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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
アレグロの救済とアグナダム帝国
308/359

300、罪と罰(後)

皆さんこんばんは。

いつもご高覧くださりありがとうございます。

今回は二回投稿の後編となります。それではごゆっくりどうぞ!

アレサが両手を宙に差し出すと光の粒子がポッと空間に現れた。


その光の粒子は数が一つ二つと増えていくにつれ次第に輪のように広がり始め、あっという間に周辺の空間を埋め尽くしたかと思うと、黄金に輝く光へと変化しケイ達はあまりの眩しさに一瞬だけ目を瞑る。


次に目を開けたときには黄金の光がスッと引いたようで、異形と言わんばかりの黒種の空間はそこにはなく、当時の建物が垣間見える廃館の様な風景が広がっていた。

またフロアの中心にあったはずの巨大な支柱はなくなり、その場所には青い空が広がる吹き抜けのような巨大な穴がポッカリと空いている。


なにがなんだかとケイは辺りを見回してからアレサの方を振り向くと、彼女の手にはバスケットボール大ほどの見慣れた黒種が球体として浮かんでいた。


「アレサ、それって・・・」

「はい。この世界にあった黒種に関連する全てになります」


アレサは、跡地となったアグナダム帝国以外にも大陸の地下に存在した遺跡やダインの採掘場等、ケイ達が認識していない場所も含み、その一切もこの手中にある球体に取り込んだという。やはり“少しでも種を残せばそこから広がる”そう身をもって体験したからこそ、アレサのやり方にそうなるよなと納得をする。


それからアレサの私兵の一人である男性が、彼女に何かを手渡した。


彼女に手渡されたモノは、先ほどメルディーナが消えた場所に落ちていた透明な正方形の箱で、そういえば、そうでしたね・・・と、受け取ったアレサの表情は冷ややかな目線で箱を一瞥する。


「それからケイさん。お手数ですが、その手に持っている袋を私に譲って頂けないでしょうか?」


左手に透明の箱、右手に球体となった黒種を手に、アレサは先ほどの表情とはうって変わってケイに柔らかい笑みを向けていた。

あんた・・・本当にダジュールの創造主だよな?と思いつつも、ケイが手にしている亜空間ぶくろに袋がほしい?と疑問を浮かべる。


「袋?亜空間ぶくろのことか?これ、モノ入れたら取り出せないぞ?」

「構いません。この二つを入れるだけですので」

「今、手にしてるものだよな?ところでその透明な箱はなんだ?」

「これは“メルディーナ”です」


はぁ?と疑問を浮かべたケイ達は、アレサの手の中に張る正方形の箱に目を向ける。


よく見ると透明な箱の中に何かが飛び回り、更に近づいて目を凝らしてみると、黒い虫の様なものが、まるで出せ出せと言わんばかりに暴れ回っている。


驚いたケイがその表情のままアレサの方を見ると、依然と同じ笑みを浮かべてこちらを見つめる彼女の姿がある。心なしかその笑みに怒りが含まれている気がするが、それはケイ達に向けられたものではなく、嘘に嘘を重ねダジュールの歴史をめちゃくちゃにしたメルディーナに向けられていることは一目でわかる。


「この箱の中に入ってるのがメルディーナだって?なんでまた?」

「地球には、汚物に集る(たかる)虫がいると聞いたことがあります。またその虫は、人の血を吸い迷惑をかけていることがある、と・・・」


前者は蝿で後者は蚊のことだろう・・・とケイは察したが、全く異なる種類なのだがアレサには同じに見えたのだろう。

ちなみにダジュールでは虫の概念があまり世間には認識されていない。

それは魔素の濃度の関係で、昆虫系統は濃度が高い森や川辺・山岳地帯に生息していることから人里がある地域には滅多に出てこないことが理由の一つに挙げられる。


ケイは手にしていた亜空間ぶくろをアレサの兵である男性に手渡し、男性が袋を開けた瞬間に、アレサは躊躇なく黒種の球体と虫になったメルディーナが入った箱を袋の中へと落とした。


「自分のケツは自分で拭けって、そういう意味だったのか?」

「審議会でもメルディーナの処遇をどうするかをだいぶ悩みました。ケイさんが直前にこの袋を創造してくれたおかげで、彼女の運命は決まったと言っても過言ではありません」

「因果応報・自己責任・・・まぁ結果的に間接的にやり返したってワケになるな。だとしたら皮肉なモンだ」

「メルディーナの行動は以前から他の部下達から話は聞いていました。それを考えると致し方ないということになるでしょう・・・」


複雑な笑みを浮かべたアレサは、なんとも言えずにケイの方を向いたまま、元・部下に関しての言葉を口に紡ぐ。

それは第三者であるケイには理解できないが、もしメルディーナが予め自身の行動を反省し改めることができていたのなら、その結末は違っていたのかもしれない。



『シルト!?』



少し離れた場所でイシュメルが声を上げた。


アレグロの本体を支えていたシルトの身体がグラッと揺れたかと思った次の瞬間、尻もちを着くように後ろに倒れる。


ケイが駆け寄ると黒種の影響がなくなったことにより彼の身体には、その時出来た傷跡が残った。またアレグロの本体も動揺に細かい傷が残っており、ケイが二人に回復魔法を施すと怪我のない状態まで戻る。

