303、ゲート改良
皆さんこんばんは。
いつもご高覧くださりありがとうございます。
さて今回は、ケイはとある作業を行いガイナールにある提案をします。
果たして上手くいくのでしょうか?
その後、会議自体はつつがなく進行し終了した。
各国が復興に力を入れつつ互いの国を支援したりと、スケジュール的にはかなり厳しさを感じるものの、ガイナールを筆頭に今後のために、まずは大陸外に存在する他種族との話し合いの場を設けることから始めようという結論に至る。
「ケイ、ちょっといいかな?」
会議室として使われた部屋から通路に出たところで声を掛けられた。
振り返ると、その相手はルラキを連れたマライダの王・・・もとい女王のマーダ・ヴェーラで、前回あった時より伸びた黒髪に外交用と思われる裾の長い黒い服装を身に纏っているせいか、より一層女性らしさが窺える。
「おぉ!マーダとルラキか!」
「ご無沙汰しております。ケイさんもお変わりなさそうで何よりです」
「本当に久しぶりだな。婚礼の儀以来になるが、あの時は忙しいところ来て貰って感謝しているよ。ところでアレグロとタレナのことなんだが・・・」
久々の再会に笑顔を見せたルラキとは対照的に少し言いづらそうな様子のマーダに、なんとなく察したケイは簡潔に二人のその後の様子を伝えると、実はガイナール経由で状況を聞いていたようで、特にアレグロに対して不安の色を隠せない様子だった。
「実は私の護衛をしていた時から、アレグロが度々体調を崩していたことがあったんだ。今、思うとそれが前兆だったのかもしれない」
「まぁ結果的にアレグロは本来の身体に戻ることができたけど、あれじゃとてもじゃないが連れて帰るのは体力的にも無理だったから、今はウェストリアで静養させてもらってる」
「二人が無事ならそれでいいんだ。ターニャやカブリコフがかなり心配していたようだから安心したよ」
マーダの話では、ケイ達に同行するため彼女の元を去った二人の後任である、後輩のターニャとカブリコフがかなり心配していたという。
特にアレグロの部下だったカブリコフは、度々体調を崩していたアレグロを心配してマーダとルラキに相談していた事もあったそうだ。しかし、いつも護衛として彼女と行動していたと記憶しているがその姿が見当たらない。
ケイがそれとなく訪ねてみると、マライダも大騒動時に発生した地震の影響が少なからずあったようで、その対応にターニャとカブリコフが追われていると聞き、だから今回はルラキだけなのかと納得をする。
「やはり二人を君に託したのは正解だった」
「それもガイナールから聞いたのか?」
「あぁ、情報共有させて貰っている。でも、まさか二人が1500年前に存在していたアスル・カディーム人だったとは思わなかったが、それでもケイに頼んで本当に良かったと思っている」
「だといいんだけどな。俺も想定してなかったし、これからが正念場だと思ってる」
先ほどの会議でもガイナールが述べていた通り、今後は大陸外の種族との関係や在り方を考えていくべきだと感じている。
もちろんこのまま我関せずも考えはしたのだが、海を隔てる結界がなくなった以上、ルフ島に割と近い桜紅蘭や他種族、主にアグダル人(現・エルフ族)に警戒を示している精霊族など多種多様で、今後このことを考えると先手を打つ必要があると感じる。
またその件に関してケイも思うところがあったようで、あとで個別にガイナールと話し合いの場を設けようと考えていた。
その後マーダとルラキと少しばかり談笑をしていたが、一国の主というのはかなり忙しいのか次の予定のため二人とはここで別れた。
召集会議を行った日から数日が経ったある日の昼下がりのこと。
この日ケイは、エントランスの階段付近に設置してあるアダムの借家へと繋がるゲートの前である作業を行っていた。
「ケイさん、ガイナール様がお見えになりました」
「あ、もうこんな時間か?そのまま入って来いって言っといて!」
「悪いけど、もうお邪魔させて貰っているよ」
エントランスで作業をしているケイにローゼンが声を掛けると、その後ろをついて来たようでガイナールがひょこりと顔を出した。
作業の手を止め振り返ったケイは、彼の服装が麻のシャツと一般的な茶色のズボンととても国王には見えない装いで、しかも護衛も兼任しているウォーレンや補佐役のフォーレの姿がないことに大層驚き、大丈夫なのかと疑問を浮かべる。
「あれ?一人で来たのか?」
「あぁ、フォーレは私の代行で仕事をお願いしている。ウォーレンは・・・まぁ、ご想像に任せるよ」
あ・・・撒いたな、と察したケイはそれ以上の追求をしないまま再び作業に取りかかる。
「ところで昨日言っていた“試したいモノ”は、コレのことかい?」
「そうそう!今まで行った大陸にもうちょっと早く着けんもんかと思ったらさ、いいもの設置してたの忘れててさ~ならそれを利用しようって考えたわけ!」
実は、昨日の夜に《試したいことができたから時間があるとき来い》とガイナールにメッセージを送っていた。
まさかその次の日に行くと返信があったことには驚いたが、彼に簡潔にゲートの事を説明すると物珍しそうに扉に顔を近づけて観察している。
「この扉で離れた場所でも瞬時に行けることには驚きだよ」
「えっ?ってか、この世界って瞬間移動の類いってないのか?」
「ん~文献にそれに近い内容は記されていたけど、正直な話、実際に試せるほどの技量を持ち合わせた人がいなかったからあくまでも推測になるだろうけど、それに解釈がかなり難しいが、私が思うに地球とは異なった部分である“魔素”が関係していると思っている」
