320、教えて!パーシア先生!
皆さんこんばんは。
いつもご高覧くださりありがとうございます。
さて今回はパーシアに会おうと屋敷に戻ったケイ達のお話です。
ゲートを経由して屋敷へ戻ると、エントランスの一角で花の手入れしていたローゼンを見かけた。
丁度花瓶に生けていた花を交換していたところだったようで、戻って来たケイに気づき振り返ると、その後方に居る見知らぬ四人の姿に思わず驚き手を止める。
なにせ、彼らはローゼンよりも頭数個分ほどの背丈があり、特にマードゥックとギエルは種族の関係上、体格も相まってか威圧感が尋常じゃない。
「ケイさん・・・・・・この方達は?」
「後ろの四人は獣族の長達と人魚族の長達だ。訳あって連れてきたんだが、パーシアはいるか?」
「パーシアですか?」
疑問を浮かべながら四人を気にするようにチラリと見やるローゼンに、食べもののことについてパーシアに聞きたいことがあると述べると、そういえば~と思い出したかの様に答える。
「彼女でしたら、ケイさんの少し後に店に行ってくるとお出掛けになりました」
「店?今日は【定休日】じゃなかったのか?」
「明日のために下ごしらえをしたいとのことでしたので、もうすぐ戻られるかと」
現在パーシアは、屋敷の仕事の他にも自分の店を構えている。
労働環境は他の店とは異なり、週に一度の定休日を設けていると言っていたことを聞いた覚えがある。
従業員も二名しか雇っていないようだが想定以上に繁盛しているようで、もう少し落ち着いたら人員を増やしたいと言っていた。
また人数が少ない分パーシアのやることも多いようで、たまに店で寝泊まりをしていることから、ケイをはじめとした他の面々もその辺りをかなり気にしている。
多忙なパーシアにこんなことを聞くのもどうかと思ったが、いくら鑑定を持っているケイでも専門的なこととなれば話は別で、ここはやっぱりスペシャリストに聞くのが手っ取り早いと、心の中でこの場にいない彼女に謝罪する。
「ローゼン、俺達はダイニングの方に居るから、悪いがパーシアが戻って来たらこっちに来るように言ってくれ」
「はい、承知しました」
未だしっかり受け答えをするローゼンに戸惑いの様子はあるものの、パーシアに戻ったら来てくれと伝え、ケイは四人を連れてダイニングの方へと足を向けた。
「じゃあ、袋をここに置いてくれ」
「『わかりました』」
ダイニングルームにやって来たケイ達は、早速食材を詳しく確認するため、ギエルとバメットに持参した麻袋をテーブルに置くようにと示した。
二人が袋を置くと、重量があるのか重みのある音と少しの振動がテーブルに響き、縛ってある袋の口の隙間から食材が少しだけはみ出ている。
恐らくケイが食に詳しい人のことを知っていると口にした段階で、彼らの好奇心も相まったのだろう。特にギエルに至ってはマードゥックが野菜嫌いなこともあり、この際だから克服して貰おうという意思が露骨に見える気がする。
その証拠に隣にいるマードゥックの顔色が心なしか青く感じたが、少しの間我慢してもらおう。
「あ、そうだ!四人にこれをやるからつけてくれねぇか?」
『ん?これは?』
「腕輪型の翻訳機だ。ここはジュランジとルバーリアの言語とは違うから、言葉が分からなければ話にならねぇだろ?」
『そういえばケイさんの言葉は分かりましたが、さきほどの方の言葉はわかりませんでしたし、私も直接食の専門家に聞いてみたいこともあります』
ケイ達が初めてジュランジとルバーリアを訪れた際、既に桜紅蘭とダインを経由していたため言葉の違和感を感じなかったが、改めて考えてみると普通は言葉が通じないものだよな~と腕輪を装着する四人の姿にそんな思いを巡らせる。
「なぁ~さっき少し確認したけど、袋の中身を見ていいか?」
「はい!是非我々の自慢の食材を確認ください!」
胸を張るギエルだったが、出発前に少しだけ確認した食材は、やはり一部見たこともないものが入っていたため、まず調理してなんとかなるものだろうかと疑問が浮かぶ。
