296、落ちたケイと大ピンチの仲間たち
皆さんこんばんは。
異形になった王妃と対峙したケイとシンシア。
シンシアを逃がそうとケイが行動に移したが、逆にそれがピンチを招く!?
明かりのない暗闇で、シンシアはかつてないほどの恐怖に襲われていた。
先ほど聞こえた何かが崩れる音と、ケイの気配を感じないことに驚きと焦りを感じると共に、近くに居るであろう異形になった王妃の動向を注意深く観察する。
息を殺し緊張している彼女の腕の中には、怯え震えている少佐の様子があった。
幼い身でありながら、その恐怖を抱かせる状態にシンシアは申し訳なくなると同時にこの状況を打破しなければと一人決心する。
ご存じの通り、シンシアはアンデット系が苦手である。
しかしこの状況に四の五の言っていられないと自分を鼓舞し、本来なら暗闇で動き回るのは得策ではないと知りながらも、異形に捕まるよりもマシと一か八かの大勝負に出た。
緊張感が続くなか、暗闇の中でシンシアたちを認識しているであろう異形となった王妃がこちらを向いた気配がすると、シンシアは少佐を抱きかかえたまま階段の方へと全力で走り抜けた。
すぐ後ろから異形になった王妃の奇声とシンシアが居たであろう場所が崩れる音が辺り一帯に響き、その直後から黒腫がこちら目がけて勢いをつけたまま這いずるように追いかけてくる気配を感じる。
明かりが不足した状況で階段を下りるのは危険だと感じたショーンが、シンシアの足元を照らすように口から小さな火種を辺りにまいた。
これは彼女の足元を狙って来る黒種を一掃する役目も果たしており、側面から襲ってくる黒種には、ヴァールの雷が散らすように電撃が舞い、また後方から追ってくる黒種には、距離を離そうとサウガが氷塊を形成させ押し戻そうとしている。
シンシアは少佐の働きに感謝しつつ、いつまで三頭が持つかわからない状況でどうしたらいいのかと焦りを感じながら、こちらを執拗なまでに追いかけてくる異形の存在をどうやって振り切ったらいいかと必死で考えを巡らせていた。
一方その頃ケイは、異形になった王妃により床が崩落しそのまま真っ逆さまに下へと落ちてしまい、その際に背中を強打してしまったのか痛む背中に数分悶えてから状況確認のため、上体をを起こした。
「・・・・・・痛ってぇ~~~」
痛む背中に身じろぎしながらも辺りを見回すと、暗闇に包まれ数メートル先も見えない状態で焦る様子もなく、鞄からたいまつを取り出そうとしたところ、自分のお腹から足の上にかけて何かが乗っている感覚がして手を止める。
なんだ?と疑問に思いながらもそれに手を触れると、濡れた長く細くまるで人の髪の毛のようなモノが手に絡まっている。まさかと察したケイは、慌てて創造魔法により光の球体を構築させると、その球体により周りが照らし出されると同時に、その正体に唖然とした。
「いや、うそだろ・・・・・・」
信じられないことにケイの身体の上には、アレグロの本体が乗っかっていた。
どうやら、シンシアから距離を離すために囮になったケイの行動の延長線上に装置があったようで、異形になった王妃の攻撃により壊れ一緒に落下したようだ。
幸いにもケイがクッションとなったことにより身体に損傷はなかったものの、鑑定をかけると酸素供給が断たれたことにより衰弱が進行していた。
まずいと焦ったケイは、鞄を開けると両手で何かないかと弄るとなにか固いものが指先に触れ、えいやぁ!と取り出してみる。
ケイが手にした物は、以前リアーナ達が発見された場所において酸素ボンベだった。
以前生き残ったアスル・カディーム人を引き上げる際に使用した物で、もしものためにとストックとして所持していた物が一つだけ鞄の中に入っていたのだ。
それを迷うことなくアレグロの身体に取り付け、酸素を送らせると容態が安定したのか鑑定の数値が元に戻る。とはいえ、酸素ボンベ自体は何時間も持つ代物ではない。
現に装置が壊れたせいか、アレグロの身体に寄生された黒腫が黒い血管のように更に広がりを見せている。
驚いたことに黒種は枝のように変化し、それがアレグロの身体にケイの身体が隣接していたせいか、浸食するようにケイの腕や足にも纏わりつこうとしている。
うわっ!と驚いたケイが右手に絡みつこうとする黒種を振り払うと、それはまるでまるで枯れ枝のようにボロボロとケイの腕から落ちていく。
その後もアレグロの身体に密着していた部分から黒種がケイの方にも這いずって来ようとしていたが、なぜかケイの身体に触れた瞬間、まるで力がなくなったかのようにボロボロと木くずのように地面に落ちた。
これはどういうことなのかと首を傾げたケイだが、そういえばルフ島で黒い騎士と対峙した時が頭に過ぎった。
あの時はアダムとレイブンの武器が駄目になったが、ケイは身一つで黒い騎士に殴り込みを掛けたにもかかわらず、黒種の影響を受けはしなかったものの状況的に恥ずかしい思いをした。
黒種は性質上、周りにある魔素や魔力によってその存在を拡張させていくはずなのだが、ケイに纏わり付こうとしている黒種は、本来吸収する役目を行うはずなのにソレがない。ということは、恐らくだが自身の体質に関係しているのではと気づく。
可能性としては、ケイが無限の魔力と高い質を持っていることにより、黒種が魔力を吸収し続けることが出来ず機能を停止・破壊されたことがあげられる。
