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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
大陸編
40/359

38、聖炎祭

今回は聖都ウェストリアの聖炎祭の回。

新しい発見がケイ達を待っている?

それから二日後。

聖都ウェストリアでは、聖炎祭が行われた。

元気になったマルセールは、次期大神官ということから、今年から聖炎の儀を彼が行うことになっている。

そのため準備に時間がかかり、彼とはこの二日間、顔を合わせることはなかった。

アルマは、聖炎の儀には大量の魔力を要するため、マルセールの体調を心配していたようだがそれも杞憂だったようだ。


聖炎の儀は日没後に行われるため、それまではバザーや催し物で賑わっていた。



中央広場を通ると、大きな人だかりがみえた。なんだろう?と覗き込むがいかんせん人が多くなかなか前が見えない。

「アダム、レイブン何やってるか見えるか?」

「どうやら、なにか料理をしているようだ」

「中央にいるのは、女性のシェフみたいだね」

身長の高い二人が近くの段差に上り、中央を覗き見る。


「ケイさん達、何をしてるんですか?」


そこに、木箱に入った色とりどりのマンドラゴラを運んでいるケヴィンと会った。

「あれ?ケヴィンじゃん!この人だかりが気になってさ」

「あぁ。中央でヴェルレーヌさんが料理を作っているんです。俺とリリィは手伝う代わりに料理をご馳走になることになって」


「いいなぁ~俺も食べた~い!」


有名シェフが作る料理を気軽に食べられる機会なんてほとんどなく、基本流行に疎いケイだがここは食べてみたい気持ちにさせる。

「これって食えるのか?」

「えっ!?今作っている際最中ですし、何しろヴェルレーヌさんに聞いてみないとなんとも・・・」

「よし!じゃあ本人に聞いてみよう!」

「ち、ちょ、ケイさん!!?」

首根っこを掴まれたケヴィンは、ケイに引きずられるようにヴェルレーヌの元に向かった。



「おぉぉぉ!すんげぇ匂い!」


ケイは料理の量に驚いた。皿や鍋には、来場者用のいろんな種類の料理が並べられている。

その中には、ベルキッシュやマーボーなどの郷土料理も存在している。


「ヴェルレーヌさん、マンドラゴラここに置いておきますね!」

「わかった。ケヴィン助かったよ!」

現れたのは、茶色の髪に赤い目をした女性だった。背丈はケイとさほど変わらず、口調はどちらかというと男っぽい印象を持つ。


「お前達、追加のマンドラゴラが届いたから、切って鍋に入れて頂戴!」

「はい、わかりました!」

数人の弟子とおぼしき男性がマンドラゴラを器用に切り分け、鍋に入れる。


「そういえばあんたらは誰だい?」

そう聞かれてケイ達が答えると、レッドボアの事を知っていたようで随分と驚いていた。

「へぇ~あんたがレッドボアの魔石提供者だったんだ」

「なんで俺のことを知ってるんだ?」

「ジャニスさんから聞いたんだよ。何でも初めて完璧に近いレッドボアの魔石を手に入れたって、魔石の入れ替え作業もずっとみてたんだよ」

どうやら買われたレッドボアの魔石は、無事に必要な場所に運ばれたようだ。


「そうだ!ケヴィンからここの料理が食えるって来たんだけど」

「ケヴィンの知り合いかい?ならちょっと試食をお願いしたいんだけど、実は、今回初めて披露する料理でね。ぜひ感想を聞きたいんだよ」

そう言ってヴェルレーヌは、テーブルに肉やスープなどが並べられた場所を指さした。

「まぁ!美味しそうね!」

「食欲をすすられる匂いですね!」

アレグロとタレナは白身魚に目をつけた。


「それは【ミャーキィとワインのソース和え】だよ。ルフ島でよく取れる魚と白ワインをベースにしたソースを使用してるんだ」

口に入れると、ワインの風味と白身魚のしっかりした感触が楽しめる。

「この魚モチモチしてるな」

「ミャーキィのいいとこは生でも保存が利くんだ。魔素を含んでいるから身が引き締まってて新鮮のまま楽しめるんだ」

「魔素を吸ってるのか?」

「正確には徐々に浸透しているといったところだね。魚自体は魔素を吸う能力はないし、そもそも自身を保護するといったものもない。魚の中でも30~40年生きるといわれているからその過程で変化したのかもしれないね」


「じゃあこの料理は?」

レイブンが示したのは、外側が赤黒く焼けた肉が入った野菜炒めだった。

「そっちは【クーラービリスの野菜炒め】だよ」

「え!?クーラービリスって食えるのか!?」

「捌く手間は増えるけど、野菜との相性はいいはずだよ」

「なぁ?グーラービリスってなんだ?」

驚いているアダムにケイが聞く。

「クーラービリスはフリージアに生息する獰猛な鹿だよ。血液を毒素に変えて角や蹄にためているんだ」

ちなみにその毒は、成人男性があたると即死するほどの威力らしい。

クーラービリスは、捌く行程が非常に多く、毒素をためる袋が体内にあるため、失敗すれば全てが駄目になるほど難しいらしい。たとえ捌いたとしても、全体の2~3割しか使用できないため、そもそも捕獲しようとする者は少ない。

