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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
最終章・蘇った帝国と新たなる王
321/359

312、ルトのお手伝い

みなさんおはようございます。

いつもご高覧くださりありがとうございます。

さて今回は庭師でもあり錬金術師でもあるルトが手伝うお話です。

異様な色の液体とメトバから拝借した組織が互いに反応し交わると、細かな気泡がフラスコ内に広がった。


ルトは互いに反応し合う現象を食い入るように見つめ、時折素人には分からない用語を口ずさんではアレがこうかと一人自問自答をしている。

完全に置いてけぼりのケイ達には、この結果がどう影響するのか疑問と不安が尽きないわけだが、その辺りはルト頼みしかないと成り行きを見守ることにした。


「そういえば、エストアで使っている除草剤って何が入ってるんだ?」

「俺もよく知らないが、エストアで採掘されるフローライトが使われていると聞いたことがある」

「フローライト?」

「エストアからフリージアに連なる山脈地帯にある青紫の石のことだ。一般的に宝石と同じように加工されたり、錬金素材の一部として扱われることもあるそうだ」


ケイが素朴な疑問を口にする。


アカリゴケ専用の薬品があるというところまでは理解しているものの、そもそも材料は何を使っているのか知らないのだ。

アダムもエストアで採掘される【フローライト】が使われていることは知っていたが、それがどう作用するのかまではよく知らない。


「フローライトは、魔法学によると水属性の魔力を秘めていると言われています。錬金術に扱う理由としては大きく二種類。一つは水に存在する魔素を浄化させること、そしてもう一つは素材そのものから発する性質の均等化です」


フローライトは、錬金術では当たり前の様に使われる素材の一つである。


効果の主軸は物質の均等化とされ、錬金術を行う釜や道具に一度水を入れて沸騰させてから使用するのが一般的だと言われている。

これは水に含まれる魔素を均等にすることにより、素材同士の質の摩擦を極力減らす作用がある。国や地域によって水の質が異なるため、まずは水の質をニュートラルにすることが錬金術では当たり前の作業の第一段階となる。


その話を聴き、ケイの頭の中で煮沸消毒のような作業を思い浮かべる。


よくファンタジー小説などで見られる錬金術にはそう言った作業は聞いたことがないが、この世界ではそれが当たり前のように行われている。

ちなみに素材そのままで錬金をすることはないのかとルトに尋ねると、色々と説明をしてくれたのだが、つまるところ料理でいう“まる焦げ”に近い状態になるとのこと。また、水の魔素の影響で最悪素材同士が相反する反応を起こし爆発することもあるようで、先ほど述べたフローライトを用いた作業は必須となる。


とにかく難しい話をされたわけだが、ルトが力説するほどなので錬金術にとっては重要なものなのだろうとケイ達は感じ取ったのである。



「やっぱり・・・」


フラスコの中の反応が収まったところで、その状態にルトからため息が洩れた。


彼の目線の先に映るフラスコは、先ほどまでオパールのような色合いからピンクを帯びた赤色が入り混じったような異様な色へと変化している。まるで魑魅魍魎が這い出んばかりの色合いに専門知識のないケイ達も、さすがのこの様子に顔を引きつらせる。


「ルト、この結果ってどういうことになるんだ?」

「これは明らかに失敗ですね。ピンク身を帯びた赤い色は、アカリゴケの細胞のなごりで、メトバさんから採取した部分が完全に消失しています。普通のアカリゴケは繊維単位まで溶けてなくなるのですが、僕の推測した通り、アカリゴケの除草剤だけでは除去どころか巨人族には適さない可能性を示してます」


どうやら巨人族の体内に潜り込んだアカリゴケは、長い年月と同じぐらいその性質を変化し続けていたようだ。


予め試してよかったとルトが胸をなで下ろすが、試験的な部分をいうならば完全なる没であることから、一般的な除草剤を使う意味がないことはルトとしても考えを練らなくてはいけないことを示唆している。

