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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
アレグロの救済とアグナダム帝国
302/359

294、黒腫に覆われた王宮

皆さんこんばんは。

さて今回は、妙な気配を感じながらケイ達は外へ出るために地下から地上へ出ようと行動し、一方でアダム達もケイ達を助けるために黒腫に覆われた建物へと向かいました。

何かの気配を感じ取ったケイは、少佐を抱きかかえシンシアの手を引くとそのまま上に続く階段の方へと駆け上がった。


そもそも、ケイには幽霊が見えるといった霊感的なものはないはずなのだが、先ほどから何者かがこちらを見つめる気配を感じ取っていた。

それが黒腫の集合体の影響なのかはわからないが、ただ言えるとすればサーチとマップに表示されている周辺、というよりも辺り一帯が恐ろしいほど赤く染まっている。


「ケイ!どういうことか説明してよ!?」

「説明してる暇なんてねぇよ!この辺りに俺ら以外の何かが居るって事ぐらいしかわからねぇのにか?」

「何言ってるの!?冗談でしょ!??」

「冗談じゃねぇって!スキル使っても全面敵だらけなんだよ!」


耳を疑うケイの言葉と切迫した周囲の様子にただならぬ事態を予感しているのか、手を引かれているシンシアの表情が引きつった気がする。


ケイ達が階段を上ると、広間のような場所へと辿り着いた。


普通に考えると一階のエントランス部分になるはずだが、右を向いても左を向いても辺りは真っ暗で、近くの壁らしき場所にランタンの明かりを近づけると、黒腫の一部が根のように張り巡らされ、うねうねと動いている様子が見てとれる。

アルバが言っていた黒腫の巣窟とはこのことか、とケイは焦りをみせながらも冷静に現状を把握するものの、シンシアと少佐を連れたままでは何かあってからでは遅いと考える。


「ねぇ・・・あれって建物の柱、かしら?」


気味が悪そうにシンシアがとある場所を指した。


ケイがそちらを向くと、広間らしき場所の中央に遠目からでも分かるほどの巨大な円柱が立っている。

辺りの暗さで正確な大きさは分からないが、近づいてランタンの明かりが反射すると他の黒さとは違い、紫を帯びた黒い表面が不気味にその存在を見せつけている。

変なところに柱があるんだなと思いつつただ辺りを見渡すと、ケイ達のいる位置から左奥と右奥に上に続く階段があり、その中央には黒腫に覆われた奥へと続く二枚扉が薄らとだがその原型を留めている。


マップを表示すると、ケイ達の位置の右後方に外に出る出入り口があるのだが、こちらも黒腫に覆われているようで、その地点には黒い壁が広がっている。



「【エリアルブレイド】!」



入り口らしき位置目がけてケイが魔法を放つと、黒腫に覆われた二枚扉の片方が巻き付いた黒腫の一部と同時に吹き飛び、朝日が降り注ぐ異様な外の景色が見えた。

しかし次の瞬間、吹き飛び穴が形成された部分を保護するかのように意思を持った周りの黒腫が互いに結合し、張り巡らされた木の根の様に広がり辺りは一瞬で暗闇に包まれる。


「・・・えっ?どういうこと???」

「これだけ黒腫がデカかったらそうなるわな。欠損した部分を補うために周りの組織が急速に再構築するってしくみだろう」


それに・・・と、ケイは続けてすぐに右足で勢いよく足を鳴らし、枝が折れる乾いた音と二人の足元で何かが蠢く気配がした。


同時に目線を下に向けると二人の足は建物の床の一部に立っているのだが、その周りを獲物を狩る動物の様に細い枝のような黒腫が取り囲み、その状況を察したのかシンシアが顔を上げてこちらを見つめ、一応聞くけど・・・と引きつった顔でケイに説明を求める。


「黒腫というのは周りの魔素に反応して動く習性があり、アスル・カディーム人が黒腫に侵された事実を考えると、魔力持ちが捕食の対象になるって考えられるな」

「ということは、私たち・・・」

「・・・狙われてるってわけだ」


ケイは青白い顔をさせたままのシンシアの腕を再度掴み、急いで階段の方へと走り出した。


魔法を用いて強引に脱出してもよかったが、あの瞬時の再生力を考えるとシンシアと少佐を連れたままはリスクが大きすぎると考えたケイは、黒い巨大な支柱の脇を走り抜け階段の方へと目指した。

