40、軍事国バナハ
とりあえずバナハに到着。
ここで新しい発見と出会いが・・・?
翌日ケイ達は、アルマから聞いたミクロス村を頼りにウェストリアを出発した。
出発前に、馬車乗り場でバナハまでの馬車を聞くと、一歩遅かったのか先ほど出てしまったそうだ。
「バナハまでは二日だから、ミクロス村まで徒歩だと三~四日ぐらいかな」
予め道具屋で購入した地図を片手に、アダムがおおよその日数を出す。
途中で野営することも考え、食料の確保を十分に行い、六人いるとなると少なくともテントも今より少し大きめの方がいいと思いこの際買い替えることにする。
バナハに向かう道中、ケイがアダムに聞いた。
「そういや、バナハって何があるんだ?」
「バナハと言えば【試練の塔】が有名だな」
「試練の塔?」
「街中に空高くそびえ立つ塔が存在している国なんだ」
試練の塔は、1500年前から存在している建造物で、一部では遺跡などと呼ばれている。
街中に遺跡?と思うが、関連する書籍が存在しないため、歴史研究者がこぞって調査に訪れるが今だ手がかりがないのが現状だ。
日没が近づくと、アダムがバナハの方を指さす。
「ここから試練の塔が見えるんだ。あれがそうさ」
「へぇ遠くからでも見えるんだな」
「近くで見ると結構大きいんだ」
距離的には三分の一しか歩いていないが、遙か彼方にそびえ立つ塔がかすかに見える。
実物は驚くほどの建造物だという。
日没が迫り、今夜は野宿となった。
アダムとレイブンがテントを組み立て、アレグロとタレナが料理を作り、ケイとシンシアが薪集めと担当を割り振る。
「【エリアルブレイド】!」
近くに立っている木を丸ごと魔法で薪にする。その様子をみてシンシアがため息をついた。
「ケイ、魔法で薪割りってどういうことかしら?」
「木を集めるのが面倒くさいから木を魔法で切ってた」
素直に発言するケイに、さらにため息をつくシンシア。
なにがともあれ、目的のものを入手したのでアダム達の元に戻る。
「森の方から凄い音がしたけど、何かあったのか?」
野営地でアダム達が準備をしていたところ、何かがぶつかる音が聞こえたのだという。
シンシアが、薪集めが面倒くさいからケイが魔法で木を切っていたと言うと、なぜかため息をついたアダムの表情が見えた。
「ちゃんと配慮はしたぞ」とケイが言うと、そういうことじゃ・・・という表情に変わる。今更言っても遅い気がするが・・・。
そうこうしている内にアレグロとタレナの料理が完成すると、皆がそろうのを待ち食事を取る。
「そういえば試練の塔には伝承があったな」
食事の途中で、ふとアダムがそんなことを口にした。
「伝承?」
「確か『白き扉に三つの影、光を集めし道開かれん』って」
「どういう意味だ?」
「さぁ。一説には試練の塔攻略のカギと言われているが、解明にはいたっていないらしい」
「要はわからんってことか」
聞くところによると、塔を攻略するために自力で上っているらしい。
せっかく伝承があるのに意味がないなとケイは思った。
「やっと着いた」
徒歩で向かうこと二日、ケイ達はバナハに到着をした。
バナハは西大陸中部に存在し、国内最大の軍事力を持つと言われている国である。
人口はおよそ百万ほどで、アルバラントの次に人口が多い。しかもその内の三割がバナハの兵である。
兵と言っても三割が丸々常駐しているわけではなく、派遣や訓練の一環で各地を回っているため、通常は1.5割ほどがしかいない。
とはいえ、いつ不測の事態が起きてもいいように万全の体制を整えている。そこは軍事国である。
街を取り囲む高さ10mの塀は、外敵を寄せ付けんと物々しい雰囲気を醸し出している。
しかし一歩街の中に入ると、華やかな雰囲気が漂う。街の印象も実に明るく、そこそこ活気があるようだ。
「あの塔って、近くで見ると結構デカいな」
やはり目を引くのは空高くそびえ立つ試練の塔である。正門から真っ正面に見える姿は圧巻の一言に尽きる。
「やはり試練の塔というだけのことはあるな」