味は、鹿肉にしては臭みもなく、牛肉に近い感触である。また野菜とも相性がよく、正直ご飯がほしいと思った。


「で、これは何?」

「そっちのスープは【マンドラゴラとプラムのスープ】だよ」

飲んでみると、梅干しに近い味がした。匂いに若干ハーブの風味が残っており、マンドラゴラはどちらかというとレンコンみたいな食感だった。

「嫌いじゃないけど、酸っぱいな」

「これは好みが分かれるかもね、私は好きだけど」

酸っぱいものが好感触のシンシアと、酸っぱいもの自体ががあまり好きではないケイの評価が分かれる。


「そこにある料理は全部たべていいからね」

ヴェルレーヌが言うと、部下に呼ばれたようでそちらの方に行ってしまった。


「有名シェフの料理がタダで食べられるなんて幸せ!」

シンシアは、マンドラゴラとプラムのスープを黙々と飲んでいる。相当気に入っていたようだ。

アダムとレイブンは、クーラービリスの野菜炒めがお気に召したようで、料理の3分の2を二人で食べてしまった。

アレグロとタレナは、ミャーキィとワインのソース和えを好んだ。もともと肉より魚が好きだという。


「う~ん、やっぱりもう一品食べたいよな~」

ケイは唸った。どれも美味しいがケイの中で決定打にかけている。日本人独特の味覚なのか、なぜか物足りなさを感じていた。

「ケイ、食べないのか?」

「うん。食べていい」

アダムの声にケイが空返事をする。



「おい、これどうするんだよ!?」



後方から男性の声が聞こえた。

何かと思ってそちらを見ると、一人の男性がもう一人を叱っているところだった。

「これじゃ使えねぇじゃねーか!」

「すいません」

「どうしたんだ?」

「あぁ。こいつが鍋に油を入れ過ぎちまってさ」

困惑した表情で叱っていた男性が話す。鍋を見ると、3分の2ほど油が入っている。

「この油どうするんだ?」

「どうするって処分だよ。炒め物をするのにこんなに量はいらねぇからな」

男性の言葉にう~んと唸ったケイは、男性達にこう切り出した。


「じゃあ、その鍋使わせてくんねぇ?」


ケイは後で返すことを条件に、男性達から油入りの鍋を受け取った。

その鍋を、近くにあった魔道焜炉に置き火を入れる。

魔道焜炉は普通のコンロとたいして変わりはなかった。ガスの部分は火の魔石でおぎなっており、つまみをひねると火を調節できた。

油が温まるまで、ケイは準備に取りかかる。


鞄からマンドラゴラを取り出す。

取ったままアイテムボックスに入れたため泥がついている。水の入った桶を創造し、それで泥を洗い落とす。

次に包丁を借りて皮をむき、縦に切り、横に薄くスライスする。

近くにあった余った卵を一つ貰い、創造した氷属性付きのガラスのボールに冷水と一緒に入れて解きほぐす。

小麦粉はあったがふるいがなかったため、サクッとふるった小麦粉と薄力粉を創造し一緒に入れる。

ダマが少し残ったところに水気をとったマンドラゴラをくぐらせ、ちょうど温まった油の中に入れる。

食材がバチバチとしながら揚げ始める。その間、菜箸とボール付きのすくいを創造し食材が浮かんできたタイミングで上げる。


「おぉ~できてる!できてる!」

油をきった食材を皿に移し、小皿に塩を盛ってそれをつけて食べる。


「うんま!!」


行程をだいぶ省いた形だが、なんとか天ぷらになった。

マンドラゴラの天ぷらはレンコンの食感に似ているため、天ぷらにしたらどうだろうかと思い作ってみた。結果は大当たりだった。

タレを作りたかったが材料がなかったため、今回は塩のみ。創造しようかと思ったが、あえて塩を選んだ。


「ケイ様何を食べているの?」

アレグロが興味深そうに覗き込む。

「天ぷら」

「天ぷら?」

天ぷらの概要を簡単に説明する。

「とりあえず食ってみろ」

マンドラゴラの天ぷらををアレグロに差し出すとフォークで食材を刺し、塩につけるように言うとその通りにすると口にいれた。

「あら?美味しいわ!特にこの衣っていうのかしら?サクサクして美味しいわ」

「姉さん何を食べているの?」

タレナ達が二人の方に来る。

「天ぷらよ!」

「天ぷら?」と四人が首を傾げる。ケイはアレグロと同じ説明を彼らにして、塩をつけて食べてみろと即した。

「素材を丸ごと揚げるとは思ってもみなかったよ」

「マンドラゴラの天ぷらか、歯ごたえがあって俺は好きだな」

レイブンとアダムは新しい食感にご満悦のようだ。

「この天ぷらって他の材料でも出来るのかしら?」

「水気の多い物はあまり向かないけど、野菜でもできるし、ほれ!」

疑問のシンシアにケイは、ある天ぷらをあげた。