もしかしたら、それはアレサがケイをダジュールに転生させる際に予めこのことが想定されていたから託したのではないかと考えてみるが、一瞬ありもしないことを思い浮かべたものの、すぐにその考えを振り払った。
それからケイが周りを見回すと、四方に黒種の壁が形成されていた。
紫みを帯びた黒い黒種の壁の上部から、姿は確認出来ないが阿鼻叫喚の様な獣の奇声が反響になって耳に入ってくる。恐らくストーンヘッジから発せられる奇声なのだろう。
「そういや~この円形状と紫っぽい黒種、どっかで見たことあるな~」
あっ!と思い返したケイは、地下の壁に広がっている黒種と階段から上がった先に見えた円形状の支柱のような情景を思い出す。
最上階にアレグロの本体が安置されていた地点と、一階で見た不自然に建てられた黒い支柱の位置を考え、もしかして!と今居る地点が円柱に形成された黒種の中だと理解する。
他に情報がないかと辺りを見回すと、ケイの背後に何かが立っているのを発見した。
見ると1.8mほどの女性の姿をした石像があり、その表情は慈愛に満ちた笑みを浮かべている。どことなく顔の造形がメルディーナに似ている気がして、本人ではないのになぜかムカついてくる。
そもそものきっかけは、メルディーナによるダジュール歴史改変と本人の不注意でケイ達がこの世界に送られたかと思うと、腸が煮えくりかえる。
もし本人がここにいたら間違いなくぶん殴る自信はある。それぐらい彼女に対する印象は最悪極まりないということだ。
そういえば、こんなところで油を売っている場合じゃないとシンシアと少佐のことを思い出す。しかしアレグロの本体をそのままにするのはどうかと思い直し、数秒考えた後、苦肉の策で鞄から運搬用に使用するロープとナイフ・紐を取り出した。
「アレグロ、許せよ」
そう独り言のように謝罪を口にすると、ケイは取り出したナイフをアレグロの髪の毛を腰の位置で切り取った。
現状アレグロの髪は想定以上に長く、パッと見た感じでは彼女の身長を遥かに超えており、これから行う際に邪魔になるので思い切ってバッサリと切り離した。
“髪は女の命”と言われることから、さすがのケイも申し訳ないと思いつつも長い髪を細い紐で結び、おんぶする様にアレグロの本体を自分の背に乗せてから、その上から落ちないようにロープで括り付ける。
端から見れば、ただのヤバい奴と言われそうだがこの際仕方がない。
「ついでに、アレも持ってくかな~」
ケイは一通り段取りを終えると、メルディーナに似た石像に目線を向けそう呟いた。
「もぉ!勘弁してよぉ~~~!!」
一方その頃シンシアは、異形となった王妃との恐怖の鬼ごっこを満喫(?)していた。
少佐は疲れてしまったのか、三頭とも耳が垂れてぐったりしており、シンシアは時折フェイントを掛けられるかのように先回りするように異形になった王妃の攻防にも負けずに、ひたすら一階を目指して通路を通りや階段を下って行く。
「きゃっ!」
階段を下りた先で何かに躓いたのか、シンシアの身体が前のめりで倒れた。
幸いにも自分の肩から倒れたため、腕に抱いている少佐に影響はなかったのだが、足元に目を向けると黒種が枝のように右足に絡まり、前方からは大量の黒種と共に異形になった王妃が、一歩また一歩とシンシアの方へと近づいてくる。
必死に足に絡まっている枝のような黒種を左足で踏み払い、立ち上がろうにも腰が抜けたのか、その状態で後ずさりをしながら、前方の異形の行動に注視する。
この状態で一気に距離を詰められたら終わりだと感じたシンシアは、焦りを隠すことが出来ずに、藻掻くように後ずさりを続ける。
フッと、異形となった王妃がシンシアの方へと距離を詰める瞬間が見え、死の恐怖を感じたシンシアは少佐を庇うように抱き寄せ思わず目を瞑った。
その刹那、その手前で何かが弾かれたような音が辺りに響き渡る。
恐る恐る目を開くと、見覚えのある大柄の男が両手に持つ大剣を異形となった王妃に突きつけていた。
「・・・シルト?」
『シンシア、無事か?』
「えぇ、私は大丈夫よ」
そのすぐ後方からアダム達が駆け寄ってくる足音が聞こえると、シンシアの無事に安堵したアダムが彼女に語りかけた。
「シンシア、大丈夫か!?」
「みんな!私は大丈夫、というより腰を抜かしちゃって~」
「無事ならいいが、ところでケイはどうした?」
「それが途中ではぐれちゃったのよ!」
経緯を説明できる余裕は今はなく、シルトが次々襲ってくる黒種の群をインイカースの炎でいなすように焼き尽くし、熱波がこちらにも伝わるほど辺りは激戦している。
「シルト!これ以上は無理だ!一旦立て直そう!」
アダムは腰を抜かしているシンシアを何とか立たせると、シルトに退却するように声を張るが、黒種の多さに捌ききれなかったのか側面から来る黒種の攻撃に持っていたインイカースがはじき飛ばされ、シルトがすぐさま手にしようとしたものの、地面に突き刺さった大剣を覆うように黒種が埋め尽くす。
「どうするのよ!?」
「まずいなこれは・・・」
一歩また一歩とシンシア達に近づいてくる異形となった王妃は、対象者が増えたことに喜んでいるのか、歪んだ笑みをこちらに向けたのだった。
落ちたと同時にアレグロの本体を回収したケイは、ムカつくメルディーナに似た石像を回収しました。
それ何に使うの!?
そしてアダム達と合流したシンシアだったが、まとめて大ピンチ!?
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