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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
大陸編
31/359

29、シンシアの昇格

今回と次回は、ケイの暴走話。

最初の犠牲者(?)はシンシアに決まりました。

「どうしよう、困ったわ~」


アーベンから戻って数日が経ったある日、シンシアが外出から宿屋に戻ってきたと思ったら困った表情をしていた。

「おかえり~・・・ってかシンシアどうした?」

「さっきギルドに寄ったんだけど、昇格試験の話をされちゃって・・・」

椅子に座りため息をつく。

その様子に「ふ~ん」とケイが返し、タレナが用意した食事を食べ続ける。

この日ケイは、遅く起きたため朝食を食べ損ねたのだ。タレナが料理人のドルマンに調理場を少し借りたいと申し出て、出来た料理をケイに出す。

パンとサラダに、ケイから預かったレッドボアの肉を焼いたものである。特に肉に関してはうるさく、焼き加減はミディアムレアを所望した。

「その肉、生じゃないの?」

「俺はこれが普通!」

この世界の肉焼き加減は、レアかミディアムかベリーヴェルダンの三種類しかない。地球という焼き加減が多才な世界とは違い、お腹に入れば何でもいいという人間が多いからだ。

焼く際にタレナに説明したところ、案の定「若干赤身が残りますが、本当によろしいのでしょうか?」と不安な表情で返されたのは言うまでもない。


「昇格の話が出ているのにため息つくなんて、おかしな話ね?」

ケイの隣で、アレグロが不思議そうな顔でシンシアを見つめる。

「いきなりCランクに上げるから受けておけってギルドマスターに言われてね。こうなるんだったらレイブンについて行って弓の調整するべきだったわ」

テーブルに伏せて自責の念を込めた。


ここにいないアダムとレイブンは、武器の修理や調整やをするためアルバラントの鍛冶ギルドに出かけている。

アーベンには武器屋はあるが修理や調整などができる鍛冶師がないため、ケイ達はその間、冒険者家業はお休みにしている。


「タレナは槍の調整をしなくていいの?」

「私は修復系のスキルがありますし、調整は自分でできますので・・・」

タレナのように、希に修復系のスキルを持っている人は鍛冶屋に頼らずとも自分で修復・調整が出来るため鍛冶屋の頻度はかなり低い。

「だとしても、行くことはあるんでしょ?」

「マライダにいた頃はお世話になりましたが、自分でもやってみようと思い通い続けているおかげで鍛冶屋のお墨付きを頂きまして、今ではその必要性はあまりなくなりました」

そもそものきっかけは、槍が破損した時に「自分でもできるといいのに」という思いから鍛冶屋の亭主に相談。時間の合間に指導を受け、関連書籍を読みあさり一年後には免許皆伝まで到達したそうだ。

