305、やっていいこと悪いこと
皆さんこんばんは。
いつもご高覧くださりありがとうございます。
さて今回は、タマエが怪我をしたという話を聞き慌てて駆けつけるお話です。
散歩に同行していた女中の一人から、タマエが崖から怪我をした事を聞いたケイ達は急いでその場所へと駆けつけた。
場所は、島の中央部にある今は穀物庫として利用されている元・監視塔へと向かう手前の道で、その途中には西の集落へ続く北西から連なる平屋の住宅地が上下に三段ほど存在している。
途中、北西の平屋の集合地区へは緩やかな上り坂が続き、その側面は土地の関係上、崖の様な急勾配な坂が見え、平屋部分には人が落ちないよう木製の柵が設けられており、その途中に何カ所か下へと下りる木製の階段が設置されている。
しかし何故か階段と平屋側の柵の間に落下防止の処置がされていないことから、仕様かはたまた忘れているのかと疑問を感じる。
目線を更に下へと向けると、職人が造ったであろういくつかの木製遊具が配置されている広場が見えた。遠巻きでその場所を見やると、すでに事態を知った周辺の人々の垣根ができており、ケイ達が辿り着くと頃には想定よりも多い老若男女の姿が見受けられる。
「悪い!通してくれ!」
ケイ達が人垣をかき分けてその中心へと進むと、身体を横にし蹲るタマエと慌てふためいているもう一人の女中の姿があった。
「誰か医者を呼んできてくれ!」
その光景を見たアサイが人垣を築いている人々に対して声を上げると、誰かから医者を呼んできて貰っていると声が上がる。どうやらここから一番近い西の集落にいる男性医師を呼びに行ってくれているようだ。
「おい、タマエ大丈夫か?」
「うぅ・・・痛いよぉ~痛いよぉ~」
ケイが声を掛けると、タマエは落ちた弾みで何処か怪我をしたようで、しきりにお腹を押さえ痛いと大粒の涙を流して訴えている。
鑑定をかけると“内臓を損傷”しているようで、すぐさま患部に手をかざし【エクスヒール】を唱えたケイの手の平と連動するようにタマエのお腹に淡い光りが広がる。
その光景を見た人々から驚きの声が次々と上がったが、事態を重く見たケイには届いていない。
「ユ、ユイナ様!」
「話は聞きました。一体何があったのです?」
「それが、上の平屋の集合地区から西の集落へ向かう途中で急にあの子たちがタマエ様を突き飛ばしまして、それで・・・・・・」
「もしかして、あの子たちが?」
女中が指さした先には、三段目にある階段付近からこちらを見つめる二人組の男の子たちの姿があった。
ガイナールは信じられないと目を丸くしたが、どうやらこの辺りに住んでいる子たちのようで、はじめはこちらをジッと見つめていたが、アサイが男の子達を呼ぶと渋々と下へと続く木製の階段を下りてこちらへやって来た。
「君達かい?タマエを上から落としたのは?」
「うん。そうだよ」
「ここから落ちたら最悪死ぬかもしれないのは分かっているよね?」
「うん。でも、大人達はみんな言ってるよ?“罪人の子供は不吉”だって。だから僕たちがやっつけたんだ!」
紺色の着物を着た少年が、まるで化け物退治が成功したと言わんばかりに横柄な態度を示すが、完全に発想がサイコパスだということは恐らく誰が見てもそう断言できるだろう。
傍にいるもう一人の黄色の着物を着た男の子も、怪我をしたタマエのことなど知らぬ存ぜぬといった態度で、つまらなそうにアサイの言葉に耳を傾けている。
外見を見る限りタマエと同じか少し年上の子供のようで、言って分からない年頃ではないと思うが、その態度に鬼人族の教育に疑問を抱く。
「おめえらもこいつらと同じ事考えてんのか!!」
男の子たちの態度に、今度は青筋を立てたキキョウの怒声が辺りに響き渡る。
体格が大きく辺りの空気を張り詰めさせるような声の上げ方と、成人男性のその迫力たるや民衆が一斉に肩を振るわせ、慌てたミナモとユイナがキキョウを宥める。
一歩間違えれば死んでいたかもしれないのに、その場にいた大人達が子供に注意しないという状況にガイナールは疑問を浮かべた。
「おまえらあんまりイタズラしてっと、もしもの時に誰も助けてくれず悪いヤツらに連れ去られちまうぞ?・・・・・・痛って!!」
「バーカバーカ!そんなワケねぇだろ!大人は全員ふぬけだし悪いヤツらは全部俺が退治してやる!いくぞ!」
「うん!」
ケイが二人組の男の子たちの前で屈み、諭すように声を掛けると何を思ったのか、紺色の着物を着た男の子が、ケイの脛を蹴り上げる。
男の子は、脛を押さえ蹲るケイに対してオレに指示するなと言わんばかりに悪態をつき、黄色の着物の男の子を連れてバタバタと走り去る。
「ケ、ケイさん!?大丈夫ですか!?」
「大丈夫じゃない・・・あんのやろ~本気で蹴飛ばしやがった・・・・・・」
アワアワするミナモに声を掛けられたものの、ケイは想定以上の蹴りが入ったのかあまりの痛さに悶絶する。
「アサイ様!」
男の子たちと入れ違いに一人の女性が慌てた様子でこちらに駆けつけた。
どうやら二人の母親のようで、近隣の住民から事の顛末を聞きやって来たようで、アサイの前で立ち止まると申し訳ないと子供の非礼を詫びた。
「また、あなたのところお子さんが事を起こしましてタマエが怪我をしました。幸いにも医療に精通している方が処置をしてくれましたが、何度注意をしたら聞いて頂けますか?」
