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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
アレグロの救済とアグナダム帝国
303/359

295、異形になった王妃

皆さんこんばんは。

いつもご高覧くださりありがとうございます。

さて今回は、黒腫の群から逃れようとケイ達が王宮の上へと向かう話です。

ケイ達が上部へ続く階段を上りきると、最上階到達してしまった。


「ケイ!もう逃げ場がないわよ!?」

「まずったな~」


目測を見誤ったケイは、さてどうしたものかと状況を整理する。


時間がないと思いながらも辺りを見回すと、おかしなことにその場所だけ当時の内装が残ったままのようで、机や椅子などの生活家具が散乱していた。

壁や天井は当時の流行りなのか幾何学模様が凹凸をつけて立体的に表現され、ドーム型の部分にはシャンデリアを取り付けるための金具が何カ所か残っている。

また、本来は一望できるはずの大窓が部屋を取り囲むように広がっていたのだが、黒腫の影響からか外の景色を見ることは叶わない。


部屋の様子から最上階となれば王族の主寝室ぐらいしか思いつかないのだが、目線を天井から下げたとき、辺りが暗すぎて分からなかったが、中央に何かの装置があることに気づいた。

ケイ達が近づいてみると、全長2mほどの立体水槽のような大型装置が設置されているようで、何を原動としているのか分からないが稼働し続けている様子があった。


「これ・・・なにかしら?」

「魚でも入れてる水槽、とかじゃねぇよな?」


気味が悪いと思いながらもシンシアを降ろし、なんの気なしにケイがランタンをその装置へ近づけた時、二人はあることに気づき驚きの声を上げた。


「えっ・・・人、なの・・・?」

「まじかよ!?」


驚きすぎたのかシンシアが口をパクパクとさせ、ケイが照らした装置は一面がヒビのないガラスで覆われ、何かの液体が入っているのか装置から供給されている酸素の泡がプクプクと水中で沸き上がっている。


まずランタンが照らした部分は、人の両腕と下半身部分だった。


装置の中に入っている人とおぼしき褐色の両腕は黒腫に侵されているのか、腰から下と肘から先が黒腫に覆われ、その黒腫は地面に近い水槽一面に増殖しているように見える。また腕の細さと橙色の長い髪が見えたことから女性のものようで、ケイはまさか・・・とランタンを上の方へと向けてみる。



「ア・・・・・・アレ、グロ・・・?」



光が上部へ照らされると、その人物を知ったシンシアが言葉を漏らした。


その人物はケイ達も知っているアレグロの姿で、細かい黒腫が人間の血管のように上半身にまで広がっている。また長年同じ状態だったためか、橙色の髪は地面に届くのではというほどの長さまであり、目を閉じている表情はケイ達がよく見ていた彼女の造形のままだった。


これがアレグロの本体かと思ったケイは、アルバにこの装置の事を尋ねた。


「アルバ、この装置はなんだ?俺達が見たアイソレーション・タンクのような形状とはちょっと違うようだが?」

【こちらは黒腫の治療用に設計された医療用の特殊装置です。設計自体は今までご覧になったアイソレーション・タンクとは異なりますが、こちらは身体の老化または腐敗を食い止める構造になっています】

「食い止めるって、もしかしてこの液体が関係しているのか?」

【はい。正確には特殊な液体を用いると同時に“身体的波長の影響”を組み込むことによって身体に起こる現象を食い止めていることになります」


“身体的波長の影響”という聞き慣れない言葉に詳細を尋ねると、アスル・カディーム人には自身が持つ魔力とは別に身体的波長という、いわばオーラのようなモノが身体から発せられているという。


ダジュールでは生物学的に身体には誰にでも魔力というモノが備わっているが、アスル・カディーム人の場合、魂が持つ魔力と肉体に宿る波長という二つの要素を持っている。これは持って生まれた要素を十二分に発揮できるように、先天的に備わっている種族的な要素であると述べられる。

