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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
最終章・蘇った帝国と新たなる王
315/359

306、桜の(妖)精?

皆さんこんばんは。

いつもご高覧くださりありがとうございます。

さて今回はケイのある作戦が実行されます。

療養することになったタマエを医師とユイナの女中に任せ、ケイ達は一度ユイナの屋敷へと戻ることにした。


しかし戻って早々「さっそく準備してくる!」とケイが言い残し、急いでゲートの向こう側へと向かってしまい、全く行動が読めないガイナールとアサイ達は、ここで彼が戻ってくるのを待つしかなかった。


「ケイさん、遅いですね」


縁側に腰を掛けたユイナが不安そうにケイが向かったゲートの先を見つめた。


「彼のことだからきっと交渉をしているんだろうね」

「交渉、ですか?」

「うん。キキョウさんの話を聞いた時に彼らのことを思いついたんだろう」


ガイナールにはケイがやりたいことがおおよそ検討がついているようで、そう来るだろうなと予感はしていた。


元の年齢が年齢なだけに、色々と想定しているなかの一つに該当しているのだろう、その内分かるとでも言いたげな表情でユイナの様子を窺い、疑問を浮かべた彼女がどういうことなのか?と再度尋ねると、自分も会ったことはないがある人達と仲がいいと聞いたことがあると述べる。


「やはりガイナール殿にはお見通し、ということでしょうか?」

「そういうわけではないが、彼の行動を考えるとこんなことをするんだろうなと想像はできるよ」


縁側に近い座敷で正座をしたままお茶を口につけたアサイがこちらの話を聞き、感心の声を上げる。


まぁ、酸いも甘いも知りつくしている元・日本人高齢者と考えると当然と言われれば当然なのだが、そんな事実を知らないアサイ達は、付き合いが長いとそこまでわかるんだなと関心を示す。


「でもよぉ~あいつ、ちと遅すぎねぇか?」


退屈で先ほどまで畳の上で昼寝をしていたキキョウが目を覚まし、欠伸と背伸びをした後に上半身を起こした。


彼の言葉通り、実はかれこれ二時間近く経っている。


太陽はだいぶ西に傾き、夕日の色合いを見せ始め、ケイ達が来てから色々な出来事が起こった後から考えると、待ちぼうけを食らっているガイナールはかなりの時間を桜紅蘭で過ごしていることになる。


ケイはいつ戻るのだろうかとガイナールが思い始め、所持しているスマホで連絡を取ろうとした時、ゲートが開きケイの姿が見えた。


「悪ぃ悪ぃ!遅くなった!」

「結構、時間がかかったようだね」

「あぁ~あいつら今日漁に行ってたみたいでさ、かなり待ったぜ~」


やれやれと首を振るケイにやっと戻って来たとガイナールが声を掛ける。


その声に気づき、座敷からケイが戻るのを待ちわびたアサイ達が出迎える為に縁側から外へと出ると、戻って来たケイの後方に二つの人影が見え、その姿にギョッとする。

二つの人影は、頭から足の先まで全身が青色に染まり、端正な男女の顔立ちとは対照的に黒い双眼がアサイ達を見つめる。その不気味を通り越した姿になんと形容していいかわからないまま、アサイ達はアワアワとした様子でガイナールと談笑しているケイに目線を送った。


「ケ、ケイさん?この方達は?」

「ん?あ、あぁ~こいつらは人魚族で、右がヴェルティヴェエラで左がノヴェルヴェディアだ」


ケイの言葉に反応しているのか二人の人物は一礼をすると、またアサイ達の方を凝視し続け始めた。けれども表情が変わらず、そこから読み取れる情報も少ないことから、アサイ達とって未知の種族である人魚族への不気味さを感じている。


「でもこの方達をどうして連れてきたのでしょう?」

「いや、こいつらに桜の精に化けて貰ってガキ共を脅かす予定だ。ちなみに二人は、魔道船の船員をしている」


アサイ達に紹介をしたヴェルティヴェエラとノヴェルヴェディアは、ケイ達が初めてこの島に来た魔道船の船員であると説明し、同時に人魚族の若者だとも伝えた。それ以前に人魚族に他種族のような年齢が存在するかは不明だが、後にバメットから、見た目は成人の姿をしているが、中身は人の十代とさほど変わらないと聞いたことがある。


現にグドラや彼の部下であるバメットは言葉として相手と会話をしているが、ヴェルティヴェエラとノヴェルヴェディアは、カタゴトでしかも言葉の分かるケイを含めた一部の人しか伝わらない。


しかし今はそんなハンデも感じることなく、ダットを含めた船員達との意思疎通が出来ている。


魔道船で唯一会話ができるマカド曰く、確かに話す言語は異なるが、皆互いに何が言いたいのかを理解し察しているのだという。さすがのケイも実はテレパシー的な何かが働いているのか?と思わず首を傾げたことがあった。


