302、召集会議
皆さんこんばんは。
いつもご高覧くださりありがとうございます。
さて今回は、ケイ宛てにガイナールから手紙が届くところから話が始まります。
それから、ガイナールが屋敷に訪ねに来てから二日後のこと。
この日の昼下がりに庭でブルノワと少佐を遊ばせていたところ、ケイ宛てに一通の手紙が届いた。
手紙の裏には金薔薇があしらわれた刻印が入っており、ヴェルハーレン家からかと封を開け確認したところ、明日召集会議を始めるので出席してほしいという旨の内容だった。
ケイは随分急だなと眉をひそめたが、実は予め決まっており、二日前に訪ねた時には概ね決定していたとなると、あの言葉は最終的な合意だったのではと理解したところで、してやられたと頭を抱える。
手紙の内容から、してやったりのガイナールの顔が浮かんでいるように見え、ケイはなんだか癪であるが仕方がないと諦めるしかなかった。
しかし今回はケイ一人で向かうことになりそうで、先ほどアダムに連絡を入れたところ、しばらく村に滞在しなければならない事情ができたそうだ。
アダムの話では大陸騒動後、地震の影響で村の倉庫が一部倒壊した。
幸い完成したチーズを運び出した後だったため被害はなかったが、倒壊した場所の後片付けなどがあるため、特に若い手が必要なことからせめて片付くまで残って欲しいと言われたそうだ。
その時こっちは気にするなと伝えたが、一人で居ると何をするか分からないから、なるべく早く戻るとアダムに返され、お前は俺のオカンか!とツッコミを入れたくなった。
シンシアとレイブンもまだ戻ってはおらず、ガイナールの話ではダナンの住民に怪我はなかったが、住宅地の一部が地下遺跡の真上にあることから倒壊し、その対応に追われている。ましてやダナンは大陸全土の物流を大部分担っていることから、その影響がかなり大きく、しばらくそちらにかかりっきりになるだろう。
いずれにせよ当事者であるメンバーはケイ一人になることから、明日は大変になるなと、手紙を手に一人ため息をつくしかなかった。
翌日、ケイはブルノワと少佐をローゼンに任せ、一人アルバラント城に赴いた。
正門で警備をしている兵に手紙を見せ、話は聞いていると案内される途中で大陸大騒動の影響により城の一部が崩壊し、何人もの兵が後始末をしている場面に遭遇する。
「大陸大騒動の影響はかなり深刻なのか?」
「えぇ。これでもアルバラントは軽度な方で、一番深刻だったのはミクロス村だと聞いています」
「えっ?ミクロス村が?」
「聞いた話では村が丸ごと崩落したそうで、村としての機能はほぼ絶望的だと言われてます。幸い村人全員が脱出した後で難を逃れているそうですが、しばらくはバナハにある仮住居での生活が続くそうです」
案内人の兵士である男性に話題を振ると、何処の国でも後始末の対応に追われているようで、特にミクロス村は被害が大きく、村としての再建は絶望的だろうとのこと。
またリコリスの実で生計を立てていた部分もあったが、村を包み込むように存在していた森も丸ごと地下遺跡に飲み込まれたようで、村人達はその事実に落胆の表情を隠し切れたかったそうだ。
兵士の男性と話の話題で盛り上がりながら、各国の要人が集まる会議室とおぼしき部屋の前までやって来た。
兵士の男性によると一月前から準備を進めていたようで、ちょうどケイ達が大陸に戻って来た時からすでにガイナールの中では計画として進んでいたのだろう。
ケイはどこまでも用意周到だなと尊敬半分呆れ半分で何度目かのため息をついた後、案内をしてくれた兵士の男性に礼を述べてから入室をした。
重厚な木製の二枚扉をくぐった先には、奥へと続く白無地のテーブルクロスがされた長テーブルに左右対称に配置された椅子には、この状況にも関わらず忙しい合間を縫ってやってきたであろう各国の要人がすでに着席し、また今回はアルバラントの領主をしているマイヤー・クレイオルも同席している。
「ガイナール、お前用意周到じゃねぇか~?」
