327、小さな疑問
皆さんこんばんは。
夜分遅くの更新です。
さて今回は、魔道船に一時的にお世話になっているアナベルとケイ達の視点を交えた回です。
ダット達がアナベルと再会した際、イベールが何気なく口にした推測はあながち間違いではなく、時はシンシアとレイブンがアナベルを連れて出掛けた後まで遡る。
「あ゛~しんど!」
なんで朝っぱから女同士の修羅場の仲裁をしなきゃいけないんだよぉ~と、声を大にしながら、ケイがダイニングの椅子に腰を掛けテーブルに突っ伏した。
再会したアナベルとダビアだが、どうも二人の仲が悪い。
というのもアナベルが一方的にダビアに突っかかっているわけで、ダビアの方はそれをものともせず、のらりくらりと躱している。
まるで大人と子供の喧嘩(実際にはそうなのだが、ここでは割愛する)で、とりあえず総員で二人を引き離し、シンシアとレイブンが強引にアナベルを連れ出したことで強制的に収束させた。
「なんであんなに突っかかるかな~」
「よっぽどのことがないと、あそこまでにはならないよ。セディルさんはダビアさんから何か聞いてますか?」
アダムがダビアの事でセディルに話を振ると、彼は首を横に振り、少し困った様子で自分は何も聞いてないと答える。
「ダビアは元々あまり自分の事を話さないからな。あ、でも・・・」
セディルから気になることがあると言葉を続けた。
それはほんの些細なことなのだが、ケイ達と出会った後から、二人で里を出て各地を巡り歩いた時に時々あることを感じたと述べる。
「俺が見る限りでは、ダビアは“エルフ族そのものを嫌っている”様子はなかった気がする」
「エルフを嫌ってない?」
「俺の思い違いかもしれないが、ケイと一緒にダビアを召喚した時、里のエルフ達をかなり嫌悪していた様子があっただろ?でも今考えると、わざと距離を置いているように装ってたんじゃないかって・・・」
セディルの話の合間に同じ空間にいるダビアの方をチラリと見やると、彼女は彼女で足元にやって来たブルノワと少佐を構っているようで、三人の話は聞いていない様子だった。
もちろんダビア本人にその理由を聞いてもいいが、ド直球に答えてくれるかなんて分からない。そのためケイは、彼女の様子を気にしつつも、自分の中にある一つの疑問に注目した。
「そういや精霊や妖精って、永住するっていう概念ってあるのか?」
「永住?」
「いや、だってさー、精霊族はアグダル人の手から逃れるためにアスル・カディーム人の協力で島に渡ったって聞いたけど、生まれたばかりの妖精っていろんなところにいるとなると、その都度保護して島に連れて行くっておかしくないか?それとも精霊族特有の能力の類いみたいなもので対応しているってことか?」
「そういえば、たしかに俺も冒険者に成り立ての頃に顔見知りのエルフ族の奴から妖精や精霊は気まぐれで、永住するっていうのは聞いたことがない」
最初にドゥフ・ウミュールシフに渡った際、たしかにリュエラからその経緯を聞いたことを思い返す。
しかし改めて考えてみると、本来精霊というものは人を含めた他種族からは精霊の類いが見えないはずだが、現に精霊族は他種族の手が届かない場所に移っている。
長年冒険者をしているアダムでさえも、妖精は気まぐれで一定の住居を持っていないとエルフ族である当人から聞いたのだから、実は精霊族が島に移った理由は別にあるのではと考える。
それにあの時は知る術がなかったのでそういうものかと聞いていたのだが、今はわずかではあるかその理由を知る手はある。
「俺らで考えても仕方ないな」
「何の話だ?」
「精霊族がドゥフ・ウミュールシフに渡った本当の理由は別にある」
「はぁ?ケイ、お前何を言ってるんだ?」
「精霊や妖精は一部を除きその姿を見ることができない。なら、なぜ精霊族は島に移ったのか。もしかしたらアイツらなら教えてくれるかもな~」
ケイはアダムとセディルにその辺りについて、ある人物達に聞いてみようと提案をしたのだった。
時は今に戻り、アナベルは先ほどの船員と別れてとある場所へと向かっていた。
その道中の案内は、その時船員と一緒に居た妖精達で『コッチ!コッチ!』と、まるで手招きをしているような様子でアナベルの周りを飛びながら先導している。
甲板から客室に続く階段を下り、アナベルが使用する客室を通り過ぎてから、複雑な船内をものともせず、いくつかの角を曲がった後にとある部屋の前で立ち止まった。
その部屋は換気のために扉が少しだけ開いており、先導していた妖精達はいつものことなのか、アナベルが止める前に扉の隙間から中へと入ってしまった。
「おや?何か用かい?」
妖精達と入れ違いに一人の男性が扉の間から顔を出した。
金髪の長い髪を結わき白衣を身に纏っている男性は、キョトンとした様子で目線の下にいるアナベルを見つめている。
アナベルは、種族特有の長い耳を持つその男性に一瞬たじろぎながらも「バギラさんですか?」と問いかけた。
「あの・・・さっき甲板で船員の男性から貴方のことを聞いてやって来ました」
「あ、あぁ~。もしかしてさっき入って来たきた子達(妖精)に連れられてやって来たんだね。ということは、君がアナベルかい?」
首を縦に振ったアナベルに中へどうぞと手で指し示すと、彼女はおずおずと中へと入って行った。
なぜアナベルがバギラの元へとやって来たのか?
