324、母の心ところにより娘の行動
皆さんこんばんは。
多忙により更新が遅れて申し訳ありません。
ドゥフ・ウミュールシフ編の続きからどうぞ!
「痛ってぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
まさかゲートを開けてものの数秒で、なにかに激突することなど想定していなかったケイは、わけがわからないままその痛さに悶絶していた。
またその直前に、ものすごい勢いでケイの脇をなにかの物体が集団で通り過ぎ、後方にいた面々が驚きの声を上げているが、衝突が尾を引いているのかケイにはそれを目することができない。
「待ちなさい!アナベル!!」
続いて蹲っているケイの前方から誰かを制止する声が聞こえたのだが、サーチを使わなくても誰かがこちらに向かってくる気配を察し、痛みに悶絶しながらも片手を前方に突き出すや拘束魔法を打ち込んだ。
「【バインド】!」
「きゃっ!」
おそらく衝突寸前だったのだろう、ケイの数メートル手前で向かってきた人物が拘束魔法によりダイブする形で地面に倒れ込んだ音が聞こえる。
「ケイ!大丈夫!?」
「これが大丈夫に見えるか?マジで痛ぇ~」
駆け寄ったシンシアに顔を向け、血とか出てないかと聞くと鼻が少し赤くなっていると言われ、ピンポイントで鼻の下に当たったのか、そこだけジンジンと痛みを感じる。
いくらアレサの寵愛があろうとも人間としての五感は健全で、直撃したときの痛みは涙が出そうなほどだったと、声を大にして言いたい気持ちになった。
「アナベル!いい加減に・・・って、ケイさんとシンシアさんじゃないですか!?」
悶絶しているケイの元に、先ほど制止の声を上げた人物が遅れて駆けつける。
その人物は精霊族の長・リュエラで、突如ケイ達が現れたと同時にゲートの存在に気づき、驚いて立ち止まる。
彼女の目線は、最初にケイとシンシアを向き、次に拘束魔法の影響で地面に藻掻いている娘のアナベル、それからケイの後方にいるダビアとセディルへと一連の流れのように動かした。
突然の状況に理解できず反応が遅くなったリュエラは、ハッと我に返ってからケイに拘束魔法を解くようにと頼んだ。
「・・・というか、またこいつ(アナベル)がなにかやらかしたのか?」
暫くしてから顔の痛みが引いたケイは、先ほどの制止の理由をリュエラに訪ねた。
リュエラの表情は、どちらかというと悩んでいるというよりも家族の失敗が少し恥ずかしような、そんな様子が窺えた。
聞いては不味かったのか、言いたくないなら・・・とケイから制止の言葉を口にするや、今度はリュエラの隣にいる拘束を解かれたアナベルが、噛みつくようにこんな言葉を吐いた。
「ねぇ!なんでダビアがここにいるの!?それに、隣に居る人って“アグダル人”よね!?なんでそいつと一緒に居るのよ!?」
「アナベル!止めなさい!」
以前リュエラから、アグダル人が精霊を乱獲したせいで数が減少した話を思い出したケイは、アナベルがダビアとセディルに掴みかかろうとしていたので、瞬時にその間に割って入った。
「アナベル、ちょっとタンマ!今日はちょっと用事があって来たんだ」
「そこを退いて!あなたには聞いてないわ!」
突っかかるアナベルは、ケイを見ていないようで後方のダビアとセディルに向けられている。
父親が死んだ要因のひとつがエルフ族の祖先であるアグダル人のせいで、という個人的な解釈で憎んでいるのだろう。幼い少女の表情は怒りしか見えず、まるで鬼気迫るのような形相に近く、至近距離にいるケイはたじろぎたい気持ちに駆られる。
「・・・・・・【スリープ】」
収集がつかなくなったと判断したリュエラが、娘に対して眠りを誘う魔法を施す。
電池の切れたおもちゃのようにその場で眠りこけたアナベルに、間に割って入ったケイは、ここでホッと息をついた。
「リュエラ、一体なにがあったんだ?」
「お恥ずかしい話ですが・・・・・・単なる八つ当たりです」
えっ?とケイ達が首を傾げたのは正解な反応だった。
要は、妖精達をまとめるために試行錯誤をしていたようだが上手く行かず、モメている最中にケイ達が入ってきたから八つ当たりしたということらしい。
アナベルは人間で言うところの成人(十五才)ぐらいの見た目なのだが、リュエラ曰くまだまだ幼いところもあり、特に感情のコントロールがあまりうまくない。
将来的には、自分の娘に精霊族をまとめてほしいという願望もあったようだが、一連の出来事を見るに、まだ先かな~というような親目線の不安もチラリと感じる。
「実は以前ケイさん達がこの島を訪れた後から、将来的に娘には精霊達をまとめてほしいと話し合いました」
「既に精霊と契約しているから、先を見据えて・・・ってこと?」
「はい。・・・ですが、元々精霊とあまり仲良くない、というよりも今までの事があってから精霊との溝が深くなっている気がしまして、まずは互いに慣れるところから始めてはみたのですが、我儘な部分があるのか手を焼いている次第です」
ケイ達が島を去った後、精霊や妖精から今までのアナベルの所行を聞いたリュエラは、当然かなり動揺し落ち込んだ。
彼女も娘に甘えていた部分があったようで、母娘として和解はすれど、精霊・妖精イコール和解ではないことから、今までの事を反省し、再三アナベルと話し合ったのだという。
しかし、彼女の性格が直ぐに変わるかというとそれはまた別の話で、ダビアにアナベルは元々ああいう性格なのかと耳打ちで尋ねると、自分の知る限り、やはり生まれ育った状況と周りの心ない言葉や反応が要因でもあったのではとされる。
要は、精霊族の忌み子としての認識から完全に脱却できず、ましてやアナベルにきょうだい等がいないことも相まって、少し我儘で捻くれた部分が形成されている可能性があるというわけである。
「そういえばダビアは、アナベルと仲はよかったのか?年が・・・というよりも見た目的に近い感じがしたけど?」
「私とアナベルが?王さま、冗談はよしてください。第一、私は“リュエラより年上”ですよ?」
・・・・・・・・・・・・えっ???
