309、アカリゴケ
皆さんこんばんは。
いつもご高覧くださりありがとうございます。
さて今回も前回の続きからでメトバを助けようとするお話です。
ジュマに連れられ三人が集落の南側にある広場へ向かうと、心配そうに見守るホビット達と数体の巨人の姿があった。
広場といってもケイ達からすれば少し広めの空き地ほどだが、ホビット族からすれば広場という定義にあたるのだろう。彼らは一月前から交代でメトバの様子を伺い、なんとかならない物かと心配や不安を募らせる様子が窺える。
ジュマによると、赤い草の進行を遅らせるためにホビット達が数人がかりでメトバに付着している赤い草を取り除こうとしているのだが、いかんせん進行が早いようでケイ達がメトバと再会した時には身体の三分の一が赤い草に覆われていた。
「ほんとに赤い草が生えてる!ってか、これどうなってんだ?」
「原因はわかりません。さきほど申しましたように、メトバの身体をこの草が覆おうとしているのです」
「ところでジュマさん、先ほどから赤い草を取り除く作業をホビット達が行っているようですが、巨人族の方は行わないんですか?」
「赤い草は巨人族達にとって不治の病であり、過去には触れた者が寄生されるということがあったそうです。ですので、大変ではありますが触れても害のない我々ホビット族が行っております。また個々にもよりますが、これが全身に渡り覆い尽くされると、彼らでいう『死』を意味することになります」
先ほどからジュマとケイ達の会話を静観していたディナトだったが、メトバの異様な様子を前に何かに気づいたのか、世話をしているホビット達の間に割り込むや自身の手で付着している赤い草を一辺を剥がした。
「これは・・・・・・“アカリゴケ”か」
「アカリゴケ?」
聞き慣れない言葉にケイが首を捻る。
ディナトはケイ達の言葉に返すことなく、今度は別の部位に付着している藻のような赤い草を指ですくい、付着した部分を指先で確認すると「やっぱり・・・」と、納得した様子を見せた。
「ディナト、赤い草のことを知ってるのか?」
「これはエストアの高地で見られるアカリゴケだ。本来アカリゴケはエストアから東側にある山間で見られる藻のようなもので、魔素の影響で生育する植物だと言われている。人や動物には影響はないと報告を受けているはずなのだが・・・」
「いや、でも巨人族には触れると死んじまうって話だけど?」
「話から推測すると、魔素の影響でアカリゴケの発生要素を含んだ岩や鉱石などを使用し、生命生物である巨人族を造りだしたことによって不調が起こる因子を植え付けられた、という可能性がある」
ディナトが言うアカリゴケは、エストア特有のもので希に東の山間にできる泉の近くで見られることもあるという。
カテゴリー的には水草や藻草に近いそうなのだが、人体や他の動植物の影響が報告されないことからエストアでは有害植物とは認定されていない。またフリージア寄りの場所では、青や紫などの色のアカリゴケが見つかることもあるそうだ。
「なぁ、アカリゴケって岩や鉱石にも発生するって言ってたけど、それってどういう意味なんだ?」
「実は、ここ十年ぐらいで鉱石や岩にも寄生し生育することが確認されたんだ。発生条件は、エストアでも水が流れる山間や海に近い地域で目撃されることが多いため、魔素の濃度や種類が異なったモノが混じり合うことで自然発生することが学会でも発表されているんだ」
「ということはさー、岩や鉱石を媒体に生育することもあるって事だよな?その場合はなにか変化とかあるのか?」
「石や岩は急激に巨大化しそれが落石を引き起こし、鉱石は赤黒く染まると地層にも影響がおよび採掘の弊害の要因にもなるんだ」
高い山脈が連なるエストアでは、アカリゴケが発生すると落石の原因にも繋がり、宝石となる原石の採掘にも影響が出ることから、特に採掘を軸にしている彼の国にとっては経済的に大打撃を受ける要因にも直結している。
そのため、一時期社会問題となっていたことがあったそうだが、今では対アカリゴケ専用の“除草剤”というものが造られたことにより、少なくとも人が住む場所での発生はかなり抑えられている。
ただ、経緯が不確定な巨人族に有効なのかは別の問題である。
「ケイ、お前の力でなんとかできないのか?」
「この場合、怪我人を治すとかいう話とちょっと違うからな~」
アダムから提案されたケイは、とりあえずやってみるけど期待するなよと皆に念を押しメトバの前に立った。
そのやりとりを見ていたジュマが、メトバを看病している他のホビットと巨人達に少し離れるように指示をし、確認出きたところで始めることにした。
「【エンチャント・アカリゴケの除去】」
淡い光と同時にメトバの身体からアカリゴケが一斉に消失をした。
その光景にジュマをはじめとしたホビット達が驚きの声を上げ、ディナトもまた彼らと同じような表情で見つめている。
しかしその一方で、メトバの身体からアカリゴケが消失したにも関わらず、ケイの表情は晴れることはなかった。険しい顔でメトバを見つめているケイにアダムが気になることでもあったのかと尋ねると、メトバに気になる項目があると口にする。
「メトバを鑑定したんだけど、状態の項目に『アカリゴケ:0/100』って表示されてた。もしかしたらジュマの言った通り、その表示が満タンになったらメトバは人の言う死に直結するかもしれない」
