348、イシュメルからの返答
皆様ご無沙汰しております。
一月以来、二ヶ月ぶりの更新です。
少しバタバタしていましたが、徐々にペースを上げたいなと思ってます。
それでは前回の続きからどうそ。
ケイ達がゴルゴーンの屋敷へと戻ると、待っていたアレグロ達に現像して貰ったいくつかの写真と協力してくれた青年から聞いた彼の曾祖父の話をした。
現像した写真を差し出されたアレグロとタレナは、やはり記憶が戻る様子はなく、写真に写し出された当時の生活の場面や自分たちの姿を、まるで絵本を眺めているような様子だった。
またアレグロは、ゴルゴーンの態度の原因はアグナダム帝国時代に彼が研究をしていたが、何かしらの事情があった故にと推測しケイに問いかける。
「そういうことだったのね。じゃあ、ゴルゴーンさんが私たちに協力しないと言ったのは、過去の出来事のせいでもあるってこと?」
「話が本当なら可能性もなくはないだろうな。それに今現状で俺達から頼んでも首を縦には振らねぇだろうし、きっかけがないと難しいだろう」
ちなみに屋敷に戻る道中でも、ロザリンドが再度ゴルゴーンに掛け合ってみると言ったのだが、ケイが何度言っても結果は同じだろうと返し、イシュメルの返事を待ってから考えてみるべきだと宥めている。
正直、ゴルゴーンの態度がすぐに変わるとは思えないし、ましてや彼がアグナダム帝国で何かしらの研究をしていたことが証言として上がっている以上、無理に聞き出してもこちらの要求は通らないことは明白だった。
「イシュメルさんの返答待ちのものはどうするんだい?ゴルゴーンさんを説得する材料ってわけじゃなさそうに見えるけど?」
「正論で言うことを聞かせたいわけじゃない。ただ、シャーハーン王とゴルゴーンの間に何があって縁が切れたのか、交渉の段階で即拒否をするってよっぽどだったのはわかるけどな」
「もしかしたら、その時の状況を思い出したのかもしれないね」とレイブンが続けると、ケイは写真を眺めるアレグロとタレナの方を見やってから「はぁ~」とため息をついた。
それからほどなくして、イシュメルからの返答があった。
ポケットに入れたままのスマホに通知を知らせるバイブが鳴り、取り出してからディスプレイのメッセージを確認すると、こちらの問いに対する回答が表示され、それとは別に【こちらでも分かったことがあるので添付を確認して欲しい】というメッセージが添えられている。
ケイは鞄からタブレットを取り出し、そちらでイシュメルからの返答を確認するため表示させる。
イシュメルからの返答は、現像して貰った写真と現像に協力して貰った青年の曾祖父が撮影した写真の画像は、全てアグナダム帝国が存在していた頃のもので、そのほとんどが神殿と住宅地が密集している北部地区のものだとされている。
また、ケイ達が気になっていた三人の男女の写真は、当時存命していたシャーハーン王とイメルダ、それからシャーハーン王の知人と言われている魔人族の男性とのこと。
ただ、イシュメルはその魔人族の男性とあまり面識がなく、何度か見たことがある程度だったそうで、この男性について知っている人は居ないかと他の者に聞いたところ、弟・ナザレの部下であるルシオが、当時同僚だったサイウォンがその魔人族の男性と一緒にいるところを見たことがあると証言した。
後にルシオは、その男性がシャーハーン王の知人という事を知ったそうだが、当時アグナダム帝国中央部にあった研究室で、度々スピサとその男性が何かで揉めている様子を見たことがあるとも言っていた。
その内容はわからなかったが、彼の記憶ではある日を境にその魔人族の男性を見ることはなかったと述べている。
「言明されてないけど、これってゴルゴーンさんのことよね?」
「やっぱりアグナダム帝国にいたのは間違いなさそうだな」
「ゴルゴーンさんがなんらかの研究に携わっていたとしたら、いずれ誰かの耳に入ってもおかしくないとおもうけど・・・?」
シンシアが疑問の表情を浮かべ首を傾げると「もちろん隠蔽するための協力者は居ただろうがな」と、ケイは推測を述べる。
「えっ、それって・・・「アンドワールさん・・・つまりロザリンドの母君だね」」
シンシアの言葉を挟むようにミスト=ランブルが意外な人物の名を口にする。
「なぜそう言い切るんだ?」
「昔人づてに、彼女とゴルゴーンさんとは、かなり前からの知り合いだと聞いたことがあるんだ。たしか前・領主の紹介だったとかで・・・」
「えっ?ちょっとまて!それは聞いてない!第一、母上は父上とは、恋をして決闘して一緒になったって・・・!」
ミスト=ランブルの発言にロザリンドが食い込むように声を上げた。
自分が聞いていたなれそめと違うことに動揺した様子があったが、それをポネアがなんとか宥め、ここも嘘ついていたかとケイがなんとも言えない顔をする。
「言いたくない事実があったから、出会った頃の話も嘘言ってたってことか?」
「そういえば、さっき写真を現像して貰った青年の話の中に彼の曾祖父が前・領主にアグナダム帝国の記録を残すために依頼されてたって言ってたけど、あれも本来は、なにかを残すための依頼だった・・・とかないよな?」
さすがに考えすぎかと、アダムが自分の発言に否定するように首を振るが、ケイはもしかしたら知らないところで、ゴルゴーンとアンドワールが真実に嘘を重ねていたのかもしれないと考える。
第一、娘であるロザリンドにも違った出会いの真実を伝えていたとしたら、アンドワールも、何かしらの部分でアグナダム帝国に関わっていたのではないかと推測することもできる。
