42、塔の真実
塔の調査のため再度訪れたケイ達は、そこで意外な真実にたどり着く。
適当に時間を潰し、ケイ達は夜を待って試練の塔に向かうことにした。
「巡回中の兵士がいると思って覚悟したけど、まさか誰も遭わないなんてこの国はどうなってるんだ?」
宿屋から直接試練の塔までやって来たが、夜間を巡回するはずの兵士の姿は一度も見なかった。
考えてもわからないので、単にタイミング的なものだと思うことにした。
ケイの推測は正しく、夜間に見る塔は濃い青をしていた。
「日が当たらないと色が変わるんだな」
物陰から試練の塔を見ると警備の姿は確認できない。
周辺を巡回しているのかと思い待ってみたが、来ないことを確認してからケイ達は音を立てずに入り口までやって来た。
「やっぱり鍵はかかってるか」
扉に手を掛けると鍵のかかっている感じがした。
宿屋の主に聞いたところ、日没を過ぎると塔は日の出まで閉めたままになるらしい。
「【アンロック】」
【アンロック】無属性魔法。鍵のかかっているモノなら何でも解除が出来る魔法。
カチッと鍵の外れる音がした。
「何しれっと鍵を開けてるのよ!」
小声でシンシアが突っ込む。
「鍵がかかっていればはずせばいい」
「泥棒と一緒じゃない!?」
「大丈夫!大丈夫!少し見るだけだしさ~」
シンシアを宥めつつ、内部に入る。
内部は照明が落ちているため真っ暗なため、鞄からランタンを取り出し明かりをつける。
西と東の確認はとっているため、北側の壁を調べることにした。
「ケイ、あったぞ!」
レイブンが示した先に、西と東にあった感じた感触と同じ円形状の何かである。こちらも他と同じ位置に存在している。
「これ、角度があるな」
ケイが言った通り、真ん中から上の部分に厚みが出ているのがわかる。
再度、両側を調べてみると、東側には右に厚みがあり、西側には左に厚みがある。
光の屈折を再現するためのものなのか?月夜の光を集めるとは?などと考えをまとめてみた。
「そこで何をしている!?」
開け放したままの扉に三人の姿が現れた。
よく見ると、そのうちの一人は銀髪で青い瞳の女性だった。
「エミリアか!?」
「ケイ達じゃないか!?こんなところで何をしているんだ?」
驚きの表情でエミリア達がこちらに近づく。
「塔の謎を解明するためにきた」
「謎って、巡回中の兵がいただろう!?」
「いや?」とケイは首を横に振る。それを聞いたエミリアは「まさかあいつら・・・」といった表情になる。
「隊長、塔には施錠してあったはずですが?」
「それなら魔法で解除した」
エミリアの右側に立っている茶色い髪の兵にケイが答える。
「君は、魔法が使えるのか?」
「職業は魔法使いだ」
「え?あ、いや、格好からして前衛職だと思っていたよ」
革の装備品を着用しているケイを見て、エミリアが目を丸くする。正直、十人が十人とも勘違いをするだろう。
「エミリア、塔の伝承は知っているか?」
「あ、あぁ。『白き扉に三つの影、光を集めし道開かれん』のことだろう?」
バナハの騎士団もこれで伝えられているようだ。
「実はその伝承は省略されているんだ」
「!?何だって?」
怪訝な表情のエミリアにケイが伝承の全容を話すと、まさかといった表情に変わる。
「隊長、取り込み中のところ申し訳ありませんが、彼らは不法侵入をしています。今すぐ拘束をした方がよいかと」
ケイ達のやりとりに口をはさむように、左側の黒髪の兵がエミリアに話しかける。
「いや、しかし・・・」
「拘束って、巡回兵もなしで塔は施錠のみで警護なし。おたくらにそれを言われる筋合いはないんだけど?」
「お、おい!?」
その横で、アダムが間に入り取りなそうとする。
「ケイ、君の言うとおりだ。私がいるのにわが隊はこのあり様だ」
聞くところによると、塔の護衛は第二部隊が行っていたようだが、彼女が就任した一年ほど前からこの状態らしい。アレグロとタレナが感じたことは間違いなさそうだ。
とにかく一度その話は脇に置くことにした。
今、考えるのは試練の塔の伝承である。
『白き扉に三つの影、月夜の光を集めし、かの大陸への道開かれん。
時来たれし我が塔は、わが主の御身を守らんとする』
改めて伝承を頭に浮かべる。
塔内部を光で照らせばいいだけの話だが、白き扉の意味がいまいち理解できない。
ケイが開け放たれたままの両開きの扉に目を向けると、扉の内側が白く光っており、目線の先には丸い月が見えている。
塔の周りは、高い建物が存在しないため、月の光が直接塔の中に差し込んでくる。
しかし、エミリアに同行していた二人の兵士はそれに気づかず閉めようとした。
「ちょっとまて!扉を閉めるな!」
ケイが声を上げると、二人の兵士の動きが止まる。
