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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
大陸編
39/359

37、マルセール・サン・ルーヴァンリッヒ

フラグは立った時点で成立するの回。

「マルセール様!」


お付きの女性や護衛の男性が少年を介抱する。

「手を貸してくれ!」

「誰か医者を呼べ!早く!」

護衛の怒声と女性達の悲鳴で、辺りは騒然となる。


少年は青白い顔をしながら、お付きの女性に抱えられている。



マルセール・サン・ルーヴァンリッヒ 18才 男性

状態:魔素吸収(90/100)

※生まれつき魔素を吸収する体質のため、体質改善を要する。



「はぁ?あいつ成人してたのかよ・・・」


見た目のわりに、自分と年が変わらないことに驚く。

そして、状態の魔素吸収の文字。


ケイは鞄から【魔素クリア剤】を取り出すと、付き人の女性に手渡す。

「おい、これ飲ませてやれ」

戸惑う女性に、護衛の男性が制止する。

「誰だかしらんが、余計なことはしないで頂きたい」

「余計なこと?ほっといたらこいつ死ぬぞ!?」

「マルセール様の体調は我々が一番知っている!それに、そんな怪しい薬を飲ませるワケにはいかない!」

確かに、見ず知らずの人間から物を貰うことは少しためらわれる。

ましてや教会関係の人間であるからには、十分に注意をする必要があることは理解している。


「これは【魔素クリア剤】だ。体内に停滞している魔素を排出する役割がある!」

「し、しかし・・・」


「すまないが・・・それを飲ませてくれないか?」

か細い声で、支えられている少年が目を覚ます。

「マルセール様!?」

「今日は・・・特に身体の調子が悪そうだ。もし望みがあるならそれを頂こう」

ケイは少年に瓶の蓋をあげて手渡した。

少年は、付き人の女性に補助をして貰いながらゆっくりと飲む。


そして飲み干すと同時に、先ほどまで青白い色だった表情が戻る。



「マルセール様、お気分はいかがですか?」

「あぁ・・・もう大丈夫みたいだ。どなたか存じませんがありがとうございました」

少年はそう言って礼をした。付き人の女性も安堵の表情を浮かべる。

「それだけ話せれば大丈夫そうだな。それじゃ俺たちは行くぜ」

「あの、せめてお名前だけでも」


「俺たちは通りすがりのただの人さ」


そう言ってケイ達は、宿屋に戻ることにした。


「何よ『俺たちは通りすがりのただの人さ』って、格好つけちゃって!」

「なるべくならフラグは立てたくない・・・」

ケイは、オリバーの一件で出来ればスルーしてほしい心情であった。



「よかった。マルセール様の恩人が見つかりました!」


翌日、宿屋で朝食をとっていたところ、マルセールの使いと言う青年がやって来た。

ケイの中で、フラグは立った時点で成立することが実証された。


「もしかして、俺たちを探していたのか?」

「はい!マルセール様がどうしてもお礼を申したいと、一晩中探していました!」

目を丸くしアダムが尋ねと、なんともバイタリティー溢れる青年の回答が返ってくる。



マルセールの屋敷は、大聖堂の東にある青い屋根の二階建ての建物だった。

「こちらがマルセール様の屋敷です」

「金持ちの家じゃん!」

「あ、いえ。こちらは、建国1000年の式典の際に王都アルバラントから寄贈された屋敷になります」

王都アルバラントと商業都市ダナンとは、世間では三大都市といわれ、いわば姉妹都市という関係らしい。

ちなみに寄贈されたこの建物自体、100年以上経っているそうだ。

「そのわりには綺麗ね」

「もうちょい古いイメージがあるけど」

「細かいところまで、手入れが行きとどいているようだ」

ケイ達は屋敷を見上げて思わず唸った。



屋敷の入り口からエントランスにある階段に上り二階へ。


「マルセール様、恩人の方々をお連れしました」

「はい、どうぞ」

やや間があってから返事がくると、扉を開けて使いの青年と共にケイ達も入室する。


「マルセール様、こちらが冒険者パーティの『エクラ』の皆様です。

「ありがとう。君は下がっていいよ」

「はい。失礼します」


使いの青年が退出すると、ケイ達はベッドの方を見た。


紫を基調とした天蓋ベッドに、青年が上半身を起こした形でこちらを見つめている。

ベッドの傍らには女性の姿も見えた。


「こんな格好で申し訳ない。私はマルセール・サン・ルーヴァンリッヒ。大聖堂の次期大神官と呼ばれています」

