334、ラオの異変
皆さまこんばんは。
さて今回は、ケイとシンシアがリオンを連れてガラーの地を踏んだ後の話になります。
久々のガラーの人々が登場いたします。
「あら?前に来た時には、こんなに青々とした風景じゃなかったわね?」
「ガラーの季節は、大陸とは時期がズレてるかもしれねぇな~」
リオンの後ろでケイとシンシアが扉の奥を覗き見る。
会話からして一度来たことがあるようなことを言っているようだが、なぜ階段下にある扉から全く知らない風景が広がるのかという疑問が拭えない。
「あの…お二人はここが何処なのかご存じなんですか?」
「ここはガラーだ。ゲートを設置して一度来たことがある場所に飛ぶことができる…まぁ魔道具みたいなもんかな」
どう伝えたらいいのかと悩むシンシアを余所に、ケイはストレートにゲートの仕組みをリオンに説明した。
もちろん一般的に考えると、ワープのような異次元な技法が話として伝わるのかというと、雲を掴むことと同じようなニュアンスで伝わりづらいことは明確だろう。
しかしその説明を聞いたリオンは、目を輝かせながらケイにあれやこれやと説明を求めている。
「ゲートというのは、瞬間的な魔法の技術のようなものですか?あ!それとも、過去に存在したであろう空間的な魔術を術式として道具に組み込み、魔道具を形成させているということですか?僕がルイ先生から聞いた話では………」
堰を切ったように話し出すリオンにさすがのケイも専門的なことは分からないと困惑し、助けを乞うような目線でシンシアを見るや“それは無理”と首を横に振られる。
しょうがないので一旦リオンを落ち着かせてから、まずは人に会いに行こうと二人と共にガラーの地を踏み出した。
「ケイさん、ガラーという国はどういう国ですか?」
道中、リオンがそう尋ねた。
羽翼族の特徴を簡単に説明をすると、文字通り羽根の生えた人間?という疑問がリオンの中に浮かぶ。
もちろん生活様式などは現地の人に聞くのが手っ取り早いので、どんな暮らしをしているのかは、当人たちに聞いた方が早いと説明を辞退するケイにシンシアが説明を投げたなと首を振る。
「僕、今まで王都から出た事がないんです」
田舎のあぜ道のような道を進むと高低差のあるガラーの町が見え、ケイには懐かしい田舎道を彷彿とさせながらも続いて歩くリオンがポツリと呟いた。
「王族って視察で各国を回るイメージがあるけど違うのか?」
「何を言ってるのよ?そもそも王族や貴族の移動はあまりないわよ?」
「えっ?そうなのか?」
「好意的な人以上に人から恨まれている人も少なからず居るわ。特に王族貴族は派閥が強いこともあるから、隙あらば“裏切り・暗殺”なんてザラよ。それに直系であるリオン様となると、周りは彼を自分の方に取り込もうと躍起になっている話は他の国でも聞くわ。もしかしたら従者選考が難航しているのは、そう言った部分もあるからかもしれないわね」
シンシアの話から、ケイは自分の認識が異なっていることに気づいた。
外交という観点からよく行き来していると思っていたが、実際は暗殺上等、自分の身は自分で守れ、やられる方が悪いという常識がダジュールの上流階級にはあるらしい。
特に成人に差し掛かるリオンは、未来の王都を導く身分であることから裏ではかなり難航しているのだろうと考えられる。
当然、利用されないように様々な分野に精通し知識を高め、自身の身おろか国を護らねばならないという茨の道を歩むことになると、並大抵ではないだろう。
「リオン、大丈夫か?」
ガラーの町が近づくにつれ、リオンの口数が極端に少なくなる。
慣れない場所に緊張をしているからなのか、俯いている様子にケイとシンシアは互いに顔を見合わせ、大丈夫だろうかと不安がる。
その様子が他人の目から見ても明らかなので、一旦戻ろうかとケイが提案するも、リオン本人は「大丈夫……」と自分を納得させるような物言いで答える。
暫く道なりに進むと、三人の眼前に高低差のある羽翼族が住む街並みが見えた。
季節という概念があるかはわからないが、青々とした緑が広がる風景から察するに初夏に近い気候であることが感じ取れる。
また、ケイとシンシアの後ろを歩くリオンは慣れない道のせいか、少し汗ばんでいる様子もあり、少し休憩するかと尋ねたところ、大丈夫とリオンは返し、二人の後について歩く。
「ねぇ~ケイ?ガラーってこんなに風が吹いてたかしら?」
「海域に浮かんでる国だからそのせいじゃねぇの?」
「でも、なんていうのかしら?風が一方方向に吹いていない気がするの」
「気候に関しては全く分からねぇけど、たしかにおかしいよな?」
道中、シンシアがガラーの気候について尋ねた。
たしかに少し風が強い感じがするが、高低差どころか宙に浮いている国のためその関係じゃないかと返すが、彼女が指摘したように向かい風から急に追い風になったりと、明らかに風の挙動が可笑しい。
「二人共伏せろ!!!!」
町に向かおうとケイが進行方向に目を向けたところ、何かに気づいた様子で、慌ててシンシアとリオンの腕を引き、その場に伏せるように屈ませる。
その瞬間、頭上を轟音を伴った風が突っ切っていく感覚を受けながら通り過ぎた。
時間にしてものの数秒の事だったが、通り過ぎた後に立ち上がると、周辺に広がっていた草がケイ達がしゃがんだ位置から上がスッパリと平行に刈り取られている。
その状態をみた三人は血の気が引く思いをしたのは言うまでもない。
「だ、大丈夫ですか!!!!」
