297、ピンチからのドーン
皆さんこんばんは。
いつもご高覧くださりありがとうございます。
さて今回は、大ピンチを迎えたシンシア達の続きからです。
近づいてくる異形になった王妃と黒種の群がシンシア達に迫ってくる。
『シルト!逃げるんじゃ!』
武器をはじき飛ばされたシルトは、黒種に覆われたインイカースをなんとか手にしようとしたが、人魂魔石から聞こえてくるスピサの声に戸惑う。
その間にも異形となった王妃は、こちらをを獲物または生贄と完全に認識しているのか、まるで逃がさないとばかりに黒種を操り動かしている様子が見られる。
「シルト!下がれ!お前まで巻き込まれるぞ!」
躊躇していたシルトにアダムが声を掛けると、意識がこちらに戻って来たのか側面から飛びかかってくる黒種を寸前で躱し、二、三歩後ろ足で後方へと歩み、全員が息を合わせたかのように全力で退路を走り出す。
その直後、異形となった王妃が奇声を上げるや後方から群れをなして黒種が捕まえようと獰猛な集団の魔物に似た動作で迫り始め、アダム達が突入した際に取り出したたいまつの灯りが激しく揺れている。
たいまつはランタンとは違い風よけがなく、一応ある程度強風にも耐えられる構造をしているがそれには限度がある。
アダムとレイブンが所持しているたいまつをイシュメルとタレナが明かり役として手にしているが、状況的にかなり切羽詰まっていることは明白で、途中でレイブンに抱っこを交代したブルノワは後方から迫る異形となった王妃と黒種の存在に恐怖が上回ったのか、コワイコワイと泣きじゃくっている。
「ねぇ!アダム達はどうやって中に入ってきたの!」
「シルトの力業で入ってきたが、この状況だと悠長に脱出は無理だろう!?」
「それなら、来た道戻れば一階の方に地下に続く階段があるわ!」
「それ、地上に上がれないだろ?」
あ、そうだった・・・と気づいたシンシアがじゃあ!どうすればいいのよ!?と、並走しているアダムに突っ込むような物言いをする。
アダムたち自身、ケイのような超人的(というよりも規格外)の能力は持ち合わせていない。ましてやルフ島で遭遇した黒い騎士を素手で殴り飛ばすという芸当は、生身であるが故に不可能に近く、黒種に捕まった時点でアウトだということは確定であるため、なるべく距離を離したいが一筋縄でどうこうできるとは思えない。
階段を下り、先導するアダムが正面から来る黒種を剣でなぎ払うが後方から迫り来る異形の存在に自分一人では火力が足りないと焦りを感じる。
「レイブンさん!ブルノワを私に!」
側面から迫る黒種をたいまつを捨てるように振り払ったタレナが、明かりを犠牲にしてレイブンに叫ぶ。
アダムの様子を察してか、一か八か声を上げたタレナにレイブンが素早くブルノワを手渡すと、同時に右後方から飛びかかってくる黒種を大剣でなぎ払う。
イシュメルも剣の腕はあれど唯一の明かりがなくなることに危機感を感じ、その様子を察してか、シルトが庇うように彼の横へ並走をする。
「明かり足りないけど大丈夫なの、って・・・きゃっ!」
タレナがたいまつを投げ捨てイシュメルの持っているたいまつ一本となり、シンシアがこの状況下で大丈夫なのかと問いかけたところ、アダムが手にした剣を辺りに侵食している黒種に向かって雷を放ち始めた。
「問題ない。どうせ追われてるんだ、明かりぐらいにはなるだろう」
「ねぇ!ケイと同じ発想しないでくれないかしら!?」
剣から放たれた雷は青白い光を辺りに放射線状に放たれると、黒種に衝突した影響で暴発したような青い光が辺り一帯に照らし出される。
その名残で落雷したような光が尾を引いて辺りを照らし続けると、やり方は荒いがないよりはマシだというアダムに、ケイと思考が似てきていないかとシンシアは逆に不安を覚えた。
「まさか、今度は人を担いで上るとは思わなかったな~」
一方その頃ケイは、アレグロの本体を担いだまま飛行魔法で上がろうとしていた。
初めてダジュールに来た時、成り行きでアダムを担いで崖を飛び降りたのは昨日のように感じ、まさか二回もやるとは思わなかったと独り言を呟く。
回収したアレグロの本体は相変わらず黒種により浸食され続けており、装置が破壊されたことにより浸食の進行が早まるのではと危惧したケイは、その状態を鑑定で確認しつつ、マップとサーチを併用して辺り一帯の様子を確認する。
しかも装置の液体をアレグロが纏っている服が吸っていることから、成人女性の体重+αの負荷が掛かっている。
ケイが落ちた位置は建物の地下で円形状に壁が構築されており、不自然な位置に回収した石像があったことから、もしかしたらあの場所は祈りの場なのだろうかと疑問を浮かべる。
飛行魔法で上へ向かうなか、円形状の壁から形成されかけているストーンヘッジが這い出ようと不気味なほど上半身をばたつかせ、助けを乞うように苦悶の様子でケイに掴みかかろうとした。
もちろん、ケイにはどうすることも出来ないので無視や振り払いをしていたが、途中からイライラし始め、しまいには邪魔だと言わんばかりに黒種の腕を引きちぎり、頭をかち割るなど、素行の悪い以上に鬼畜の行為を行っている。
教育上よろしくない行為にさすがにブルノワと少佐には言えないどころか、この場にアダム達が居たら確実につっこみを入れられるのは明白だろう。
