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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
大陸編
37/359

35、牛の暴走

今回は牛の悩みを解決!

田舎のちょっとした騒動話。


馬車が西大陸の東側に差し掛かった頃には、辺りは夕暮れになっていた。


「お客さん、今日はキャトル村に一泊するがいいかい?」

「はい、構いません。」

御者の男性が声をかけるとアダムが返事を返す。

他のみんなは、仮眠を取ったり本を読んだり、思い思いの時間を過ごす。

「ふぁあ、なにもう着いた?」

「いや、今日は途中にあるキャトル村で一泊するそうだ」

「ウェストリアまで距離がありますからね」

タレナが本にしおりを閉じてから続ける。


しばらくして、馬車は西大陸の東側にあるキャトル村に到着した。



村の入り口に馬車が止まりケイ達が降りると、田園風景が目に飛び込んでくる。

夕暮れとそよ風が吹き抜ける。


「この村って宿屋あんの?」

「それなら中央に一件あります」

何度もこの村に来ているケヴィンの案内でそちらに向かう。


宿屋に到着するころには、丁度夕食の時間になっていた。

ケイ達は、リリィとケヴィンと共に夕食をとり、他愛もない話をしながらその日を終えた。



翌日の早朝。ケイは、雷が落ちたほどの衝撃で飛び起きた。


「なに!?何が起きた!??」


部屋の外に飛び出すと、アダム達もその音を聞いて起きてきた。

「ケイ、今の音はなんだ!?」

「雷じゃねぇの!?」

別の部屋から、リリィとケヴィンがそれぞれ顔を出す。

他の宿泊客も次々と部屋から出てきて戸惑いの声を上げる。


宿屋の外に出ると、村人らしき人々が右往左往している。

「何かあったのか?」

アダムが走ってくる村人を捕まえ尋ねる。

「牧場の牛たちが柵を壊して出てしまったんだ!」

そう言うと、村人は走っていた。


辺りには縄や長い棒を手に、男達が走り回っている。


どうやら村の西側辺りらしい。



「おーいこっちに誰か回してくれ!」

「こっちは捕まえたぞ!!」

村人の声が飛び交う。

見ると牧場の木製の柵が一ヶ所損傷している。柵の内側から強い力が加わり折れたのだろう。


「そこの旅の人!ちょいと手伝ってくれないかい!!」


牧場の人らしき女性に声を掛けられる。

「牛が逃げたんだって?」

「あぁ、そうなんだよ。皆のおかげで捕まえてくれたんだけどね」

村人に捕まり、連れ戻される牛たちにため息をつく女性。

「あとどのぐらいいるんだ?」

「あと、十頭だね」

牧場の牛は全部で二十頭ほどおり、そのうちの半分をやっと捕まえたところだそうだ。


「とりあえず、手分けをして捕まえましょう!」

シンシアの言葉に、ケイ達はそれぞれ分かれて村にいる牛たちを捕まえることにした。


牛は村のあちらこちらにいたが、幸いにも村の外にでていなかったのは救いである。


「そっち行ったわ!」

「そこだ!捕まえてくれ!」

村人と連携し、シンシアとレイブンが東側の二頭を捕まえる。


「タレナ!こっちよ!」

「わかったわ、姉さん!」

西側の二頭をアレグロとタレナが捕まえ、村人が柵の中に入れる。


「【バインド】!・・・よし!アダム手伝え!」

「お、おい!あまり手荒なことはよせって!」

「大丈夫!大丈夫!」

ケイは、牛を魔法で拘束させてから縄をつなぐ。

村人は「兄ちゃん、魔法使いだったのか」と唖然とした表情で見守る。


「牛さん、こっちに行っちゃ駄目よ。ちゃんとおうちに帰りましょう?」

「リリィ、牛は多少荒くても大丈夫だ」

リリィは牛の進行方向に立ち牧場に戻るよう諭すが、ケヴィンは牛の鼻輪を掴み引っ張る。

『モォ~』と鳴く牛が少し可哀想な気もしなくはない。



「これで全部か?」

牛を牧場に戻すと、ケイが確認のため数を数える。

「1・2・3・・・あれ?三頭いないぞ?」

「でも村の中にはいなかったぞ?」

「もしかして、村の外にでちゃったとか!?」

アダム達も村の中を探しに回ったが、見つけられなかったようだ。


「た、助けてくれぇぇぇ~」


村の入り口の方で男性の声が聞こえる。

ケイ達がそちらに向かうと、ウェストリア行きの馬車に三頭の牛が群がっている。


「あ、いたわ」

「ケイ、そんなこと言ってる場合じゃないぞ。捕まえよう!」

アダムが率先して牛を捕まえようとしたが、押しても引いてもビクともしない。

「ちょっと!動かないんだけど!?」

シンシア達も加わり何とかしようとしたが、どうにもならない。

「トルネードで吹き飛ばすか?」

「馬鹿言え!馬車まで飛んでくぞ!」

アダムがケイのパワープレイを却下する。

その間、御者の男性は牛から馬車を守るために立ちはだかるが、その姿が完全にチンピラに巻き込まれた一般人のようである。



