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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
大陸編
43/359

41、試練の塔

試練の塔と新しい発見。

伝承を解読するのか?はたまた無理難題のロッククライミングか?

「なんだこれ?」


くぼみに触れてみると、壁の質感と違うのがわかる。

表面上では壁と同化しているが、手で触れてみるとガラスなどの質感に似ている。

触った範囲から推測すると、30cmほどの円形状の何かということになる。

「ケイ、何をしてるんだ?」

不審な行動にアダムが声をかける。

「ここだけ壁の感触と違うんだ」

「・・・本当だ。これはなんだ?」

「目で見たところ壁に見えますが、ここだけ質感が違いますね」

アダム達もそこに触れてみると、同じ感想を持つ。

ケイは他にもあるのかと確かめてみたが、西側の壁にはそこ以外に気になるところはなかった。

次は反対側の東の壁に触れてみる。

「やっぱりあった」

東側も念入りに調べてみると、西側と同じ中央より少し上に同じ質感の円形状の何かがあった。

ケイの考えが正しければ、北側か入り口がある南側に同じようなモノがあるはずである。

しかし塔を攻略する人の数に、とてもじゃないが入って行けそうもない。

ケイは目線を人から建造物の方に移す。外は白い外壁で、中は濃い青色である。

建物が二重構造、つまり外側と内側が別々の材質で造られている?と思ったが、考え自体現実的ではないと頭から追いやる。

もしかして塔の材質が伝承に繋がるヒントなのか?ケイはダメ元で建物に鑑定をかけてみた。


『試練の塔』表向きは上るためだけのただの塔。

本来は???の権利を譲渡するための塔。

材質:陽花石(ようかせき)・太陽に当たると白く光る。

発動条件:伝承を解読する。

発動効果:???