マルセールがお辞儀をすると、ケイ達も各々紹介をする。


「・・・で、隣の人は?」

「申し遅れました。私はマルセールの姉で、アルマ・ルーヴァンリッヒと申します」

茶色の髪に緑の瞳をしたアルマは、マルセールと雰囲気が似ている。

「姉は、教立図書館の館長も務めております」

「マイヤー様からお話は伺っております。遥々遠いところからようこそお越しくださいました」

「え?あんた館長だったのか!?」

ケイ達が驚くのも無理はない。アルマは、24才という若さで異例の大出世をした女性である。

「バートも若い方だけど、もっと若い奴がいるとは思わなかったな」

「皆さんよく言われます」

クスクスとアルマが笑う。


「そういえば、身体は大丈夫なのか?」

「はい。先日頂いた薬が効いたようで、しばらくは大丈夫かと」

「しばらくは・・・?」

「私は生まれつき魔素を吸収してしまう体質のため、薬を定期的に摂取する必要があります」

そう言ったマルセールに鑑定をかけると、魔素吸収が5/100と増えていた。

恐らく一日5ずつ増えていくのだろう。

「あの、失礼ですがケイさんは鑑定をお持ちでしょうか?」

「あぁ。持ってる」

「だから、私の体質に合った薬を渡してくださったのですね」


「ケイ、あんたまさか勝手に鑑定したの!?」

シンシアがそう尋ねたので「うん」と肯定すると、人の許可無しに鑑定しちゃ駄目だと説いた。

どうやらこの世界の常識らしい。

「シンシアさん、そんなに怒らないであげてください。彼のおかげで弟は救われたのですから」

アルマが間に入り、シンシアを宥める。


「先ほど、薬を定期的に摂取するとおっしゃってましたが、そういう薬があるんですか?」

レイブンが疑問を口にする。

「弟は魔素を吸収する体質のため、定期的に聖水を用いた薬を処方しています」


この世界の魔素は、世界の至る所に存在しており、別名『魔力の素』と言われている。

魔法専門職の人間にとっては、最初に知る原理の一つである。

通常、魔法を使う者は魔力と空気中の魔素を反応させて、魔力として変換し魔法を発動させている。


しかしマルセールは、体質の関係で体内の魔力が極端に低く、しかも魔素を体内に含み続けているという。

体内に吸収されることを遅らせるために、定期的に聖水を用いた薬を服用しているが、焼け石に水状態らしい。

それに小柄な原因は、魔素を含み続けているため、本来発育するはずだった身体が阻害されているそうだ。


「じゃあその悩みを解決してみよう」


「え!?そんなこと可能なんですか?」

「できる!」

目をパチパチとさせているマルセールとアルマにケイは自信満々に答えた。



「こちらにお水を用意しました」


マルセールの侍女から、水が入ったガラスのコップを受け取る。

「ケイ、これどうするんだ?」

「まぁ見てなって!」

アダムの問いに宥めてからコップをベッド横のサイドテーブルに置く。


「【エンチャント・体質改善】!」


【体質改善薬】虚弱体質や困った体質をまるっと改善!

※普通の人には効きません。制作者:ケイ


水が透き通った青色に変化をする。

ふざけた説明文だが、効果があるかはまた別の話である。

ケイは、マルセールに【体質改善薬】の水を渡した。


「よし!飲め!」

「え?あ、はい!」

ケイの勢いに圧倒され、マルセールはコップを受け取ると一気に飲み干した。


「・・・マルセール?」

アルマが心配そうに顔を覗き込むと、マルセールの顔が上がりきらきらした瞳で見返す。


「姉さん!身体が軽いよ!!」


手を上げて腕を回すと、ベッドから飛び起き身体を動かす。

「マ、マルセール!危ないわよ!」

アルマの制止に耳を貸さず室内を動き回る。小柄な体型も相まってとてもケイと同じ年にはみえない。

ケイが鑑定をすると、状態の項目が正常になる。


「アルマ、マルセールは大丈夫だ。状態が正常になっている」

ケイがそう伝えると、アルマは声に出ないほどの歓喜の表情でマルセールを見た。

「まさか治るなんて思わなかったな」

驚きの表情でレイブンが言う。

「さすがケイ様ね!私も見習わなくちゃ!」

「あれを見習うって真似は出来ないわよ」

その隣で、目を輝かすアレグロに無言で頷くタレナ。それをシンシアが呆れた物言いで返す。


「これでいいのかなぁ~」

何でもありなケイに、なんだか納得がいかない様子のアダムが独りごちた。


偉い人に人体実験!治れば良し!!

次回の更新は6月24日(月)です。


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