、左右に傾けるとその方向に曲がるということが理解できる。

スキーの要領に近いため、ケイはすぐになれた。

しかしアダム達は、どうすればいいのかわからず、空の上で平泳ぎ状態になっている。ちょっと滑稽と思ったのは内緒の話。

とりあえず、ケイがみんなに説明と実演を行った。


その後なんとかコツを掴んだのか、各々飛び回る。

エミリア達も鎧を着用しての飛行だが、なんとかついて行ける様子で、その辺はさすが兵士といったところだろう。

「・・・なんでみんな出来るわけ!?」

シンシアはよほど恐いのか、一人腰がひけていた。

「シンシアさん、大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫よ!」

シンシアは、タレナに心配されながらなんとか宙で立てる体勢になるが、後ろから見れば生まれたての子鹿のようだ。


「シンシア、足震えてるぞ」

「うるさいわね!わかってるわよ!」

横やりを入れるなと言わんばかりの形相で、今の状態と向き合うシンシア。

「ほれっ」

「なによ?」

「ついててやるから手を出せ」

怪訝なシンシアに、ケイが手をさし伸べる。

ケイの手を取ったことを確認すると、みんなに合図を出す。

「おーい!このまま下に降りようぜ!」


ケイ達は、魔法での空の旅をわずかだが楽しむことにした。



「いやっほぉぉおおお!!!」

「ち、ちょっとぉおおおお!!!」

ケイとシンシアを先頭に降下する。

急降下や旋回をしているため、シンシアに至っては二秒前の自分を殴りたい心情だったが、ケイはそんなことを知るよしもない。


初めての空は、ケイの好奇心を大いに満たした。

正直、早めに創造するべきだったと二秒ほど反省する。


空の周囲には西側に海が見え、南側にマライダとの国境を示す山脈が見渡せる。

東の遠方には、エストアの山々が見えた。

目線を下に向けると、バナハの街並みがみえる。よく見ると試練の塔があった場所だけ、ぽっかりと空き地のようになっている。


ケイ達はつかの間の空の旅を楽しんだ後、地上に降り立った。



地上に降りたケイ達は、想像通りの展開になっていた。

塔が消失したことにより、街中が大騒ぎになっていたのだ。

どうやら塔が崩壊した音が街中に響いていたらしく、人々が慌てふためいていたようだった。

「エ、エミリア隊長いかがなさいますか?」

「さすがに事態の収集はわれわれだけでは・・・」

「とりあえず、応援を呼ぶべきか」

エミリア達は、事態収拾に向けて行動を起こそうとしていた。


「エミリア!」


後方から低い男性の声がエミリアを呼ぶ。

日に焼けた肌とスキンヘッドに髭が生えた男は、190cmの高身長と銀の鎧が相まって異様な威圧感を与えている。

「ユージーン隊長・・・」

エミリアは顔を強張らせ、その男に返事をする。

「あいつ誰?」

ケイが小声で、エミリアの二人の兵に話しかける。

「騎士団総括補佐兼第一部隊隊長のユージーン・バンサム様です」

まさかの統括補佐の登場だった。


「これはどういうことだね」

「そ、それは・・・」

静かに、そして有無を言わすことなく問いかけるユージーンとエミリアの間にケイが入る。

「ちょっといい?」

「なんだお前は」

目線をこちらに向け、怪訝な表情をする。

「俺は冒険者のケイ。塔の伝承を確かめた結果こうなったんだけど?」

「塔の伝承・・・?」

どうやらユージーンも知っていたようで、一瞬眉を上げる。

伝承の結果が塔消滅だとはいまいち理解しがたかったようだ。

「どういうことだ?」

「結論から言うと、あの塔は役目を終えたから消えたんだ」

「役目・・・?」

そうケイが切り出すが、ユージーンは懐疑的な態度を崩さない。


そうこうしている内に、塔の跡地に野次馬が続々と集まってくる。塔が消えたのは何かの前兆だとか様々な憶測が飛び回っている。


「ユージーン隊長」

ユージーンに同行していた兵が、会話にはさむ。

「一般人の人数が増えつつあります。いかがなさいますか?」

「お前達は塔があった場所を警備しつつ、塔の消失は『調査中』ということで収拾させろ」

「承知しました」

兵が去った後、ユージーンが続けてエミリアに言う。

「エミリア、総括に状況の説明を行え。それと、お前達も重要参考人として出頭を命じる」

ユージーンは、ケイ達にも同行を要請した。

