349、合同葬
皆様ご無沙汰しております。
前回の続きから投稿いたします。
しばらくは不定期になるかと思いますが、なんとか続けていきますのでよろしくお願いします。
それからケイ達は、合同葬に出席するために屋敷へと戻ることにした。
また、魔人族の長(代理)としてロザリンドも同行することになったのだが、いかんせん当の長であるゴルゴーンには内緒で行動するため、その時間稼ぎとして、ミスト=ランブルとポネアは残ることになった。
もちろんカモフラージュも忘れてはならない。
屋敷で働く侍女の中でロザリンドと体格が似た者を選出し、その女性に【変化の指輪】を装着させ、ロザリンドへと変化した後に自身として振る舞うように指示をする。
ちなみにこれは、ロザリンド本人が率先して行っている。
時間にして三十分にも満たない出来事なのだが、手際よくケイからマジックアイテムを入手し、当然というように侍女を呼びつけ自分になりきるように指導しているところを見ると、実は普段からこのようなことをしているのではないかと察する。
このことをポネアに尋ねると、どうやら幼少の頃からこういうことをしているようで、年々綿密かつ大胆に行動することが数多くあったという。
子供の頃からの悪知恵・・・もとい策士的な発想は、本能的にゴルゴーンの秘密に気づきつつ、自分なりに探ろうとした結果なのではないかとケイは推測する。
「ケイ、本当にロザリンドだけを連れて大丈夫なの?」
ゲートから屋敷へと戻ると直ぐに、ロザリンドが見慣れない代物に目を奪われ、あちらこちらと目移りする様子をみせた。
そんな姿を尻目に、若干・・・いや、かなり不安げな様子でシンシアがケイに尋ねる。
口には出さないまでも「暴れ馬を連れて歩いている様な気分」と少女特有のあどけない表情が物語る。
「まぁ~変化の指輪を渡してカモフラージュしても、勘のいいアンドワール辺りだと即バレだろうな」
「なに呑気なこと言ってるのよ!」
なんとかなるさ!とのらりくらりとするケイに、呆れたと言わんばかりに「どうなっても知らないわよ!」と投げやりな物言いをするシンシア。
イシュメルからのメッセージには、ガイナールとの謁見後に一度屋敷に立ち寄る旨が記載されていたが、ローゼンからはまだ来ていないことが伝えられ、代わりにシルトが迎えに行くと言い出かけている。
「アレグロ、そういや合同葬っていつやるんだ?」
「一ヶ月後って言ってたわ。今からウェストリアに向かうとしても何日もかかっちゃうでしょ?私たちの移動日数も考えてのことみたい」
ケイが合同葬の日程をアレグロに尋ねると、今回の王都訪問のことも相まってか一ヶ月後に行うことが決まっていた。
たしかにウェストリアまでは何日もかかるし、アレグロの体調を考慮しての移動のこともあってか、かなり余裕を持たせた予定であることがわかる。
「本当は、もっと早くに執り行なう予定ではあったんです」
「なんか問題でもあったのか?」
「実は、兄が父の・・・シャーハーン王の遺体も見つかれば一緒に見送りたいと、無理を言って捜索をお願いしているんです」
神妙な面持ちでタレナが続くと、どうやらイシュメルが未だに所在不明なシャーハーン王も見送りたいと、無理を言ってバナハの兵と共に捜索を続けているという。
それから、今回のガイナールの謁見で、シルトが見つかった場所だったことも関係してか、王都にシャーハーン王の痕跡でもあれば、情報の提供をお願いしたい旨を伝えようとアレグロとタレナに話していた。
「そういえば、シャーハーン王だけ足取りが掴めていないわね?」
「たしかに今までそれらしい人物の痕跡らしきものはあったけど、その詳細までは触れられていなかったね」
タレナからイシュメルの話を聞いたシンシアとレイブンが言葉を交わす。
黒種の存在は、結果的にアレサの力でダジュールから抹消されている。
タレナの話から察するに、いくら捜索をしてもシャーハーン王の遺体だけが見つからないとなると、彼の身体が黒種に融合する形で浸食されていたと考えた時、すでにこの世にはないのかもしれないとケイは複雑な面持ちを浮かべる。
しばらく経ってから、シルトがイシュメルを連れて屋敷へ戻ってきた。
『戻ったぞ』
「シルトお帰りなさい!イシュメルさんもようこそ!」
『シンシアさん、お久しぶりです』
シンシアが二人を出迎えると、イシュメルは一礼をしてから急な訪問で申し訳ないと詫びてからアレグロとタレナの所在を尋ねた。
『先にアレグロとタレナが来てると思うんですが・・・二人は?』
「二人なら二階よ。たぶんアレグロの部屋だと思うんだけど・・・」
シンシアが二人を呼んで来ようかと問うと、長旅が続いていたのでアレグロの体調を気にしてか、今は休ませてあげてほしいと呼ばないように気遣い、予め自分が訪問する事を知っていると思うので、必要があれば自分から二人の元に向かうと意思を示す。
『そういえば、ケイさんは出かけているんですか?』
「えっ?あ、そういえばどこにいるのかしら?」
他の皆は各部屋かリビングの方にいるところを見かけたのだが、ケイの姿が見当たらず、イシュメルが訪問することを知っているので出かけているとは考えづらい。
(あっ・・・)と、そこでシンシアはあることに気づき、もしかしてとエントランスの裏側にあるゲートを覗いてみる。
「やっぱりここにいたのね~」
シンシアが想定通りと言わんばかりにため息をつき、その視線の先には、こちらに背を向けゲートの前で作業をしているケイの姿があった。
「どうした?」
「どうした?じゃないわよ。イシュメルさんが来てるわ」