「大変申し訳ございません。ですが・・・」
女性が言葉を区切り頭を上げ、アサイを見据えてからとんでもない事を口にする。
「たかが子供のした事ではないですか。それに私が注意しても聞かないので最近は諦めております。いずれ分かる日が来るかと思いますので、それまで暖かい目で見て頂けないでしょうか?」
「貴女はご自分が何を言っているのか分かっているのですか!?子供のした事?タマエは怪我をしたと言っているのです!平屋の三段目の坂から落ちたと女中から聞きました」
「でしたら階段付近にも柵を設けたらどうですか?族長という身分でありながら、いつまでもウチの子供のせいにしないでください!」
子も子ならその親も同類と言うのだろう。
初めは謙虚に謝罪の言葉を述べたが、子供の性格なのか注意しても聞かないと母親自身も諦め、開き直っているところがある。しかも、よりにもよって島の整備不足は族長の責任となすりつける。
その様子に鬼人族はプライドが高い種族なのだろうかと、端から見ていたガイナールが首を傾けたのだった。
あの後、母親の話しぶりから埒が明かないと会話を切り上げたアサイは、その後呼びに行った島民と共に医師が駆けつけその対応に追われた。
西の集落に診療所があるのでそこへタマエを運び、診断の結果、ケイの迅速な対応のおかげで事なきを得たが、体力が消耗しているようなので一日ここで様子を見ようという流れになった。
「この方のおかげでタマエ様は無事だったと言っても過言ではありません。普通でしたら助からなかった可能性もあるでしょう。いずれにせよ私自身、今回のことで医療としての見識を広めるべきだと痛感いたしました」
対応してくれた医師は初老の男性で、代々医師の家系だという。
ケイが魔法でタマエの内臓損傷を治したと答えたところ、桜紅蘭の医療では聞いたこともないと目を丸くさせ、それどころか他の大陸から来たことを伝えると、医療や特に治癒魔法の事について興味を持った様子で、特に国に詳しいガイナールに色々と尋ねていた。
「ところで、桜紅蘭の子供ってみんなあーなのか?」
「あ、いや、そういう子たちばかりではないんだ。他の子達は皆人の話を聞いてくれてね。あの子達は、なんというか~ヤンチャ?みたいなところがあるんだ」
アサイ曰く、先ほどの子供達は桜紅蘭の中では悪ガキに分類されている子たちで、周りの大人も手を焼くほどの暴れっぷりを見せることがあるらしい。
もちろん桜紅蘭にも学校のような場所で学問所という学びの場所はあるが、例の子供達は、学問より力が全て!自分が最強!こわいモノなどない!と思っている節があり、あまり行っていないと聞く。
しかもその両親は揃いも揃って気が弱く子供に押し切られる場面が多々あり、話し合いの場を設けては、煩いと駄々をこね、他の大人達に暴力を振るうといった粗暴まで見せている。
ここまで聞くと本人達の性格が悪いのか、はたまた両親の教育にも一因があるのかと首を傾げるしかないのだが、いずれにせよ族長であるアサイの悩みの種にもなっているようだ。
「っていうかさ~あのぐらいの子供なら『悪いことばかりしてるとオバケや鬼が連れ去ってしまうぞ!?』ぐらいの話で通るんじゃねぇの?」
「だとしたら、そもそも鬼人族は鬼だから鬼が連れ去ると言ったら別の意味になるんじゃないかな?」
ガイナールの指摘にあちゃ~と頭に手を当てそうだった!と言うケイに、そう言えばとキキョウがある話を口にした。
「そういや~俺らの子供の頃に“桜の精”の話があったな~」
「桜の精?」
「あぁ。悪い事ばかりしている子供の前に夜な夜な桜の木の下から、青い鬼火を連れた全身桃色の黒目をしたノッポの精が現れて、悪い子を連れ去るって話だ」
桜の妖精のことだろうか?話を聞く限り、妖精というより妖怪の類いに分類されるであろうその話は、桜紅蘭の昔話のなかでも有名な話らしい。
「そういえば、そんな話があったね。小さい頃のキキョウはその話が苦手で、よくお漏らしをしていたこともあったよ~」
「お、おい!?アサイ!?」
それを言うなとキキョウが慌てアサイの口を塞ぐと、お兄様にも怖いモノがあるんですねとミナモとユイナが微笑ましい表情を向けている。
「桜の精・・・・・・昔話・・・・・・怖い・・・・・・」
「ケイ、どうかしたのか?」
「あ!そうだ!良いこと考えた!」
キキョウから話を聞いたケイが何かを考える素振りをするや、急に思いついたのかハッとした表情で声をかけたガイナールの方を向く。
「えっと~参考までに聞いていいかい?」
「脛蹴ったガキ共を徹底的に泣かせる方法」
ケイは、脛を蹴られたことを根に持っているのか不気味な笑みを浮かべている。
それを見たガイナールは、大人げないなとため息をついたが、後々まさかあんなパワープレイをしてくるとはこの時誰も想定していなかったのだ。
タマエに怪我をさせた男の子達は悪びれる様子もなく、その母親も子供がしたことと責任をアサイになすりつけようとしています。
また脛を蹴られたケイは憤慨し、あることをしようと企みます。
果たしてどうなることやら~
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