「ケイ、どうしたのよ?」
「『白き扉』の意味がわかった」
ケイは壁の方に目を向けると、何かが光っているように見えた。やっぱりと思い、二人の兵士に扉を動かして貰うことにする。
「もーちょい閉めて・・・そこで止まれ」
「そっちは少し開けて・・・そうそう!そこでストップ!」
ケイのしていることに兵士おろかアダム達も首を傾げたが、それがなんであるかがすぐにわかった。
「これは・・・」
アダム達の視界に、光の線ができあがる。
入り口の扉が白く輝き、光の反射で壁に当たる。
左は右に右は左に光の線が通り、中央より少し上の位置、つまり違和感を感じていた壁に当たる。
左右の壁が何かで反射されると、奥の壁に当たりその反射の先は塔の中心部の床を指している。
「壁の違和感の正体は【鏡】だったんだ」
通常開放されている塔の内部は、窓がないため薄暗く、照明を使用しているが壁側にかけられているランタンが数個しか設置されないため、十分な明るさとはならない。
ちなみ昼間は太陽の高さが関係しており、入り口の手前までしか当たらない。
しかも内部は濃い青色で統一されていたため、視覚の錯覚のせいで今まで気づかれなかったのだろう。
試しに扉の内側を鑑定してみる。
【月花石】(げっかせき) 月の光を吸収し反射する鉱石。主に扉の装飾に使用される。
どうやら扉だけ二重構造になっていたようだ。
陽花石は太陽の光で、月花石は月の光でそれぞれ光を受ける。
おそらく一般的な仕掛けの一つだろう。
光の先を示す床に目線を移す。
うっすらとだが魔方陣のようなものが浮かんでいる。
「なんだか見覚えがあるような気がするわ」
「アレグロ、何か思い出したのか?」
アレグロの声にケイが問いかける。タレナも同じことを思っていたようだが、それがなんなのかは思い出せないそうだ。
「まさかこんな仕掛けがあったなんて・・・」
呆然とするエミリアに、二人の兵士も扉を支える処理をしてからこちらに近づく。
「隊長、一度戻り総括に報告した方がよろしいかと」
「そうだな。今まで気づかなかったのが不思議なくらいだ」
「関連資料がないと聞いたけど?」
「本当は存在していたそうだ。しかし、500年前の内乱で資料は全て消失したと聞いている」
エミリアによると、当時存在していた資料館が内乱で全焼したらしい。不幸なことに内乱のせいで、当時の管理者が死亡したため未だに数冊が所在不明だそうだ。
「この後ってどうするんだ?」
ケイが魔方陣に近づき、その場にかがみその部分を触れてみる。
「へっ?」
浮遊感を感じ、瞬間的に身体が反転する。
ケイは魔方陣の中で浮いた状態になった。
「ケイ!・・・うわっ!?」
全員が驚き、アダムが下ろそうと手を伸ばすが、魔方陣に入ったせいなのかアダムもケイと同じ体勢になる。
「ちょっと何やってるのよ!?」
「おい!大丈夫か!?」
「タレナ手伝って!」
「は、はい!」
アレグロとタレナがケイを掴み、レイブンとシンシアがアダムを掴んだ。しかし、浮遊する力が強く四人も引きずられてしまう。
「おい、大丈夫か!?・・・なっ!?」
エミリアもその異変に手を伸ばすが、彼女も同じ体勢になる。
「エミリア隊長!・・・わっ!」
「おい!?待てって!・・・うぉっ!」
同行していた二人の兵士も、芋ずる方式で引きずられるように浮遊する。
「ちょっとどうするのよ!?」
「どうするって言われても・・・」
シンシアの返事を返す間もなく、ケイ達は勢いよく浮上して行った。
「うげぇぇぇ・・・気持ち悪い゛ぃぃ」
暫くしてから身体から浮遊感が消えた。
目を回し、方向感覚が狂っているため若干の吐き気をもよおす。
「おーい、みんな大丈夫か・・・」
何とか症状が治まりケイが声をかけると、全員手を振りジェスチャーで返す。
「き、気持ち悪い・・・」
「まだ頭がクラクラするわ~」
「すみません、少し待ってください・・・」
シンシア達女性陣は、まだ立てそうもなかった。
「ノーマンとジェスは無事か・・・?」
「はい、隊長・・・」
「こっちは無事です・・・」
エミリア達の方に目を向けると、心なしかまだ顔が青いが三人とも無事なようだ。
「しかしここはどこだ?」
辺りを見回すと、先ほどと同じ造りの内装のようだ、窓も扉もなく辺りは暗闇に包まれている。
浮遊の衝撃でランタンの火が消えたため、再度つけ直す。
明かりが灯った室内はこれといって何だ変わりはなさそうだった。
「なにもないわね」
症状が治まったのか、シンシアが近づく。
「というか、扉も窓もないってどうやって戻ればいいの?」
「最悪、壁に穴を開けるとか?」
「ケイ、お前物騒だな」
呆れるアダム。ケイは、合理的じゃないか?といっているが建造物侵入している時点で合理的もクソもない。
