33、オリバー・レストン
アテが外れたケイ達に何かが起こる・・・?
翌日、ケイ達は朝食をとりながら今後の方針を考えた。
「この後どうするの?」
「とりあえず聖都ウェストリアに言ってみようかと思って」
「教立図書館か?」
「あぁ。あと聖炎祭も気になったから行ってみようかと、マンドラゴラを食べに」
その言葉にアダムが盛大に吹き出す。彼にとっては苦い思い出である。
「アダム大丈夫か?・・・それなら陸路しかないな」
レイブンが店員から布巾を受け取り、テーブルを拭いた。
「ゲホッ・・・アルバラントからバナハ行きの馬車が正午に出るはずだ。あとは馬車か徒歩で北へ向かえばいい」
日数にして五~六日ほど、ケイは予め人数分×日数以上の食料を貯蓄していたため、今すぐ向かっても問題はないと結論づける。
もし徒歩でも、聖炎祭には十分間に合う。
「それだったら、足りないモノを買い足して馬車乗り場へ向かいましょう」
アレグロの一声に食事を終えた後、宿を引き払い買い物に出ることにした。
「ポーションに魔力ポーション、毒消し薬に麻痺治し薬・・・っと」
シンシアが、購入した品を確認する。それをケイが受け取り鞄の中に入れた。
必要な物を買いそろえるために、ケイ達は二手に分かれることにした。
ケイとアダムとシンシアは道具屋へ。
レイブントアレグロとタレナは雑貨屋へ。
買い物が済み集合場所である南側の広場まで戻って来た。
まだ少し早かったのか、レイブン達は到着していないようだ。
「レイブン達はまだなのか?」
「俺たちが少し早かったみたいだな」
「しょうがないから大人しく待ってましょう」
ケイ達が三人を待っていると、銀の鎧を着た二人組の兵がこちらにやってくる。
「パーティ『エクラ』の方々ですか?」
「はいそうですけど、何か?」
「我々は王国騎士団・第一部隊に所属しているものです。先日、消失した幻のダンジョンの件で伺いに来ました」
アダムが対応すると、どうやら彼らは王国騎士団の一員だった。
「何故でしょう?」
「ダンジョン消失と同時にあなた方が戻ってくるところを目撃した方々がいまして、そのことについて隊長がお聞きしたいと」
どうやら、隊長の代理で来たらしい。しかし何故自分たちがここにいることを知っているのだろう?
「申し訳ありませんが、事情により馬車の時間が迫っていますので、お受けしかねます」
アダムが丁重に断りを入れる。
「お前らの事情なんて聞いていない!早く一緒に来い!」
「お、おい!?」
二人組の片割れが声を荒げ、もう一人が止めに入る。
「何で行かなきゃ行けないの!?」
「うるさい!来い!」
声を荒げた男が同僚を突き倒し、シンシアの腕を掴んで引っ張って行こうとする。
「ちょっと待て」
その瞬間、シンシアの腕を掴んでいた男の腕を、ケイが掴み引き離す。
「何をするんだ!」
「『何をするんだ!』じゃねぇよ。民間人を無理矢理連れて行こうなんざ誘拐と一緒じゃねぇか!?」
さすがのケイもこれには苛立つ。その声に周りの人間が集まり、ちょっとした人だかりになる。
「冒険者の分際で俺たちに楯突く気か!?牢屋に入れるぞ!」
「はーい!皆さん聞きました!?善良な市民を無理矢理拉致して、その上ぶた箱行きですって!清く正しい王国騎士団様とは思えませんね!?」
ケイがギャラリーに向かって問いかける。口々に「こわい」だの「物騒だな」と言う声が聞こえる。
「き、きさま・・・!」
今にも斬りかからんとする男の前に、ケイが仁王立ちする。
「みんな、どうしたんだ!?」
ここでレイブン達が合流してきた。
「レイブン聞いてよ!この人達、私を無理矢理連れて行こうとしたのよ!?」
「・・・なんだって?」
気が動転したシンシアが多少説明を省いて伝えたため、怒気を含んだレイブンの声が響く。普段怒らない分、かなり怖い。
「我々は事情によってここを離れることになります。幻のダンジョンのことについてはわかりかねますので、お答えしようがありません」
