315、共存と協力
皆さまこんばんは。
また少し間が空きました。
今回は、ルトの謝罪とその意味の回となります。
「皆さんごめんなさい!!」
二頭のコカトリスをゲットし意気揚々と屋敷へ戻ったケイ達の前で、なぜかルトから謝罪を述べられた。
重大なミスをしたかのように顔面蒼白で頭を下げているルトの様子に困惑した三人は、留守番をしていたポポに何があったのかと尋ねた。
「ポポ、なにがあったんだ?」
「んーと・・・ルト兄ちゃんが“勘違いをした~”って頭を抱えてたんだ」
「勘違い?」
ポポの説明でもイマイチ要領を得ないケイは、当の本人であるルトにどういうことなのかと説明を求めた。
「ルト?」とケイが声を掛けたところ、頭を下げていたルトの肩が飛び跳ねるように動き、今にでも雷を落とされるのではと口角を引きつらせながら、まるで子犬の様な目線をこちらを向ける。
「ルト、いきなり謝られても意味が分からないが、なんかあったのか?」
「ケイさん、その・・・僕、重大なことを見落としてたんです」
「重大なことって、机の上に置いてあるフラスコの数に関係があるってことか?」
ルトから目線を動かすと、作業机の上にいくつかのフラスコが置いてある。
状況を察するに何かを調べていたのだろう。数あるフラスコの中には液体が入っており、そのほとんどが赤色をしている。
そういえばその前に、ルト特性の除草剤のを使用した時に変色した液体が浮かんでいることがあったなと思い出し、それに関係があることなのかと察したケイは、なるべくルトを怯えさせないようにフラスコの件について尋ねてみた。
「ルト、この液体はルトが作った除草剤に現れた反応に近い色をしてたけど、同じ事を調べてたのか?」
「あ・・・いえ、実はケイさん達が出かけた後にもう少し情報が欲しいと思ってタブレットの中のデータを確認してみたんです。その時にアルバさんという方から説明をして貰ったあとに“もしかしたら自分の仮説が成立しないんじゃないか?”と思いはじめまして・・・」
怒られたくないけど説明しなければという葛藤を抱えつつ、ルトはケイ達に事の経緯を説明してみせた。
話を遮ることなく黙って聞くなかで、ルトはケイが置いていったタブレットに転送した資料とアルバの説明から、魔素による影響を遮断し生育を阻害する以外にも要因があるのではと思い至りあることを調べたそうだ。
それは、先ほどの除草剤のようにメトバの表面上の細胞を部位ごとに拝借し、特殊な配合をした透明な液体へ投入し変化を調べるという技法である。
ルト曰く成分を解析するための液体のようで、今でいう鑑識が使うようなモノに近いのだろうと感じるが、この時代の技術から考えると如何に彼の勉強量と技法が凄いのかと思わされる。
そしてその結果、ルトが導き出した結果が数あるフラスコの中に存在している。
「ケイさん、フラスコの中を見ていただけるとわかるかと・・・」
「フラスコの中?」
疑問を浮かべたまま覗いていいかとルトに断わりを入れてから、顔を近づけてフラスコの一つに注目する。
フラスコの中の液体は赤く染まっており、ルトの話ではメトバの細胞が溶けた証拠だという。特製の除草剤の時と同じような反応をしているが、よく見ると赤い液体の中に別の赤い固体のようなものが浮かんでいる。
「ルト、この赤い固体ってなんだ?」
「これは“錆”です」
「錆?・・・ってことは、これがメトバの体内から検出されたってことか?」
「はい。僕とポポさんでメトバさんの各部位の細胞を採取したのですが、特に手足の指先と後頭部から採取した細胞分から、解けた部分に混じって赤い固体が浮かぶようになりました。ただこれは、一般的に見られる錆ではなく、魔素の影響から形成された錆の類いではないかと・・・」
ルトはメトバの体内に錆が検出されたことによって、自分の仮説が成り立たなくなると、この時わかり愕然としたのだという。
素人のケイ達にはどういうことなのかさっぱりわからないのだが、通常鉱石から錆というものは検出されないのだが、例外として鉄などの鉱石から魔素の影響で通常とは異なる錆が発生することがある。
それを専門用語で“魔錆”と言うそうなのだが、実はこの魔錆はここ十数年で認知され始めたようで、情報おろか特性も十分に解析されていないのが現状とのこと。
余談になるが、魔錆の名付け元は古くから鍛冶師をしている人々が創った造語であり、その造語が世間に知られたのはここ数年のことらしい。
ケイからすれば、金属は全部錆びるのでは?という認識しかないのだが、魔素のあるダジュールでは、その影響により元々からある特質が変化することが多々あるのだという。