念のため鑑定をかけると、シルトは傷を負ったことによる出血の影響で貧血気味と表示され、アレグロの本体の方は機能はしているが大分衰弱が見られる。


シルトに大丈夫かと問いかけると、体調不良により言葉にすることが難しいようで、首を縦に振り大丈夫という意思表示を示される。


「イシュメル、人魂魔石を元の身体に移す方法はあるか?」

『当時は専門な術式と特殊な機材用いていましたので、このままだと妹の魂を身体に戻すことは難しい・・・かと』

「じゃあ!アレグロを戻せないってこと!?」

「シンシア落ち着けって、方法はあるから~」


驚愕したシンシアがイシュメルになんとかアレグロを戻せないかと詰め寄るが、ケイはそんな彼女に間延びしたような声で落ち着くよう諭すと、鞄からアレグロの魂が入った人魂魔石を取り出した。


今まで回収した人魂魔石を取り出したのはこの時が初めてで、ケイはアレグロの魂が宿るが故に壊れないよう鞄に入れて大事に保管をしていた。


そしてアレグロの魂は1500年以上の時を経て、本来の身体へと戻る瞬間でもある。



「エンチャント【魂の返還】」



ケイがエンチャントを施すと、淡い光が発生し手にしていた人魂魔石を包み込んだ。


その淡い光に誘われるように人魂魔石から青白い光がゆっくりと出現し、淡い光と共にふわりと宙に浮かび、くるりとケイ達の周りを二~三度回った後、アレグロの本体に吸い込まれるように消えて行く。


「・・・どうなったの?」

「さっきのがアレグロの魂なら、いずれ目を覚ますとは思うはずなんだけど・・・」


ケイ自身、魂を視覚として捉えたのはこれが初めてである。


そもそも魂と言う概念を知識として知ってはいても、実際に目にするとなんとも不思議としか思えず、恐怖よりも摩訶不思議としか言い表せない。

先ほどの青白い光がアレグロの魂なら目を覚ますはず、と思っているものの、さすがのケイも不安の色を隠しきれない。

しかし手に持っている人魂魔石がアレグロの魂が抜け役目を終えたのか、黒く変色し石が砕けた様にケイの手からこぼれ落ちた。


不安を抱いたままアレグロの様子を見ていたケイ達だったが、少し間を置いてアレグロのまぶたが動いた気がした。



「・・・・・・・・・ん・・・・・・・・・んんっ」



初めは無意識な自然の反応だろうと思われたが、それが意識を取り戻した人の反応であるように、まぶたの裏で眼球が左右に動いた後にゆっくりと目が開かれる。


「姉さん!」

「・・・・・・タ、レナ?」


信じられないと言わんばかりに立ち尽くしていたタレナがアレグロの傍に膝をつき、両手でいくぶん細くなった彼女の右手を取った。


アレグロはまだ意識が完全に目覚めていないのか、焦点が定まらないまま声を頼りにタレナの方を向き、その様子からどうしたの?と困った様な笑みを浮かべ優しく語りかける。

そんなアレグロの様子を未だに信じられないのか、タレナは堪えきれなかったのか大粒の涙を流し、存在を確かめるように何度も姉さんと呼び続けた。

楽観視とノリでエンチャントを施してみたが、内心なんとかなるものだろうかと不安を抱いたケイだったが、アレグロの魂は無事に元の身体へと戻りホッとする。


「ケイ!」

「あぁ・・・成功だ」


やったわね!と、シンシアがケイに笑みを向け、まぁな~と余裕の表情で返したものの本当に上手くいってよかったと胸をなで下ろす。いずれにせよ、まだまだ課題はあるものの、とりあえず当初の目標であるアレグロの魂を身体に戻すという目標は達成されたわけである。



アレグロの生還と再会を十分に体感した後で、ケイはアレサにこう尋ねた。


「ところでアレサ、メルディーナの罰はこれでよかったのか?」

「メルディーナはの行動は、今までから見てもとても許容できる問題ではありませんでした。私としてもいずれ跡を継がせたい思いはありましたが、審議会でも今回の件で私に一任するということで話はまとまりました」