また失礼な話だとは思うが、食材として人が食していいものかどうかも判断がつかず、ケイが四人には内緒で密かに鑑定を試みたものの、一応は食材らしいのだが、苦い!渋い!生はオススメしない!最悪調理すれば何とかなる、といった不安を煽るような結果に(コレ、本当に調理出来るのか?)と内心戸惑う。
特に臭いのキツい生姜の形をした食材は、はじめに手に取った時より異様な臭いが袋の中に充満している気がして、隣でワクワクしながら目を輝かせているギエルに悟られないよう、内緒で近くの窓を開け換気をしたのは言うまでもなかった。
それから数分経っただろうか、ケイが獣族と人魚族から提供された食材を見ていると、エントランスの方から扉の開閉音に続いて、こちらに向かう足音が聞こえた。
「ケイさん、ただいま戻りました!」
戻って来たのかと思い、手にした食材をテーブルに置いたところでダイニングルームの扉が開き、なぜか急いで戻って来たようなパーシアの姿が見えた。
「あ、おかえり~」
「もしかしてかなり待たせてしまいましたか?」
「えっ?そうでもないけど?」
もしかして急がせた?というケイの問いに、パーシアは首を横に振る。
どうやら門扉のところで買い出しのため出掛けようとしたローゼンと入れ違いになり、そこでケイが自分の事を探していたと聞き、ダッシュで戻って来たという。
ここでパーシアがケイ以外の人が居ることに気づき辺りを確認すると、見覚えのない四人の姿が目に入る。それ以前に彼女はこの状況に理解が追いつかず、目を丸くし唖然とした様子で見つめ返す。
「あ~実はパーシアに協力して貰いたいことがあってさ~」
妙な間に耐えきれなくなったケイが連れてきた四人の紹介と事の経緯をパーシアに伝えたところ、そうですかと返した彼女の目がテーブルの上に持参したジュランジの野菜とルバーリアの魚(氷付け)を見つめている。
「あの、ここにある食材は我々が普段口にしている物でして、ケイさんから専門家である貴女のことを伺い、是非助言をして頂きたいのですが・・・!」
「えっ?あ、はい!あの・・・少し食材を拝見したいのですが・・・」
「あ!こ、これは失礼しました!!」
ギエルが歓喜余ったのか、はたまた反射的な行動かはわからないがパーシアの手を握り、力説しているところで彼女からの指摘によりハッと気づき手を離す。
普段見られない慌てふためきようにケイは笑いを堪えているが、一方のパーシアの意識は既に食材に向けられている。
ギエルの了解を得たパーシアがその中の食材を一つ手に取ると、入念に確認しては空いているスペースに置き、別の食材を手にしては今度は隣の空いているスペースに置く作業に入る。
その作業をよく見てみると食材を左右に振り分けているようで、職人の目つきになったパーシアの作業は、ものの数分で持参してきた野菜全てを振り分けた。
それにどんな意味があるのかはわからないが、次に魚が入っている麻袋を開け確認するや、なるほどと頷き、魚を持参してきたバメットに何かを確認しては「これは珍しいですね~」と呟く。
「パーシア、食材を見てわかるもんなのか?」
「はい。こちらにある食材のほとんどは形は若干違いますが、一般的に流通している食材と大きな違いはありません」
「えっ?そんなことわかるのか!?」
「全部ではないんですけど、例えばこの紫色の食材は【イゴ】でキャベツ大のゴツゴツした表面の食材は【サボテン】だと思われます」
パーシアの指摘に鑑定なしでもそこまでわかるのか!?とケイが面を食らう。
彼女の話によると、イゴという食材は日本で言うイチジクに近い食べ物で、実際にこの大陸にも流通している食材だという。
原産は主にダナンで、本来はもう少し赤みの強い赤紫色なのだが、この色と形は収穫が早いことを意味するらしい。
またキャベツ大のサボテンだが、ケイがジュランジではカクトスと呼ばれていると言うと、その呼び名はマライダや港町ヴィリロスではそう言われているらしく、発祥がジュランジだということにパーシアが驚く。
