344、再会とお願いと・・・
皆さんご無沙汰しております。
6月は全く更新できませんでしたが、なんとか続きを書くことができました。
さて今回は、アグナダム帝国の設備修理の相談をするためジャヴォールへやって来た話です。
ゲートの調整を済ませ、身支度を調えてからジャヴォールへと足を運ぶ。
ケイにとっては、大陸と大陸を繋げることはさほど難しくはない工程だが、ゲートを繋いだ先がランダムに形成されるため、今回はジャヴォールのどこに繋がるのかという部分に関しては全く読めていない。
ましてや他の種族より国が発展しているジャヴォールは、我々人と同じように生活を送っていることから混乱を招く事態にもなりかねないが、いかんせんこのケイという男には再三言っての通り【慎重】という言葉が欠落している。
その証拠に、ゲートを開いた先に水路が広がっている。
一歩踏み出したケイが直前で「あっ・・・」と気がついたがすでに遅かったようで、運悪くそのまま水路へと落ちてしまった。
「ケイ!大丈夫!?」
ケイの真後ろに付いていたシンシアが、自分の少し前に歩いていたブルノワと少佐を引き止め、彼らはその行動に驚き身を固める。
『パパ~~~』『バウ!』『ワウ!』『ガウ!』
「ケイ!大丈夫か!!?」
引き止められたブルノワと少佐が、驚きを保ったまま扉の手前から水路に落ちたケイを覗きこむような動作を見せ、アダムが水路に落ちたケイに声を掛けると、すぐに水面から顔を上げたケイが大丈夫だと腕を振る。
(このシステムどうにかならないのかよ・・・)と内心思うのも、水路に落ちたケイからゲートが繋がった場所を確認出来るのだが、どういうワケか、住宅地と商店街を繋ぐ橋の手すりの上に出現したようで、扉の位置が橋側ではなく、水路側に開くように配置されていたことから、結果的にケイが気づかずに落ちてしまったということがわかった。
もちろん突然の現象に道行く魔人族の人々が、こちらに気づき唖然としている。
その異様さが伝わったせいかか、何事かと連鎖的に集まりだした人々が橋の周りを囲むように人垣が形成されていく。
もちろんその状況に、今更「なんでもありません!」などと言える雰囲気もなく、ケイ達は参ったなと事態の収拾にほとほと頭を抱えるしかなかったのだが、その状況に割って入るかのようにある声が上がった。
「おい!なにか落ちた音がしたが大丈夫か!!」
女性の通る声が響き、次に野次馬をかき分けてこちらに向かう様子があった。
「通してくれ!」と再度女性らしき声が上がり、人垣から二人の人物が現れる。
一人は金髪のポニーテールに赤い瞳をした少女で、もう一人は紫色の肌と黄色の瞳をした女性。その見覚えのある二人に気づいたケイが声をかける。
「あ、ロザリンド!それにポネアも?」
「ケイか!?君は一体何をしているんだ!?」
「だ、大丈夫ですか!??」
当然この状況に驚きを隠せない二人は、橋の手すりに設置された謎の扉と水路に落ちたケイを交互に見やりながらそう尋ねる。
なにをどうしたらそうなったんだという言及に対して、色々事情があって・・・とお茶を濁すケイに、ポネアが話より一度上がった方がいいと水路から上に続く階段を示す。
ケイが水路から上がった頃には、ロザリンドが野次馬を一蹴し解散させ、遠巻きに見ている人々はいれど、周りには手すりに現れた扉が異様な風景の一部として一層滑稽に思えた。
「本当に君達はいつも突然現れるんだな~」
シンシアからゲートの設置場所を設定し直して欲しいと頼まれ、一旦橋の上へ設置をし直し、仲間達がジャヴォール入りをすると、その様子を見ていたロザリンドから自然に言葉が洩れた。
なにせ、前回のジャヴォール入りの際も人の往来関係なく、魔道船で上空から池にダイナミック着水をしたものだから、それが魔人族でなくても国としては問題となるのだが、見知った顔同士だったせいか、あるいは相手がロザリンドという少々男勝りな少女だからかその部分の言及はない。
「まぁ、ゴルゴーンに聞きたいことがあったからな」
「お父様に?」
人の目もあることから「技術的な面で・・・」とケイが耳打ちすると、ロザリンドはその意味がよくわかっていないのか一瞬顔を顰めた。
そんな表情の彼女にゴルゴーンに会うことはできるかと尋ねると、丁度屋敷に戻るところだとロザリンドが答えたため、ゲートを回収し、一行はその後に続くように向かった。
二人に連れられ屋敷へやって来たケイ達は、そのまま応接室へと通された。
ポネアがゴルゴーンを呼びに行っている間、残っているロザリンドに今回来訪した事情を説明した。
ロザリンドは、話の合間に「なるほど・・・」と相づちを打っていたものの、アグナダム帝国が存在していた時代に生まれていなかったためか、ジャヴォールで流通している『魔機学』が役に立つのかと疑問を晴れない表情をしてみせる。
「お父様から魔機学自体がアグナダム帝国から伝わったものだと聞いてはいたが、それが一度失った大陸を蘇らせるきっかけになるのか?」
