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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
アレグロの救済とアグナダム帝国
306/359

298、異形になった王妃の最期

みなさんこんばんは。

いつもご高覧くださりありがとうございます。

さて今回は、異形になった王妃との最終決戦回です。

「・・・で、この光はなに?」

「えっ?明かり。たいまつ持ってるけど、この状態だと腕があと一本ないと無理」


怪訝な表情で浮遊する光の玉を指さしたシンシアに、照明の代わりと伝えるとないよりかはいいわね、と半ば呆れた表情を浮かべられる。

ケイとはぐれて大変な目に遭ったとぼやきが聞こえたが、無事だから大丈夫だろ?と返すと、今回はたまたま無事だっただけよ!と怒りの文句が投げつけられる。


『持続系の魔法を照明代わりに・・・あ、ところでケイさん。その・・・身体はなんともないのですか?」


イシュメルからは高等な魔法も扱えるのかと驚かれたが、普段は力ごり押し戦法がメインのため、ケイ自身もポジションでいうところの後衛魔法専門職ということを忘れている。

それと同時に、成人女性をおんぶする要領で紐で括り付け、アレグロの本体から浸食してくる黒種の群が、ケイの身体に触れると瞬時に黒い砂となって地面に落ちる現象が続いている。


「ん?あ、これ?俺は黒種に触れても問題ないみたいだから、アレグロの本体をこうして運ぶことぐらいはできる」

「ぐらい・・・って、アレグロの本体をどうするつもりだ?」

「俺とシンシアが、建物の頂上にあるで装置に入っていたコレ(アレグロの本体)を見つけた時には延命処理をされていた。だけど、バケモンの攻撃喰らって装置壊れたから、早急にアレグロに侵食している黒種を取り除くべきだろなとは思ってるただ・・・」


言葉を続けるケイにシンシアが後ろと指を差すと、石像に直撃をした異形となった王妃がゆらりとその身体を立ち上がらせる。


「話は後だ!とりあえず、あれを何とかするのが先だ!」

『ケイさん、待ってください!』

「ん?なに?」

『もしかしてそのまま突っ込むのですか!?」


アレグロの本体ををおぶったままのケイにイシュメルが制止をかけ、さすがにその状態で相手にするとは無謀ではないかと疑問を投げかける。

しかしケイは、アレグロの本体を自分以外の人間が手にすると黒種に感染するリスクがあると返答し、それに対して本体を傷つけてはことだとイシュメルが抗議をする。


『それなら、自分が(アレグロ)を持ちます』

「兄さま!?」

『今まで妹に対して何もできなかったんだ・・・僕の、最後のわがままだと思って聞いて欲しい』

「そんな・・・」


イシュメルの発言に驚愕したタレナが声を上げる。

彼の表情からは兄としてプライドがあるのか、確固たる決意の様なものを感じるが、困惑するタレナの様子から、ケイは一国の主の息子にましてやアレグロの兄に任せるべきなのかと考える。


そんな時ケイの身体がふと軽くなり、慌てて振り返ると紐で縛っていたアレグロの本体をシルトが外し、自分の方へ抱きかかえている姿があった。


「シルト!?お前!何考えてんだ!?」

『俺が引き受ける』

「ばか言うなよ!」

『構わん!早く行け!!』


シルトの言葉通り、少し離れた場所からこちらを窺う異形となった王妃が捕食対象としているケイ達の動向を伺うように身体を左右に揺らしている。


一刻の猶予もない状況でシルトの方を確認すると、アレグロの本体を抱きかかえているシルトの腕に黒種が這いずりだし、それが彼の肌に融合するとまるで血管の中を動き回っているところが肉眼ではっきり確認出来る。


「ちっ・・・シルト!お前のことはなんとかするからそれまで頼む!」


ケイが奥歯をギリッとかみしめると、大丈夫だから行ってこいとシルトが頷く。



ケイが迎撃のために前に出ると、異形になった王妃がこちらに突撃してくるタイミングはほぼ同時だった。


「【バーンフレイム】!!」


木の枝が触手のように変化した黒種を魔法で焼き切り、身体を右側に捻り、ケイを掴まえようと正面から飛んでくる異形になった王妃の顔面目がけて拳を振り切る。


その反動で進行方向とは逆に転げ回る異形は、ケイの拳を喰らい反射的体勢を立て直そうとくるりと受け身をとり、自分の身体から発生した黒種を手足のように自由自在に動かし、今度は巻き付こうと黒種が飛びかかってくる。