「あとさ、凄い臭いのキツい食材があるんだけど、これもこっちにある食材か?」
生姜の形をした臭いのキツい食材を指さすと、やっぱりそんな顔になりますよね~となんとも言えない顔でパーシアが答える。
「そちらの食材は【エリャ】ですね」
「エリャ?」
「ルフ島産の食材の一つで、オリーブの元のひとつと言われてます」
「えっ!?これ、オリーブの一種なのか?てっきりオリーブっていったら丸っこい木の実がなってるアレだと思うんだけど?」
「ルフ島の気候は他の大陸と異なりますから、魔素の影響も相まって形が歪になっているのではないかと。それにルフ島のオリーブは、食用油の使い方より実を乾燥させたものを袋に詰めて、防虫剤や魔物よけに使われたりすることが一般的だったりします。もちろん食用油としても使われたりしますが、臭いが特徴的なので自然と使用する目的が変わってきてしまっているのが現状になります」
現にこちらの大陸でいうオリーブの一種であるエリャは、やはり獣族からしても嫌悪される食材の一つのようで、特に嗅覚の鋭い犬種などは見るのもイヤ!と言う話も聞く。この場にいるブルノワと少佐も、それに近づきたくないとダイニングの端からこちらの様子を伺っているのでそういうことかと納得する。
「まぁ~窓開けても結構臭うもんな~でも、なんで食材を分けているんだ?」
「右側に分けた食材は一応全て口にできるものなのですが、一部ハーブや薬草が入っていました。それと、左側に分けている食材は全て収穫が早い物になります。これは私の意見なんですけど、もしかしたら種族の特性が関連しているのかもしれません」
「種族の特性?」
「どう答えて良いのかわからないんですけど、獣人族の中には本来収穫する時期より早く野菜や果物を収穫することがあるんです。彼らは他の種族と異なって、普段私たちが口にしている食材によって味覚異常を引き起こすことがあるので、それを解消するために幼少の頃から食べ物に適応できるように、わざと熟成する前の野菜や果物を収穫して食べ慣れさせることを行っているようです」
パーシアが言うには、獣人族の味覚は他の種族と違い感じ方が違うのだという。
アレルギーや動物が食すに適さないといった類いの話ではないのだが、獣人族は嗅覚に優れている者が多い反面、味覚に関しては渋い・甘い・酸っぱいなどという人からしたら当たり前の感覚を正しく認識することが難しいことがあるとのこと。
現に獣人族の料理人というのは数が少なく、ルフ島以外で料理人として通用したいのであれば、100人目指してなれるのは一人か二人と高難易度にあたる。
また彼女の店の従業員の一人が獣人族で、彼の話では、獣人族が料理人になるには幼少の頃から味を正確に判別できなければまず無理だと語る。
そう考えると、同じ獣人族であるマカドもかなりの努力をしていたことになる。
「獣人族の特性と非常に近いので、もしかしたらジュランジに住む方々も同じような体質?と言っていいのかわかりませんが、その可能性はあるかと」
「でも、マードゥックは野菜が苦いから嫌だって言ってたよな?」
「あぁ。グドラ達はあの苦いのを食しているようだが、俺はあれを食いたくない」
あからさまに顔を青ざめさせるマードゥックに、彼の後ろに控えていたギエルが苦い顔を浮かべる。グドラとバメットは二人の様子に疑問を浮かべていたのだが、その様子を見ていたパーシアが何かに気づきケイにある提案をする。
「ケイさん、この方達にお願いをしたいのですがいいでしょうか?」
パーシアから確認してみたいことがあると告げられたケイは、話の続きを聞く前に疑問を浮かべている四人に了解を得ようと彼らの方を見やった。
パーシアから獣人族のことを聞いたケイは、彼女から四人に対してあることをお願いしたいと頼まれる。果たしてパーシアが四人に対して確認したいこととは?
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