「それは俺らもわからない。けど、浮上した大陸に残っていた遺産が機能する可能性があるとしたら、今でも『魔機学』として使用しているジャヴォールに協力してもらおうとやって来たわけだ。ロザリンドはゴルゴーンからアグナダム帝国が存在していた時代の事について聞いたことはあるのか?」
ケイの問いにロザリンドは、その辺りは詳しくはわからないが「今思うと・・・」と、あることを口にする。
「そういえば幼少の頃、倉庫に保管されていた昔の文献を見つけたことがあったんだ。当時の私は文字が読めなかったからお父様に聞いてみたけれど、なぜか歯切れの悪い物言いで「わからない」と返事をされたことをよく覚えているよ」
ロザリンドが見つけた文献は、その後すぐにゴルゴーンによって回収されたらしいが、不思議なことに後から両親やゴルゴーンの側近に尋ねてみたものの、皆口を揃えて『その文献の事は知らない』と言っていた。
当時のロザリンドは、周りからおてんばで部分的に鈍感と言われていたのだが、その彼女でさえも明らかに何かを隠蔽しているのは?と感じていたようだ。
「ロザリンドさんが見つけた文献ってなんだったのかしら?」
「ゴルゴーン自身が回収したとなると、相当見られたくない物だったのかもな」
「機密文書的なこと?」
「いや。そもそも機密文書なんて倉庫に置かないだろ?もしかしたら過去に知られてはいけない内容が記されていたのは間違いないかもな」
シンシアが、今まで忘れていた物をロザリンドが持ってきたのに即回収したのは明らかにおかしいと指摘、ケイはそれが回収し損ねた『なにかの文献』であることは間違いないと考え、それはアグナダム帝国に関するものではないかと考える。
「報告は受けていたが、まさか君達が来ていたとは・・・」
ほどなくして、ゴルゴーンがアンドワールを連れて入室した。
ポネアから報告を受けた二人は、突然の訪問に驚いた様子でケイ達を迎え、その中でもアレグロの姿を見るや、丸くした目をさらに見開き混乱した様子を見せる。
その様子を見たケイが、本題に入る前に二人にアレグロとこれまでの経緯を説明するべきと考え、その態度を察したポネアが二人に座るようにと促す。
「君達のこれまでの状況は理解した。まさか、アグナダム帝国の浮上に目の前にいる彼女こそ本体であり本人というわけか・・・」
「そういうことだ。それと、これに関連して折り入って頼みたいこともある」
「頼みたいこと?」
ケイから事情を説明されたゴルゴーンは話を整理するように額に手を当てた。
次に頼み事があると聞かされると顔を上げ、そのタイミングでケイから合図を送られたアレグロがゴルゴーンに顔を向け話を切り出す。
「実はアグナダム帝国浮上後に、大陸の調査隊から北部地区の施設の一部がまだ生きてると報告がありました。状態としては修理をすればある程度稼働できるのではと言われていますが、問題としましては、ケイ様達の大陸にはその施設を修理できる人物がおりません。話を伺ったところ、今でもアスル・カディーム人の技術を継承している『魔機学』を使用している魔人族の方でしたら、話を聞いてくれるのではと考え、こちらにお邪魔した次第です」
アレグロの言葉に一瞬態度を硬化させたゴルゴーンは、間髪入れずにアレグロの頼みに首を横に振る。
「・・・すまないが、承諾はできん」
「どうしてですか?」
ゴルゴーンが立ち上がると、アレグロも同じように立ち上がりその理由を尋ねる。
しかし彼はその理由を語ることもなく、ケイ達に帰るようにと告げると足早に応接室を退出する。
当然その行動に驚いたロザリンドが「お父様!?」と呼び止めるが、その声が届かないまま扉がしまり、ケイ達の間で微妙な空気が流れる。
「今まで何かを断る上で理由を口にしないなんてことは一度もなかったのに・・・なぜあんな物言いを?」
ロザリンドがアンドワールを向くと、彼女はゴルゴーンが出て行った扉を見つめたまま、なんとも言えない表情を浮かべ、「・・・お母様?」というロザリンドの声にハッと気づいたのか、今は何を言っても取り合わないでしょうねと呟いた。
一連の様子にケイは、アンドワールの言葉が何を意味しているかまではわからないものの、もしかしたら過去にアグナダム帝国となにかあったのでは?と察する。
「アンドワール、あんた何か知ってるのか?」
「・・・夫はきっと今でも悔やんでいるのでしょうね」
「悔やむって何を?」
ケイの問いかけに聞いている様子がないアンドワールもゴルゴーンの様子を見に行くと席を立つと、同じように退出してしまった。
ケイ達もましてや二人の娘であるロザリンドも確実に何かがあったことは気づいてはいたが、それを尋ねる前に退席してしまったのだから、これからどうしようかとお決まりのように互いに顔を見合わせるしかなかった。
ロザリンド達と再会し、ゴルゴーンに協力を募ったものの断られたケイ達。
アンドワールの表情に何かを物語って雰囲気はあったがそれも詳細はわからず。
困り果てたケイ達はどうするのでしょうか?
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