「そこの御仁達、俺たちに任せろ!!」



そこに突然、三人組が現れる。


「長男、ブル!」

「次男、ブラ!」

「三男、ブロ!」


「三人合わせて、牛飼い三人衆!!」


断って置くが、まるで戦隊ヒーローのようなポーズで登場した彼らは、大の大人である。


「なにあれ・・・」

「ださっ!」

ケイ達が呆然としていると、牛飼い三人衆と名乗った三人組は、それぞれ分かれて牛を連れて行こうとする。


「俺たちが来たからにはもう大丈夫だ!」

『モォ~!』

「こいつらは俺たちに懐いているからな!」

『モォ~!!』

「さぁ!一緒に帰ろう!」

『モ、モォ~』

どう見ても、牛が嫌がっているようにしかみえない。


三人があの手この手で牛を動かそうと即すが、一向に牛は退く気配がない。


「いや、どうみても嫌がってんだろ~」

さすがのケイも、どうしたもんかと仲間の方を向くが仲間達はただ肩をすくめるだけだった。



(牧草のみの食事は好かんとゆうてるじゃろうが!)



ケイの耳に、年配の声をした言葉が聞こえた。

辺りを見回してみると、該当する人物の姿はない。


(やっぱりこの作戦は失敗だったんですよぉ。大人しく帰りましょうよ~)

(ここまで来たらやるしかねぇだろう!オレはやってやるぜ!)

首を傾げるケイに、今度は気弱そうな声と、やたら暑苦しい声も聞こえる。


注意深く状況を見てみると、どうやら三頭の牛が話しているようだった。



【全動物言語を取得しました】



突然の脳内情報にドキッとした。

どういうことなんだと思った時、一頭の牛がこちらを見つめている。


(おい!何見てんだよ!見世物じゃねぇぞ!)

「あ゜?ホルスタインの分際でいい度胸だな喰っちまうぞ!」


まさか、異世界で牛に喧嘩を売られる日がくるとは思わなかった。


「ケイ!?どうしたの!?」

「牛が喋った」

「・・・何を言っているのかわからないわ」

心配したシンシアに返すが、牛の言葉がわからない彼女達からしたら頭でも打ったのかと疑っている。


(ち、ちょっと待ってください!)

気弱そうな牛が一人と一頭の間に入る。

(喧嘩は駄目ですって!)

(何言ってんだよ!こいつらが見てるから悪いんだろうが!?)

(それは、人間からしたらボク達の方が異質なんですって)

牛同士の説得はなかなか滑稽である。しかも、他の人達には『モォ~』という鳴き声にしか聞こえないからだ。


(そこの若いモン、ちょいと話を聞いてくれねぇかい?)


年配の牛が話しかけてきた。

「なに?」

(おまえさん、ワシらの話がわかるんじゃろう?)

「まぁ・・・」

(あの馬車の中にある食べ物らしき匂いがするんじゃが、少しばかり譲ってはくれないかい?)

牛は、ケイ達が乗ってきた馬車を示す。

「譲ると言ってもなぁ~」

ケイは頭をかいてから、馬車の中に入りマンドラゴラを一匹取り出して見せた。


(おぉ!マンドラゴラじぇねぇか!おい人間!それをよこせ!)


暑苦しい声の牛が、ケイめがけて突進してくる。

「近いわ!バカたれ!」

それをケイは足で止める。

(ぬぐぐっ!まったく動かん!なんだこの人間は!?)

(もぉ~やめましょうよ~)

必死に気弱な牛が止める。

なんだか牛社会を垣間見た気がする。


(おまえさんたち、いい加減にせんか!)


年配の牛の一喝で二頭が止まる。

(まったく・・・すまんのぉ)

「いや・・・というか、これ食うのか?」

ケイが手にしたマンドラゴラを見せると、年配の牛が頷く。

(ワシらは、もともとフリージアの出身でのぉ~。食事は牧草とマンドラゴラを混ぜた物を食べるんじゃ)

「へぇ~牛にも好みがあるんだな」


「ちょいとお兄さん?」


ここで、牧場の女性が声を掛けてきた。

「あんた、うちの牛と何をしてるんだい?」

「何って話し中!」

「何を馬鹿なこと・・・」

「この牛たち、牧草のみじゃ食わねぇみたいだぞ?マンドラゴラを混ぜろって言ってるけど?」

「!?」

ケイの言葉に女性が驚く。


「ケイ、さっきからぶつぶつと言ってるけど大丈夫か?」

「え?別になんとも?」

「もしかしたら、ケイさんは魔物使いの才能もあるのかもしれませんね?」

「えっ?じゃあ動物と話も出来るの!?さすがケイ様ね!!」

心配するアダムを余所に、アレグロとタレナが喜ぶ。


「お兄さん、その話は本当かい?」

「・・・?あぁ、そうだ」

ケイが肯定すると、女性は思い当たる節があるのか話をしてくれた。

「やっぱり牛たちにはわかるんだろうね」

「わかるって?」

「この牛たちは、元々フリージアに住んでいた知り合いの牛でね」

女性の話によると、三ヶ月前にフリージアで牧場を営んでいた老夫婦が、高齢のために牧場を畳むことになり、その時に三頭を引き取ったそうだ。

しかし、当初から食べムラが目立ち心配をしていたという。

(オレたちは元気だ!一食抜いたって死にはしない!)