「消えたんじゃないのか?」
「表面上は消したさ。だけど、巨人族がアスル・カディーム人の技術の結晶で生み出されたとなると病気とか呪いの類いとは少し違うし、恐らく最初っから使われた素材が関係しているんじゃないかと思ってる。もしその表示を消すとなると・・・」
「それこそメトバは死んでしまう、ということだな」
理論上では除去は可能ではあるが、ケイとて一般的な倫理というものはある。
さすがにポポの友人であるメトバからアカリゴケを消すとなると、素材そのものを創り替える必要がある。ただ創造魔法を駆使したとしても元のメトバに戻るとは限らない。それこそ見えない部分はケイの万能な魔法でも難しい問題になるだろう。
「ジュマ、一つ聞きたいんだが、ここに居る巨人族はみんな同じところから生まれているのか?」
「と、申しますと?」
「巨人族は人や他の種族のような繁殖行動はしない、というよりも元の構造がかなり違うのは分かるだろう?だけど、生命生物というカテゴリーだとしても、何らかの方法で彼らは存在し続けている・・・違うか?」
ケイの問いに初めは疑問を浮かべていたジュマもその意味を理解したのか、あぁ~と声を上げてから言葉を返す。
「そう言うことでしたか。たしかに彼らは我々とは異なった存続の仕方をしております。全身を赤い草で覆われた巨人は、一度死にその身が朽ちた場所から新しく生命が宿ると我々は認識しております。親が子を産み、その子が大きく成長をする、その部分では我々と大差はありません」
そっか~それじゃ・・・と、今度はディナトに向かい合いこんなことを尋ねる。
「ディナト、アカリゴケに浸食された岩や石・鉱石のせいで経済にも打撃を与えることがあるって言ってたけど、その後はどうなるんだ」
「たしかにアカリゴケの影響で落石が発生し地震に繋がる事もあるけど、それはごく短期間なものだ。それよりも鉱石採掘が厄介で、一時的に赤黒く染まってから元に戻るけど、それによって鉱石や宝石なんかは価格が極端に変動することもあるから、専門家では値付けに難儀することがあるんだ」
影響を受けた鉱石や宝石は売れないのか?と聞くとアカリゴケの影響を含んだ宝石の価値はかなり落ちるし、鉱石の方も鍛冶師からみれば全体的に扱いづらくなるそうだ。感覚的にかなり変ってくるそうだが、人によってはそれを正しい技法で対処できるという者もいるというので全くできないわけではないが、それを取り扱える人物は限られている。
「となると、アカリゴケの除草剤ってどっから手に入れてんだ?」
「大体はエストアの錬金術ギルドにお願いしているんだ。最近ではアルバラントの錬金術師が試験的に新しい除草剤を考案していると噂で聞いたことがある」
若い錬金術師のようで腕がよく実績もあると聞いた、とディナトがそこまで述べると、もしやとケイの脳裏にある人物の顔が浮かぶ。
「ジュマ、俺達一旦戻ってもいいか?」
「どういうことでしょう?」
「俺の力でメトバの状態をなんとか出来たけど、いずれはアカリゴケの影響が再発可能性はある。それにここに居る巨人族達は全員その因子を持っているみたいだから、進行を遅らせるなり他の方法を試してみてもいいんじゃないかと思ってる」
実はメトバを改善させた時に周辺にいた他の巨人達を鑑定したのだが、全員が状態欄にアカリゴケのパーセンテージが上がっていることが気になった。
もしホビット族と共存している巨人族が、同じエストアの地から創り出された生命生物だとするならば、永久にその因果からは抜け出せず、ポポとメトバのように突然、離ればなれになるかもしれない不安にホビットたちが怯えているのではと感じた。
「そのようなことが可能なのでしょうか?」
「アカリゴケの除草剤を作れる人間に相談をすれば、なにかヒントは貰えるかもしれない」
「ケイ、錬金術ギルドに問い合わせるということかい?」
「俺の屋敷にいる使用人が錬金術師だから、聞けばなにか教えてくれるかもしれねぇな~」
錬金術師をしている使用人が居ると答えると、ディナトは目を丸くしながらそんな簡単に上手くいくのかと不安げな表情を浮かべるが、ケイ自身が錬金術についてドがつくほどの素人のため、自分より専門家であるその人物に聞いてみる価値はあると言い切る。
「メトバ!!」
そんななか、突き抜けるようなポポの声がした。
先ほどケイが開けたゲートの扉にぶつかり気を失い運ばれたが、どうやら気がついたようで、メトバが回復した姿を確認するやケイ達の間隙を縫ってメトバに抱きついた。そんなメトバは、言葉こそかけることはできないが抱きついたポポの背をそっと摩る。
大事な友人が死ぬかもしれないと不安を感じていたのだろう。ポポの目から歓喜余って涙が零れ、辺りに彼の泣き声が響き渡ったのである。
ケイの魔法でメトバについたアカリゴケを除去したが、アスル・カディーム人の遺産であることから、他の巨人達も同様の要素を抱えている事が判明しました。
ディナトからアカリゴケの除草剤の話を聞いたケイは、解決するためにある人物を思い浮かべます。
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