作成者:権利消失のため不明。


(なんだこれ?)と素直に出たケイの感想である。

建物を鑑定できたが、情報量が少なすぎるため不明な項目が多い。しかし伝承を解読することで謎が解けることは確かである。

ケイは鑑定の報告をアダム達に伝えようとした次の瞬間、脳裏に鑑定とは違う情報が流れ込んでくる。



『白き扉に三つの影、【月夜の】光を集めし【かの大陸への】道開かれん

 【時来たれし我が塔は、わが主の御身を守らんとする】』



言葉が流れ込んでくると同時に、強い目眩を感じる。

グラッと身体が傾く感覚と同時に、誰かに腕を掴まれた感じがした。


「ケイ!大丈夫か!?」


脳内の衝撃が治まると、目線を声のする方向に向ける。

焦りの表情でアダムがケイの腕を掴んでいる。

「ちょっと、大丈夫なの!?」

「ケイ様!?」

次に、心配そうな表情のシンシアとアレグロが見える。


体調不良と言うわけではないが、先ほどの衝撃の余韻が残っているのか脳内にザワザワした感覚が残っている気がして、ケイはその場に座り込んだ。

「大丈夫だ・・・」

「ちょっと大丈夫って、顔色が真っ青よ!?」

「ケイさん、お水をどうぞ」

タレナから水が入った水筒を受け取るとそれを一気に飲み干す。冷静に考えれば鞄から出せば良かったのだが、今はそれどころではない。

しかし、あれだけの情報量と衝撃なのに吐き気などの症状はほとんどない。物理的・精神的なものではないということなのだろう。不思議な話だ。

頭は冷静だが身体が思うように行かないため、もう少し休んでから動こうとケイは思った。


「アダム、一度宿屋に戻ろう」

「そうだな。本人は大丈夫と言っていたが、さすがに見過ごすワケにはいかない。レイブン、悪いが手伝ってくれないか?」

「あぁ。わかった」

アダムが背負う体勢になり、レイブンがケイの身体を支えてアダムにおぶさるようにする。

ケイの鞄はタレナが持つことにした。


「どうかしたのか?」


塔の入り口で兵士を連れた女性に呼び止められる。

「すまない。連れが体調を崩したようなんだ。宿屋に戻りたいからそこを退いてくれないか?」

ケイをおぶったアダムが女性に返す。

女性がケイの顔をちらっと見ると、顔色の悪さにハッとした表情をしてからこう言った。

「塔の近くに軍の医療施設がある。そちらで休ませたほうがいい」

「でも、俺たちはただの冒険者だぞ?」

「戻る途中で体調が悪化する可能性もある。それに思っている以上に顔色が芳しくないようだ」

女性の提案にアダム達は顔を見合わせる。急いでいるわけではないならそうした方がいいと諭され、アダム達は女性の後についていった。



「ふぁ~、よく寝た!」


身体の違和感からか、そのまま寝入ったケイが次に目覚めたのは簡易ベッドの上たった。

辺りを見回すと、学校の保健室のような場所のようだ。

「やっと起きたわね!?もぉ-心配したのよ?急に顔色が悪くなるんだから!?」

近くの椅子に座っていたシンシアがこちらに気づき、本当にわかってるの?という表情でケイの顔を覗き見る。

シンシアの話では、体調を崩し動けなくなったケイをアダムがおぶり、塔を出ようとした時に軍の女性から医療施設に案内されたという。

日も暮れて来たようだったので、今夜はこっちに泊ることになったらしい。アダム達は別室にある簡易の宿泊場にいるとのこと。

シンシアは、タレナから預かったケイの鞄を渡した。

「軍のお偉いさんが、一般の冒険者に気を使うってどうかしてるぜ」

「何言ってんのよ!?顔色が白に近い真っ青になってたのよ?」

シンシアの必死の形相にケイが吹き出し、またシンシアが咎める姿は、まさに兄妹喧嘩のようだ。


「連れの体調はどうかな?」


扉が開き、女性が入ってきた。

銀髪に青い瞳の凜とした印象を持った女性だった。年はケイと同じぐらいだろう。

「おかげさんでこの通り。そういや紹介がまだだったな、俺はケイでこっちがシンシアだ。で、あんたは?」

ちょっとケイ!?といった表情のシンシアを無視し、女性に尋ねる。

「紹介が遅れたな。私はバナハ騎士団・第二部隊隊長のエミリア・ワイトだ」

騎士団と聞いてあまりいい思い出がないケイは、一瞬嫌な顔をしかけた。

「・・・ん?ワイトって、フリージアの公爵令嬢か!?」

「あ、あぁ。私はワイト家の者だ」

異世界は広いようで狭いんだなとケイは思った。

「でも、公爵令嬢がなんで騎士団に?」

「私は兄のように頭は良くないし、弟のようにうまく魔法は使えない。ましてや妹のようにアイディアに優れているワケでもない。そして最後に残ったのは剣の道だけなんだ」

おそらく彼女は、自分の才能と努力でここまでやって来たのだろう。でなければ、女性で隊長という職業にはなれない。

しかし世の中には妬みというものも存在する。彼女の両肩には責任というものが重くのしかかっているように感じた。


その後、エミリアの案内で普段は施設職員の寝床になっている宿泊場に案内された。

そこでアダム達と合流し、シンシアに説明された内容とおなじ事を聞かされる事になった。



翌日ケイ達は、お世話になったエミリアや職員に挨拶を済ませ施設をあとにした。


「施設職員って大変だな、ベッドが堅かった」

「何を言ってるんだ・・・といいたいとこだが、正直俺も腰が痛い」

「右に同じぃ~」

やはり簡易というだけあってベッドが堅いのだ。例えるなら並べた鉄パイプの上で寝ているようなものだった。

アダムとアレグロが肩や腰をさする。他の皆も大なり小なり痛かったようだ。


施設からまっすぐ試練の塔を通り過ぎようとした時、やたら人だかりが出来ているのが気になった。

「何かあるのか?」

「さぁ、昨日より人数が多いな」

アダムが首を傾げ、近くの人に聞いてみることにした。

「なぁ、この人だかりってなんだ?」

「それが、試練の塔に入れないって皆怒ってるんだよ」

「入れない?」

「どうやら昨日体調を悪くした人がいたらしくてさ、原因究明のために閉鎖しているんだってさ」

おそらく、昨日のケイの状態のことだろう。軍は塔に罠があるか調べるため一時封鎖の処置をとったらしい。


「俺のせい・・・か?」


正直自覚症状がなく、軽い行動がこうなるとはだれも思うまい。

「そういえば、なぜ体調を崩したんだ?」

アダムの問いに歯切れの悪い表情をすると、ここじゃなんだからと場所を移した。



移動した先は、先日訪れた飲食店。

個室という場がないため、奥の六人がけの席に座る。

適当に注文し、料理が運ばれてきたタイミングでケイが口を開く。

「伝承の話があったろ?」

「あぁ。『白き扉に三つの影、光を集めし道開かれん』ってやつだな」

「塔を鑑定した時に、伝承の全容がわかった」

アダム達は驚きの表情でこちらを見た。

「全容?」

「正しくは、『白き扉に三つの影、月夜の光を集めし、かの大陸への道開かれん。

 時来たれし我が塔は、わが主の御身を守らんとする』だ」

「だいぶ意味合いが違うじゃない!?」

「伝承というものは、伝えられていく過程で欠けてしまったりするものもあると聞いたことがあります」

ケイが塔を鑑定した結果、攻略の糸口どころか伝承の全容が解明される。しかし不明な意味合いも多い。

「『月夜の光を集めし』というところから推測すると、恐らく月がでている夜に何かをすればいいとおもうんだよな~」

「『三つの影』は俺たちが触れたアレのことか?」

塔の西側と東側に触れた円形状のモノである。

「影と言っても触らないとわからないほどよ?」

「影の部分は『陰』と置き換えれば、見えないという意味合いにもなる。そう考えると伝承と合う」

三つ目の円形状が北側に存在すると仮定すると、白き扉は入り口になる。

「・・・謎が深まったな」

考えを落ち着かせるため、アダムが水を口に含む。


「そういや塔が何でできてるかわかったぞ」

「なんなの?」

「『陽花石』だってさ」

陽花石?とアダム達が首を傾げる。

「聞いたことないな。鉱石かなにかか?」

「俺も聞いたことがない」

冒険者を長くやっているアダムとレイブンも聞いたことがないという。

「太陽に当たると白く光るらしい」

「じゃあ、私たちが見た塔は、陽花石が光に当たっていたから白く見えたってこと?」

「だって内部は濃い青色だったじゃん?最初は二重構造だと思ったんだけど現実的じゃないし、内部に光が当たるように調節をすれば外側と同じ白く光るということじゃないかとおもってさ」

ケイが言葉を句切ってから、果汁酒や料理に手をつける。

「問題は『月夜の光』をどう照らすかだ。それに今、塔は軍で閉鎖されている。どうするつもりなんだ?」

「実際に、もう一度行ってみるしかないか」


ケイ達は夜を待ってから、もう一度試練の塔を訪れることにした。

試練の塔とは?

次回その謎が明らかに・・・?


次回の更新は7月3日(水)です。

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