317、もめ事の原因
皆さんおはようございます。
いつもご高覧くださりありがとうございます。
さて今回は、マードゥックとグドラが言い争っている原因についての回です。
一部修正しました。(12/30)
公衆の面前で、獣族の族長と人魚族の族長が子供の様な言い争いをしている。
なんとも滑稽でなんともくだらない論争にケイは唖然としていただけだったが、見かねたギエルがズカズカと二人の元まで歩み寄り、子供同士の喧嘩を仲裁する母親のように間に割って入る。
その顔は(またか・・・)と少々うんざりしているようにも見えたが、二人の顔を交互に見やりながら二言三言言葉を交わすと、マードゥックとグドラがケイに気づき声を上げる。
「おぉ!ケイじゃないか!」
『久しいな、変わりはないか!』
「あ、あぁ・・・そっちも元気そうだな~」
先ほどの様子から一転して、満面の笑みを浮かべた二人の様子に口の端を引きつらせながら、ケイは元気でやっていると答える。
変わり身が早いなと感じていると、やはりマードゥックからも「船の報告がなかったが、どうやって・・・」と疑問を投げかけられる。
それに関しては公衆の面前と少しばかりの言いづらい事情があるとだけ伝えると、察しの良い二人は互いにチラリと確認するような目線を送り、店主に店の奥にある個室を使いたい申し出る。
「悪いが、暫く我々だけにしてくれ」
「承知いたしました」
案内されてすぐにマードゥックは店主に人を入れないようにと伝え、ほどなくして店主が下がる。
個室と言われると数人が利用する奥座敷のようなものを想像したが、通された個室は大柄なマードゥック達でも十分な高さと広さがあり、四方の白い壁には、等間隔に半円の支柱が埋まったような飾りが施されている。
支柱のような飾りは、獣族の女性をモチーフにした妖艶な姿や鳥や鹿を象ったようなものまで多種多様で、よく見ると、そのなかに宝石珊瑚のような赤い宝石が象った女性の目や動物の瞳などにあしらわれている。
「これ珊瑚宝石か?壁に埋まってんだけど?」
「それか?我々の国では、個室を設けている店には大体あるぞ?」
フツー装飾品とかじゃないのか?とマードゥックに問いかけると、婚礼時に異性に渡すことはあれど、それ以外には受容がないという。
そもそも獣族は、日常生活で宝石を用いた装飾品を着けることはほとんどなく、農業や漁業で生計を立てている彼らからすれば、宝石というモノにあまり価値や用途を見いだすことができないとのこと。
また人魚族も似たような考え方のようで、この部屋のように壁に宝石を埋め込むということはないものの、調度品によく用いられている。
ましてや、宝石と言っても鉱山のようなものは存在せず、自然生成された珊瑚宝石を用いたものが一般的であることから、こちらもあまり重要視してはいないのだろう。
「せっかく来たんだ、とりあえず少し落ち着いたらどうだ?」
少々気になるところやツッコミたいところはあるものの、マードゥックに促され、四人掛けの席に腰を掛けブルノワを自分の膝に座らせ、それに続くように少佐は椅子の足元に蹲るように座る。
その対面にマードゥックとグドラ、ケイの隣にはギエルが席に着いたが、なんとも形容しづらい圧を感じるがそこは仕方がないと胸の内に留めておく。
それから個室に通された際に配膳されたお茶に手を付けたケイは、一息着いてから事の経緯を説明した。
案の定マードゥックとギエルは驚いた様子でその話に耳を傾け、そういえば彼は魔法が使えたな・・・と思い至る。
なにせパワープレイな戦法なことから、ほとんどの人の思考に情報が入ってこず、後からそういえば・・・と思い出されることが多々ある。まぁ、その辺りは何度も言うが今更なのだが、外見と今までの行動からどうも一貫されないところは仕方がないのだろう。
「いくら人目につかない位置にあるとはいえ、そのゲートをそのままにしておくわけには行かないな。ちなみにそれは、別の場所に移動させることはできるのか?」
「あぁ。以前ホビット族と巨人族のとこで設置のし直しが出来ることは確認済だ」
『だとしたら、今後の事も考えて我々の共通スペースに設置させてはどうか?』
グドラが提案をし、マードゥックはそれは良い!と手を打つ。
共通スペースというのは族長同士のたまり場みたいな場所で、余暇などの際に利用されている。
またその場所は、族長二人とギエル・バメットと限定された者しか入室しないことから、彼らの数少ない息抜きの場として重宝されているという。
「ギエル、ケイが設置したゲートに他の者が近づかないよう警備をつけてくれ」
「はい。承知しました」
真剣な面持ちのマードゥックの指示にギエルが了承し、素早くその対応に取りかかる。その横でケイは、そんな大層な事じゃ・・・と口には出さず表情で大げさにしなくても~と、指示を受けたギエルが退出する後ろ姿を尻目に肩を竦める。
その様子を見ていたグドラが、ケイには些細なことでも我々からすれば十分警戒と慎重さを必要とする案件だと指摘する。
たしかに今回は交流がある者が起こしたことだが、これがもし見知らぬ人物だったらと考えると、そこまで考えがおよばなかったケイにも責任がある。
「なんか、大事にして悪かったな~」
「今回は君であって良かったと思ってるよ・・・」
一応反省しているケイであったが、今回はブルノワと少佐も居ることから仕方がないな~とマードゥックとグドラは互いに顔を見合わせ少し呆れたような苦い笑みを浮かべた。
「そういや、さっき二人が揉めてたけどなんかあったのか?」
話題が一段落し、ケイは再会した時に二人が揉めていた理由を尋ねてみた。