「よく連れてこられたね」

「一応、ダットとマカドに一晩二人を借りるぞ!って言ったら、何をするつもりだと聞かれたからお化け屋敷のオバケ役と言ったら、そっか~って言ってた」

(それで彼らは納得するんだ~)


ヴェルティヴェエラとノヴェルヴェディアを連れてくる前、ダットとマカドに話を通しておいた。普通ならその話に首を傾げるはずなのだが、ダットとマカドは気をつけて行って来いと二人を送り出し、話を聞いたガイナールはそれでいいんだと別の意味で納得した。


そんなこんなで、ケイは助っ人で連れてこられたヴェルティヴェエラとノヴェルヴェディアと共に早速準備に取りかかることにしたのである。



草木も深まる時間帯、北西の平屋が連なる一角に両親と住んでいる悪ガキ兄弟の姿がある。


「にいちゃ~ん、お手洗い行きた~い」


まず目を覚ましたのは弟である男の子で、尿意をもよおしたのか隣で眠っている兄を揺さぶり起こした。

もちろん兄の方は眠いからと手を振って自分で行けと意思表示をしたのだが、厠は家の裏側にあるため、そのためには一旦外に出なければならない。

まだ幼い弟は一人で行くことがあまり得意ではないのか、何度か揺さぶられた兄は堪忍したように目を擦りながら起き上がる。


弟の手を引き平屋と平屋の間を通り裏側に回り込むと、平屋の住人用にかなり年季の入った木造の厠が建ち、木製の扉を引くと、昼間でも光が通らない造りのせいか、夜間でも大人が躊躇するほどより一層不気味さを感じさせる。


そんな不気味な厠で用を足した弟が戻ってくると、眠さのせいか兄が弟の手を引き、急いで来た道を戻り平屋の扉を開けようとしたところ、ホムラザクラの花びらが舞い踊る様子に目を奪われる。


兄弟はいつも早くに寝てしまうため、夜間で見られる光るホムラザクラを見ることがあまりなかったせいもあり、その光景に子供ながらに綺麗だと感じている。


「にいちゃ~ん、アレなに?」


家の中に戻ろうとしたところ、弟が兄の袖を引っ張りある方向へと指さした。


そちらを見やると、一瞬だけ木製の階段を下へ下り広場に向かう人影が見えた。

兄弟はその人影がなんなのかと子供特有の好奇心を募らせ、通り過ぎた人物の後を追うことにした。



島中に咲いた光るホムラザクラの花が月夜に照らされ幻想的な景色を作り出し、風と共に花びらが舞い上がると夜を一層彩るが、この日の風は少し生暖かかく不気味なほど辺りが静まり返っている。

いつもならアサイとキキョウの兵が持ち回りで島を巡回し、この時期の桜紅蘭は乾燥している日が多いことから拍子木で注意を促す音が聞こえるはずだが、なぜかこの日に限って提灯の明かりも人の姿も見当たらない。


そんな小さな疑問を疑わない兄弟は、木や柱の陰に隠れながら広場へと向かう謎の人物の跡をつける。


その人影は二人いるようで、ホムラザクラのように全身が桃色に光り、ゆらゆらと身体を横に揺らしながら遊具が設置されている広場の方へと階段を下る。


「にいちゃん、あいつなに?」

「あれは悪い奴だ!夜な夜な出てくる桜の精ってかぁちゃんが言ってたけど、あんなのウソだし、この島のヤツらはふぬけだからオレが退治してやる!」


兄である男の子が近くに落ちていた木の棒を掴み、人影を退治せんと前方で歩いている人物まで距離を詰め始める。


二つの人影は階段を下りてすぐに風で桜の花びらが舞い散ると同時にピタリとそこで足を止めた。


まるで兄弟達がついて来ていることを初めから知っているかのように、背を向けたまま微動だにせず、これ幸いと兄が階段から駆け下りこちらに向かって走り出し、後頭部目がけて木の棒を振り下ろそうとした。



「うわぁっ!」



木の棒が振り下ろされる瞬間、目の前に青い炎が通り過ぎた。


少年がそれに驚き一歩たじろぐと、手にしていた木の棒を落とした音が静寂の中で響き、今まで後ろを向いていた光る二つの影が勢いよくこちらを振り返る。


ひぃっ、と弟が小さな声を上げた。


二人の幼い兄弟の前に全身がホムラザクラのような桃色に光り、顔の造形より人の目より大きな黒い双眼がジッとこちらを見つめている。その目はまるで何処かに連れて行こうとしているのではと思わせるような不気味な表情をしている。


「に、にい・・・ちゃん」

「オ・・・オレはだまされねぇぞ!か、覚悟しろ!」


その言葉に二つの人影は、ギギギッと首を傾げて様子を窺っている。

兄弟は不気味なほど真っ黒い目に恐怖を抱いたが、兄の方はまだ退治してやる気持ちがあるぜいか近くに落ちていた小石を拾い、投げつけようと構える。


「う、うわっ!!」


人影の周辺から青い炎がひとつまたひとつと現れ、驚きのあまり兄の手から小石が落ちる。不気味な人影はその動向を目で追い観察していたが、今度はその目線が幼い兄弟に向けられる。