状況を説明するだけならエミリア達だけでも問題なかったが、今回はケイ達が一般人として絡んでいるためやむを得ない対応になった。


ケイ達は、大人しく軍の司令室までついていくことにした。



西側の軍事基地の敷地を歩き、総括が在中する屋敷までやってくる。

入り口には、金のフルプレートアーマーを着用した二人の兵士が立っている。

中に入ると、屋敷の至る所に入り口に立っていた兵士と同じ格好をした護衛が巡回していた。

そのまま建物東側の二階の執務室に案内される。


ユージーンが執務室の扉を叩くと、男性の返事が返ってくる。


室内に通されると、革の椅子に座った男性が目についた。

執務中だったようで机には書類が山積みされており、一段落ついた様子でペンと書類を置いた。

「ロアン様、お話がございます」

「今朝のことだね」

塔の崩壊音はここまで聞こえていたようで、あぁ~といった表情でこちらをみる。


「えっと、君達は初めてかな?私は、騎士団総括のロアン・レッドフォードだ」


茶色に近い金の髪に緑の瞳、四十代手前にしては全体的に締まった体格をしている。

総括と聞いて年配を思い浮かべたが、第一印象はだいぶ若いなと思った。


ケイ達が紹介すると、クラーケンのことを知っていたようで、「君達が・・・」と言った表情を取る。

エミリア達に至っては、唖然とした表情でケイ達を見る。


その後ソファーに座り、ユージーンが状況を説明しエミリアが詳細を説明。

それをロアンとユージーンが黙って聞いている。

「我々の知っている伝承は全てではないということか」

「やっぱりその辺は知らなかったのか?」

「塔の資料自体存在していないからね」

エミリアから聞いたとおり、資料自体が消失しているそうだ。

「ただ最近になって、エストアにも同じような建造物らしき物が見つかったという報告が上がっていてね。近く調査にでる予定だったんだ」

「エストアにもあるのか?」

「サラマンダーの異常行動後の調査の際に、偶然見つけたそうだ。ただし倒壊した後のガレキしか残っていないらしい」

以前ケイが黒狼と会った後に異変が他にないかとディナト中心に調査団を結成し、その捜索途中で東の山の高地に存在していたのを確認したそうだ。


「そうだ、あんたこれ読めるか?」


ケイが、塔で見つけた本をロアンに手渡す。

「試練の塔の上部で見つけた。内容はほとんど古代語だったが、一部に『四つの塔が崩壊して何かと断絶した』と記されていた」

「君は古代語が読めるのか!?」

驚いた表情のロアンがこちらを見る。

「読めると言ってもアスル語だけだ。他にも別言語があるらしい」

古代のダジュール人は、さまざまな言語を習得しており、後生に残す際に一度に解読できないよう施しているのではないかと推測する。

それはなんのためかはわからないが、少なくともヒガンテが存在していたことから考えると、よくないことでもあったかのように感じられた。

「これは相当古い言語だね。我々では解読は難しい」

ロアンは本をパラパラとめくり、難しい顔で告げる。

「読める人間はいないのか?」

「バナハには専門員はいないんだ。そういえば王立図書館のバードなら読めるかもしれない」

「バートが?」

「会ったことはあるかい?」

「ついこの間会ったよ」

「彼は、私の学園時代の後輩なんだ。古代語を専攻していたからもしかしたらわかるかもしれない」

ロアンはケイに本を返し、助言する。


「ロアン様、お話の途中ですが、彼らは夜間に塔の不法侵入をしております。その処遇はいかがなさいますか?」

隣でユージーンが告げた。一瞬、目線を彼の方に向けてからケイの方を見る。

その時何かに気づいたのか、表情を緩ませこう返す。


「処遇の必要はない」

「何故?」

「やり方は違えど、彼らは試練の塔を攻略した者となる。しかも夜でしか解けない仕掛けだった・・・今までにこれを想定した人間はいたかい?」

ロアンがユージーンを見やり答えを即す。しかし答えることの出来ないユージーンは閉口したままだった。


「それに私は、敵を作りたくない」

その言葉にユージーンは、何かに気づき一瞬目を見開く。


「そういうことだから、君達はこのまま滞在してもいい、この国で楽しんでくれ。私からの話は以上だ」

「そりゃどぉも」

どうやら二人は、マイヤーから貰ったブローチに気づいたようだった。

権力者同士の諍いは、どちらにとってもデメリットしかないといったところだろう。


ロアンの話は一通り済んだため、ケイ達は執務室を後にした。