一部の研究者からは魔素の影響で環境が左右されると見解を示しており、発見当初の魔錆も通常では考えられない、なにかの間違いではないかと議論になるほど混乱状態が続いていたと言われている。
「え~っと、その魔錆って普段あんまり見ることはないってことか?」
「発見されてから十数年経っていますが、基本的な情報である発生条件や魔素から魔錆が形成される過程も解析出来ていないのが現状で、専門家の間でも解明が困難だと言われてます」
ですが・・・と言い淀んだルトにケイは、なにかあるのか?と問いかけると、一個人の意見ではありますが、と前置きをしてからある仮説を口にする。
「僕が思うに魔錆は“魔素の塊”ではないかと考えています」
「魔素の塊?」
「はい。自然界にもなんらかの要因で物質の名残と言われる塊が発生することがあるかと思いますので、現象的にはそれに近いものではないかと…。ただ魔素となると現象を視覚的に確認できないので、一般的には認識しづらいことから研究や調査が滞っているということなんだと思います」
確かに魔素は一般的に存在しているものの、具体的に示せと言われても現代の技術のような施設が少ないことから、たとえ研究者でも提示することは困難だろう。
だが、一個人の意見としてルトが見解を述べていることから、すぐに結果は出ずとも可能性を見出すことは可能なのだろう。
「そういえば、最初に除草剤にメトバの細胞を入れた時、赤色に交じって気色悪いピンク色も出てたけど、あれってなんだ?カビか?」
「カビって、そんなわけ…「はい、そうです」」
最初に試したお手製の除草剤の件で、ケイが何気なく口にしアダムがまさか~と否定しようとした時、ルトから肯定の言葉が出た。
その発言にアダムが目を丸くし、冗談を口にしたケイも「…まじか」と呟く。
「えっ?じゃあ~メトバの身体にはカビている部分があったってことか?金属じゃないのに?」
「たしかにカビはメトバさんの体内から出たものですが、正確には魔錆から検出されたものではないかと。ケイさんの端末に転送された資料を基に考えるならば、メトバさんを構築する際に使用された鉱石が何らかの要因で魔素と交わり変化し、魔錆を発生させたことによりカビも一緒に生成されたと考えられます」
また、メトバの体内から通常のカビや錆も検出されたと報告された。
こちらは高低差のある地形と周りを海に囲まれたことにより、自然的に発生したものであると容易に特定できたようで、ポポから定期的に巨人族の清掃を行っているが、その名残が残っているのでは推測できた。
「ルト君、もし君がよければウチで雇いたいのだが?」
「いや!なんでそうなる!?お前んとこいっぱいいるだろうが!?」
見解を述べたルトに対して、興味を示したディナトはぜひエストアで働いてみないかとアプローチを掛けた。戸惑うルトにすかさずケイがツッコミを入れたのは言うまでもないが、代わりにディナトからこんな提案を受ける。
「まぁ、彼を雇いたいという気持ちは正直あるが、もし彼が今後魔錆について研究したいというのであれば、エストアで魔錆について調べている専門家がいるので紹介することはできるよ」
「エストアに魔錆を調べている専門家っているのか?」
「数は少ないが専門家は何人かいるよ。もっとも、普通の錆と見分けがつきづらいからという理由で調査をする人が少ないようだから、こちらも思うような成果は上げられていないのが現状だ」
ただ具体的に進めていくとなれば、一族をまとめているジュマに話は通した方がいいだろうとディナトが言葉を続ける。
たしかに報告もなしで一方的にこちらで決めることは失礼に値すると考え、ジュマから許可を得次第、具体的な段取りや方法を考えていこうと話を区切った。
翌日ケイ達は再度ダインを訪れ、この結果をジュマに伝えた。
その際、今回同行したルトからこれまでの経緯を説明されたジュマは、終始無言で彼の話に耳を傾けた。
「……そういうことでしたか」
「なんか悪かったな。大口叩いた割にはなんも出来なくて…」
「いえ。全く気にしないと言えば嘘になりますが、ポポの気持ちを蔑ろにした私にも責があります故に責める資格はありません」
一通り説明をされたジュマから複雑な様子が窺えるが、こちらも専門的な知識もなく、しかも専門的な現象が弊害になっているとは微塵も思っていなかった。
ルトからは魔錆についての本格的な調査を熱望していたが、今まで交流のなかったこともあってかジュマは難しい表情で首を縦に振ることはなかった。