作業の手を止め、振り返ったケイにイシュメルの来訪を伝えると、同じタイミングでエントランスで待っていたであろうシルトとイシュメルが顔を出した。
二人は「何故こんなところに?」と疑問を浮かべる一方で、扉の前で作業をしているとは思わず首を傾げる。
「イシュメルきてたのか!」
『ケイさんご無沙汰しています・・・扉の前でなにをされているんですか?』
「これのこと?これはゲートで、大陸間を行き来するためのモノだ」
イシュメルが扉の存在に尋ねると、これか?と目線を向け、ゲートの事を説明してみせる。
もちろん話を聞き、これが大陸を瞬間的に移動できる代物とは思わず、シルトとイシュメルは目を丸くしたのは言うまでもない。
『でも何故?』
「合同葬の話が出た時に、タレナから移動する関係で一ヶ月後に行うって聞いたから、ウェストリアとの行き来が何とかなればと思って試行錯誤してたわけ」
シンシアからは「ゲートを開けたら橋の欄干とか建物のてっぺんに出るとかないわよね?」と問われ、たぶん大丈夫・・・と、なんとも言えない様子で返事をする。
「今回はウェストリアに直通できるようにしてるから、もうちょっと待ってくれないか?」
「すぐに合同葬を始められるようにってこと?」
それもそうだけど・・・と歯切れの悪い物言いをするケイの様子に、シンシアはロザリンドのことを察したようで、そのことに納得するとすぐ出発できるようにみんなに伝えてくるといい、その場を離れる。
疑問を浮かべているイシュメルに、ケイは今回の合同葬に魔人族のロザリンドが同行することを伝えた。
ちなみにこれまでの経緯は、アルバの情報網を共有していることからイシュメルもある程度把握はしている。
しかし、ロザリンドが長の代理(表向きは)として同行するとは思っておらず、ケイはその事も併せて経緯を説明すると、彼女の父であるゴルゴーンが過去のアグナダム帝国に何らかの形で関わっていたという事実に複雑な様子を見せた。
『それで彼女が代わりに・・・』
「元々魔人族の魔機学はアグナダム帝国から伝わったものだと聞いて、俺らも協力してくれないかって聞いてはみたけどさ~結果的について来たのが娘の方」
何というか、事態は思っているより複雑だな・・・と、最終調整の作業をしながらケイは困ったものだと肩を竦める。
それから少し時間が経ち、ウェストリアに直通できるようゲートが調整された。
ケイは仲間とロザリンドを呼び、すぐにウェストリアへ向かうことにした。
ゲートを潜る前にシルトに「おまえはどうするんだ?」と尋ねると、彼は首を横に振り、同行しないことを伝えた。
その意味はケイ達も理解はしており、まだまだ時間が必要だと判断できる。
「ローゼン、悪いが後は頼んだ。何かあったら連絡をくれ」
「承知しました。お気をつけて」
屋敷の事をローゼン達に任せ、ケイ達はそのままゲートから聖都ウェストリアへと向かった。
それからの展開は怒濤の嵐だった。
ケイがゲートを繋いだ先は聖都が一面に広がる草原で、少し離れた場所にウェストリアに続く道が見える。
道なりに沿ってウェストリアに入ると、たまたま来ていたリアーナと調査隊がこちらに気づき大層驚いた様子で、いつ戻ったのか?とか合同葬は早めに執り行なうか?など矢継ぎ早に尋ねられ、イシュメルもケイ達も悪戦苦闘しながら対応に追われることになる。
(まさか合同葬を翌日にやるって、急ピッチ過ぎるだろ・・・)
様々な対応を迫られ、それらを捌きながら聖都での一夜が明けた翌日の早朝。
ウェストリア郊外の草原へ案内されたケイ達は、そこでいくつもの木製の棺桶が並べられている場面に遭遇した。
イシュメルとリアーナの話では、これらは全て亡くなったアスル・カディーム人の亡骸が収められており、本来ならアグナダム帝国にて合同葬を執り行なう予定だったが、瓦礫の撤去に時間が足りず、やむなく浄化の炎が仕えるウェストリア近辺まで運び行うことになった。
司祭の男性が青緑の炎が灯ったたいまつを手に棺に火を放つ様子が見えた。
「あの炎って俺らが聖炎の儀で見たやつと違うけど、魔素が関係しているのか?」
「説明が難しいけど、浄化の炎って聖炎を強めたものらしいの。要するに遺体を跡形もなく消してしまうため・・・ってことみたい」
「浄化の炎は、元々流行病で埋葬できなくなった遺体に敬意を込めて天へと送り出す意味があるんだ。灰として残さず、浄化された炎と共に空に飛ばすようなイメージに近いと言われているんだ」
ケイの疑問に左側に立つシンシアとレイブンがその辺りの違いを説明する。
ちなみにイシュメルから聞いたアグナダム帝国の様式は、現代と同じ火葬が用いられているが、本来はその後に灰を海に散骨する手順がある。
当時から同じ空の下でいつまでも自分たちを見守ってくれている、いわば守護霊的な考えを持っているそうで、今回は他大陸ということもあり、残ったアスル・カディーム人全員の了承の元、灰を残さないウェストリア式で執り行なっている。
各々思うところがあるようだが、ケイがふと目線を隣に向けると、空に上る青緑の炎を見上げるイシュメルとリアーナの表情があったが、その心情を読み取ることは難しかった。
また、あの棺の中に母親のイメルダと同僚のサイフォンが収められていると考えると、まだやりきれない様な表情だけは感じ取ることができた。
ケイは、せめて彼らが迷わず送られるようにと、青緑の炎が空へと上る光景を静かに見つめるのだった。
合同葬に出席したケイ達は、浄化の炎により見送られる光景に各々思うところがありました。
次回、ついにロザリンド不在がゴルゴーンにバレる!?
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