319、獣族と人魚族の大陸訪問物語
皆さんこんばんは。
いつもご高覧くださりありがとうございます。
さて今回は、318話の続きからです。
それからケイ達は店を出ると、来た道を戻りゲート設置場所まで辿り着く。
そこには、既にギエルから頼まれ派遣されたであろう二人の兵の姿があった。
しかし彼らは見慣れない扉に緊張し怯えているのか、心持ち扉の位置から5m程離れた場所に立っている。
二人は猫種であることから猫特有の耳と尻尾を逆立てさせ、緊張した面持ちでやって来たケイ達に一礼をする姿は、こちらとしては仕事を増やして申し訳ない気持ちになる。
「「ギエル隊長、お疲れ様です!」」
「そんなに気を張らなくていい。ところで何か変わったことは?」
「いえ!指示された通り、こちらで待機していましたが何も異常はありません!」
警備についていた二人は上から覗き込まれるギエルに怖がっている(緊張?)のか、顔を強張らせながら報告を行う。
たしかにマードゥックの次ぐらいに背が高いせいで、威圧感が尋常じゃないことは自分の身をもって体感しているので否定は出来ない。これが同じ島でしかも上司となれば、姿を見かけただけでも緊張感が高まるのだろう。
その後すぐにケイは設置したゲートを一度回収し、マードゥックとグドラが共有する場所へと移動させた。
新たなゲート先としてマードゥックに指定された場所は、ジュランジの港から北東にある彼の住居だった。
そもそも獣人族の住居は人が住む石造りのモノとは違い、茅葺が使われていることからまるで昔の日本家屋を彷彿とさせる建造物だった。
桜紅蘭のような建物とは少し異なり、どちらかというと海風を遮るような高い建物はなく、それ故にどんな気候・天候にも対応出来るような建物と考えた時に行き着いたのだろう。
そのなかでもマードゥックの住居は、他の建物より目測でおおよそ二回りほど大きく、二階建てと遠くからでも分かるほどの存在感があった。
ギエルによると、この建物には家主のマードゥックの他にもギエル率いる警備隊の一部が住居として使用しているのだが、いかんせん住んでいる全員の背丈が2m近くあることから、普通の家屋から彼らが住みやすいように造り直した経緯がある。
ギエルもデカいが、入り口に立つドラゴン種の警備の二人や建物内ですれ違う人物全員がケイより頭数個分大きく、まるで自分が豆粒になったのではと錯覚を覚えかける。
「ここが我々の共通スペースがある場所だ」
マードゥックの後に続き入り口から二階に続く階段を上ると、角を曲がってすぐのところに三つほど扉が続く廊下に行き当たる。彼によると、突き当たりの扉は彼の私室になり、その隣が資料室・執務室と続いている。
家のサイズと用途を考えるともう少し部屋数が多い印象があったが、ギエルから当時建替えの話が出た際、マードゥックから「自分一人では使い切れないから」と色々な事情で独り身になった警備隊の一部に部屋を提供したのが、この建物の経緯だったことが語られた。
その話に見た目以上に人のことを考えられるのだなと、ケイは考えさせられる。
「入り口はここだ」
マードゥックが私室と資料室の扉の間にある壁に手を着くと、彼の右手が壁に吸い込まれるように入り込んだ。
ギョッとするケイと驚きの声を上げたブルノワと少佐の姿に、マードゥックはいたずらが成功したような子供の様な笑みを浮かべたが、いかんせん大男が笑うとどこぞのヤバいヤツにしか見えない。
「もしかして魔法が何か使ってるのか?」
『ルバーリアに伝わる魔法の一つで、幻惑魔法を応用したものです』
そう答えたのはバメットだった。
彼によると人魚族は魔法に長けているが、その中でも太古の昔から他種族の目を欺くような魔法を構築・発展させたと言われており、その結果が物体による光の屈折を応用した魔法を使用している。
専門的な用語を含んだ説明をしているバメットの話を要約すると、この仕掛けはマードゥックとギエルの生体に反応して仕掛けが解除される仕組みなっており、現代でいう指紋認証や虹彩認証の魔法版と言ってもいい。
ズブズブと壁の中に入っていくマードゥックの様子に第三者目線で見ると違和感しか感じないのだが、彼に続いて入ると十畳ほどの部屋が現れた。
その部屋は、マードゥックの趣味である何かの動物の頭部を標本にしたものや書籍のような羊皮紙の束、壁に取り付けられている棚には光る花が色とりどりに咲いている。
しかしそのなかでも存在感を見せているのは、正面奥の一枚の姿見である。
姿見は全長2m程とマードゥックとさほど変わらず、珊瑚を象ったような銀色の縁が施さているが、おかしいことに入ってきた位置には本来であればケイ達の姿と部屋の内部が映るはずなのだが、なぜか何処かの場所が映されている。
鏡を覗くとどこかの室内のようで、右側に映画館のスクリーンの様な大きめの窓があり、そこから外からの光の反射で青い光が差し込み、天井を含めた四方の壁が青色に染まっている。しかもその元である窓の向こう側には、なぜか海の中とおぼしき光景が広がっている。
「これって普通の鏡じゃないのか?」
『これは“ミラーゲート”といって、ルバーリアに伝わるマジックアイテムの一つになります。本来は二つで対となりますので、もう一つの方は今見えているグドラ様の部屋に繋がっています』