「おっしゃ!掴まえた!」


群のように飛びかかる黒種をひとまとめするようにケイが掴み、たぐり寄せるように黒種を引き寄せると、その反動で異形になった王妃のバランスが崩れ、前のめりに倒れる。


「よし!元気よく行ってみよう!」


なにを思ったのか、ケイは異形を引きずるようにある程度まで引き寄せると、今度は異形の一見脆く黒く変色した骨むき出しの両足を掴み、その場で回転し始めた。


文字通り、プロレス技のジャイアントスイングである。


唖然とする仲間達を尻目に、ケタケタと愉快そうに笑うケイと離せ!離せ!と声なき異形は行動で示すように藻掻いているが、完全にケイのペースに巻き込まれているのかその抵抗もむなしく、なされるがままにグルグルと回され続けている。


「ちょっと!何してるのよ!」

「ケイ!黒種が壁に当たって崩れてるぞ!」


状況を理解することが難しいものの、シンシアが遊ばないで!と憤慨し、長い触手が壁や床に当たり、振動で塔自体が揺れ思わずアダムが制止の声を上げる。

また『パパ!』と手を叩き喜ぶブルノワ&少佐とは正反対に唖然とするイシュメルとタレナ、また行動を想定していたのか「やっぱりか~」とレイブンが頭を振る。


「あっ」


十回ほど回した辺りで異形になった王妃の両足が折れた。


遠心力もあってかその身体はケイ達とは反対方向に吹き飛び、黒種が覆い尽くしている壁へと激突する。

そもそも両足自体が脆く木の幹より一回り細かったことに加え、黒種の重量も合わさったことから遠心力に耐えきれずに折れたのだろう。

ケイの両脇に抱えていた二本の足を残して右側は脛から先が、左側は膝から先が折れてなくなっている。


緊張感の欠片もなく、完全に場の空気がぶち壊し状態である。


その後もケイは手を緩めることもなく、追撃しその途中でぶん投げた石像を回収してから壁に激突した異形になった王妃の元へと歩み寄る。


異形が激突した壁からなんとか這い出ると、両足が折れたせいかケイの姿を見るや本能的に恐怖を感じたのか、今度は人間が後ずさる動作が見られる。

「いや、お前飛べるだろう?」とツッコミを入れたものの、人間の時の名残があるのか、異形になっているにも関わらず完全にパニックを起こし、自身から出現させた黒種は力なく床に引きずり、その上で藻掻きながらも足と同じぐらいにやせ細った二本の腕でズルズルと後ずさる。


その先には、石像を肩に担ぎニヤリと笑うケイの姿にこれではどちらが悪役なのかわからない状況が起こっている。


「てめぇ~よくも俺を地下に落としてくれたなぁ?」


覚悟できてるよな?とチンピラのように邪悪な笑みを浮かべたケイを、異形となった王妃は相手にしたことを後悔しているのか?は、それは誰にもわからない。


「歯ぁ、食いしばれよ?」


肩に担いだ石像の頭部分を異形となった王妃に向け、イヤイヤと首を振る異形に慈悲はないと切り捨て、ケイは担いでいた石像を至近距離で投げつけたのだった。



異形となった王妃は至近距離でケイに投げられた石像の攻撃を受け、その活動を停止させた。


「ケイ!シルトが!」


同時にアダムからケイを呼ぶ声が上がり、急いで戻るとアレグロを抱きかかえていたシルトに異変があった。

彼の両腕は黒種によって紫を帯びた黒へと変色し、黒種の勢いは彼の首元まで迫り始めていた。また鎧を着ているものの、黒種の影響からか同じように黒く変わり、おそらく身体も黒種によって広まり始めていると察する。


「ケイ!?どうしよう!?」

「落ち着けって。シルト、大丈夫か」


ケイが声を掛けると、シルトは黒種が身体に巡り始めているせいか激痛があるのか苦悶の表情を浮かべている。そのあまりの痛さに声が出せず一度だけ頷いたものの、状況はかなり悪いことを意味している。