まぁ、メルディーナがアスル・カディーム人の創造主という時点で色々面倒臭いと感じる気はするが、アルバの話を聞く限りではチャクラや気功のような東洋的な方法も伝わっていることから、メルディーナのことだからかじった程度の知識で裏工作する延長線上と考えると納得する。


「じゃあ、これがアレグロの本体なら元に戻せるのね!」

「だとしても、これだけ黒腫が増殖しているなら今すぐは無理だな。黒腫が体内に寄生しているとなると、魂にある魔力に関係しているかもしれない。魔力を媒体として黒腫が増殖を続けているとなると、アレグロが黒腫に侵された時点で魂を身体から切り離したってことになる」

「治療法を探るために、わざと増殖の糧となる魂と分離させたってこと?」

「恐らく、シャーハーン王や研究を行っていたスピサがその事実に行き当たり、別のヤツがアレグロの魂と身体を分けたんだな」


ケイはアレグロの魂を身体から分けて人工魔石に入れ替えたのは、イシュメルまたはナザレだろうと考える。


「ねぇ、ケイ?ところで私たちここに居て大丈夫なのかしら?」

「ん?・・・あ、そういえばそうだった!」


アレグロの本体を発見したケイはさてここからどうしようと考えた時、シンシアが不安そうにそう声をあげ、この部屋に入ったときから黒腫の追跡がパタリと止んだことに疑問を唱えると同時に室内の温度が下がったのか少し寒いと口にし、ケイもたしかに密室で風の通りがないはずなのだが、と妙に肌寒く感じ両腕を摩る。



『『『グルゥゥゥゥ~~~!!』』』



シンシアに抱きかかえられている少佐が何かを感じ取ったのか、先ほどからしきりに階段の方を向き、歯をむき出しにしたまま唸り声を上げている。


少佐の反応に二人は階段の方を振り返るが、部屋の様子に変化はなく、シンシアは不安げな様子でケイの背後に回り、ケイは何かいるのかと目を細め、ランタンを持つ右腕を伸ばし、階段の方へと光を向ける。

ランタンの明かりは周囲の床や壁に光が反射し、当時の生活様式を強調させているものの、位置的には階段の縁ギリギリまでしか届かず、それがやけに不気味さを助長させる。



ガサガサ・・・・・・ガサガサ・・・・・・



ケイがランタンを向けた先の暗がりで、何か音がした。


それは、ざわめきのような枯れ木が地面を擦るようなそんな音が辺りに響き渡り、ケイ達が再度階段の暗がりの部分に注視すると、枯れ枝に擬態したような黒腫の群が階段部分を巻き込みながら這い上がってくる様子が見える。


それとは別にケイが先ほどから感じている妙な気配もこの場にいるようで、こちらににじり寄る黒腫の群の更に奥に、薄らとだが人影のような黒い物体が階段の上部に浮かんでいる様子があった。


「シンシア!」

「・・・えっ?きゃっ!」


ケイが声を上げ、ランタンを放り出すやシンシアを抱き込むように左側に倒れた。


その直前にその黒い物体が何かをしてくる動作が見えたため、咄嗟にケイはシンシアを庇うように飛び込みながら避けると、ジュッと何かが焼けるような嫌な臭いが辺りに立ちこめる。また二人がそちらを見やると、先ほどまでいた地点が黒く腐食したような穴が形成されている。