「まさか彼がアルバラントのお墨付きだとはね。噂に聞いていたが面白い逸材だ」


ケイ達に続きエミリア達が退出した後、ロアンが呟く。

「あのような者がクラーケンやレッドボアを討伐したと?」

「しかもレッドボアは素手らしい」

まさかと言った表情をするユージーンに、面白そうな表情でロアンが見る。

「それに君はずっとケイに威圧を送っていただろう?気にしないのか気づかないのかそれがおかしくて・・・」

笑いをこらえきれないといった表情のロアンに、なんとも言えないユージーン。

最初ユージーンは、特にケイを不審人物として見張っていた。途中でスキルの威圧を与えけん制していたが、表情も態度にも変化はなかったため断念した。

ちなみに本来の威圧の効果は、一般兵でも気絶するほどの威力である。しかし、いかんせん相手が悪かったとだけ言っておこう。


「そういえば、前々から言っていた再編成の件、ようやくめどがついたから報告しておくよ」

書類の山になっている机から、資料をユージーンに渡す。

「この編成なら文句はないだろう?」

「ちゃんとした編成ですね。当分はこれでも問題はないかと」

「そりゃそうさ、一年近くも君に言われ続けていたんだから」

部下ならねぎらってくれよと言うと、褒めますので業務も期限を守ってくださいよと返された。



屋敷の外に出ると、時刻は正午を過ぎていた。なんだかんだで時間が経つのが早い。


「ケイ、大丈夫か?」

「何が?」

「さっき、ユージーンから威圧を使用されていたようだったが?」

アダムとレイブンはロアンとの会談中に、ケイに向けられた威圧を感じ取っていた。

「あぁ、あれね。なんか変なことしてるなとはおもったけどさ~」

認知はしていたが、特別気にすることはない様子だった。


「エミリア達はどうするんだ?」

「私たちは午後の訓練に向かうことにする。ケイ達は?」

「俺は少し寝る。完全に徹夜だからな」

ケイがあくびをすると、宿に戻ろうとエミリア達と別れることにする。


「あれぇ?エミリア隊長じゃないですかぁ?」


そこに鎧を着た五人組の兵が通りかかる。

「お前達、昨日はどこに行っていたんだ?」

「どこって酒場ですけどぉ?」

どうやら彼らは彼女の隊に所属している兵らしい。エミリアを挑発するような口調で返す。

「昨晩、塔の警備と巡回を頼んだはずだが?」

「はっ!だれがお前のいうことなんて聞くかよ!ま、お前がやめたら聞いてやるけどな?」

男達はどっと笑う。

「お、お前ら・・・」

「よせ、ジェス」

エミリアに同行していた茶髪の兵のジェスが、彼らに掴みかからんとしたがそれを彼女が制止する。


「エミリア、同期として忠告してやる。誰もお前なんて歓迎してない。とっととやめろ!」


男達は下品な笑いをしたままその場を去った。

エミリアはただ黙って彼らの後ろ姿を見つめたままだった。


「なんなの!さっきの奴ら!」

それに異を唱えたのはシンシアだった。

「それに、なんでエミリアは黙ったままなの!?」

その矛先をエミリアに向け尋ねる。

「彼らの言うとおり、隊長としても人としても私はまだまだだ」

「だからといって、あれは酷いわ!まるで当てつけじゃない!?」


「ジェス、ノーマン。私は先に行っている。午後の訓練に遅れることのないように」

エミリアはシンシアの問いに答えることなく、同行していた二人に声をかけると基地内にある建物の方に歩いて行った。


「エミリア隊長が就任してから、毎日のようにこんなことが行われているんです」

そう語ったのは、黒髪のノーマンだった。

「彼らとは士官学校時代の同期と聞いています。わが軍で初めての女性隊長に否定的なのでしょう」

上に相談したのかと尋ねると、二人とも首を横に振る。

「掛け合ったのですが、取り合って貰えませんでした」

「上の奴らは、これも訓練の内だと隊長を突き放したんだ!」

何も出来ず悔しげな表情でジェスが答える。

「・・・あ、取り乱してすみません」

ジェスが冷静になり、ケイ達に謝罪する。


そのあと「さっきのことは、エミリア隊長には内緒にしてください」と二人に言われ、そのまま別れた。

どうやらエミリアは他の兵とうまくいっていない様子。

憤慨するシンシアと静観するケイ達。

この後どうなることでしょう?


次回の更新は7月8日(月)です。

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