39、教立図書館
今回は教立図書館の回。
女神像に関する手がかりはみつかるのでしょうか?
聖炎祭が終わって数日。
ケイ達はアルマの案内で、教立図書館に足を運ぶことにした。
教立図書館は、東地区の大通りに面した場所に建っていた。
白いレンガの窓にはステンドグラスが使用されている。屋根には十字架があしらわれており、教会を思わせるような建造物である。
「ここが教立図書館です」
「教会みたいだな」
アルマが示した建物に、ケイが素直な感想を出す。
「ここは、もともと教会だった場所を改築した建物なんです。それでは中にご案内します」
中に案内されると、内部は円形状の設計になっており、壁一面が本棚で埋め尽くされている。
「ここには約二万冊の書籍が置かれています」
「これ全部宗教関係?」
「はい。あとは伝承なんかも取り扱っています」
「伝承?」
「各大陸に言い伝えられている、伝承や伝説などのことです」
ちなみに、研究を論文でまとめた書籍も置いてあり、特に歴史や宗教研究者が多く利用する場と言われている。
「とりあえず知りたいことは、女神関係の書籍だな」
「それでしたら二階にあります」
アルマの案内で二階に上がる。二階西側の棚が女神関連の書籍らしい。ここだけでも二千冊あるそうだ。
「【創造神アレサの理】に【アレサと世界の関連性】う~んこれじゃないんだよな」
「ケイさんのお知りになりたいことが見つかればいいのですが」
館長であるアルマも、本の内容を全て把握しているわけではないので不安そうな表情でケイをみやる。
棚の上部はケイの身長ではよく見えないため、アダムとレイブンに任せ、中部から下をケイが、周辺の棚をシンシアとアレグロとタレナに任せる。
「アルマ、この世界の宗教って何種類ぐらいあるんだ?」
「創造神アレサ様を崇拝する【アルド教】が一般的ですが、私が認識しているだけでも他に5つ存在してます」
鍛冶の神・エレロの【スィデラス教】
魔術の神・マギアの【ヴォルマゴス教】
商人の神・ポリティスの【ターゲル教】
錬金術の神・アルキミアの【アルエルム教】
戦いの神・ドゥエロの【ナスル教】
この五つである。
どの宗教を崇めるかは個々の自由だそうだが、このほかにも聞いたこともない宗教も存在しており、実害がでなければその辺も自由らしい。
「ケイさんはどの宗教を信仰で?」
「え?【オレ教】」
と、冗談ぽく言ったがアルマは苦笑いを浮かべただけだった。
大人の対応が地味に辛い。
気を取り直して本棚を探していると、西側の本棚の隅に一冊の本を見つけた。
本棚の列の一番下の端にひっそりと置かれており、注意深く見なければ気づくことがない場所である。
「【名もなき女神】?」
手に取ると、本はだいぶ古いようであちこちに汚れや破れ、色あせが目立っていた。
表紙にはタイトルのみしか書かれておらず、著者不明な書籍ということになる。
ついでにこの世界の書籍は、目次やはじめ、あとがきなどの項目はない。表紙を開いて即内容と言うシンプルな構成になっている。
「あら?そんな本あったかしら?」
「もとからあったやつじゃないのか?」
「たまに本を寄贈される方がいますので、全部が全部というわけではないです」
本を開いてみると、過去にアレサ像とは別の女神像が存在していたことがわかった。
その女神像の名前も書いてあったが、古い言語のため読むことが出来なかった。既にアスル語を習得しているケイでも不明な言語なので、恐らく過去に存在していた他の十の言語のどれかと推測する。
それともう一つ、本の後半の文章が全く読めなかったのが気になった。試しに鑑定をしてみると、言語:アスル語、???、???となっていた。
ダジュールの管理者で検索をかけても、それがなんなのかはわからなかった。恐らくメルディーナがとことん隠蔽・削除を行っている結果だろう。
