31、魔道航海士ダット
久々のあの男の登場です。
たくましくなって帰ってきた?
「ケイ!」
その日、依頼の報告を終えた六人は、宿屋に向かおうとしていたところ呼び止められた。
振り向くと、日に焼けた筋肉質の肌に、頭に青いバンダナを巻いている男が立っていた。
「誰?」
「俺だよ、俺!」
「めっちゃ筋肉質で、海の男っぽい人は見かけたことないけど?」
「何言ってんだよ。俺だよ!ダットだよ!」
「ダット・・・はぁ!?お前か!??」
そうそうと頷くダットに、ケイ達は驚きの表情をした。
ダットとは、クラーケン討伐の時に船を任せた男で、一月ぶりの再会になる。
「なんか、だいぶ変わったな」
「一月の間にいろんなところを回ってたからな」
以前の彼は、クラーケンせいで漁船が大破しその影響でやさぐれていたが、今はThe・海の男という雰囲気がヒシヒシと伝わる。
態度にも若干貫禄がついてきたようだ。
「というか別人じゃない!?」
「まぁ、ケイのおかげでかみさんとヨリを戻したわけだし、ついて来てくれる野郎共もできたからな。恩人に下手な姿は見せられねぇよ」
目とパチパチとさせているシンシアに、にかっと笑うダット。
「ところでケイ達は、メシは済んだのか?」
「いや。今依頼の報告が済んだばかりだからこれからだ」
「それなら、俺が奢るぜ!」
何でも仕事でまとまったお金が入ったので、ちゃんとしたお礼もかねて奢りたいと言った。
町の一角にある酒場兼料理屋に入る。
積もる話もあるため、奥の個室に通される。
料理を適当に見繕い店員に伝えると、料理が来るまでの間、互いに近状を報告することにした。
「そういえば、そのお二人さんは?」
ダットがアレグロとタレナを示し、ケイが少し前に入った仲間だと説明をする。
「私はアレグロ」
「妹のタレナと申します」
「俺はダットだ。ケイには随分世話になっちまってな、こいつが居なかったら今の俺は居ねぇ」
ダットはここ一月で、【魔道航海士】と呼ばれる様になっていた。
見たこともない船で航海し、自分に厳しく他人に優しいと評判になっており、人気者になっている。
ここで注文していた果汁酒などが運ばれてくる。
飲み物が行き渡ったタイミングで再会を祝して乾杯を行う。
「乾杯!」
ジョッキやコップを合わせた後、それぞれ飲み物を口にする。
「かー!やっぱり航海の後はエールに限るな!」
口についたアワを拭いダットが息をつく。
「そういや、ダットって奥さんいたんだな」
「あー。俺が不甲斐ないばかりに一度出てっちまってよ~。いろいろと回ってるうちにかみさんに会ってやり直そうってことになったんだ」
「さすがケイ様ね!人を救うなんてなかなか出来ないもの!」
「そうさ!俺は一生ケイには頭が上がらねぇ!こいつはすげぇやつなんだ!」
なぜかダットとアレグロが意気投合している。端から見ると尊敬を通り越して、陶酔している様に見えなくもない。
ほどなくしてテーブルに料理が運ばれてくる。
肉や魚や野菜など、これでもかというほどの量である。
「ケイ達はどこか行ってたのか?」
「俺たちはエストアやマライダとか、あと『幻のダンジョン』にも行ったな」
「なっ!『幻のダンジョン』って年に一度のあのダンジョンか!?」
「そうそう」
「中はどうなっていたんだ?」
「どうって、広大な森と地面から地下の湖に落下したり、建物内にあった石像に追いかけ回されたりと結構ハードだった」
その説明に、ダットとアレグロとタレナが首を傾げる。頭にハテナでも出ているようにも見える。
「確かにあれは、体験しないとわからないな」と、アダムが続く。
「見えない床を歩くなんて、人生で初めてだったわ」
「それに、壁が全て青く光っていたなんて想像もつかなかった」
シンシアは今でもその時のことを思い出すと身震いし、レイブンは不思議だったと頷く。
「じゃあダンジョンが攻略された噂って」
「俺たちのことだな」
「ははっ!すげぇじゃねぇか!じゃあお宝とか見つかったのか?」
ダットがそう問うと、一瞬ケイは言っていいものかと思案したが「他の奴には内緒で」と前置きをしてから、掻い摘まんで説明をした。
その際に女神像とペンダントの話をすると、アレグロとタレナが反応をした。
「話に出ていたペンダントがそれなんですか?」
「あぁ」
「それって、どこかで見たような気がするんだけど・・・?」
二人はう~んと唸ったが、いくら考えても思い出せない様子だった。
「それなら、俺の話も聞いてくれねぇか?」
エールを飲み干すから、ダットが呟く。
「なんだよ急に」
「あ、いや・・・信じてくれねぇかもしれないけど、ケイって海の向こうって何があるかと思う?」
「海の向こう?」
ケイは頭の中でダジュールの世界地図を思い出す。
もしダジュールが地球と同じ形の天体だと仮定すると、南下し続けた先はフリージアがある北の大陸か、もしくは新大陸じゃないかと思ったのだ。
「信じられねぇけど、霧で進めなかったんだ」
「・・・は?」
まさかのナナメ上発言である。
「どういうこと?」
「ルフ島に停泊してた時に、野郎共の一人が海の向こうの話をしたんだ。それで興味があって船を進ませたんだが、ある場所から突然霧に包まれて船がまったく進まなくなっちまったんだよ」
「そんなことってあるのかしら?」
「海で発生する霧は条件がことなるからなんとも言えないけど、ルフ島辺りだと暖かく湿った空気が冷やされて発生する場合が多いらしい」
「あぁ、その通りだ。だが俺たちが見た霧は、前が見えないくらい濃い霧だった。そして、その地点から戻ると青空が戻ってきて船も動くようになったんだ」
シンシアが首を傾げ、レイブンが似たような事例を出すがどうも腑に落ちない。
しかし、ダットの表情から嘘を言っているとは思えない。ある地点から突然濃い霧が発生して進めなくなるなんて本当にありえるのだろうか?