ということは、ケイ達が過去の歴史を知るために一番はじめにジャヴォールに訪れた際、アグナダム帝国のことは分からないが、と残された文献がいくつか残っていると提示していた。しかし、それでさえも二人にとっては触れて欲しくない部分でもあったとなると、その闇は深いものだったと思うことだろう。
「それよりも、イシュメルさんが言っている内容ってなんのことなんだ?」
アダムに指摘され、そういえばそうだったと思い直してから文面を読み進めると、これは言っていいものかと躊躇した。
「どうしたのよ?」
「あー。メールの内容だと、アグナダム帝国の跡地を調査した際に、アスル・カディーム人の遺体がかなりの数で出てきたらしい」
「遺体?かなりの数ってどのくらいなの?」
「現状だと数千単位らしい」
「嘘でしょ!?」と言った様子でシンシアが驚愕の声を上げる。
ケイも文面だけだったら信じなかっただろうが、イシュメルからのメールの末端に添付ファイルが表示され、開いてみるといくつかの画像が添付されている。
しかもその内の数枚の画像には、シートのような物に包まれた遺体が、並べられる形で収容される様子が一面に写しだされている。
恐らく今まで黒種に取り込まれた者たちが亡骸となったのか、はたまた海に沈んだ影響でなのかはわからないが、少なくとも黒種の影響の爪痕の片鱗を感じ取ることができた。
また文面の続きには、中央地区の建物跡地にイメルダの遺体と北部地区で管理者のサイウォンの遺体がそれぞれ発見されたそうで、それに伴い、色々な原因で死亡したとされる市民の遺体も続々と見つかったそうだ。
しかも現状確認できるだけでも数千単位は確実で、そのせいか人手が足らず、聖都ウェストリアとバナハからも人員が追加されたとのこと。
それだけの数が出たなら葬儀をした際なんかは大変だろうな~と、ケイは考えたのだが、そういえばこの場合の遺体の対応ってどうなるんだろうと疑問が浮かぶ。
国によって葬式の対応が違うことはわかっているが、この場合はアグナダム帝国のやり方になるのか、はたまたこの場合は、ウェストリアかバナハ流の国葬になるのか、その辺り気になってみたが、イシュメルからの文面にはそのあたりの事情もぬかりなく記載されている。
「遺体の数が多いなら【合同葬】になるのかしら?それとも、アグナダム帝国の国葬のしきたりがあるならそれを執り行うのかしら?」
「イシュメルのメールにも、遺体は合同葬になるらしいって書いてあるけど、それってどんな感じになるんだ?火葬になるのか?」
「普通なら火葬が一般的になると思うよ。まぁ、地域・・・田舎とか山岳地帯に近い村なんかは土葬になるけど、ただ合同葬となると、ウェストリアのしきたりになるんじゃないかな。あそこは【浄化の炎】を唯一使えるところだから」
合同葬について、レイブンからこの場合は、聖都・ウェストリアのしきたりになるのではと声が上がる。
ダジュールでは、基本的に火葬か地域によっては土葬になるが、何らかの原因で、大勢の人が亡くなった場合に限り、聖都・ウェストリアの儀式に該当し執り行われる。
聖都のしきたりいわば国葬のような手順は、敬意を持って範囲魔法で遺体を浄化する流れになるが【浄化の炎】は火属性ではなく聖属性に分類される。
なので、先ほどレイブンが言ったようにウェストリアでしか対応出来ない理由はそこにあった。
「イシュメルからの文面に、俺達も合同葬に参列してくれって案内が来てるんだがどうするんだ?」
ケイが皆に問いかけると自分たちはいいけど、と一斉にアレグロに目線が移る。
「アグナダム帝国のあの状況をひっくり返したから・・・ってことらしいけど、アレグロはどうすんだ?体調もあるし、無理にとは言わねぇけど」
「私も行くわ。特に何かできるってわけではないけど、私たちが育ってきた場所を一度見てみる必要があると思うの」
本人の意思を尊重しつつも無理だけはしないで欲しいと念を押すと、わかってるわ!とカラカラと笑うアレグロ。
そしてもう一人、その話を聞き参列したいとある人物が口にした。
「ケイ、私もいいだろうか?」
「えっ?ロザリンドもか?」
「あぁ。父上も母上も口を割らない以上、私がここで出来ることはないと思う。だとしたら次の行動として、実際にその・・・アグナダム帝国を見ておく必要があると思う」
ポネアとミスト=ランブルは、勝手な行動は・・・と制止しようとしたが、現状ゴルゴーンが動かないとなると、自分が現地に赴き、両親と帝国の間に何があったのか知るべき必要があると言い切る。
「ケイ様、ゴルゴーンさんの代理という形で一緒に行ってもらうことはできないかしら?」
「ケイさん、お嬢様は一度決めたことはなにが何でも突き通す方です。私からもお願い出来ないでしょうか?」
アレグロのだめ押しにケイが悩んでいると、ロザリンドの性格がわかっているポネアからも頭を下げられた。
「・・・はぁ。まぁ、ここまで言うなら仕方ねぇか~」
女子組のごり押し願い+ロザリンドの性格の強さの片鱗に根を上げたケイは「わかったわかった」と言うしかなかった。
またイシュメルのメールに返信するにあたり、参列する旨とこちらでも今回わかったことと、魔人族の長の娘が同席することを記載して送信をしたのだった。
イシュメルからのメールには、アグナダム帝国の跡地に無数の遺体が発見・収容され、近々合同葬が執り行われると添えられていた。
また、ゴルゴーンたちが非協力的だったため、ロザリンドが代理という形で出席することになりました。
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