サーチとマップを併用した状況を確認すると、上部から敵対しないマークが複数見られる。シンシアがアダム達と合流したことを理解するが、アダム達はケイと異なり生身の人間であるため、黒種に襲われた後の事を考えると危機的状況には変わりない。
飛行魔法を使用しているとはいえ、成人女性をおぶっている状況でなんだかな~とは感じるが、侵食されているアレグロの身体から黒種が枝のようにケイの身体に纏わり付こうとすると砂の様にパラパラと落ちている現象が見られる。
それは、黒種がケイに浸食しようとする行為が全くの無意味だということと、永遠と砂浜に居る気分が味わえるがあまりいいものではないなと不自由さを感じる。
円形状になっている壁は出入り口らしき物が見当たらなかったため、再度サーチとマップで確認したところ最上階の一つしかないようで、下へと移動しているシンシア達と合流するためには、横穴を開けるしかないと思い立つ。
「この辺りでいいか」
目星をつけた箇所は一階エントランス部分で、タイミング的にもサーチでシンシア達がこちらに下りてくるところが確認できる。
ケイがよし!と気合を入れると、その箇所目がけて力一杯グーで殴りつけた。
「エントランスまでもうすぐよ!」
一方アダム達と合流したシンシアは、なんとか一階まで辿り着いた。
一階エントランスに続く階段を下り、中央にある不気味に聳え立つ黒い柱を通り抜けると、体勢を立て直すために地下に向かおうと考えたところにある異変を感じた。
「シンシア!地下から湧いて来てるぞ!」
「ちょっと!冗談でしょ!?」
急ブレーキを踏んだように、一同が階段の十数メートル手前で足を止める。
地下に続く階段から、生い茂る木々のざわめきのような音が微かに聞こえたかと思った次の瞬間、黒種の群が獲物を捕らえる捕食動物の様に一斉に飛び出してきた。
群のような黒種は、統制の取れた一種の生物のように蠢き、あっという間にシンシア達を取り囲んだ。
「ちょっとどうするのよ!?」
「この辺り一帯の黒種は、あの異形の魔物が操っているのは間違いないな」
「分かってるわよ!このままじゃ、私たちあれの餌食にされるわよ!?」
なおも飛びかかってくる黒種をアダムとレイブンが切り落としてはいるが、かなり数も多く、円形状に包囲している黒種はその幅を徐々に狭めて行く様子が見られる。
またいつの間にか異形となった王妃の姿もあり、シンシア達が気がついた頃には、四方八方取り囲まれた状況をさらに作り出していた。
『あっ!』
イシュメルが声を上げると、タイミング悪く唯一の明かりであるたいまつが消えた。
茂みのように蠢く黒種がピタリと止まり、シンシアは死の合図だと感じ目を瞑った瞬間、何かをぶち抜く衝撃音が辺りに響き渡った。
黒種の群の間から衝撃から来る風がシンシア達の足元を通り、左前方からガラガラと何かが崩れる音が響き渡ると、そちらの方角から何かが飛んでくる気配を感じ取る。
暗闇で何が起こったのか分からないが、前方に居るであろう異形となった王妃が一瞬悲鳴のような鳴き声を上げると、飛来した何かに直撃した音が響き渡り、その拍子に囲んでいた黒種が力をなくしたかのようにバラバラと地面に落ちた。
「・・・えっ、何が起こったの?」
「こういう時は大抵・・・」
アダムが向けた目線の先には、無数の白い光が意思を持ったかのように動き回り、照らされた先にケイの姿があった。
「ケイ!」
「ちょっと待て!」
ケイが来るなと片手で意思を示すと、それに気づいたアダムが咄嗟にシンシアの前に手を出すと、その意味を理解した彼女が驚愕の表情を浮かべた。
「ケイ、それはアレグロの身体か?」
「てっぺんに装置に入っていたのを見つけた時にアレの攻撃喰らって地下に落ちたんだ。損傷はないからそのまま回収したけど、俺はどうもないけ黒種まみれだから近寄るなよ」
アレグロの本体を侵食している黒種は、変わらずケイに侵食しようとしているが無効かされているのか黒い砂のようにバラバラと落ち続け、第三者から見るとかなり奇妙な現象なのだが、当の本人であるケイは終始身体に砂をかけられている状態ですごく動きにくいとぼやく。
「ところで、さっき何をしたの?」
「ん?あ、地下においてあった石像を回収してそれをバケモン目がけてぶん投げた」
『地下・・・というと、もしかして“祈りの間”にあった女神像ですか?』
「あ、やっぱそうだったのか~」
地下に落ちた際に女神像を模した石像があったので回収したとケイが答えると、イシュメルが、母・イメルダが生前祈りを捧げていた女神像ではないか?と口にする。
どうやらアスル・カディーム人が信仰していたメルディーナの像のようで、ムカついたから引っこ抜いてきたと返すと、聞き間違いではとイシュメルが目を丸くする。
ケイ自身、メルディーナに対して腸が煮えくりかえるような怒りを感じていることから、思わずやっちゃった!と可愛い子ぶったが時すでに遅し。
「こんな時でも変わらないのね」と切迫した状況にも関わらず、シンシアたちは呆れたように首を振ったのだった。
間一髪で仲間達と合流したケイは、異形となった王妃目がけて石像をぶん投げました。
唖然とするイシュメルと呆れた様子の仲間達に緊張感が遙か彼方へ。
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