330、真実を明かすとき
皆さんこんばんは。
いつもご高覧くださりありがとうございます。
母親と話がしたいアナベルは、ダットに話を聞いてもらい、ケイに連絡をとり島に戻ろうとします。
一方でアナベルの出生の秘密を聞いたケイ達は、このことを本人が知ってしまったらと不安を抱きます。
【メッセージを送信しました】
送信画面を前にダットは何度目かのため息を洩らした。
魔道船にはケイと連絡を取るための手段として、舵付近と船長室に端末が配置されている。
普段はあまり使うことはないのだが、どうしてもケイと連絡を取らなければいけなくなったため、四苦八苦しながらも舵に設置している端末で文面を打とうとしていたが、一時間経っても画面とにらめっこをしている姿を見かねた船員の一人が、やっぱりアルバに文字を打って貰ったらどうかと提案をする。
というのも、今までに何度かメッセージのやりとりはあったのだが、元々そういった文化がない人からすれば、いくら説明をされたからといってすぐに慣れるわけではないし時間もそれなりにかかる。
これまではダットの口頭説明をシステムのアルバが文面に起こし送信していたが、このままアルバ頼りになるのも、と気合を入れて自ら文面を打ち送ろうとした。
しかし結果は、先ほどの船員の言った通りである。
「ダットさ~ん、ケイさんから連絡は来ましたか?」
いくら待ってもダットが戻ってこない事を心配したレマルクがイベールとアナベルを連れてやって来た。
近くで作業をしていた船員達から、アルバに頼らず自分でケイ達にメッセージを送ろうとしたが、時間がかかり過ぎたために結局頼ってしまったことを告げ口するや恥ずかしさのあまりダットは怒った口調で持ち場へ戻れと散らした。
「それでは返事はまだ、ということですか?」
「あぁ…というか、そんな怒るなよぉ~」
「怒ってはいませんが、呆れているだけです」
ダットはイベールが怒っているように感じたため待たせて悪かったと口にしたが、彼とさほど背丈が変わらないはずなのに、まるで幼少の頃にイタズラをして母親に怒られたかのような雰囲気に思わず萎縮しかける。
「でも、三日後にはケイさん達と帰るんだよね?その時じゃ駄目なの?」
「どうしてもお母様に確認したいことがあるの!それに、バギラさんから元々精霊達は特定の生息地は持たないことを聞いたんです!」
そんなアナベルの様子に一旦落ち着こうとレマルクが諭し、近くにある椅子に腰を掛けさせるが、続けた言葉の意味がよく理解できずに三人は困惑した。
「…ん?精霊族って、大陸から移住したってケイ達から聞いてるが?」
「そうなんですか?」
「あぁ。なんでもエルフ族の祖先であるアグダル人が乱獲したから数が減少したって言ってたな~」
「でも精霊や妖精は普通に大陸にいるし、エルフ族も共に行動しているからその話を聞く限り、精霊族が移住した理由としては少し弱い気がする」
ダットがケイから聞いた話を簡潔に説明をすると、ここでイベールが疑問を浮かべたまま自身の意見を述べる。
たしかにイベールの言う通り、他の種族から見えることがあまりないだけで、現在でも大陸には数多くの妖精や精霊が存在する。
もし仮にケイ達の話が本当だった場合、精霊族が他種族と出会わないままで結果としてエルフ族は精霊魔法を使用することなく歴史も今と全く変わっていたかもしれない。そうなると、イベールの中で精霊達に関するある考えを三人に伝える。
「そうなると考えられる説としては、精霊はあえてエルフ族が住む森に留まったと考えることができるかも…」
「はぁ?じゃあなんだ?精霊族っていうのはわざと森に住み始めたってことか?」
「ダットさん、以前ケイさんから大陸外の地図を受け取ったかと思いますが、エルフ族のいる森がある東大陸の東側の延長線上には、なにがありますか?」
「えっーと……あ!ドゥフ・ウミュールシフか?」
「はい。ケイさん達から精霊族は、エルフ族の祖先の影響で島に辿り着いたといいましたよね?もし仮にこの話が本当なら、エルフ族の歴史は今とは別になっていた可能性があります。でも精霊達は大陸にいるし今も昔も変わらない…となると、精霊族の一部が何らかの事情で移り住むことになったということになります。それは例えば、精霊族の長の身に危険がおよびやむを得ず移り住むことになった…とか」
そこで話を区切ったイベールにアナベルは、まさかと息を呑んだ。
だからと言って今までのアナベルを取り巻く生活環境がイコールにはならないのだが、仮に彼の言っていた通りだとするならば、その発端となったのは自分のせいではないかと彼女自身、不安を募らせたのだった。
『パ~~パ~~~?』
ダットからの連絡を受けたケイ達が一旦屋敷へと戻ると、ゲートを抜けて直ぐにふくれっ面のまま睨んだ様子のブルノワの姿を見つけた。
どうやら遊んでいる途中で置いて行かれたことに怒っているのか、隣に居る少佐まで威嚇の唸り声を上げている。
もちろんその原因であるケイは、ゴメンという意味を込めて各々の頭をなで回したのだが、留守の際に彼らを見てくれていたダビアの顔色が心なしか悪いように見える。
「…もしかして、リュエラから聞いたの?」
「アナベルの事だろ?まぁー驚いたけど、いつまでもあのままじゃ互いに良くないだろ?それに、さっきダット達から連絡があってアナベルがリュエラに話があるから戻りたいって連絡がきてた」
「だったら…「なら!いつまで本人だけが知らない事実を隠すんだ?」」
ケイの言葉にダビアが閉口する。
アナベルに真実を伝えたところで彼女が納得するかは当然無理な話だろう。
だが、事実を知ったからこそあの島に居たままには出来ないだろうと感じていた。