「アルマ、この文字って読めるか?」
「・・・さぁ、ごめんなさい。私には読めないわ」
ケイが女神像の名前が書かれた文章を指さしたが、アルマが首を横に振る。
「ケイ、その文字はアスル語じゃないのか?」
「他の文章は読めたんだけど、この文章だけは別の言語らしくてさ。それにこの本の後半もまったく駄目だった」
後ろから覗くアダムの質問を、ケイが否定した。
「でも、その本俺たちにはまったく読めないぞ?」
「はぁ?」
ケイが疑問に思うのも無理はない。ケイには普通に本として読める部分があるのに、アダム達に見せると全員が首を傾げる。おそらくこの本自体共通語ではなくアスル語で書かれている可能性がある。
「と言うことは、アスル語プラス別の言語確定ってことか」
「で、なんて書いてあるの?」
シンシアに聞かれ、アレサ像とは別の女神像が存在しているらしい事を伝えた。
「女神像と言えば、以前故郷に帰る途中の冒険者の方々と出会いまして、その話をされていたような・・・」
「その話詳しく!」
ケイが前のめりでアルマに顔を近づける。さすがに驚いたのか少し距離をとってから話の続きをする。
「えっと確か、毎年行っている村の祭で、女神像を崇める行事とか言ってましたけど?」
「その村ってどこにあるんだ?」
「『ミクロス村』です」
「ミクロス村?」
「西大陸中部にあるバナハの外れにある村だよ」
アダムは、バナハ南西にあるチューニの森の中心部にある村の事だと言った。
「そこに女神像とやらがあるのか?」
「みなさんが探している女神像なのかはわかりませんが・・・」
「じゃあ、次の目的地はチューニの森にあるミクロス村だな」
ケイが次の目的地をミクロス村に定める。アダム達も異論はないようなので、今後そちらに向かうことにした。
図書館を後にしたケイ達は、最後に大聖堂に寄ってみることにした。
大聖堂の前まで来ると、丁度祈りの時間が終わったようで、町の人達がぞろぞろと出て行く姿が見えた。
「この時間帯は祈りの時間とか?」
「週に二日ほど午前と午後に祈りの時間を設けているそうです」
ここに通う人の大半はアルド教の信者だという。宗教に縁のないケイにとってはあまりピンと来ない様子だった。
大聖堂の内部は、左右に長椅子が両端に並べられており、正面にアレサ像がそびえ立っている。ケイの知る教会と大して変わりはなかった。
「あれがアレサ像か?」
「はい。アルド教の神である創造主アレサ様です」
近づいてよく見ると、どことなくアレサに似ている。実物を見たことのあるケイは、何故創造神の顔をなぜここまで似せて作られているのか?不思議でしょうがなかった。
「この像って作っている人がいるってことだよな?」
「このアレサ像は、エルフの森のエルフ族が作製されたと聞いてます」
「エルフ族?」
「東大陸中部にある森の民だよ。ほらコルト村の東にある森がそれだ」
「え?あれってエルフが住んでいる森だったんだ」
以前エストアに向かう際に、村の近くにあった広大な森を思い出す。
アダムによると、東大陸中部の3分の2はエルフの森だと言う。そう考えると、結構な敷地なんだなと思った。
アルマと別れる際に、もし、名もなき女神像の話を聞いたら、自分たちにも教えてくれと頼んだ。
現状、幻のダンジョンしかお目にかかれていないため、他の女神像も探すにしてもミクロス村の情報しか手に入っていない状態のため、協力者は多い方がいいと考えたからだ。
「わかりました。もしなにか情報がありましたら、冒険者ギルドの方に伝言をしておきます」
「あぁ、頼む」
「弟の恩人ですもの、協力は惜しみません!」
にっこりと笑ったアルマに、ケイも答えるように微笑み返した。
次の目的地が定まったケイ達は、どんな展開を迎えるのでしょうか?
バナハ経由のミクロス村までの旅。
次回の更新は6月28日(金)です。