手遅れ感が否めないが、アダムがなるべく穏便に騎士の二人に伝える。
「貴様ら!馬鹿にするのもいい加減にしろよ!」
「お、落ち着けって!!」
興奮状態の男にもう一人が止めに入る。
「お前達、何をしている?」
男性の声と同時にギャラリーが道を開ける。まるでモーゼのようだ。
「オリバー隊長!?」
二人の騎士の動きが止まる。
昨日図書館で見た格好と同じ、銀の鎧を着た体格のよい男性が別の部下を連れて現れる。
「お前達、何をしてるんだ?」
オリバーの鋭い眼光が二人をとらえる。
「オ、オリバー様」
「・・・」
激昂していた男は、動揺してなんとか言葉を紡ごうとし、止めに入った男はあまりの恐怖に閉口する。
「あんたがこいつらの上司か?」
「そうだが、君は?」
「俺はパーティ『エクラ』のケイだ。おたくの部下がうちのメンバーを無理矢理連れて行こうとしてさ。どんな教育してんの?」
完全に騎士相手に喧嘩を売っている。不敬罪で処せられる可能性もあるがケイは気にしない。
「それは申し訳ない。それとー」
「あと、俺たちのこと誰から聞いた・・・?」
ケイがオリバーの会話を被せるように発言してから、視線を動かす。
オリバーの左後ろにランスロットの姿が見える。こちらに目線を合わせないところをみると、出所は彼のようだ。
「彼が、偶然君たちの姿を見かけたようなんだ。それに、以前幻のダンジョンの時に世話になったと言っていた」
それに気づいたオリバーが、ランスロッドをかばうように説明をする。
「だったら、代理使わねぇでランスロットかお前が来ればいいだろう?」
「それはもっともだ。こちらの不手際で迷惑を掛けた、申し訳ない」
「脳みそあんだろう?もーちょっと考えろよ!?」
頭を下げたオリバーにケイがたたみかける。
「きさま!オリバー様の前でなんて口の聞き方だ!!」
そのやりとりに異をとなえた騎士が、ケイに掴みかかろうとした。
ケイはそれをいなし、逆に腕を掴んでひねりあげる。
あまりの痛さに悶絶する騎士。
ケイの不愉快度がMAXまで上がると、騎士をそのまま突き返し啖呵を切った。
「ごちゃごちゃうるせぇ!!暴行罪と誘拐罪で訴えるぞ!!!!」
この時気づかなかったが、ケイの創造魔法が自動的に発動し【威圧】が創造される。
【威圧】対象者に恐怖と混乱を与える。場合によっては気絶する。
対象者のレベルによって効果時間が変わる。
あまりの迫力に、その場にいた全員が閉口し静まりかえる。
「オリバーって言ったっけ?部下の教育と物事の順序!っていうものを考えろよ。はっきりいって迷惑だ」
「あ、あぁ。すまない・・・」
【威圧】の直撃を受けたにも関わらず、オリバーはなんとか声に出して応えた。
しかし彼の部下は、あまりの恐怖に数名がその場で気絶した。
「もういい。みんな行こうぜ」
ケイはみんなを連れてその場をあとにした。
「ケイ、もう少し考えて発言してよね!」
馬車乗り場に向かう道中、前を歩いているケイにシンシアが忠告した。
「あいつらが悪い!」
先ほどの件で機嫌が悪いのか、雑な返しをする。
「はぁー。まさか、隊長自ら来るとは・・・」
「ある程度想定していたが、少し甘かったようだな」
アダムとレイブンがため息をつく。今後の展開が多少みえてるようで、疲労の色が浮かぶ。
「あの場合は強制はないはずよ?任意だから断っても問題ないと思うんだけど?」
「ことがことなだけに慎重になっているのではないでしょうか?」
アレグロとタレナが首を傾げる。
しかし、今回の件で騎士団に知られてしまった以上、今後は慎重になるべきと判断する。
あまり酷いようであれば、マイヤーに相談するべきか?それは、今後の展開をみてから考えることにしようとひとまず脇においた。
ケイ達は、このままウェストリア行きの馬車に乗るため、乗り合い場に向かうことにした。
結果・・・大いにモメました。
そうなるよね。
次回の更新は6月14日(金)です。