「ちょっと!一体なんなの!?」

「正体は・・・あれだ」


ケイの目線に気づいたのかシンシアもそちらを向くと、放り出されたランタンが階段の方へ転がり、光の範囲が移動するや浮遊している黒い物体にも照らし出される。



光に照らされた黒い物体は人の様な容姿をしているが、言葉では形容しづらいほど恐ろしい形相をしていた。


頭からボロボロになった黒い法衣のような布を身に纏い、袖から見える細い両腕は腐敗したように黒く変色し、そこから骨や筋らしき部分が見える。

また人の形をしたそれは、ケイ達の動きを認識しているのか、首を傾げながらブリキの人形のようにギギギと音を立てゆっくりとこちらを向く。


頭からかぶっている黒い法衣から光沢のない長い白髪が柳のようにゆらめき、そこから覗く表情は、全体的に黒腫の影響で黒ずみ、腐敗が進んでいるのか顔の組織の一部が欠如し骨や黒く変色した筋肉部分が丸見えになっている。

また完全に黒腫に浸食されてしまったのか、双眼の中心は白濁し縁の部分が不気味なほど赤く光り、身震いさせるほどの恐怖を含ませ、ジッとこちらを見据えている。



【異形になった王妃】

シャーハーン王の妻・イメルダで、黒腫に浸食されきった王妃の成れの果て。

周辺の魔素を体内に取り入れ黒腫を増殖させていることから、魔法攻撃全般が半減・または無効。またストーンヘッジとなったアスル・カディーム人を指揮して今も増殖を繰り返している模様。


※ステータス値は黒腫増殖の影響につき、変動が大きく表示できません。



(いや、まじか・・・)と、ケイがその鑑定表示にため息をつきたい気持ちに駆られる。


恐らく建物全体を覆っている黒腫は全てこの“異形になった王妃”のせいで間違いないと考えるが、アレグロの本体がある装置が二人の後方にあることから迂闊に動けば異形となった人物から攻撃を受けるかもしれないと危ぶんだ。


「・・・・・・ケ、ケイ?ど、どうするのよぉ?」


目の前の異形の姿に恐怖を抱いたのか、シンシアが歯を振るわせケイに尋ねるが、ケイもまさか先ほどから感じていた視線が目の前に居る異形になった王妃だとは思わなかったので、はっきり言うとノープランである。


「シンシア、とりあえず俺が気を引くから少佐と一緒に下に行け」

「嘘でしょ!?無理言わないでよ!」

「俺は黒腫の影響を受けないし、魔法が駄目なら素手でぶん殴るしかねぇだろ?」

「で、でも・・・」


ケイは(いいから早くしろ!)と口の動作でシンシアを諭し、目の前で揺れ動く異形を一目してからシンシアを逃がすために反対方向へと動き出した。


異形となった王妃は、ケイの動きを目で追い、その動きに合わせてケイの方へと狙いを定めると、宙に浮かんだ身体が地面に着地する。

その動作にシンシアがハッと息を呑むと、異形となった王妃の足元に転がっていたランタンが踏み潰され、破壊された音と共に唯一の明かりがふと消える。



『キャアァァァァァァァァァl!!!!!!』



暗闇に響く耳を劈く(つんざく)様な異形の悲鳴に、シンシアと少佐が身を竦ませた。


続けざまに二、三度大きな衝撃が足元から響き渡ったかと思いきや、何処かの部分が破壊された崩壊する音と床が崩落する音が重なり反響になって辺りに響き渡る。

シンシアは音のした方向がちょうどケイがいる地点だと気づき、まさかと声を上げそうになったが暗闇の中で異形の存在を思い出し口を噤む。


室内が暗闇に包まれ完全にこちらが不利だと思い直したシンシアは、焦る気持ちを抑えきれないのか、腕の中にいる少佐を守ろうと抱き締める力を少し強めたのだった。

最上階にアレグロの本体を見つけたケイ達は、そこで黒腫の影響で異形となったシャーハーン王の妻・イメルダに遭遇します。

唯一の明かりが消え、ケイが消えたことにより危機的状況に落ちいったシンシアと少佐は、果たして無事にアダム達と合流することができるのでしょうか?


閲覧&ブックマーク&感想などありがとうございます。

細々とマイペースで活動していきますので、また来てくださいね。

※誤字脱字または表現の提供をありがとうございます。

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