呆然とする三人の頭上から人の声が聞こえた。
周囲を見渡しても声の人物の姿が見えず何気なく空を見上げると、数人の羽翼族の子供達が滑空してくるところが見えた。
先頭を切っている少年がこちらに声を掛けたのか、着地と同時にこちらに駆け寄ってきたわけなのだが、その人物に見覚えがあったケイとシンシアが「あっ!」と声を上げた。
「ラオじゃねぇか!?」
「あれっ?ケイさんとシンシアさん?」
駆け寄ってきた羽翼族の子供達の中にラオの姿があった。
彼は少し見ない間に随分と大人びた風貌へと変わっていた。
身長はシンシアと同じぐらいの背丈まで伸び、成長期なのかもしれないが男子特有の声変わりも始まっているようで、青年のような低い声へと変化している。
声を掛けられなければ一瞬分からないほどだったが、後からついて来た仲間であろう少年少女達が顔面蒼白になっていることに気づき、僕の責任だから…と宥めている姿は大人に近づいているんだろうなと漠然と感じる。
「皆さん怪我はありませんか?」
「あぁ、俺達は大丈夫だ。というかさっきのはなんだ?」
ケイが何気なく魔法か?と尋ねると、ラオは素直に「はい、僕がやりました」と頭を下げ謝罪の言葉を口にする。
詳しく聞いてみると、この辺り一帯の草木は成長が速く、年に数回伐採しないと荒れ放題になってしまうので、羽翼族の教育の一環として少年少女達に草刈りを任せていたという。
しかしまだ幼い部類に入る子供達は、力も体力もなく一向に終わらないことを察したラオは、大人達に内緒だよ?と念を押してから魔法で周辺の草木を刈り取ったということだった。
まさか射程距離の範囲内にケイ達が入ってきたのは想定外だったため、この件については族長であるバルトルに報告しなければならないと言い、心なしか愕然とした様子があった。
「本当に申し訳ない!!」
ラオの案内でバルトルが住む屋敷に赴いた三人は、応接室にてちょうど一緒にいた彼の息子であるユアンと共にことのいきさつを説明した。
当然バルトルは「なんてことを!」とラオを叱り飛ばし、ユアンと共にケイ達に平謝りをしたが、あまりのバルトルの形相に「こちらに怪我はないから、ラオを責めないでほしい」と返す。
「ところでラオは前から魔法が使えたのか?俺たちが前に来た時は見たことがなかったからさ~?」
以前ガラーに訪れた時に訳あってラオが怪我をしたことがあった。
その時ケイが症状を確認するために鑑定をかけたのだが、魔法の項目が表示されていなかったことは記憶しているものの、先ほど自分たちの頭上を通過した風は、明らかに魔法の類であると判明したことで、なぜ魔法が使えるのかと疑問を感じる。
またバルトルとユアンは、その問いに対して言ってもいいのかと一瞬躊躇するそぶりを見せ、ケイが様子を理解する間もなく、バルトルが観念したかのようにあることを語り始めた。
「実はラオが魔法を扱えるようになったのは、以前ケイさんたちがこの島に来た後からのようなんだ」
「ん?どういうことだ?」
「恥ずかしい話だが、我々もラオが魔法を使えることを知ったのは最近のことで、他の子供たちから「ラオが不思議な力が使える」と聞き、本人に問い詰めたところ火や風などを起こせる力が身に着いたと白状したってわけだ」
隣にいるラオにそうなのか?と問いかけると、本人がコクリと頷く。
おそらく怒られることを前提とした態度なのだろう。
反省はいいが引きずるのはよくないと思い、ケイはラオに対してなるべく優しめに詳細を訪ねてみることにした。
「ラオ、なにがあったんだ?」
「ケイさんたちが島を去って一月ほど経った後から、生え変わった羽根の色が変化するようになったんです。その時からなんというか……まるで前から知っているかのように不思議な力を身につけていました」
そういうと、ラオは左の羽根だけをケイ達に見えるように広げた。
羽翼族は年に数回羽根の生え変わりというものがあり、俗にいう動物の換毛期に近いサイクルで生え変わった際に、ラオの左側の羽根は依然負った古傷があった場所の部分が七色に変化していたことに気づいた。また、それに続くように成長期が始まり、身体が大きくなるにつれて魔法のような力も備わったのだという。
しかし魔法に関しての知識が皆無だったラオは、悩んだ挙句にバルトル達には内緒で弱いながらも魔法を扱える他の羽翼族から手ほどきを受け、独学で粗削りながらも魔法を会得したわけである。
ただ気になる点として、ケイ達がガラーに来る前までは特に何も異常はなく生活できていたのに、ガラーを去った後にラオの身に変化があったのか、そのあたりに関して全く見当がつかなかった。
おそらくきっかけはあったのだろうが、ケイ自身はラオの怪我を治しただけで後々こんな大事になるとは思ってもみなかったのである。
ラオをはじめとした羽翼族の人々と再会を果たしたケイ達は、以前ガラーを訪れた後からラオの身に変化が起こったことを聞きました。
魔法が使えるようになったラオの行動で危うい目にも遭いましたが、彼自身はなぜこんなことになったのかわからず、一人で努力を続けなんとか会得したと聞きケイ達も驚きを隠せませんでした。
しかし、なぜラオが魔法を使えるようになったのか?
次回、それは意外なところから判明することになります。
閲覧&ブックマーク&感想などありがとうございます。
細々とマイペースで活動していきますので、また来てくださいね。
※誤字脱字の報告、または表現の提供をありがとうございます。