ガイナールの話では、ダジュールにおける時空を司る魔法はいくつか存在はしているが、魔術学的な解釈として以下の二つが考察されている。
① 人体を一度消滅させ、魔素を用いて再度人体の再構成を行う。
② 魔素を用いて時空を切り裂き、別の場所とつなぎ合わせる。
この世界の時空魔法の論文によると、ファンタジー小説にあるようなパッと消えて別な場所に現れるという魔法は、ダジュールの現実ではかなりグロテスクな技法であることが語られている。
特に①の技法は、この世界の人々は誰しも魔力を持っており、一部の人間を除いては魔素に適応できる身体というのが一般常識として認識されている。
それをあえて魔素を遮断し、自身の身体を細胞レベルで一旦バラしてから別の場所で再構築させるという技法になるのだが、実はかなりリスクが高く命を落とす者もいたらしい。
ちなみに先ほど一部の人間を除いてという言葉があったと思うが、これは病気をしたため魔力を持つことができなくなったベルセ・ワイトや、生まれつき魔素を吸収しすぎたため、身体が上手く適応できなかった体質改善前のマルセール・サン・ルーヴァンリッヒが上げられる。
特にベルセの場合、元・日本人という謎の補正がかかっているせいか、魔力がなくてもダジュールでは生きていけるらしい。
「離れた島にも瞬時にたどり着けるのなら、時空を一時的に歪ませて再度つなぎ合わせる技法、ということになるのかな?」
「あ?あーたぶんそれに近いんじゃねぇ?俺の場合はこの扉にマップスキルを一部組み込ませているから、それを元に仕掛けを調整すれば、瞬時に他の島に行けることはできる」
サラッとケイは説明をしたが、理論的に述べろと言われるとかなり困る。
普通なら突っ込まれるところなのだが、相手は元・日本人であることから阿吽の呼吸ということなのだろう。ガイナールも魔法については知識としては知っていても専門的に説明されてもあまりよく分からないのでそこは察しているようだ。
「ということなら、はじめに行くところは決まっているっていうことかい?」
「あぁ。まずは桜紅蘭から目指した方が良いかもな。あそこは生活様式が江戸っぽかったし、鬼人族は頭に角は生えているけど見た目は人間だから、最初としては取っつきやすいかもしれない」
「だとしたら、逆に島国という閉鎖的な環境ゆえにどの程度打ち解けるかどうかというのが課題になるね」
ケイが改良していたゲートは、前の一般的な扉より幾分立派に変わっている。
扉は金色に縁取られた映画館のような重厚な二枚扉の見た目で、取っ手もそれに合わせて金色の丸型へと変更されている。オシャレと言えばオシャレになるのだが、ガイナールがある一点に気づき興味深げにケイに尋ねた。
「ケイ、右の取っ手の上についているダイヤルはなんだい?」
「これは他の島ごとにダイヤルを設定して、上の逆三角形の印に合わせてから扉を開けるとその島に行けるようになる仕様にする予定だ」
「ということは、この花のマークを合わせると桜紅蘭に行けるということかな?」
「あぁ。将来的には今まで巡った島全部を登録する予定だけど、まぁ今は試作になるな~」
作業をしているケイの背後から覗き込むと、ダイヤルの上の部分に桜のレリーフが飾られていることから、おそらくこれが桜紅蘭の印にあたるのだろう。
ケイが扉の前でガチャガチャと作業をしている様は、まるで町工場の見習い青年のようだ・・・などとガイナールが思ったのは内緒の話。
「・・・・・・よし!これで一応完成だ!」
一仕事終えた様な表情でケイが立ち上がった。
ガイナールが来てから三十分ほど時間を要したが、その時間の大半が、どうせなら見た目をゴージャスにしたいというケイの要望が詰まった立派な二枚扉が階段近くの壁に設置されている。
まぁこれから戻るであろうアダム達がこれを見たらなんと言うかぐらい想像がつく。
「ゲートは完成したのかい?」
「あぁ。ダイヤルを桜紅蘭に合わせたから、あとは扉を開けるだけだ」
意気揚々とするケイにその工程の疑問が解消されないガイナールと反応は様々。
とにかく一度様子を見ようとケイが扉に手を掛け押し開けると、花の香りと共に淡いピンク色の小さな花びらが屋敷の中へと吹き込み、扉の奥に広がる桜の巨木が二人を迎えている様な気がした。
「これは、桜か?」
「桜紅蘭のホムラザクラだな。昼間に魔素を吸収して、夜に光る桜だとよ」
呆気にとられるガイナールを余所にケイが辺りを見回すと、どうやらゲートはユイナの屋敷の庭先に辿り着いたようで、桜の巨木とは逆にある屋敷を見やると、縁側でユイナと屋敷の女中とおぼしき二人が呆気にとられた表情でこちらを見ていた。
「「きゃああああああ!!!!!!」」
ユイナの姿を見つけたケイが声を掛けようとした瞬間、女中の女性二人がケイたちに驚き劈くような悲鳴を上げた。それからすぐに、駆けつけた島の男衆に囲まれるというピンチを迎えるとは、ケイとしても想定していなかったのである。
元はアーベンにある借家に繋がるゲートを屋敷に設置していたケイは、それを使って各島に瞬時に行けないかと調整をしました。結果的にゲートは桜紅蘭のユイナの屋敷前に辿り着きましたが、屋敷の女中に不審者として声を上げられ逆にピンチを迎えます。
さて、どうなることやら。
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