310、巨人族救済作戦
皆さんこんばんは。
いつもご高覧くださりありがとうございます。
さて今回はアカリゴケについてとある人物に相談をする回です。
「グズッ・・・・・・兄ちゃん達がメトバを治してくれたのか?」
散々泣いたのか、目を真っ赤にさせ鼻をぐずらせながらポポが問いかけた。
ケイが肯定の頷きを返すと、丸くした瞳から涙がこぼれ落ちそうになりながら「ありがとう」と声にならない声で感謝の言葉を口にする。
ポポからすれば家族同然のような大親友というべき存在なのだろう。
「絶対に治る」と信じている一方で、日に日に進行していくメトバの様子に不安を募らせていたに違いない。ホッとした気持ちで生きているメトバの存在を確かめるように足元にしがみつき、それを察したメトバは身体をその場に下ろすと、不器用ながらもポポより何倍も大きな手で優しく頭を撫でる。
問題自体は残ったままだが、彼らの様子を眺めているとこちらまで安堵する。
「とりあえずアカリゴケの除草剤は、たぶんルトが知っていると思う」
「君が言っていた錬金術師をしている使用人のことだね」
「あいつ今日休みだって聞いたから、居るとしたら屋敷の作業場の方だな」
「じゃあ、まずはルトに除草剤のことを聞きにも「兄ちゃんたち待って!」」
アダムがルトのところへ戻ろうと口にした瞬間、ポポの呼び止める声がした。
何事かとケイ達が彼を見やると、いつの間にかこちらに来ていたポポが真剣な表情で三人の方を見上げた。
「ポポ、どうした?」
「お、おいらも連れてってくれよ!」
「ポポ!お前はなにを言っているんだ!皆さんは遊びに来ているのではないのだぞ!?それにお前はまだ若いせいか分からんことも多いだろう、ここはケイさん達に任せるのだ」
えっ!?と戸惑うケイ達に静観していたジュマが喝を入れる。
「わかってるよ!わかってる・・・・・・おいらだって、兄ちゃんたちの役に立ちたかったんだ・・・・・・メトバを助けてくれたのになにも出来ないのは嫌だ!」
もちろんポポも思いつきで口にしたわけではなく、大事な友人を助けてくれたことで自分もケイ達の役に立ちたいと思っていたのは痛いほど理解できた。
だがジュマは、孫であるポポを危険にさらしたくない思いがあるせいかその行動を咎め阻止せんと彼の前に立ち止めるようにと説く。
「あージュマ?ちょっとたんま!あんたの気持ちもわかっけどよ~ちっとは孫のことも信じてみたらどうだ?」
「ケ、ケイさん!?なにをこんな時に!たしかにポポは、落ち着きがなくおしゃべりで他の子より幼く目を離すとすぐに居なくなり周りに迷惑を掛ける部分はあります。それに私も、息子夫婦が大事にしていた子を守り抜く責がございます!」
自分の孫にここまで辛辣に言える祖父はなかなか居ないだろう。
ジュマの言葉から孫を男手一つで育てていると理解した一方で、二人の性格的行動が相反することからケイがこんな提案をする。
「ジュマ、どうせならポポを一緒に連れてっていいか?」
「で、ですが・・・」
「俺の国の古い言葉で“可愛い子には旅をさせよ”って言うのがあってさ、こうやってディナトも連れてきたことだし、異文化・ダインの代表として同行してやりだいんだよ。もちろんメトバも一緒に連れて行くからな!」
「「えっ!?」」
その言葉にアダムとディナトが同時に声を上げる。
それもそのはず、ゲートの高さが二メートルほどしかなく、190cmを超えるディナトでもギリギリなのに、それよりも大きいメトバも同行させるとなると正直無理が生じる。ましてや巨人族は高さもさることながら、体格的も他の種族より大きいため、ハッキリ言ってゲートの通過は不可能に近い。
「ポポ、メトバにこれを着けていいか?」
「兄ちゃん、それは?」
「“大きい物を小さくする”装飾品だ」
ケイが鞄から取り出したのは、ごくシンプルなデザインの銀の腕輪だった。