「それが、この“罰”ってことか・・・あ、そういえば黒狼はどうするんだ?」

「元々あの子は私の眷属ですので、私と一緒にあるべき場所に帰ることになります」


ふとアレサの左側に目線を向けると、いつの間にか黒狼が寄り添うように彼女の傍に座っていた。

ケイがいつも唐突だなという表情を黒狼に向けると、愉快そうに気にするなと鋭い歯をむき出しにニヤリと笑みらしき表情を浮かべる。


「お前、アレサの眷属だったのか?そんなこと一言も言ってなかったじゃねえか?」

『くくっ・・・聞かれてなかったのでな~』

「う~っわ、やな奴ぅ~」


黒狼は当初からアレサの眷属として傍に使えていたが、部下であるメルディーナが着任してから眷属の権利を彼女に譲渡したことが始まりだったらしい。

しかしメルディーナは、自分自身の能力でアレサが創りだしたダジュールの歴史を大きく変える自体へと変え、黒狼を使い隠蔽しようとしたのが崩壊への一歩だったと、今ではそう考えられる。



「では・・・私たちはこれで・・・」



アレサ達の後方に光の輪のような空間が発生し、事態が終結し一段落したアレサがケイ達ににそう伝えた。


「えっ?もう戻るのか?折角会えたのに?」

「私たちは自分たちの場所に帰るだけなので・・・でも、いずれまた会える時はあるかと思います」


どうやら光の輪の先にはアレサ達の住む世界と繋がっているようで、別れを惜しむようにアレサが振り返ると、名残惜しそうにもの悲しげな笑みを浮かべて言葉を送る。

長いようで短いこの時間は、懐かしくも摩訶不思議な感覚が続くケイにはなんだかもの悲しく思え、元々住む世界が異なるので仕方がないのだろうと、珍しくケイはアレサと同じような表情を浮かべる。


「それでは、お元気で・・・」

「あぁ。アレサ達も元気でな!」


亜空間ぶくろを手にした二人の兵が光の向こう側へと消えて行き、次に黒狼が光の向こう側へと消えて行く。それからアレサも光の向こう側へ足を進め、その一歩手前で立ち止まると、再度ケイ達の方を振り返り、一礼をしてから光の向こう側へと消えて行く。


アレサ達が光の向こう側へと消えて行くと、その役目を終えたのか輪を形成していた光は粒子となって弾けて消えた。



「・・・なんだか長い旅だった気がするわ」


シンシアがアレサ達が消えた地点からケイへと目線を移すと、いくぶん疲れているようで疲労の表情を浮かべている。何ヶ月も住み慣れた大陸を離れて大陸各地を渡り歩いたことから、無意識に緊張が続いた結果なのだろう。

アダムとレイブンの表情を見るとシンシアと似たような表情を見せる。

ヴィンチェの話から大陸の方でも一悶着あったことから、各々故郷に居る大事な人達の事を思い出したのだろう。少し不安な部分も垣間見られる。


『パパ~!』


ブルノワがケイの方に駆け寄り抱っこをせがんだ。


こちらも随分長いこと離れていたこともあり、子どもなりに不安と緊張が切れたのか安堵からか大声で泣き出した。ケイが抱き上げ慰めるように頭を撫でてあやすが、人間の子供の様になかなか泣き止まない。


アワアワするケイの姿に自然に笑みがこぼれたのか、シンシアを始めとしたメンバーが声を上げて笑った。


「お~い、見てないで手伝ってくれよぉ~」

「お父さんも大変ね~」

『バウ!』『ワウ!』『ガウ!』


まぁ、頑張ってとシンシアが笑みを向けると足元に居る少佐が一緒になって吠えた。



「はぁ~・・・なんかめちゃくちゃハードだったな~・・・さて、俺達も帰るか!」



その後散々泣き疲れたのかブルノワは眠ってしまい、彼女を抱えたままホッと息をついたケイは、自分たちも住み慣れた国へと帰ろうと皆に諭した。


アレグロは実兄であるイシュメルが抱え、シルトはアダムとレイブンに支えられる様に多少ふらつきはありながらも立ち上がると、本来の姿である荒廃した王宮の建物内を背にケイ達はその場をあとにしたのであった。

アレサの協力もあり、黒種の脅威を退けたケイ達は本来の目的であるアレグロの蘇生に成功し、今回の元凶であるメルディーナは、黒種を自力で対処する虫となり、永遠に亜空間に形成された黒種の世界へ送られることになりました。

そして、今回でアレグロの救済とアグナダム帝国編は終了します。

のちほどアレグロの救済とアグナダム帝国編の主な登場人物を公開します。


次回、最終章・蘇った王国と新たなる王編を開始。


閲覧&ブックマーク&感想などありがとうございます。

細々とマイペースに活動していますので、また来てくださいね。

※誤字脱字の報告、または表現の提供をありがとうございます。

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