「ふふっ、気に入ってくれて嬉しいよ。こちらも色々と準備や段取りに時間がかかったからね。君が来てくれるとこれからの議題もスムーズに進みそうだ」
「はぁん!よく言うぜ!こっちは昨日テメェんとこから手紙来て知ったんだが?」
「事前に話はした、とこちらは記憶しているけど?」
入室して早々、皮肉めいた物言いをするケイと奥の席で笑みを浮かべたまま受け答えをするガイナールのやりとりに周りは唖然としたが、まさかこの二人が日本という同郷で、かたや九十代で大往生した元・会社経営者だとは誰も思うまい。
見かねたウォーレンが間に入り宥めると、ケイはガイナールの対面に配置されている席へと腰を下ろす。
「さて、議題に入る前に君に少し説明をさせてほしい。実はパーティ・エクラが大陸外に点在している他の種族とのやりとりを他国の代表達に情報として共有させてもらった。この大陸以外にも他種族が存在する島国が点在しているとなると、我々の判断だけでは跡地であるアグナダム帝国の今後の対応は難しい」
「で、俺達に他種族との間に入って存在の認知・情報共有を取り持って貰いたい、ってわけか?」
「あぁ。一筋縄ではいかないことは重々承知している」
ケイから異なった文化を持つ種族が存在し、彼らから見聞きした歴史の一端を情報として伝えられていたガイナールは、当初このまま関わることなく区別する生活を続けた方が良いと考えていた。
下手に交流してしまえば新たな火だねを起こす可能性もあり、世界大戦以上の混乱を招きかねないと感じていたものの、後にケイ達がアグナダム帝国の跡地を発見してからはその考えも出来なくなったと思い悩む。
いずれにせよ、大陸に点在する女神像の謎を解いた時点で、遅かれ早かれ大陸外に住む他種族との接触は避けられないことを意味し、今後の展開に唯一他種族との交流があるケイ達に協力を願うことになる。
「言うのは簡単だが、実際問題難しいぞ?なんせ、1500年以上前にこの大陸の祖先が行った愚行がいまだに根深いからな。特に精霊族はエルフ族の祖先であるアグダル人にかなり恨みを持っている。まぁ精霊魔法維持のために乱獲してきたって話だったから、そのあたりは時間がかかることは想定の範囲内だろうな」
ケイの説明に向かって右側に着席しているハインの表情が変わる。
彼はエルフの里の長であり、エルフ族としては争いを好まないという特徴があった。しかし実際は、祖先のアグダル人は自分たちの利益のために精霊たちを乱獲し、その血脈を維持してきた事実を知ったことから顔を青くさせながら、ケイの話に耳を傾けている。
見かねたマライダの国王であるマーダ・ヴェーラが隣に座っているハインに声を掛けるが、相当ショックだったのかコクコクと頷き、力ない笑みを浮かべて大丈夫だと意思を示す。
「あと、一番の問題は“言葉”だろうな。1500年前の全域で起こった大戦以降は各島国とのやり取りはなかったようだし、言語についても種族ごとに違ってる。もし交流するとなったらそのあたりをどうクリアするかが問題になる」
「我々の共用語とは異なっている部分のことだね。そのあたりは私たちの方も頭を悩ませているよ。ちなみに参考までに聞きたいんだが、ケイ達はどうやって各種族との対話を実現させたんだい?」
「・・・・・・・・・さぁ~?」
根本的な疑問を提示したガイナールにケイは疑問がついた返答をする。
場の空気が一瞬で凍るのを感じるが、ケイは気にせず出された紅茶に口をつける。
というのも、最初に向かった桜紅蘭の時点でなぜかケイ以外のメンバーも言葉を理解できていたのである。その理由を述べろと言われても当事者であるケイ達も首を傾げるしかない。
「んーあくまでもこれは私個人の意見だが、1500年前の歴史の謎に迫った時点で、パーティ・エクラに何かしらの現象が発生・付与されていたのかもしれない。例えばアグナダム帝国の秘密に触れた段階で歴史の当事者として認識されていたとか、あるいはアグナダム帝国の王の権威がケイに譲渡され、それに携わる関係者として他の仲間達も異国民の言語問題を超越した、とか」