実はポポとメトバの感動シーンの際、皆には内緒で創造魔法で創った魔道具の一つである。使用する相手が巨人族ということから過度な装飾は一切なしと考え、機能重視としておいた。
ポポがメトバの方を見上げるとその意味を理解しているのか、ケイの前にメトバの右腕が差し出される。
ケイがメトバに礼を言ってから腕輪を取り付けてから、装着した腕輪の甲の内側部分を触れると、あっという間に三メートルもあったメトバが僅か一メートルほどの子供の背丈ぐらいへと縮む。
「メ、メトバ!?」
「ケイ、これはどいうことだ?」
「あの大きさじゃメトバはゲートを通れないだろ?だから、大きいモノを小さくすれば良いと思ったんだ」
ケイは以前島に来訪した際に、ポポとメトバはいつも一緒に行動をしていると知っていた。だからこそ彼らは今後も行動を共にするほうがいいと考える。
変わるものもあるし変わらないものもある、それは他の人からすれば些細なことだが、彼らからすればとても重要であることには間違いない。
「・・・はぁ、わかりました。ケイさん、孫とメトバの事をよろしくお願いします。ポポ、皆さんの言うことをしっかり聞くのだぞ?」
「じっちゃん・・・!うん!わかった!おいら、行ってくるよ!」
この状況にいよいよ反対し続けることが困難だと悟ったジュマは、渋々だがポポとメトバの同行を許可した。もちろん彼らの身を案じてのことだが不安は尽きないだろう。ケイ達も責任を持って二人を同行させるという約束を交わし、ジュマからもよろしくと頭を下げられる。
「ところでケイさん、大変言いにくいのですがひとつお願いがございます」
出発の際、ジュマからゲート設置場所の移動の申し出があった。
「ん?なんだ?」
「できればゲートを別の場所に移していただきたいのですが・・・」
おもえばケイ達が到着した際にポポがゲートの扉に衝突したのは、家のすぐ目の前であることから、完全に生活に支障が出るという状況を理解した三人は、あっ!と声を上げ、急遽ゲートをポポの家の裏手に移したのだった。
「ルト!ちょうどよかった!」
ポポとメトバを連れてケイ達が屋敷に戻ってくると、ちょうどエントランスで買い出しから戻って来たルトと鉢合わせをした。
「ケイさん、なにかありましたか?」
「いきなりで悪いんだけど、アカリゴケの除草剤の作り方を知ってるか?」
「アカリゴケの除草剤、ですか?えぇ、知ってますけど・・・?」
買い物から戻って来たルトは、この状況になにがなんやらと分からない様子で、ケイとアダムの後方にいる三人を見やると、その視線に気づいたケイが後ろの三人を紹介し、その素性にかなり驚く。
一人はエストアの王で、かたや他の大陸から来たホビット族と(ケイの魔法で小さくなった)巨人族だとは思うまい。またポポには、事前にディナトと同じ翻訳できる腕輪を渡しているし、ルトもポポの言葉がわからないと困るからと以前渡したブローチに翻訳できる機能をプラスさせた。
ルトにダインで起こった出来事を簡潔に説明し、アカリゴケの除草剤のことについて尋ねると、試験的だが新しい除草剤を考案しているとルトから回答があがる。
立ち話もなんですからと、ルトの提案に一同は作業場の方に場所を移した。
「えっと・・・ケイさん達の話をまとめると、巨人族にあるアカリゴケをなんとかしたい、とですね?」
「寄生というか持って生まれた体質というべきかはわからねぇけど、とにかくアカリゴケの影響で巨人族に害が発生していることは理解できるんだ」
「僕は研究者ではないので断定的な発言は難しいですけど、たしかにアカリゴケは魔素に反応する植物ぐらいは知ってます。ただそれにより巨人族に死、という概念が発生するとなると原因は他にもある気はします。ケイさんが鑑定された内容を考察すると、もしかしたらアカリゴケ自体になにか重要な役割があったのでは、と考えられるかもしれません」
ケイ達が戻る少し前、ルトは植物学に興味を持ち独学で学んだことがあった。