ダビアの言葉にケイとシンシア・セディルは、驚きのあまり思考を停止させた。
どう見ても、ダビアとアナベルは同じぐらいの年の子にしか見えないのだが、自分たちの聞き間違いかと思い、再度確認をしようとした時にリュエラから、たしかにダビアは私より年上だと証言する。
「ダビアは、先代の長である私の夫の二代前の長の娘です。私が夫と一緒になる際に立ち会ってくれましたから。それに私も彼女には随分助けて貰いました」
「見た目の感覚バグるんだけど、それならなんでダビアは長の座にいないんだ?」
ケイの問いに、ダビアは「ただタイミングがなかった」と答える。
長を務めていたダビアの父は、世界大戦の少し前に元から親交があったリュエラの夫の父、アナベルからすれば祖父にあたる人物にその座を譲り引退した。
精霊は元々自由奔放な気質の者が多いため、その延長線上というわけなのだろう。自分はサッサと座を譲ると、当時の精霊族の群から脱し、いずこかへと去ってしまったのだという。
ダビアにとって父親であった人物は唯一の肉親だったのだが、元々の性格からか反面教師としている部分があるようで、早くから独り立ちしようとかなり努力していたのだという。
リュエラもそんな彼女を見ていたこともあってか、少し会わない内に逞しくなったような嬉しくもあり寂しくもある思いを抱く。
「そういえば、ケイさん達はなぜこちらに?」
ここでリュエラからケイ達がなぜこの島に来たのか、それに後ろのゲートの事を尋ねられる。
ケイは拠点としている屋敷の庭で、生まれたばかりの妖精を保護したので面倒を見てほしい事を伝える。
またダビアから聞いた世話をする妖精や精霊の姿がなかったことから、自分たちの手より専門であり同種であるリュエラ達に相談した方がいいのではと考え、今に至ることを説明した。
リュエラはケイ達の願いを承諾し、カゴに入れられた妖精達を引き取った。
「ところで、アナベルの方はどうするんだ?」
自分たちの用事は済んだが、肝心のアナベルのことはどうするんだと聞き返す。
あのままでは我儘街道まっしぐらで、とてもじゃないが将来的に長が務まるのかと考えると無理な気がした。
リュエラも色々と手を尽くしたが、これ以上無理かも・・・と頬に手を当て、万策が尽きた様子で困り果てている様子をみせる。
「王さま、正直アナベルに長になる修行や特訓は無理だと思うの」
「お前結構ズバッ!って言うな・・・で、どうすればいいんだ?」
「私もご主人様といろんなところを回って色々と知ることができたから、アナベルにもお手本となる人物が居ればいいんだけど、だれか心当たりある?」
「ということは、師匠みたいな人物が必要って事か~」
アナベルにあれこれ言っても無駄だと、一刀両断したダビアからだったら手本となる人物の傍で行動を見せたらどうかと提案される。
彼女の性格を熟知して、尚且つ行動で示せる人物となると・・・と考えた時、ケイにはある人物が頭に浮かんだ。
「ケイ、もしかしたら同じ事を考えているのかしら?」
シンシアに尋ねられ、自分たちより適任者だろ?と返すといつも港に居るわけじゃないでしょ?と返される。
「だれか心当たりある人はいるのか?」
「魔道船のダット達だ。あいつらも俺らと一緒に船で各地の島を巡ってたから、その時に精霊たちと契約したから、もしかしてと思ってな」
セディルは過去に魔道船に乗ったことがあるようだが、彼らが精霊や妖精が人間と契約を結んでいたなんてと驚いた様子を見せる。
しかし彼の隣に居るダビアは特に驚きもせず、むしろ好意や嫌悪などの表情がなかったことから、ケイはその様子に少し疑問を抱いた。
またリュエラに、大陸の方でいつも通り精霊や妖精達と共に暮らしているダット達に相談してもいいかと打診すると、彼らにも生活があると一瞬躊躇していたが、背に腹はかえられないと、ケイの提案を了承した。
「おーい!誰か居ないか!?」
屋敷の方からアダムの声が聞こえた。
ゲートの境界線にいたケイ達が顔を覗かせると、出先から戻ってきたアダムとレイブンが見たこともない光りに囲まれ、まるで物理的に表現された菩薩の後方の光りのような神々しい状態に見舞われている。
リュエラがあっ!と声を上げ、アナベルが追いかけ回されていた妖精達が二人にしがみついていると慌て、ケイ達は二人にしがみついている妖精達をなんとか引き離そうと悪戦苦闘することになった。
精霊族の長を務めるリュエラからアナベルの件で困っていることを知ったケイ達は、精霊や妖精達と暮らしているダット達に相談してみることにしました。
果たしてアナベルの捻くれた性格&態度(失礼!)は、なんとかなるのでしょうか?
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