暑苦しい声の牛が答えるが、女性には『モォ~』という鳴き声にしか聞こえない。


「ケイ様、私たちで出来ることはないのかしら?」

「それでしたら、食事の改善なんていかがでしょう?」

アレグロとタレナの案にケイは「それもそうだ」と納得をした。



ケイ達は、牛の食改善のため、牛に聞き取り調査をした。



(ワシは、牧草多めでマンドラゴラを切って混ぜた物が好きなんじゃ)

年配の牛がこう話す。


(オレは、牧草に魚とマンドラゴラをミンチにしたやつが好きだ!)

暑苦しい声の牛が次に続く。


(ボクは、牧草と聖水を混ぜた物が好きです。マンドラゴラは少量で・・・)

気弱な牛が語る。


「・・・とまぁ、こう言ってるけど?」

ケイが、牛たちの言葉をそのままみんなに伝える。

「本当に好みが違うんだな」

「考えてみると、人間にも好みがあるように動物にだって好みはあるわよね」

レイブンとシンシアが感心したように話すと、ケイは牛飼い三人衆にメモを取ったかと確認をする。

「もちろんです!」

長男のブルが答える。


この世界の紙の質はあまり良くなく、植物繊維でできた紙を使用している。

触った感じは和紙に近い。

他の兄弟達も、ペンを片手に必死にメモをとっている。


「あとは実際に作ってみなきゃわからないから、一回作ってみようぜ」

ケイの提案にそれぞれ持ち物を用いることにした。


まず、牧草は牧場にあるものを使用。聖水も予めケイ達が購入していた物を1本使用する。

次にマンドラゴラは、運搬用を使うわけにはいかないため、以前グリドの丘で取ったマンドラゴラを使うことにした。


「魚に好みはあるのか?」

(何言ってんだ?魚は魚だろう?)

どうやら魚なら何でもいいらしい。

「ケイ様、この辺りに水辺なんてないけどどうするの?」

「それなら大丈夫だ!【マグロ召喚】!」


光と共に一匹のマグロが現れる。

まさか、ここで砂マグロから貰った王冠が役立つとは思わなかった。


「レイブン、こいつを捌けるか?」

「あぁ。それなら任せてくれ!」

別の場所にマグロを移し、そこで解体に入る。



その間に、牧草を入れる箱に牧草を積め、マンドラゴラを切った物を入れて混ぜる。


(ほほぉ、これじゃよこれ!牧草はもう少し多くても大丈夫だ)

年配の牛に出したところ、高評価を得る。牧草はもう少し多くてもいいと言うことだった。

割合的に3:2が丁度良さそうだ。

(聖水入りの牧草はおいしいです!もう少し聖水を加えて頂けると嬉しいです!)

気弱な牛は、牧草の量とマンドラゴラは丁度良く聖水はもう少し注いでほしいと言う。恐らく2:1:2ぐらいの割合ということになる。


「ケイ、こっちは終わったぞ!」

タイミング良く、レイブンの方も終わったようだ。

牧草とマグロとマンドラゴラをミンチにしたものを混ぜる。

とりあえず、3:3:3の割合で出すことにする。


(さすが人間!俺の好みがわかってるじゃねぇか!!特にこの魚!今までに食ったことがねぇぜ!!!)

暑苦しい声の牛はこれで丁度いいらしい。むさぼり食う姿はやはりお腹が空いていたんだと思った。



「さすがケイ様ね!動物の悩みまで解決するなんて!」

「私たちもケイさんの役に立てるように頑張りましょう!」

アレグロとタレナからの株は爆上がりである。

「とりあえず解決したってことでいいのか?」

「あぁ。あとはこいつらに任せるしかないけどな」

ケイが牛飼い三人衆を見やると、三人で他の牛にも好みがあるか調べてみようという気になっていたようだ。


「あんた達助かったよ」

牧場の女性が声を掛ける。

どうやら彼女は牛飼い三人衆の母親で、日頃の世話は三人に任せていたが、やはり牛たちの事を気に掛けていたようだった。

「後のことは本職にまかせるよ!」

ケイが三人を指すと、牛たちも(こいつらはまだひよっこだ。俺たちが育てるから心配するな!)と声を掛ける。


牛に育てられる人間ってどうなの?と個人的に思いつつも、女性からお礼に遅めの食事をご馳走になった。

特に絞りたての牛乳は、癖があるが独特の風味を感じた。



こうしてケイ達は無事に牛の食改善を果たし、馬車はウェストリアに向かって出発をした。


人から牛までなんでもお悩み解決!

次回の更新は6月19日(水)です。

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