343、いきなり訪問~ジャヴォール編~
皆様こんばんは。ご無沙汰してます。
久々に343話投稿しました。
いきなり訪問ラストは、ジャヴォールです。
ガラーでの騒動から数週間ほど経ったある日のことだった。
その日は朝から、屋敷の内を慌ただしく動き回るケイ達と使用人達の姿があった。
というのも、以前ケイ宛てに一通の手紙が送られてきたのだが、ガイナールとラオの王都留学の調整にかかりっきりになってしまったが故に、気がつけば手紙の内容に記されている約束の日を迎えることになってしまったのだ。
しかもケイが手紙の内容を思い出したのが約束の日の前日で、当然その話を聞いたアダム達は(もっと早く言ってくれ~)とため息をついたのは言うまでもない。
「ねぇ!そっちは終わった?」
「こっちは大丈夫だ!レイブン!二階はどうだ?」
「ここも、今終わったよ!」
迎えた当日の早朝からエントランスの整理・清掃を担当していたシンシアとアダムは、やっと終わったと何度目かのため息をつき、二階にある部屋の準備をしていたレイブンが「お疲れ・・・」と手を振る。
「ねぇ、ケイ達の方はどうなっているのかしら?」
「人数が多くなるから準備に時間が掛かっているのかもしれないね。俺は着替えてからケイ達の方に回るよ」
二階に居るレイブンが、ケイ達の方を手伝う前に服が汚れたので着替えてくるとその場を離れ、アダムは「本当に久しぶりだよな」と掃除用具をまとめながら感慨深い表情を浮かべる。
「私もケイ達の手伝いに回った方がいいのかしら?」
「料理か?やめておいた方がいいけどな」
「なによ失礼ね!私だってなんとかしたいと思って、前から練習してるのよ?」
「その気持ちは分かるけど、作る度にブルノワと少佐が泣き(鳴き)わめく程の臭いを放つ時点で、避けた方がいい気はするよ・・・」
アダムの遠回しな指摘に“最近物言いがケイに似てきた・・・”と、一瞬ムッとした表情を浮かべたシンシアだが、思うところ(前科?)がありすぎたため、やはり料理に関しては向かないのかもしれないと複雑な心中を浮かべた。
全ての準備が整った頃には約束の時刻を迎えていた。
出迎える前に疲労困憊のケイ達だったが、ほどなくしてタイミングを図ったかのように屋敷の扉が開かれたと思うと、女性の声がエントランス中に響き渡った。
「皆ー!ただいまーーー!!」
アレグロとタレナの帰宅である。
数週間前にケイに送られた手紙の内容とは、イシュメルについていく形で二人がアルバラントの屋敷へ戻るという旨が記されていたのだが、ケイ達が出迎えるやいなや信じられないといった表情を浮かべる。
「二人共帰ってきた・・・って、アレグロ!お前どうしたんだよ!?」
再会したアレグロの変貌振りに、ケイは驚きを隠せず思わず言葉が口から出た。
アグナダム帝国にて、ケイがアレグロの本体を救出した際に伸びきった彼女の髪の毛を腰の位置で切り離したのだが、それが今では藤色に近い色合いに、タレナより少し長めの鎖骨ぐらいまでの長さに変わっている。
なるべく長さを残そうとしたけど、結果的になぜこうなった?と疑問を浮かべるケイにアレグロは、これでも長くなった方だと説明をする。
「この髪のことかしら?折角ケイ様が残してくれたんだけど、長い間装置に保管されていた影響もあったみたい。髪質はボロボロ、特に毛先はクシが通らなくなっちゃったし、しょうがないから一度かなり短くしたんだけど、体質も変わっているせいか伸びが遅いの」
「髪色が薄いのも、その影響か?」
「えぇ。でも、体調面では問題はないし髪も伸びてきているから、あとは時間が経てば元の長さに戻るんじゃないかしら」
初めて会った時と同じ表情で返したアレグロに、再会できた喜びとその後の配慮ができてなかったかも・・・と思い浮かべたものの、二人の体調を考慮して、まずは一旦落ち着こうとダイニングルームへと通した。
ケイに送られたアレグロからの手紙の続きには、イシュメルが近く、王都・アルバラントへ赴き、アグナダム帝国の跡地と言われる大陸に関して報告すると共に、彼を含め、残されたアスル・カディーム人の今後についての会談を行うことも記されていた。
イシュメルは、王都に到着するやそのままガイナールとの謁見のため、アルバラント城へと向かったそうなのだが、そこでケイはあることに気づき二人に尋ねた。
「なぁ、アルペテリアは一緒じゃないのか?」
「妹はフリージアに向かいました。長いことワイト家を離れていた事もあって、以前から、ベルセさん達には落ち着いたら戻ると伝えていたようです」
「でもナザレ兄さんがついているし、大丈夫よ!」
ナザレは五大御子神の一人で、アルペテリアを含めた三人の兄でもあり、イシュメルの弟でもある。
彼は以前、とある事情から一時的にこの屋敷に滞在していたが、後にケイ達と入れ違うように聖都へ向かった。
彼は事情を知っていたケイから経緯を聞いていたガイナールから、兄妹たちが生きていたことに驚きを隠しきれないと同時に、自分が眠っている間に時が過ぎたことも、目覚めた頃には何もかも終わっていたことを知るや、シルトに合わせる顔がないとローゼン達に告げ、ほどなくして去ったため再会は叶わなかった。
またその当事者でもあるシルトは、黒種の後遺症からかタレナと同様に記憶が戻らず、いざこざがあったであろうナザレに対しても色々と思うところはあれど、いまはその時ではないと結論づけている様子がある。
「イシュメルは、今後どうしたいって言ってるんだ?」