「これって・・・リンゴ?」

「俺んちはリンゴが天ぷらにでるんだ」


余談だが、瑞科家にはりんごの天ぷらが食卓に出る。

祖父母の近所で林檎の農家があり、出荷できなかったものをお裾分けで貰うことから毎年送られてきていたからである。


「これも美味しいわ!ケイ様って料理も出来るのね!」

「ほんっと、悔しいけど美味しいわ」

嬉々のアレグロに、何故か悔しさをあらわにするシンシア。


「ほぉ。美味しそうですな~」


ケイ達が天ぷらを食していると、見覚えのある帽子と杖をついた男性が護衛付きで現れた。

「あれ?ジャニスのじいさんじゃん!」

「久々ですな。この匂いにつられて来てしまいました」

ジャニスは、フリージアに帰る途中で聖炎祭を観に寄ったそうだ。


食べている天ぷらに興味を持つと、ケイが食べてみろよとジャニス達に渡す。

塩を少しつけて食べると、今までになかった食感のため、驚愕の表情をした。

「これは面白い料理ですね」

「だろ?マンドラゴラを天ぷらにしたのは初めてだったけど、レンコンみたいでクセなるぜ!」

「レンコン、というのはどういうものかわかりませんが、とても歯ごたえがあって衣と相性がいいですな」

護衛の二人も最初はジャニスを止めていたが、一口食べるごとに満面の笑みを浮かべている。


「あれ?ジャニスさんじゃないか!?」

ここでヴェルレーヌと手伝いを終えたリリィとケヴィンがやって来た。

「ヴェルレーヌ、準備はどうかね?」

「こっちはバッチリだよ!・・・ところで何を食べているんだい?」

三人に天ぷらの説明すると、ヴェルレーヌの料理人の血が騒いだのか、即食べさせろコールを受ける。


「なんだい!?この食感!」

「これはマンドラゴラ?」

「ケヴィンよくわかったな!マンドラゴラを天ぷらにしてみたんだ」

「不思議な食感ですけど、調味料をほとんど使っていないので食材の味がよくわかります」

料理人も驚くほどの天ぷらは、三人にも通用したようだ。ケイが揚げたリンゴの方も平らげてしまった。


「ケイ!天ぷらの作り方を教えてくれないかい!!」


よほど衝撃的だったのか、メモを片手にヴェルレーヌが迫ってくる。

ちょっと距離を離してから、天ぷらの手順を教える。もちろん要所要所にポイントも加えておく。

他の食材でも天ぷらはできると教えると、メモをし終えたヴェルレーヌがさっそく作ってくる!とその場から去った。なんとも忙しい人である。



その後、ヴェルレーヌの料理をたっぷり堪能している間に日没を迎えた。

ケイ達は、聖炎の儀を観るために大聖堂がある北側に向かった。


「さすが年一の祭、人が多いこと」

さすがに人気の行事なのか、大聖堂の前には人で埋め尽くされていた。ケイ達は人混みをかき分けてなんとか場所を確保することができた


「見て!はじまるみたいよ!」


大聖堂から白い装束と銀色の装飾品を身につけたマルセールが現れる。おそらく聖炎の儀の衣装だろう。

後方には銀色の松明を持った青年二人が控えている。


「これから聖炎の儀を執り行います」


マルセールが何かの呪文の様なものを口ずさむ。

その声に反応するように、彼の周りにある空気中の魔素が淡い緑色に変化する。

淡い緑色の魔素はマルセールの導きで、後方の銀色の松明に灯ると炎を形成した。


「炎が緑色だ」

さすがのケイもこれには驚く。

緑色の炎なんて、中学の理科室実験の一環でしか見たことがない。炎に金属製の粉末や金属化合物を置くと、さまざまな色に変化するアレである。

「なんか炎色反応みたいだな」

神秘的な行事をその一言でまとめるとは、身も蓋もない話である。


炎が着いた松明を、大聖堂前に設置されているトーチに灯していく。

「まぁ、キレイ!」

「聖なる炎の導きというところでしょうか?」

聖炎の儀を初めて見るアレグロとタレナが歓喜の声を上げる。


辺りが徐々に緑色に染まっていくと、トーチに灯っている炎の先から光の粒子の様なモノが見える。

レイブン曰く、マルセールの呪文のような言葉は祈りの言葉と言われており、光属性の上位である聖属性が魔素と反応して炎を形成したんじゃないかと。

「不思議ね」

その言葉にシンシアは立ち上る炎を見やった。



ケイ達はその後、不思議な光景を炎が消えるまで眺めていた。


異世界チート天ぷら爆誕!マンドラゴラの天ぷらって流行りますかね?

味と食感はダジュール製ということでひとつご勘弁を。


次回の更新は、6月26日(水)です。


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