「転送ゲートみたいなもんか・・・じゃあ、共通の場所って今居る場所のことか?」
『はい。マードゥック様の方は、住居の構造上二階の部屋数が少なく設置する場所も限られているため、予め職人に無理を言って資料室の一部を解体し、グドラ様の手によって施されております』
ちなみにグドラの部屋に置いてある鏡は、他の人からは普通の鏡にしか見えず、グドラとバメットが触れると先ほど通ってきた壁の様な現象が起こるのだという。
「なぁ、ゲートどこに置いたらいい?」
「それなら、左側にスペースが余っているからそこはどうだ?」
マードゥックから左側の壁にスペースがあるので、そこにゲートを設置しては?提案されたため、特に異論はないのでケイが設置の作業に取りかかる。
また、ゲートを設置したらこのまま大陸に向かうけどいいか?と尋ねると快く承諾したため、少し待つようにと四人に伝える。
「あ!もし暇なら一つ頼んでいいか?」
「頼み?なにかあるのか?」
「あぁ。ジュランジの野菜を少し分けて貰うことはできるか?」
ケイの頼みにそれぐらいなら別に構わないが・・・と疑問を浮かべるマードゥック達だったが、なぜ?という疑問に対して、野菜の鑑定はできても使用方法が自分の認識と異なる場合もあるため、そのシェフから専門的なことを教えて貰おうと考えている事を伝える。
『なるほど。たしかにケイさんの様子を見る限り、種類によっては生野菜が適さない場合もありますね!』
「でしたら、その間に私たちがいくつか集めてきます」
ギエルとバメットが手を打ち、ケイが作業をしている間に持ってくるとギエルが行動を起こし、バメットからはルバーリアの魚もそのシェフに見て貰うことはできるのかと聞かれ、知らないモノはあるかもしれないが一応聞いてみてもいいのでは?と答えると『すぐに戻ります!』とミラーゲートの方を通り、何処かへと向かってしまった。
「あぁ~退屈だろうからブルノワと少佐の相手をしてくれないか?」
完全に話に入っていけない族長に対して、ケイが二人に子守りを頼む。
族長二人に対してブルノワと少佐を頼むこと自体可笑しな話だが、ケイはケイでやることがあるため、二人の返答を待たずにゲートの設置を行うことにした。
ほどなくして設置を終えると、同じタイミングでギエルとバメットが戻ってきた。
「ケイさん、贔屓にしているところから野菜をいくつか譲って貰いました」
「おぉ!ありがとう!・・・って、ちょっと多くねぇか?」
『実はもう一つの袋には魚が入っています』
二人の手にはパンパンに詰め込まれた麻袋が二つあり、覗いてみると一つはジュランジで取れる野菜や果物、もう一つの袋には冷凍されたルバーリアの魚が入っている。
手に取ってみてみると、野菜はキャベツやレタスのような見たことがあるモノから紫の人参っぽいもの、手に持った段階でやたら臭いがキツい歪な形をしたものまで様々で、魚の方はバメットが後学のために調理法を知りたいということもあり、想定以上の量が入っている。
一応冷凍保存という保存方法は知っているようで、鮮度を保つために冷凍をしてあるのだが、いかんせん魚自体が氷に覆われ、どうやって解凍するんだと疑問しか残らない状態ではあるが、まぁそれはあとにしよう。
『パパ~~~』
「おじちゃん達にいっぱい遊んで貰ったか?」
『うん!』
ギエルとバメットの間を縫うようにブルノワと少佐が飛び込んでくる。
作業している間、族長二人がかりでヤンチャ盛りのブルノワと少佐の面倒を見て貰ったのだが、ケイが作業に集中していたのか二人の方を見やるとなぜか疲労困憊状態が窺えた。
「マードゥック、グドラ、なんか子守させて悪かったな~」
『いや、私は大丈夫だが・・・』
「ははっ・・・彼ら(少佐)は結構力が強いな~」
グドラが横目でマードゥックを見ると、彼の手や腕には少佐が噛みついた跡がいくつか残っている。
ここでいつものかみ癖が出たか~と頭を抱えたケイは、ドラゴン種であるマードゥックの肌でもくっきり跡がついたことに謝罪をし、必要があれば魔法で治すからと伝えたものの、マードゥックは大丈夫だと断わりそれよりも早く、シェフに会って話を聞きたいと急いでいる様子を見せる。
(本当の話、グドラとバメットが野菜の存在を知り食えるようになったから、ギエルから「これでマードゥック様も食べられます、よね?」って言ってきたんだぞ!早くしないとこっちの寿命が縮まる!)
(ま、まさか~~~)
「マードゥック様?どうかされましたか?」
耳打ちをしてきたマードゥックの話にいつの間にそんな話が?と懐疑的だったケイだったが、ギエルの方を向くとマードゥックに向けて笑顔を見せているその表情が心なしか黒いのは気のせいだろうか。
とりあえずケイは、マードゥックの野菜に対する抵抗感を軽減させるため、四人を連れて屋敷へ戻ることにした。
ゲートを設置し直したケイは、四人を連れてパーシアに会いに屋敷へ戻ることにします。
果たして食のスペシャリストであるパーシアから助言を貰えるのか?
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