「兄は、出来ればアグナダム帝国に戻ろうと言ってました。もちろん私や姉さんは住める状況ではないし、考え直した方がいいって言ってはみたのですが・・・」
戸惑う様子を見せるタレナにケイは、イシュメル本人の考えとしては、住むためにアグナダム帝国へ戻るのではなく【供養】するために戻りたいと言っているのではないだろうか、と考える。
時折ガイナール経由で、バナハと聖都・ウェストリアの合同調査隊の状況を聴くことができた。
それによると、ダジュールの歴史上でも取り上げられたことがない装置の類や、倒壊はしているが当時の建造物の一部を大陸のあちらこちらで確認できたそうだ。
また、倒壊した建物や施設地区から当時のアスル・カディームの遺体が見つかり、調査段階ではあるものの、一部では埋葬の準備も行われようとしていたが、いかんせんアグナダム帝国全土の調査と平行に行っているようで、全行程を終了させるには、まだまだ時間が掛かると報告が上がっている。
「そういえば、バナハの調査隊に同行していたリアーナさんとお会いした時に、北部地区の施設の一部がまだ生きてると言ってました」
「施設の一部?北部のメインシステムのことか?」
「正確にはメインシステムを繋ぐサブシステムの一部のようですが、整備をすればメインシステムの一部を動かすことができるのでは、と」
以前からバナハの調査隊に加わっていたルシオ・リアーナ・ピエタは、アグナダム帝国のメインシステムに関わっていたこともあってか、大陸内のシステム状況確認および動作有無を専門に調査を行っていた。
リアーナと再会したタレナの話では、北部地区のシステム再稼働の可能性を示唆していたが、再稼働にあたりいくつか解決しなければならない問題が発生し調査が難航していると語る。
「北部地区のシステムは一部稼働可能ではあるものの、必要な人材や物資が不足しているので、稼働させる状況としてはかなり厳しいと言ってました」
「保護したアスル・カディーム人の中に専門職はいないのか?」
「数人いるようですが、システムの修理を行うには人数が足りないそうで、損傷を補う資材もなく、バナハの調査隊の方々も頭を悩ませているようです」
「まぁ、そもそもの文化が違うからな~」
ケイ達がアグナダム帝国にやって来た時にも一部のシステムは生きていたが、実際に運用できるまで戻せるかとなると正直無理がある。
なにせこちらの大陸には存在しない資材が数多く、いくら専門知識があるアスル・カディーム人が居たところで、それら全てを補うことは技術的に難しい。
「ケイ、ジャヴォールに協力を求めることはできないのか?」
アダムがタイミングを見計らって、ケイに提案をする。
「は?ジャヴォール?」
「いや・・・だって、アグナダム帝国の技術が今でも受け継がれているところといえば、ジャヴォールしか見当つかないし、もしかしたらゴルゴーンさんから協力を得られると思うんだが?」
アダムは続けて、ケイの事だからゲートをジャヴォールに付けることができるように調整していると思ってたけど・・・と話を区切り、そこでケイはハッと気づく。
「言われてみれば、今も技術的に伝わっているのはジャヴォールだけだよな。ダメもとで聞いてみるしかないな~」
確かに今の時代にアグナダム帝国の文化の一部が使われているのは、魔人族のゴルゴーンが治めているジャヴォールで、さすがに時が経ちすぎているため流用された歴史や文化が変化しているかもしれないが、アダムの提案を肯定する。
ただ技術面や状況を考えると、どこまで協力をしてくれるか、その辺は未知数である。
「ケイ様?ゲートってなんのこと?」
会話の途中からアレグロとタレナが疑問を浮かべた。
そういえば二人には説明していなかったと、実は以前訪れた大陸をゲートで繋げて行き来できるようにしたと説明するや、アレグロが「自分も行ってみたい!」と手を上げる。
いくら体調が戻りかけていても、長距離の移動は彼女の身体が答えるだろうと躊躇したが、自分は大丈夫!と胸を叩く。
「アレグロ、無理しなくてもいいんじゃない?」
「でも、私のせいでジャヴォールの皆さんに迷惑が掛かっちゃったわけでしょ?」
「えっ?覚えているの?」
「その直前までだけど、あとからあの時のことをタレナから聞いたの」
ジャヴォールにてアレグロの容態が急変した時、彼女自身の記憶は、その直前からケイが魂を身体に戻すまでの間がすっぽりと抜け落ちていた。
魂が本来の身体へと戻り、後にウェストリアにて療養している間にタレナからその話を聞いたアレグロは、当然ゴルゴーンをはじめとしたジャヴォールの人々に迷惑をかけたと悩んだ様子を見せる。
たしかにあの状況に遭遇すれば、だれでも混乱はするだろう。
「はぁ~わかった。とりあえずこれからゲートを調整するから、それが終わり次第ジャヴォールへ向かおう」
始まりはいつも突然に・・・というわけではないが、いつも通りに突撃するのは、もはやお約束である。
アレグロとタレナが屋敷へ戻り、二人からイシュメルがアグナダム帝国へ戻りたいことと調査隊の報告で、一部の施設を整備すれば使用できるのでは?と話が上がりました。
そのためには、アスル・カディーム人の技術を応用しているジャヴォールへ行く必要があると考えたケイ達は、早速ゴルゴーンの元へ向かうことにしました。
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