その途端、マードゥックはたと思い出したかのようにテーブルに手を着き、ケイの顔を覗き見るように前のめりになった。
「ケイ!君に聞きたいことがある!この際ハッキリとさせたいんだ!」
「えっ・・・な、なにが?」
真剣な眼差しでこちらを見つめるマードゥックに、相手が女性ならそれなりにときめくが、ゴツイ獣族の長相手に一ミリもときめかない状況は一体何だと困惑する。
また横目で彼の隣に居るグドラの表情を見ると、こちらも何かを言わんとするような神妙な面持ちでこの場を見つめている。
来て早々物騒な展開について行けないケイは、彼らの口から何を聞かされるのかと珍しく緊張のあまり口角が引きつる感覚を覚えた。
「ケイ、君は・・・【肉】と【魚】どっちが良いと思う?」
ん・・・?とケイの思考と時間が止まった気がした。
厳密に言えば、想定外な単純な言葉に理解が追いついていないと言うべきだろう。
二人の表情にそぐわない質問内容に、少し間を置いて理解したケイは『そんなの知らねぇーーーよ!!!!』と頭の中で盛大にツッコんだ。
しょうもない・・・もとい彼らにとって重大な質問内容に、正直ケイは二人の首根っこを掴んで盛大に振り回したい気分に駆られる。
「話の前後がわかんねぇけど、魚も肉も食うぞ」
はぁ~とため息をついてから返答したケイを皮切りに、何も分かってないとマードゥックが暑苦しさ倍で迫って来る。
「ケイ!君は分かってない!我々獣族は、太古の昔から生物の血と肉を喰らい、この身体を形成してきた!皆を守り支えるには肉が必要に決まっているだろうが!」
『マードゥック、やはり貴様は根本的に頭の足りなさが相まって理解しておらぬようだな!力が全てではない!今は知恵も必要!そのためには魚が一番に決まっておろう!』
グドラもマードゥックと同様に普段の様子からは想像出来ないほど暑苦しさを纏わせ、彼の意見に真っ向から反論をする。片や、何が二人を駆り立てているのかと、そのやりとりを見つめているケイおろかブルノワと少佐も唖然とした様子で見つめている。
『また、お二方は揉めているのですか・・・』
ほどなくして、ため息交じりの声がケイの背後から聞こえた。
突然のことに驚き振り返ると呆れた様子のバメットの姿があり、ここに来る前にギエルとすれ違い、今回の事は彼から聴いたと端的に説明され、眼前では族長二人のやりとりに頭を悩ませる。
「そういや、ギエルから二人のもめ事の原因が“食”だって聴いたんだけど、それどういうこと?」
『お恥ずかしい話ですが、我々人魚族と獣族はケイさん達が来る前までは緊迫した状況が続いていました。しかし和解後にはあのように、まるで子供の喧嘩のようなことが度々起こっているんです。今回はその延長線上で、肉と野菜、どちらが優れた食材なのか、ということでして・・・』
「う~わぁ、しょ~もねぇ!そんな子供の喧嘩ぐらいなら大したことないだろ?それに食生活だったら、獣族と人魚族は環境も生活も違うんだから、別に変でもなんでもないし、どっちがとかねぇだろ~」
二種族の族長のやりとりを子供の喧嘩と比喩する辺り、ケイもバメットもなかなか物を言うが、そこでケイはあれ?と疑問を浮かべた。
「なぁバメット、一つ聞いていいか?」
『はい。なんでしょう?』
「お前らのところってさ~、肉とか魚とか言ってっけど、“野菜”食わねぇの?」
ケイの言葉に先ほどまで言い争っていたマードゥックとグドラがピタリと止まる。
バメットは唖然とした表情でこちらを見つめているが、何か地雷を踏むようなマズいことを言ったのか?と、ケイはすぐさま頭の中で考えを巡らせる。
時間にしてものの数秒だったが、あまりの不自然な間合いに考えても分からないケイは、たまらずなにか悪いことでも言ったのかと素直に尋ねてみることにした。
「あーーー、なんか・・・まずいこと言ったか?」
『あ、いえ・・・その~』
しかしバメットは、何故か言いづらそうに時折目線を外しながら、ケイの質問の答えを考えている様子を見せ、言い争っている二人を見るや、マードゥックは顔を青くさせ、グドラの方はバメット同様不思議そうな表情を浮かべている。
何この状況と一人考え込むケイだったが、まさかバメットから思いもよらない言葉が口から出る。
『野菜、ってなんでしょう?』
ん?んん!?
恐らくケイの方もバメットの言葉の意味が理解できずに困惑しているのだろう。
頭にハテナを何個も浮かべるように彼の言葉の意味を理解しようと頭をフル回転させているが、どう考えても【人魚族は野菜を知らない】という結論しか出ない。
「え・・・っと、もしかして野菜を知らない、とか?」
『はい。勉強不足で申し訳ありません』
グドラの方を見ると、バメットと同じような反応で首を横に振っており、マードゥックはなぜか部屋から出ようと盗人のように忍び足で退出しようとしている。
その様子に少佐は逃がさないとばかりに足元に飛びかかり、ズボンの裾に噛みついた。その状態をなんとか治めようと、マードゥックが慌てたように離してくれと懇願する。
「マードゥック!お前んところは野菜って存在しているのか?」
「えっ!?あ、あぁ~まぁ~な・・・」
少佐の引き止めるような噛みつきにあたふたしているマードゥックだったが、彼の煮え切らない答えにケイはさらに疑問を浮かべたのだった。
野菜を知らない人魚族の二人になぜか顔面蒼白のマードゥック。
ケイの疑問が尽きないが、同時に面倒なことに巻き込まれるのは明白である。
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