それには先ほど出会った船員との会話で、アナベルが呟いたある話から始まる。
彼女は自分が生まれてから長い間、島以外の場所へ行ったことはなく、島に居る妖精や精霊達は自分の事を嫌っている雰囲気をヒシヒシと感じながら過ごしていた。
その発端は、世界大戦時にアナベルの父が死亡した直後に自身が生まれたことにより“忌み嫌われた存在”と認識されていたからである。
結論としては本当に偶然なわけなのだが、アナベルが生まれる前から存在している精霊達は彼女のことをよく思っておらず、むしろ蔑ろにしているとまではいかないが、あまり快く思っていないようで接触も最低限のことが多かった。
ある時から精霊と契約をすれば仲良くしてくれると思い何度も試してみたのだが、最初の一回だけ反応があっただけで後は失敗の連続だった。
実はこれもケイ達の指摘ですでに最初の契約の段階で完了していたが、その契約していた風の精霊はアナベルのことを怖がり、姿を現すこともなく隠れていた。
その後もその風の精霊は姿を見せては隠れるを繰り返し、アナベル自身なかなか距離が縮まらないことに焦りともどかしさを感じている。
「それならバギラさんに相談してみたらどう?」
そんな悩みを口にしたアナベルに先ほど話しかけたエルフの男性船員から提案を受け、戸惑いながらもなぜ?と返す。
彼曰く、バギラという人物は船医でありながらいろんなことに精通しており、自身も過去に同じような悩みを持っていたようだと語る。
また船医であるバギラという男性は、それ以前に軍に所属していたり放浪していたりと波瀾万丈な人生を送っていたようだと男性船員が言うや、彼の周りを飛び回っていた妖精達が『案内してあげる!』とアナベルを誘おうとしている。
「君が悩むなら行ってみればいい。何か分かるかもしれないし分からないかもしれないけど・・・」と、語りかける男性船員に背中を押される形で今に至る。
室内に通されたアナベルは、バギラと対面するようにソファーに腰を下ろすと、先ほどの男性船員とのやりとりを彼に話した。
バギラは窓際に置かれた小さな棚から二人分のカップを取り出し、予め用意していたのであろう紅茶を注いでいるのだが、その間話をしている彼女の表情は、緊張と恐怖と不安が入り混じったような様子を見せる。
また彼女を案内した妖精達は、バギラに『カノジョが困っている』というような言葉を口々に言い、その話を要約すると、以前船で同行したドゥフ・ウミュールシフで起こった後にもアナベルの葛藤があったように感じる。
「・・・君は島に住む精霊達と仲良くなりたいけど、距離を縮められず契約した精霊とも仲がよくならないことに悩んでいる、ってことかな?」
はい。と頷いたアナベルにバギラは一瞬何か妙な違和感を感じた。
アナベルに島に住む精霊や妖精達はずっと島に居るのかと尋ねると、彼らは族長を務めている母親の言うことは聞くが、自分は蔑ろにされているような居心地の悪さを感じると述べる。
「僕が思うに、本来精霊や妖精は特定の住み家はないはずなんだ」
「えっ・・・?」
「そもそも君の島に居る精霊たちは誰かと契約をしているとかはないかい?」
「い、いいえ」
「実は精霊や妖精が一ヶ所に留まるという行動は、契約している人物がいるかどうかだ。どう伝えたらいいのかな?精霊たちが留まるという行為は、何かを護るとか何かのために共存をする、と言った方が近いかな」
バギラの話によると、精霊や妖精は魔素の影響やその気流に乗って各地を循環するように移動するのが一般的な行動だと言われている。
これはあまり世間には知られていないが、精霊や妖精という者達は相手とのフィーリングが合わないと留まることが出来ずに去ってしまうということが珍しくないのだという。要するに放浪者と変わりがないと思ってくれてもいい。
自由奔放が故にその中で独自のコミュニティーを形成し、彼らは彼らで独自の文化を発展させているということになるだろう。
話を聞いたアナベルは、何かを考えるかのように俯き、目線を左右に動かしてからハッと顔を上げた。
対面に座っているバギラは、そんなカノジョの様子に何か心当たりがあったのではと推測する。またアナベルと直接会話を交わすのは今日が初めてで、以前ダットから話を聞いた話と総合すると、精霊達との関わり方も実は予め決められていたのかもしれないと、そんな推測を思い浮かべる。
それはバギラの勝手な推測でしかないが、アナベルが疑問に向かい合った時に本当の事を知った彼女が自分の中で消化できるか、はたまたその問題は彼女をより一層悩ませるのではと不安を抱いていた。
「私、もう一度お母様と話してみるわ」
「うん・・・その方が良いのかもしれない。でも君がもっと悩むかもしれないよ?」
「本当の事を知らないまま居心地の悪い場所に居たくないもの!もしそうなったらまた考えるわ!」
立ち上がったアナベルの様子に「また何かあったら話は聞くから」と伝えると、退出するために扉を開けた彼女がこちらを振り返り、ありがとうと声を掛けてからその場をあとにした。
バギラは、少し時間が経ち冷め始めた紅茶を口に付けるや本当に大丈夫なのだろうかと不安を拭えずにいたのだった。
精霊族に疑問を抱いたケイ達は、とある人物を頼ろうと考えます。
また同じ時期にアナベルもバギラから精霊達に関する事を聞き、リュエラに尋ねようと行動を起こします。
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