「ですが、我々ホビット族と巨人族は長きにわたり大陸外との交流はありません。それ故に我々以外の種族を見たことがない者も多くおります。もしその意味の中に交流ということが含められているのでしたら、私は賛同できかねるかと…」
「じっちゃん!ならおいらがルト兄ちゃんのところに世話になる!」
「な!ポポ!お前はなぜ…「じいちゃんはいっつもそうだ!」」
ジュマの言葉に被せるようにポポが声を張り上げる。
たしかに孫を心配するのは身内なら当然のことなのだが、ポポはそういうことじゃないと首を振り、なお自分の言葉を口にする。
「じっちゃん!たしかに心配な気持ちはあるよ!でも、今は良くても明日は!?明後日は!?一年後は!?誰にも分からないじゃないか!メトバ達だってこの先どうなるかわからないんだろ!?なら、おいらはメトバ達に長生きしてもらいたいからルト兄ちゃんたちの手伝いをするよ!」
ポポはジュマの気持ちがわからないということではなく、不確定な将来を考え、少しでも長く巨人族と共に過ごすことを決意し模索し始めていた。
もちろんジュマもそんな孫の姿を目にし、戸惑いを抱えつつも否定はせずにただ一言「そうか…」とだけ呟く。
「ジュマさん、貴方のお気持ちは重々承知しています。我々ドワーフ族も予てから魔錆の研究を行っておりますので、二人のサポートを考えています」
ディナトからは国として魔錆などの研究に力を入れていることを示し、今後はエストア監修のもと、ルトや意欲のあるポポの完全パックアップを行うと力説する。
それでもジュマは心配が尽きない様子があったことから、なにを思ったのかディナトからポポ専属の護衛部隊を編成することも考えていると述べると、少々ぶっとんだ提案にさすがのジュマも別の意味で戸惑いを見せる。
「部隊を作るというまでは実行しませんが、こちらで彼に護衛をつけることも考えております。ですので、そのことも考慮してもらえませんでしょうか?」
「……ポポ」
「じっちゃん…?」
「お前は昔から人の話を聞かずにすぐにどこかへ行ってしまう。それにルトさんの手伝いをする気持ちは本当にあるのか?私はそれも心配だ。お前は昔から物事を考えることが苦手だったからのぉ~」
その言葉に一瞬ポポはたじろいだが、メトバのために頑張る!と両手を拳にし、決意を見せる孫の姿に「…本気でやってみなさい」とだけ声をかけた。
「ケイ、本当にいいのか?」
少し離れたところでケイとアダムがそのやり取りを見つめていた。
途中から完全に蚊帳の外になった二人だが、アダムはあることに疑問を感じケイに問いかける。
「本当にいい、って?」
「いや…今回の事、何度も否定してたけど本当はケイの魔法で解決できただろ?なんで今更渋っているんだ?」
「あぁ~それか~」
遠巻きにポポたちのやり取りを眺めているケイの横顔を覗き見たアダムだったが、最近思うんだ…と意外な話をする。
「アグナダム帝国が終わった理由て他にもあったんじゃないか、ってさ~」
「ん?それって結果的に黒腫が関わってたんじゃ?」
「それ以前の話だ。あれだけでかい大陸を創ったにも関わらず滅んだってことは、シャーハーン王一人がいなくなったら、国が崩壊する原因にもなるんじゃないかって。だからあの国は滅んだ。もし俺が全ての国の問題を魔法一つで解決するってなったら、その先はアグナダム帝国と同じ末路をたどる可能性もあるって…」
その言葉にハッとしたアダムは、だからか…と合点がいった。
強大な力は人々を一時的に幸せにすることはできても、永久的にできるかというと誰にも分からない。
いつもは俺様気質で我儘奔放のケイでもダジュールの将来を考えた時、いずれはこの問題に行き当たるのだろうと考えていたのかもしれない。
そうなると、ヒガンテの腕輪を継承した時点で、ケイが次世代のアグナダム帝国の王になるかもしれないという不安が出てきたのではとアダムは考える。
ケイの性格上、悩みがあったとしてもあまりそれを表に出さないことから、もしかしたら自分と重なる部分が見えてきたから不安に感じ、なるべく自分の手を差し出さない方向性をとっているのではと推測するが、それが今後どうなるかはアダムすらわかりかねる。
いずれにせよ新たな研究と治療を求めてルトを中心として、ドワーフ族・ホビット族・巨人族が互いに手を取り合おうとしている様子に、新たな道の行く末を見守ることだけだった。
如何でしたか?
いきなり訪問ーダイン編ーは終了です。
次回からは、いきなり訪問ージュランジ&ルバーリア編ーとなります。
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