「というか、異形になった王妃を倒したんじゃ・・・」

「たぶん本体は黒種自体だろう、王妃の方は依り代扱いにされていたのかもな」

「じゃあ、どうするのよ?」

「黒種自体が魔素によって変異した薬品型細胞なら、魔法そのものが増幅する機会を与えるからその類は使えない。なら、それごと封じ込めるしかないか~」


封じ込める?と、疑問を浮かべた一同にケイは創造魔法である物を創造した。


ケイの手によって創造された物は、1200×1000ほどの一見なんの変哲もないグレー色の布袋だった。なぜそれが創造されたのかとアダムが疑問を口にする。


「ケイ?一応聞くが、これ・・・袋だよな?」

「あぁ。これから清掃しよ「ケイ!この状況で冗談を言わないでよ!」」


この場に及んでコレかよ!という勢いでシンシアが詰め寄り、ケイの襟元を掴むやもはや恒例行事のように揺さぶり始める。


「待て!待て!これはただの袋じゃねぇ【亜空間ぶくろ】ってやつだ」

「亜空間、ぶくろ?」


揺さぶりがピタリと止まると、頭にハテナがいくつも浮かびそうな顔でシンシアが首を捻り、ケイがその概要を説明する。


「この【亜空間ぶくろ】は、文字通り容量・個数に関わらず何でも入る袋だ。なんでも吸い込める反面、吸い込んだものを出すことが出来ない仕様にしている」

「吸い込んだら出せない時点で袋じゃない気がするけど?」

「まぁ、形状なんてなんでもいいんだよ。とりあえず一度に吸い込める範囲は安全を考慮して、大体八十度ぐらいに設定している。仮に生き物がその範囲に立ち入った場合、問答無用で吸い込むからその辺りは注意すべきだな」

「見た目以上に凶悪な性能ね・・・」


範囲を両手で示したケイに説明を聞いた一同が苦笑いを浮かべる。

即興で創造したので、調整はエンチャントでもできるからとりあえず一回試してみようと、ケイはその袋を手に試運転を行うことにした。


見た限り普通の袋のようにしか見えない亜空間ぶくろは、口の部分を細い紐の様なもので二重に縛られ、ケイが紐を解き袋の口を開けると、暴風と共にこの世界では聞かないような吸引音が辺りに反響する。

さながら“異世界版掃除機”といったところだが、大きな音に驚いた仲間達は一瞬肩を竦め、ブルノワは驚きのあまり咄嗟に両手で両耳を抑える。


遮るものがない場所である壁に向かって十秒ほど袋を開けたままにすると、凄まじい勢いで黒種の一部が吸い込まれていくところが見える。


某メーカーの掃除機も真っ青なほどの吸引力は、数秒経ったのちに袋の口が閉じられると同時に吸引された部分が切断されたようにスパッと途切れ、元の建物の一部が見えるほどポッカリと穴が開いた。このままできると思ったのもつかの間、切断された黒種が再生を始め、瞬く間に壁を構築し始める。


「やっぱ無理か」

「改良が必要ってこと?」

「いや、もしかしたら改良しても黒種自体がこの世界から消えない限り永久にこのまんまの可能性があるな」

「そんな!じゃあ、どうすればいいの!?」


袋の効果は申し分ないが、いかんせん黒種という存在が少しでも残っていると今のように再生しかねないと判断したケイが次の案を考えようとした時、ショーンが何かに気づいたのか鳴き声を上げる。


『ワウ!ワウ!』

「ん?ショーンどうした?」

『パパ~あれぇ!』


ブルノワも何かを見つけたのか、ある一点を示し、そちらを見ると先ほどケイが異形になった王妃にトドメを刺した場所が白く光を放っていた。


「ケイ、お前何かしたのか?」

「はぁ?いいや?俺なんもしてねぇよ?」


純粋なアダムの質問に本当に知らないと首を振ったケイは、なぜ?と疑問を浮かべるしかなかった。

異形になった王妃相手にも関わらず完封したケイは、アレグロの本体をシルトに託したもののその様子をかなり心配します。また、黒種を何とかしようとするケイ達の前に謎の光が降臨!?

次回、その正体が明らかに!?


閲覧&ブックマーク&感想などありがとうございます。

細々とマイペースに活動していますので、また来てくださいね。

※誤字脱字の報告、または表現の提供をありがとうございます。

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