そもそもその理由が、アナベルが精霊とビェールィ人の子の身体を持つというところにあり、かつてはアフトクラトリア人に狙われていたということである。
現在そのアフトクラトリア人は、ケイ達の活躍とアレサにより世界から存在を抹消されたわけだが、それにより“アナベルが島に縛り付けられる理由がなくなる”という意味も含まれている。
もちろんダビアの心配していることは理解できるが、島に居る精霊族の中でも本当に彼女が忌み子として信じている者もいたとして、長の娘ではない事実も相まった以上、既に彼女の居場所としての役割は果たしたのではないだろうか、とケイはふと考える。
「それにリュエラはそのことについて、アナベルに話すと言ってるぜ」
「えっ?……リュエラが?」
ダビアの表情から、当初のリュエラと同じような考えをしていたのだろう。
ダットから連絡を貰った時、リュエラからアナベルに本当の事を話そうと思うという話を受けた。もちろん「本当にいいのか?」と訪ねたのだが、リュエラはケイ達が精霊族と接触し歴史の謎を解き明かしたため、当初はアナベルに明かすつもりはなかったことを吐露した。
ダビアも同じ意見だったのか、当初の彼女はエルフ嫌いでアナベルとも仲良くしないということを演じていたことで、ケイ達に指摘されるやその演技も意味をなさなくなり、全てはアナベルのためだったとなるとその心中は計り知れない。
「ケイ、本当に大丈夫なの?」
「さぁ、どうだろうな。リュエラが決めた以上、部外者の俺達が口を挟むのは違うんじゃないかと思ってる。でも、もしアナベルが前々から精霊達に違和感を感じていたのなら、遅かれ早かれ本人が知るべき事実だったのかもしれない」
直接的なきっかけではないものの、ケイ達にもその原因の一端はある。そんな考えが頭に浮かんだケイは、ここまで話が進んだからには自分たちもその成り行きを見守るしかないと、一旦納得はすれど不安が尽きないダビアの様子に自分たちも同じような感情を抱いた。
それからほどなくして、アナベルを連れたダットと会うことができた。
「悪いが、ダットにもちょっと来て欲しいんだ」
アダムの借家を経由して魔道船を訪れたケイから、アナベルのことに関してダットにも一緒に来て欲しいと伝えると、当然ダットは目を丸くする。
ケイ達にアナベルを任せて貰えたのだが、いかんせん諸々の事情で彼女から即日中に帰りたいという要望が出たため、やむを得ず連絡を取った結果、何故か話が数歩先に進んでいた事も相まって、更に困惑の表情が表に出る。
当然「どういうことだ?」と尋ねると、アナベルの事でと本人を目の前にして耳打ちをしたケイだったが、ダットはそれが自分とどう関係があるのか分からない。
同行して欲しいというケイの要望もあり、仕方なくダットは船を船員達に任せて、リュエラがいるドゥフ・ウミュールシフへと渡るしかなかった。
「リュエラ!アナベルを連れて来たぜ!」
先に島に行っていたアダム達と合流した三人は、アナベルをリュエラの前まで案内すると、少ししか離れていないのに緊張の面持ちがこちらにも伝わってきそうな気配にアナベルが身構えた。
「お母さま、話があります」
「アナベル…私もあなたに打ち明けなければならないことがあります」
互いを前にして話し合いをしようとしているのだが、いかんせん緊張しているようでなかなか言葉が出てこない。ケイ達がその様子を固唾を呑んで見守るなか、少し経ってから先に話を切り出したのはリュエラだった。
「アナベル…私はあなたにずっと黙っていたことがあります」
「…お母様?」
リュエラはそこまで口にすると、これから話す内容によって、疑問を浮かべているアナベルの表情が激変することを予測できるからこそ、本当に告げてよいのか躊躇している様子を見せる。
ここでごまかしてしまえば彼女は何も知らず、これからもこの島で過ごすことができるだろう。だが本当にそれでいいのか?とリュエラの葛藤する様子にケイ達は、本当に大丈夫なのだろうかと不安を募らせる。
「アナベル…今まで黙っていて申し訳ないと思っているわ。でもあなたの事を考えると、どうしても言い出せなかったの」
「お母様?一体何を言っているのですか?」
「よく聞いて頂戴………あなたは、私の本当の“娘”ではないのです」
想定外のリュエラの言葉に意味を一瞬飲み込めないのか、アナベルは疑問の表情をしたが、その数秒語に母親の言っている意味が理解できたようで驚愕の表情へと変わる。
その証拠に言葉にならないほどの衝撃だったせいで口をパクパクとさせると、ようやくの思いで「……えっ?」と聞き返すことで精一杯だった。
「お母様、何を冗だ「いいえ…あなたは過去に存在していた精霊とビェールィ人の子供が合わさった存在なの。二人を助けるためには、この方法しかなかったの……本当に、ごめんなさい………」
アナベルを前にして、毅然とした立ち振る舞いで真実を告げたリュエラだったが、その途中で言葉に詰まったのか、両手を娘の肩に乗せるとやっとの思いで自分の言葉を告げ、その場に崩れ落ちる様に膝をついた。
またケイ達の位置からはリュエラの表情は窺うことは出来ないが、声の調子からすると泣いているのだろうと察した。
一方で真実を告げられたアナベルは、目の前で謝罪の言葉を口にする自身の母の姿に理解と拒絶が入り混じったような感情が渦巻きながらも、その様子を呆然と見つめることしかできなかった。
真実を告げたリュエラとその意味を理解すると共に思考が止まってしまうアナベル。
果たして、この結果の行方はどうなるのでしょう?
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