そのなかでアカリゴケの生態についてのある論文を読んだところ、近年になってアカリゴケは“魔素返し”という独自の生体能力を持っていることがわかった。
そもそも、ダジュールの植物のほとんどは自然界にある魔素を吸収して生育し、吸収した魔素を新しい魔素として生み出し返還する構造をしている。
それによりダジュールの植物のほとんどがこの構造をしているため、長い年月を掛けて生体が変化しているモノも多い。
しかし魔素返しは、魔素を吸収してそのまま魔素を自然界に返す意味で、そのせいかアカリゴケは何千年もその生態が変わっていないという。
ちなみに魔素返しの素質がある植物は、全国で二十数種類あると言われている。
ルトから生物学についての専門的な説明を受けたが、生物学や科学などの専門分野はちんぷんかんぷんなケイにしてみれば、酸素と二酸化炭素の違いぐらいの知識量しかわからない。
「アカリゴケは、魔素返しの影響でその生態は何千年経っても変わっていないことが最近の調査で明らかになっています。アカリゴケの働きによって、巨人族の体内の仕組みに何かしらの悪い影響が現れているとなると、巨人族の構造を調べてみた方がいいのかもしれません」
「それにより、アカリゴケとの因果関係がわかるということだね。だけどアカリゴケは独立した生体能力を持っているから、他の動植物に影響を与えることはないと認識しているが」
「一般的にはそうと言われてます。ですが、アカリゴケも他の生物同様生きています。いくら何千年経っても生態系が変わらないとはいえ、見えない部分への変化は同然あるかと思います」
常識を疑えということなのだろう。
ケイ達がいない間にかなり苦労をしていたことを聞いていたので、錬金術師の観点からなにか思う部分があったのだろう。ディナトの指摘にも臆することなく自身の意見を述べる姿は、それなりに経験を積んできた者と同じような雰囲気だった。
またルト曰く、除草剤を作ること自体に問題はないが巨人族の生体を調べないとなんとも言えないとのこと。
アカリゴケが草のように身体から出現しているとなると、普通の生育環境とは異なることは明らかで、そのための調査および試験的に薬品を投入することに慎重にならざるおえない様子で、正直な話、巨人族を造ったアスル・カディーム人の資料があればな・・・と口にする。
「ケイ、アグナダム帝国の資料はなにか持ってないのか?」
「あ~回収した資料やデータは、全てリアーナ達に任せちまったから今手持ちにない。アルバが介入すればデータを共有できるかも知れないが・・・」
アダムから回収した資料やデータに残っているアスル・カディーム人関連を調べれば何かわかるかもしれないと提案をされたが、その肝心な資料やデータは、解読のため、全部ルシオやリアーナに渡してしまい手持ちにないと言う。
しかもルシオ達は、バナハに保護をされている関係で今すぐにとは行かず完全に積んだと悟ったアダムが肝心な時に、と頭を抱える。
【巨人族の構造および複製資料を添付します。ご確認ください】
唐突にどこからか声が聞こえた。
慌てたケイ達はその声の正体を知ろうと辺りを見回したところ、アダムからケイのスマホからじゃないのかと指摘を受け、そんなバカなと思いつつもポケットから取り出し確認をする。
「差出人は・・・アルバか?」
タイミングを見計らったかのように、ケイのスマホにアルバの文字と添付された一つのファイルが表示されていた。
ルトからアカリゴケは巨人族に何かしらの原因で症状が起こっていることを指摘されます。
またアスル・カディーム人が造りだした巨人族についても目を向けるしかないと考えるが、そこに至るまでいくつかの問題があることで頭を抱えます。
そんな状況のケイ達に急遽アルバから連絡が入ることになります。
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