ただそれが一日二日でどうにかなるものではなく、ルトとしては一から調査しなければならないなと感じているようで、自身がしたためていた手持ちの資料のページをめくり考え込む。


「やっぱり普通の除草剤が使えないとなると、すぐにとはいかないんだろうな」

「そもそも環境的な要因も兼ねているとなると錬金術師である彼の専門外な気はするけど・・・」

「でもさ~ルトが作った除草剤だろ?それって普通の素材じゃないものも入ってるってことじゃねぇの?」


ケイの一言にアダムとディナトは、そういえば・・・と資料を片手ににらみ合いをしているルトを見やる。


「ルト!お前の作った除草剤って、結局何を使ってるんだ?」

「えっ?あ・・・あぁ~!実は、僕が作った除草剤には薬草は入っていないんです」


ルトはそういえばその辺りの説明がまだだった事を思い出し、ケイに返答したところ、なぜかディナトが驚いた表情を浮かべ、あり得ないと言わんばかりの表情とその辺りを詳しく聞きたいのか食い気味にルトに問いかける。


「除草剤に薬草を使っていないとはどういうことだ?」

「えっ?除草剤に薬草って入っているものなのか?」

「少なくともエストアで使用する除草剤には薬草は入っている。薬草には人体に影響がない程度だが毒素が含まれ、その成分がアカリゴケにはよく効くと、以前錬金術師から聞いたことがある」

「たしかにディナトさんの言った通り、アカリゴケの活動を停止させる成分が薬草には含まれています。その成分は薬草が生育するためには必要な部分であり、世間的には繁殖力がもっとも強い植物の由縁とも言われています」


これはディナトも冒険者を長いことしているアダムも知らなかったことなのだが、薬草に含まれる成分は、最近になって他の動植物の生態に影響を及ぼす可能性を秘めていることが明らかになった。


一般的に薬草に含まれる成分が人体にあまり影響を及ぼさないといっても、他の動植物には有害であることがルトの研究から明らかになったようで、よく冒険者の間で魔力酔いや回復薬の過剰摂取による中毒症状は、実はこの成分に関係があるとみている。簡単に言い換えるなら、スライスした生タマネギを食べ過ぎると具合が悪くなると同じ症状になるということである。


ルトは確かに薬草を使用すれば解決するかもしれないが、それが他の生態に影響が出ると考えた時、新たな除草剤を作り出す必要があるのではと考えてしまう。

これは以前ケイ達がいない間に起こったある出来事がきっかけだったのだが、錬金術師である以上、その問題を無視出来ないという元々のルトの性格も相まっているかもしれないと感じる。


(あぁーだからよくギルドの掲示板に常時依頼として薬草採取の依頼が張り出され続けるわけか~)とケイは内心薬草採取の依頼の疑問に納得をする。

薬草は速いペースで生育するため、どのギルドに顔を出しても常時依頼として薬草採取は必ずある。それは、ルトが言った通り生態系を脅かすかもしれない薬草の成分の事を人々は知らないうちに手を打っていたというわけである。


「それから僕が作った除草剤にはこれが含まれているんです」


そう言ってルトが作業場から出してきたのは麻袋だった。


麻袋はバスケットボールほどの大きさで、手に持つとずっしりとした感触がする。中を覗くと様々な種類の色をした鉱石が入っており、ケイはどういうことなのかと首を傾げる。


「鉱石?」

「はい。鉱石は種類にもよりますが錬金素材との相性がいいんです。特に銅は鉱石の中でも比較的殿素材にも合いやすく、錬金素材の過剰反応や物質の反応を抑えてくれる役割があるんです!」


力説しているルトの隣で、ケイは防臭剤として靴の中に十円玉を入れて置く場景を思い浮かべ、思わずそのことを口にすると「さすがケイさん!」と称賛の言葉を送られる。どうやら、その辺りは地球と同じ認識なのだろう。