ケイは思案し、ポンと手を叩いた。そして鞄をガサガサとあさぐった。
「ケイ、どうしたんだ?」
「ダットの言っていることが本当なのか確かめてみようと思って」
ケイが取り出したのは、四角い板状の物だった。
「それは何だ?」
「これは『タブレット』さ。ダット、指輪を貸してくれ」
「お、おう」
ダットの右手人差し指にはめられている指輪を受け取る。
「魔導船の鍵をどうするんだ?」
「これをここに差し込むんだ」
タブレットの横に溝があり、そこに指輪のリング部分を差し込む。
タブレットの画面が表示され、青い空と白い雲そして海の映像が流れる。
「えっ!?・・・海?」
「実はあの魔導船にはもう一つ仕掛けがあるんだ」
「えっ!そうなのか!?」
「魔導船の上に水晶の球体があるだろう?あれ実はカメラにもなってるんだ」
「カメラ??」
案の定全員が首を傾げる。
「ざっくり説明すると、その時の状況を記録出来る魔道具みたいなもんだな」
ケイは船を創造する際に、もしものために水晶の球体に監視カメラを組み込ませたのだ。カメラは空気中の魔素を吸収し、魔導船の鍵となる指輪とリンクし記録できるようにした。
ちなみに360度記録出来るようになっており、タブレットを動かすと周りの景色も見えるようになっている。異世界の最先端技術である。
タブレットの映像を見てみると、航海しているところから始まっていた。
『アニキィ~、まだ何にも見えませ~ん!』
『変だな?だいぶ進んだはずなんだが・・・』
先端で監視している船員の声に疑問の声のダット。
映像はしばらく海ばかりを映したかと思った次の瞬間、一瞬で濃い霧に変わる。
『ダットさん!霧が出てきました!』
『お前ら注意しろ!!異変を感じたらすぐ言え!』
『はい!!!!』
濃い霧の中を船が進むが、突然減速をし、まるで何かに阻まれているようにある地点から先に行けなくなってしまった。
『ダットさん!船が進んでません!!!』
『何だって!?くそっ!どうなってやがる!?』
どうやらあの手この手で進ませようとしたが、結局戻ることしかできなかった。
船を旋回させある地点まで戻ると、先ほどの霧が嘘のように晴れ、まるで何事もなかったかのように青い空と白い雲が姿を見せる。
『一体どうなってんだよ・・・!?』
と、ダットがつぶやく。
ここで映像の記録を一区切りとして止める。
「ダット、船はどのぐらい進めたんだ?」
「ルフ島から南下して三日目辺りだな」
ふむぅとケイが唸る。確かにダットの言っていた通り、発生の前触れもなく瞬時に霧に変わる。
実際に体験していないから詳細はわかりかねるが、何かが影響しているのは確かなようだ。
「結界かなにかでしょうか?」
「霧が発生する前触れもないようだから、恐らく幻惑魔法辺りも考えられるな」
タレナとレイブンが意見を交わす。
「ここまではっきり仕切られているのも変な話だな」
「人為的に起こされたってこと?」
「可能性は捨てきれないわ」
アダムとシンシアも首を傾げ、アレグロも可能性として発言をした。
ケイは密かにメルディーナの影響じゃないかと仮定した。
黒狼しかり幻のダンジョンしかり、あまりにもこの世界にそぐわないモノが出ている。
ダジュールの管理者で霧の事を検索したが、該当するモノが出てこなかった。
元からないことは想定していない。メルディーナが何かをした結果、隠蔽しなければならない何かがあると思い至ったのだ。
恐らく創造神アレサも薄々気づいているのかもしれない。
問いただす相手が居ない以上、ケイは自らその謎に迫るべきだと思い始めており、「やっぱ、ダジュールの歴史を調べるしかないかな」と、独りごちた。
前回前々回とふざけすぎたので、今回は真面目なお話。
次回の更新は6月10日(月)更新です。