「これを兵は登っているってこと?」
「訓練の一環で挑戦しているそうだが、今までに登り切ったという話は聞かないな」
塔の白い外壁が日に反射し、見上げたケイ達は手で顔の前に影を作る。
「そんなに攻略難易度が高いのか?」
「難易度というより高さじゃないか?」
「まぁ高いしな」
アダムの話では、数年前から一般人からの挑戦も受け付けるようになったらしいが、その道のプロがこなせないのに一般人が達成できるとは到底思えない気がする。
しかしロマンを求める挑戦者が後を絶たないようだ。みんな暇人なのか?と思わざるを得ない。
街の中心部にある宿をとり、そのあとはバナハの観光に繰り出す。
観光と言っても軍事国なので、一般向けの施設はあまり多くない。商業施設を一通り回り、大通りを一本入った路地にある飲食店に入る。
質素ながらも出された食事は全て美味しかった。
特に鳥のソテーは絶品で、秘伝の自家製ソースを使用しているとのこと。
料理好きなレイブンがこの味はこれを使っているのか?などと推測している。傍から見ると百面相をしているようで実に面白い。
食事が一段落ついたところで、後ろの席に座っている、兵士とおぼしき鎧を着た二人組の話し声が聞こえた。
「そういや、また第二部隊の兵がやめたらしいぞ」
「またか?今年で五人目じゃないか」
「ギルバートさんの後釜がアレじゃあな」
「第一、女が隊長を務めるなんて無理があるんだよ」
食事を終えた兵士は残りの水を飲み干すと、店を後にした。
「女の隊長がいるのか~」
「一年前に隊長に就任した女性なら知っているわ」
アレグロとタレナが護衛をしていた時に、就任の挨拶をかねて第二部隊が遠征でマライダに来た時に会ったそうだ。
銀髪に青い瞳の凜とした印象の女性だった。しかし、軍としての規律に違和感を覚えていたと語った。
「やっかみでしょうね。女性が上に立って何が悪いのかしら!?」
さっぱりわからないといった表情のシンシア。
世の中には女性が上に立つことに、抵抗がある人間も少なからず居るだろうなとケイは思った。
食事を終えた六人は、宿屋に戻る前に試練の塔を覗いてから帰ることにした。
街の中心から西側にある空にそびえ立つ白銀の塔は、バナハの軍事施設近くに建っていた。
やはり挑戦者が多いようで列をなしている。
ケイ達は大人しく並ぶこと数分。ようやく入り口に到着をした。
ギルドカードを提示し、了承を得てから中に入る。
「すっげー人だな!」
「ごれ全部攻略者なの!?」
ケイもシンシアも目を丸くする。なにせ中には少なくとも百人以上の一般人や兵が壁を上っては落ちてくるを繰り返していた。
内部は、大体20~30mほどの円形状の広さで何もない。
しかし、よく見ると壁と壁の間にわずかだが隙間がある。それを男たちが指を掛け足を掛け何とか上っている
「ロッククライミングじゃん、アダムも挑戦する?」
「い、いや。やめとくよ」
アダムが横に振り、遠慮する意思を伝える。薄々だがその方法は違うんじゃないかと思っているからだ。
「伝承があるのに誰もそれには触れないんだな」
ケイは懸命に上っている人達に首を傾げる。
「『白き扉に三つの影、光を集めし道開かれん』ってやつ?」
「そう」
シンシアが訪ねると、ケイはおもむろに壁を触り始めた。
ひんやりとしてつるつるした質感は、何かの鉱石ではないかと思った。
「だいたいこういうのは、仕掛けがあったりするんだよな」
壁を上っている人々が北側に集中しているため、あえて人の少ない西側から触ってみる。
「ケイ、なんか怪しい人みたい」
「いいんだよ!よそはよそ!うちはうち!」
シンシアに横やりを入れられながら、途中で人に当たりながらも壁を触る。
「・・・?」
途中で何かに気づきケイが立ち止まる。
西側の中央より少し上の位置にうっすらだがくぼみの様な感触を感じた。
試練の塔の謎。
伝承無視のロッククライミング!
次回、ケイ達も挑戦?
次回の更新は7月1日(月)です。