「お、おい!逃げるぞ!」

「に・・・にいちゃん、動けない・・・」


分が悪いと察した兄の方が戦線を離脱しようと後ずさりをするが、弟の方は恐怖のあまり腰を抜かし、兄の着物裾を掴む。

得体の知れない人影に対して二人は完全にパニックを起こしたのか、助けを求めるように兄の足にしがみつき、兄は弟の手を振り払おうとししている。


二つの人影が兄弟に威嚇するような甲高い呻き声を発した。



「「うわあぁぁぁぁぁぁl!!!!」」



その声に驚き、悲鳴を上げた兄弟は慌ててその場を離れようとしたのだが、兄は後ずさりをしようと躓き後ろに倒れ後頭部を打ち、倒れた兄の足が弟の顔に直撃し、二人は仲良く気絶をしてしまった。



「よし!作戦成功!」


木の陰からケイがひょこっと顔を出した。


周囲に隠れていたガイナールとアサイ達も姿を現し、同じようにこの辺りを巡回していたキキョウの部下たちも姿を見せる。


「おい、こいつらを運んでおけ!」

「「わ、わかりやした、兄貴!」」


キキョウが部下に気絶をしている兄弟を診療所へと運ぶように指示を出す。

部下達は横目でケイと会話をしている奇妙な人物の姿に引きつった表情を見せるが、自分たちの役割を果たすために速やかに兄弟を担ぎ運び去る。


「二人とも完璧だったな!」


ケイが桃色に光った人影に親指を立てると、キョトンとした表情でこちらを見つめ、まるでこれでいいのかな?と互いに顔を見合わせてから小首を傾げる。


「まさか人魚族を桜の精に変装させるとは想像がつきませんでした」

「桜紅蘭のおとぎ話なら二人に変装させるのが適任って考えたけど、まさか気絶するほどの事故が起こるとは思ってなかったけどな」


唖然とするアサイに予定外のことはあったが、概ねケイの想定通りになったところで、ヴェルティヴェエラとノヴェルヴェディアに変装を解くように伝える。


彼らが指にはめているエメラルドが装飾されたリングを抜くと、全身桃色から人魚族本来の青色の身体へと色が変わる。またその頭にはパーティなどで使う仮装用の鬼の角がついており、カチューシャの部分は変装に合わせてピンク色に塗装されたものを使用している。


引き抜いたリングをケイに返却すると、アサイは以前自分たちが使用していた変化の指輪だと気づき、参ったと言わんばかりに唸った。


「それは、マジックアイテムですか?」

「あぁ。以前サザンカの時に使ったやつを今回も使ったわけさ」

「ケイさんの実行力には、私も見習わねばなりませんね」


ケイの作戦に脱帽したアサイは、改めて自分の未熟さを恥じた。


もちろん、一族をまとめている若きリーダーをしているアサイが未熟だとは思ってはいないのだが、自分にはそんな斬新な発想は思いつかないと首を振る。


「あ!でも、あの青い炎はどうやって再現したんですか?もしかして魔法、なのでしょうか?」


ミナモが細部まで再現した青い炎も、まるでおとぎ話に出てくる炎と同じような雰囲気で凄いと褒めたところ、ケイは疑問を感じ首を捻る。


「あ、いやー俺がしたのはヴェルティヴェエラとノヴェルヴェディアの仮装だけだ。確かに創造魔法で火の玉の様なものは創れるけどアレはやってねぇ・・・っていうか、俺以外に魔法使える奴はいるか?」

「それはないかと。第一、我々鬼人族は魔法が使えないので・・・」

「だよな~」

「えっ・・・じゃあ、もしかして・・・・・・ほ、本物!?」


ケイの疑問にアサイが答えると、ミナモが青い顔をしその場にいる全員がもう一度周囲を見回した。


たしかにあの時、兄弟を脅かすために仮装したヴェルティヴェエラとノヴェルヴェディアの前に青い炎は現れた。しかしそれがいつの間にか消えている。


「もしかしたら、桜紅蘭にはそのような類いが実在するかもしれないね」


ガイナールの一言に、全員が身震いをしたのは言うまでもなかった。

助っ人の人魚族と大人げないケイの作戦に悪ガキ兄弟がダウン!

しかしその途中で現れた青い炎は一体何だったのでしょうか?

疑問が残ったまま、とりあえずケイのパワープレイである意味勝利を収めたのでした(笑)


閲覧&ブックマーク&感想などありがとうございます。

細々とマイペースに活動していますので、また来てくださいね。

※誤字脱字の報告、または表現の提供をありがとうございます。

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