一人前の鍛冶師になるには、最低でも十年はかかると言われる。しかしもともと素質があったのかメキメキと上達、プロ形無しである。

「熟練度ってどんぐらい?」

「さぁ?どうでしょう?」

タレナに了承を得て、ケイは鑑定をしてみることにした。その結果、装備修復スキルがLv8になっていたため、思わず飲んでいた水を吹き出してしまった。

「そんだけレベルが高けりゃ、アダムとレイブンの武器を見てやった方が早かったんじゃねぇの?」

「特に話題を振られなかったので・・・」

さらっと流すタレナに、さすがのケイもこの場にいない二人に少し同情した。


「シンシアさん、私でよければ弓を見せて貰えませんか?」

「え?いいけど」

シンシアから受け取った弓を確認するタレナ。その姿は女鍛冶師と言ってもいいほど様になっている。

真剣な表情で「ここはこうで・・・」とか「ここはこっちかな?」と試行錯誤をしばらく繰り返していた。

一段落ついたのか、タレナは弓をシンシアに返した。

「一応、一通り見て目立つところだけを手直ししました。確認のために試し打ちをお願いしたいのですが・・・」

そうは言ってもここは宿屋である。室内でやるわけにもいかず、四人は冒険者ギルドにある訓練場に足を運ぶことにした。



ダン!と音を立てて矢が的に突き刺さる。

三人は冒険者ギルドの訓練場の一画で、シンシアの試し打ちに同行した。

「シンシアさん、何か違和感はありますか?」

「そうね~上の部分が少し重い気がするわ。打てないワケではないけど、重心がブレる気がするの」

「やっぱりそうですよね。肩が少し上がり過ぎてますし、重心を少し下にしましょう」

弓を片手に二人はあれこれと話し合いをしていた。当事者として妥協できない部分があるのか、ケイとアレグロは完全に蚊帳の外状態である。

「ヒマね」

「俺ら居なくていいんじゃないか」

離れたところで見ていた二人がため息をつく。専門的なことがわからない二人にとってはつまらない時間になっている。


「シンシアさーん!すみませーん!」

受付嬢のミーアが訓練場に姿を現し、シンシアに声を掛ける。Cランクの昇格試験の日程について話し合いたいという内容だった。

「お時間は取らせませんのでよろしいでしょうか?」

「えぇ。大丈夫よ!」

「それでは、戻ってくるまで最終調整をしておきますね」

「ごめんタレナ!よろしくね!」

シンシアから弓を受け取ったタレナが、笑顔で見送る。



アレグロとタレナは、既にマライダで冒険者として登録をし活躍していたこともあり、Cランクだと言った。

「護衛の仕事もあるのに結構ハードなんだな?」とケイが尋ねると「護衛は交代制で人数も多いため、割と時間を確保出来る」とアレグロが返す。

確かにマライダに行った時は、街中に巡回兵を何人も見かけた。敷地が広いため少なく見えるようだが、実際は常時2.000~2.500ほど居るそうだ。


「これでよしっと!」

最終調整が済んだようで、タレナが満足そうな笑みを浮かべる。

「タレナ、調整はいいのか?」

「はい。シンシアさんの使用している弓は、一般に使用する弓なので構造自体はそんなに複雑ではありません。しかしシンプルだからこそ、その人の癖が出やすいとも言われます」

シンシアの武器は、素材を丸々使用しているセルフボウと呼ばれる弓である。全長は90cmほどで、素材は樫の木を使用している。

全体的に痛みが少ないため、今回は調整のみ。普段から手入れは欠かしていないのがわかる。


ここで、ケイはあることを思い出す。

以前レイブンから『エンチャンター』の話を聞いた際に、自分のステータスを鑑定すると称号に『エンチャンター』がついており、こっそり隠蔽した出来事である。

もしやと思い、称号に注目すると『既存武器の強化効果付与が可能』と出た。

「タレナ、ちょっとそれ借りてもいいか?」

「え?あ、はい」

タレナから受け取った弓は1kgにも満たない重さであるが、樫の木は丈夫さを保持しており、他には杖などにも使用されている一般的な木製素材である。


弓に魔力を込めると、全体が仄かに紫色がかる。

エンチャンターの正式なやり方は不明だが、ケイなりに推測し実行に移す。

「【エンチャント・ランダム】」

紫の光が一瞬強まるとすぐに光が収まる。


鑑定をすると強化効果に【破壊の光線】と付与されている。


「おぉ~」

「ケイさん、何をされているのですか?」

感激の声を上げたケイに、アレグロとタレナが横から覗く。

「これはスキル『エンチャント』ってやつで、武器に強化効果をつけることができるんだ」

「えぇ!ケイ様ってそんな凄いこともできるの!?」

「初めてやったけど、意外とできるんだな~」

呑気な顔で述べているが、自分がいかに規格外であることを認識していない。しかも、ここには訂正できるツッコミ役が不在である。


本来のスキル『エンチャント』は、各武器や防具にあった強化効果を付加するものである。

細かいことが苦手なケイはそれを全て【ランダム】で片付けてしまう。完全に思考がギャンブラーである。

再度鑑定をすると、あと二つ強化効果をつけることが出来るらしい。もちろん二つとも【ランダム】である。


その結果ー


デストリュクシオン 攻撃力 1200 


所有者:シンシア 強化効果付与者:ケイ

【破壊の光線】 30%の確率で完全破壊の光線が発生

【射程距離+100m】 矢の可能射程距離が+100m延長される。

【ランダム属性魔法or異常効果発動】 矢を射た場合、ランダムで属性魔法効果or異常効果が発生する。


あら、なんてことでしょう?普通の樫の弓が凶悪な武器に生まれ変わっているではありませんか?