ガイナールの意見に王の権威を譲渡?と首を傾げたケイだが、ふと腕にはめられたヒガンテの腕輪を見やる。
イシュメルによると、父であるシャーハーン王がしていた腕輪だと証言していた。
本来であればその腕輪は息子であるイシュメルが引き継ぐのだが、未だにケイの手にあることから、バナハの試練の塔で腕輪を発見した時点でシャーハーン王は遠い未来にこうなることを想定して託したのではと、そんな考えを抱く。
それに歴史の隠蔽を施すためにアニドレムとしてダジュールにやって来たメルディーナは、シャーハーン王の亡骸を魔王としてよみがえらせたことから更なる混乱を招いた。
しかし魔王として蘇ったシャーハーン王はその時まだ自我があり、最後の最後に自分の意思で残った試練の塔に腕輪とヒガンテを置き討たれた。
全てが解明されたわけではないが、跡地となって出現したアグナダム帝国も残されたまま息を吹き返したアスル・カディーム人も、結果的に今を生きることになる。
そうなると一国だけの問題ではなく、ダジュール全体の問題だという事を認識しなければならない。
もし仮にこの腕輪がケイを認めているのだとしたら・・・と考えた時、イシュメルの事を考えるとなんとも言えない複雑な感情が、ケイの胸の内に広がっている気がした。
「ガイナール、アグナダム帝国に関して大陸以外の異種族に話し合いの機会を設けたい意味は分かった。だけど俺らだけで全て賄えはちょっと無理じゃねぇ?」
「もちろん君達だけに任せるわけにはいかない。実は以前から話し合いを何度か行っていて、各国に協力を募って復旧と情報収集などに分かれることになったんだ」
どうやらアグナダム帝国の完全浮上の報告を受けた各国の代表たちは、ガイナールを始めとして各々その業務を分担することに決めたそうだ。
そちらに関しては、実際にやってみないとわからないということで多少の修正や編制変更の可能性を残している。
「そうそう!それから君が大陸外の島国を訪問するのであれば、私も同行しようと考えているんだが・・・どうかな?」
突然のガイナールの発言に全員が一斉に彼の方に注目する。
特に傍に立っていた執事兼護衛のウォーレンが、聞いてないとばかりに目を見開き唖然とした様子で着席しているガイナールを見やるが、もちろんその様子から思いつきでの発言ではないことはケイにはわかっている。
「いや~あんた、国の仕事はどうすんだ?」
「それならマイヤーに代理と了承して貰ったよ」
ガイナールの左隣に座っているマイヤーはニコニコと笑みを浮かべ、ウォーレンはいつの間にと本当に何も聞いていないようで、一人面白変顔大会が始まっている。
一国の主がそれで大丈夫なのかと不安を抱いたが、それも言動を見る限り以前から決まっていたのだろう。
ケイ達だけで各島にいる人々を説得するのは出来ても、あくまでもケイ達は橋渡し的な役割になるだけで、実際には異なる人種同士の信頼関係を築けなければ話が進まないと理解している。だからこそ、ガイナールの中では国の代表として各々対面したいと考えた結果なのだろう。時間はかかるが信頼の土台作りは必須故なわけである。
もちろん通常なら行き帰りだけでも日数がかなりかかってしまうのだが、ケイのことを知っているガイナールは、その術も持ち合わせているであろうと含みのある笑みを向ける。
それを察してか、ケイはなんだかなといった微妙な表情でガイナールの意図していることを理解し、カップに残った紅茶を飲み干したのである。
無茶振りガイナールにため息しかでないケイ。
どうやらアグナダム帝国の跡地が出現し残ったことで、大陸以外の種族との交流や情報収集を考えているガイナールにケイは一定の理解を示します。
しかし手を付けるところが多く、悩みの種となっているようす。
閲覧&ブックマーク&感想などありがとうございます。
細々とマイペースに活動していますので、また来てくださいね。
※誤字脱字の報告、または表現の提供をありがとうございます。