ケイ達が会話を交わしている時、後ろの方で物音が聞こえた。
「ん?なんか音しなかったか?」
「ちょっと!こんな時に言わないでよ!」
「シンシア、お前びびってるのか?」
「びびってなんかないわよ!」
シンシアが恐怖心を隠しながらケイに返す。
「隊長?」
「お前達も警戒してくれ」
「し、承知しました」
エミリア達はすぐに行動を取れるよう、腰につけた剣を手に掛ける。
ケイがランタンを物音がした方に向ける。
「なんだ?」
ランタンの明かりに照らされたのは、高さ2.5mほどの人型の機械みたいなものだった。
全体的にくすんだ金色で、あちこちに破損の後がみられる。
見上げると、目らしき部分はあるが何の変化もない。
「これは、ゴーレムか?」
エミリアもこれには驚きの表情を隠せなかったようだ。
ケイは人型のそれに近づき、直接触れてみた。
冷たい質感が手ひらに伝わってきた。
おそらく金属製で、軽くたたくと高い金属音が聞こえたため、素材は軽いものらしい。
「ちょっとケイ!?触って大丈夫なの!?」
シンシアが制止しようとしたが、問題はないと伝える。
「これはなんだ?石に見えないようだが?」
「たぶん人型の機械じゃないかな?」
「機械?」
ファンタジー溢れるダジュールに、異質と言われる人型のそれは、忘れられた過去の遺産ということなのだろう。
もちろんアダム達は、その意味が理解できず首を傾げる。
ケイは人型の機械もどきに鑑定をしてみることにした。
【ヒガンテ】塔の護衛人形。
現在は、全体の約99%が破損している状態のため修復不可。
「機械兵か・・・」
ケイが呟きヒガンテから手を離す。
すると、ギギィと金属音が響き渡った。
見上げると、先ほどまで有無を言わなかったヒガンテの目が赤く点滅する。
「ケイ!」
異変に気づいたアダムが声を上げると一斉に武器を構え、エミリア達も剣を抜き臨戦態勢をとる。
『アルジ・・・キタ・・・』
わずかにヒガンテが動き、機械音の様な声で話し出す。
「こいつ、喋るのか!?」
AIを搭載している機械なら理解できるが、年代も不明な人型の機械が喋るとは思わなかった。
アダム達もそれを見て呆然としている。
『アルジ・・・マ、ッテタ・・・』
「主って俺のことか?」
ヒガンテはそれには答えずに、破損の激しい左腕を差し出す。
『アル、ジ・・・モ、ツ・・・』
ヒガンテの左手には一冊の本と腕輪が握られている。
ケイはそれを受け取ると同時に、ヒガンテの左腕が力なく床に落ちる。
左腕が落ちる衝撃が室内に響き渡る。
『ヤ、クソク・・・マ、モッタ・・・』
ヒガンテは役目を終えたのか、両眼の点滅が激しくなり、電池が切れたかのように動かなくなった。
その後、火花と同時にヒューズが飛ぶ様子が見られ、ボンと言う音で煙が上がる。
危険がないのがわかったのか、アダム達は武器を収めた。
「ケイ、それは?」
「こいつが持ってたモノだ」
本を開き、中を見ると古代語のような文字で書かれている。
「四つの塔・・・崩壊・・・断絶?」
文章の一部がアスル語で書かれていたが、断片的なことしかわからなかった。
「ケイさん、それは・・・」
「おそらくこの本が、塔の真実を示すんだろうけど・・・」
なにせ読める部分が少なく、わかる部分だけまとめると『四つの塔が存在したが崩壊し、何かと断絶した』という記述しかわからなかった。
ケイは、受け取ったもう一つを鑑定に掛けてみる。
【ヒガンテ制御装置】ヒガンテを操ることの出来る腕輪。
前所有者権利消失のため、現在はケイに変更。
知らない間に所有者に設定されている。
全体的に少し汚れていたが、細かい細工が施された銀色の腕輪で損傷もない。
試しに腕につけてみたのだが、なにも変化がないため、とりあえずこれは保留した。
「ケイ、この後どうするんだ?」
「とりあえず塔から出るか」
エミリアに尋ねられ、このままでは閉じ込められているのと同じ事なので、ケイが魔法で壁をこじ開けようとした。
『塔の全機能の停止確認・・・あと十秒ほどで消失します』
「はっ?」
突然のアナウンスに全員が固まる。
「い、今のは何!?」
「なんの冗談なのよ!?」
「いや、冗談じゃないと思うよ」
シンシアとアレグロが慌てる横で、顔を引きずらせたレイブンがそう返す。
ケイ達の足元から白い光のような亀裂が入り、四方の壁に次々と亀裂が広がっていく。
広がった亀裂がおさまった次の瞬間、ガラスのように塔全体が砕け散った。
「オチが落ちたってか!?冗談きついぜ!!!」
ケイ達は突然の出来事に対応できず、そのまま落下していった。
まさかの塔崩壊。
ケイ達の運命はいかに!?
次回の更新は7月5日(金)です。