これには持ち主も大満足でしょう!・・・ということはさておき、見た目は樫の弓だが性能がかなり物騒である。

ケイは二人に「シンシアを喜ばせたいから内緒にしてほしい」と言い口止めをした。


弓をタレナに渡し、丁度戻ってきたシンシアに返却される。

試験は明日の朝一に行うことになった。



翌日、シンシアは昇格試験を受けに冒険者ギルドへ向かった。


試験の内容は、一定の距離から正確に的に当てることと、試験用のゴーレムとの模擬戦になる。

訓練場には、すでに試験官のBランクの剣士と記録係のギルド職員が待っていた。

「シンシアさん、おはようございます。これから試験を行いますがよろしいでしょうか?」

「えぇ。いつでもいいわ!」

シンシアの昇格試験開始である。


シンシアの位置から約20m先に置かれた的。


「まずは、あちらの的を当ててください」

試験官の指示に従い、指定された位置に立つ。


的に向かって両足を踏み開き、背中に背負っている矢筒から一本矢を取り出し矢を構える。

左手に持った弓を引き、的に集中したまま矢を放つ。

直線に飛んだ矢は、一瞬で炎を纏い的に当たりその衝撃で粉砕した。


「えっ?」

シンシアも試験官もギルド職員も唖然とした表情をした。

「えっと・・・もう一回やりましょうか?」

「い、いや・・・時間も押していますし、模擬戦に移りましょう」

シンシアの問いに、なんともいえない表情で試験官が答える。

遠距離の昇格試験者の場合、安全を考慮して剣士などの接近戦ができない。この日は数名の試験者が居るため時間が押しているのだ。


「それでは模擬戦に移りたいと思います」


ギルド職員の指示で、試験官が模擬戦用のゴーレムを準備する。

試験官に高ランクの冒険者を配置する理由は、模擬戦用のゴーレムの暴走など不測の事態に対応するためである。

試験用に準備されたゴーレムは、改良されているため本来ゴーレムよりやや性能は劣るが油断をしてはいけない。


「はじめ!」


試験官の合図がおりる。

シンシアは、距離を詰められる前に両膝の関節めがけて矢二本連続で射る。

一本は、鋭い水に変化し左足を切り離す。もう一本は、雷光を放ち少し軌道がズレたが右腕を瞬時に粉砕。

シンシアは一瞬「しまった!」と言う表情をしたが、二本とも身体の一部を吹き飛ばしたことに我を忘れてしまう。

武器の性能に違和感を感じたが、今は試験中である。気を引き締めて三本目を放つ。


「これで決めるわ!」

ゴーレムの眼にめがけて矢を射る。

矢は【破壊の光線】を発動。一瞬で紫の光線に変化し勢いよくゴーレムを打ち抜く。その反動で奥にある壁を貫通し、轟音と衝撃で訓練場全体が大きく揺れた。

砂埃が沈下した場所には、直撃した部分の大穴と崩れた壁だけが残っていた。


「えっ・・・えぇぇぇぇ!!!!」


幸い訓練場には三人しか居ないため、怪我人や死亡者は出なかった。

間を置かずにギルドマスターを含め職員達が一斉に来たのは言うまでもなく、試験は中止になりシンシアは事情聴取を受ける羽目になった。


エンチャンターの役割を逸脱してます。

できてしまったのは仕方ないので諦めましょう。

次回の更新は6月5日(水)です。

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