「ということは、ルトはアカリゴケを消したいから作ってんだろ?ならさ~その他の方法はやっぱ駄目なのか?」

「その他の方法、ですか?」

「あぁ。俺もできるなら巨人族にあるアカリゴケを消してやりたいんだけど、逆を考えるとアカリゴケ自体に可能性は見出せないのか?と、今の段階で無理に巨人族から引きはがそうとすると、たぶんメトバとか壊れちまう気がするんだ。なら、それを逆手に取って利用できればwin-winじゃないかと思ったんだけど?」


いや、ソレは無理だろうとアダムが否定しようとしたが、ルトはケイの言葉に一瞬思うところがあったようで、もしかしたらできるかもしれないと手を叩く。


「僕の推測が正しければ、アカリゴケを使用した錬金方法はあります。ですが、素材がいくつか足りなくて・・・」


あ、方法はあるんだ~としか思っていなかったケイだが、アダムとディナトは目を丸くして「あるのか!?」と驚愕する。


以前からルトは、アカリゴケには研磨剤の成分が入っている事を突き止め、その性質からやすりのような道具が作れるのではと考えていた。

また魔素返しができるアカリゴケの性質を利用して防臭・防虫剤を作りたいとも思っていたようで、その話を聞いたディナトからはバイタリティーに溢れている若者だと思わず感心をよせられる。


ただ巨人族にあるアカリゴケは性質が普通のものとかなり違っており、魔素を変換させる能力があるとなると、通常よりも汎用率は高くなるだろうと思われる。


「この性質でしたら一時的に魔素による影響を遮断し、生育を阻害することならできます。除去となりますとメトバさんの人格形成に影響を与えかねないので、今はまだ・・・」

「わかった。で、何が欲しいんだ?」

「特に欲しいのはウロコです。コカトリスかサラマンダーのウロコが適切な素材になります。あ!ウロコと言っても捕りたてが一番で、特に内側部分が欲しいです!場所は脇の下や足の関節付近にあるウロコだとなおイイかと!」


二十枚ぐらいあればバッチリ!と目を輝かすルトに、専門職のオタク感を垣間見たケイはそっか~とだけ返す。

知らない間にルトも大きくなったんだな~とほっこりした表情で返すと、ハッと気づいたのか恥ずかしさのあまり頬を赤らめさせ俯いた。


「とにかくルトが言ってたウロコを探しに行こうぜ!ここからならエバ山が近いだろうな。あと、ポポとメトバは留守番だ」


連れて歩くと色々面倒になると伝えると、役に立ちたいのにぃ~とメトバの足の間に座っているポポがふて腐れた表情を浮かべる。

ルトからそれなら錬金術の手伝いをしてくださいと頼まれると、いいの!?と子供特有の興味を持った表情へと変わる。チョロいぜ!


「ルト、悪いけど二人を頼む」

「分かりました。メトバさんにあるアカリゴケは個人的に興味があるので、待っている間にその辺りを調べてみたいと思います」

「そっか~とにかくその辺りは任せるよ。ところでディナト、お前はどうする?」

「俺はケイ達に同行するよ。君がどんな風に魔物を退治するか見てみたい」


え~普通だぞ?というケイに、隣にいるアダムからは声には出さないものの嘘をつけという表情を浮かべる。

こうしてケイとアダムは、ディナトを連れウロコを探しにコカトリスの生息地でもあるエバ山へと向かうことになったのだった。

ルトからメトバにあるアカリゴケを消すことは出来ないが、生育を止めることならできると聞いたケイ達は、所望しているコカトリスのウロコを探しにエバ山へと足を運ぶことになりました。

次回、久々の緩い冒険・戦闘回となります。


閲覧&ブックマーク&感想などありがとうございます。

細々とマイペースに活動していますので、また来てくださいね。

※誤字脱字の報告、または表現の提供をありがとうございます。

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