後方から黒腫の一部らしき意思を持った枝の群が迫っている気配と、先ほどから感じている別の気配を気に懸けながらも、アダム達と合流する目測を誤ったケイ達はとにかくそれから逃れようと上へ続く階段を上がるしかなかった。



ケイとシンシアが黒腫に追いかけ回されている頃、アダム達は丘から中央地区の中心部にある王宮へと向かっていた。


日が完全に昇り黒腫の集合体は動けないのか、まるで焼け野原のような火山が冷え固まったような光景が永遠と広がり、その所々に藻掻き苦しむストーンヘッジの存在が確認出来る。

ストーンヘッジは頭部から上半身にかけて形成され、腕や下半身は黒腫の集合体にへばりついているように見える。恐らく形成途中で日が昇り始めたことが原因なのだろう、直射日光の影響で藻掻き苦しむ身体からは煙が上がり、その部分が腐敗したような酷い臭いが辺りに立ち込める。


「肉が腐った臭いだな」

「何かが焼けた臭いもするし鼻が曲がりそうだ。タレナは大丈夫かい?」

「はい。ですが、あまりいい気分はしません」


走り抜けるアダム達は各々その臭いに顔を顰め、まるで大きな争いがあったかのような惨状にケイ達の安否を気にかける。


三人が近づくにつれ、建物は禍々しい存在感を強調しているように見えた。


太陽に照らされた王宮を覆っている異様な建築物は、空に向かって高く聳え立ち、見上げた空の色と対照的にその造形がより一層不気味さを感じさせる。

そのコントラストの不気味さに気分を悪く仕掛けるような魔術的な要素はないが、人の感覚でいうとあまり見ることのない色彩感覚に酔いそうになる。


「これは・・・?」


建物の周辺までやってくると、何処かの一部とおぼしき古びた扉が落ちていることにアダムが気づいた。


形状から見るに二枚扉の片側のようで、扉の縁は色あせて白く変色したであろうリーフの造形が施されている。もちろん辺りを見回すが扉があるようなものは何もなく、三人はもしやと目の前に聳え立つ建物の方へと目線を向ける。


「この扉ってこの建物の一部だったんじゃ・・・」

「状況から見ると、内側から外に向かって飛ばされたんだろうね」


じゃあケイ達が中に?とアダムがレイブンを見やると、かもしれないと神妙な面持ちで頷く。


事の重大さに焦りを感じ始めた二人は、武器を手に建物の一部を切り裂き中に突入しようとした。しかし建物を覆っていた黒腫は、まるで意思を持つかの如く切り裂かれた部分が急速に再生を始める。その後何度か試したものの、二人の武器の威力より再生力が上回っているのか、中に入ることは叶わなかった。



「あ、シルトさん!それに・・・イシュメル兄さま!?」



タレナの声に二人が振り返ると、遅れてやって来たシルトの姿があった。


驚いた目線の先には、更に後方からイシュメルが追いかけてくる姿があった。

二人もケイ達が心配で三人の後を追ってきたといい、アダムが先ほどの現象を説明する。


『これだけの規模なのだから、並の攻撃では通らないだろう』

「まいったな~ 他に入り口はなさそうだし」

『問題ない。私がやろう・・・』


困惑した三人を余所にシルトが下がっていろと指示を出し、インイカースを引き抜くと黒腫に覆われた建物を見据えた。


シルトが一瞬だけ目線をインイカースに向けると、スピサからの問いかけはなかったが、大剣にはめ込まれている人魂魔石が太陽に反射した。

それはまるで『まったく無茶ばかりさせよ~て・・・』と言いたげな雰囲気を醸し出している気がして、無茶な願いで申し訳という気持ちで笑みを浮かべる。


シルトが突破口を開こうとインイカースの柄に力を込めると、人魂魔石が赤く輝きだした。


その光は刀身を覆い尽くさんばかりに炎を模した光へと変わり、辺りに熱風が立ち上がる。その熱風はインイカースを中心に渦を巻くような気流へと変化し、シルトが剣を振り上げると渦の激しさと比例して火柱のように形成された光の炎へと変化する。



『・・・・・・いくぞ!』



黒腫に覆われた建物目がけてインイカースが振り下ろされた。


熱波を伴った火柱は黒腫に覆われた建物目がけて勢いを加速させると、勢いを落とすことなく黒腫の集合体に直撃し、爆音と爆風が辺り一帯に反響になって広がった。

アダム達はその衝撃から来る猛風に目を開けてはいられず、少し収まってからその状態を確認した。


「・・・やったか?」

「皆さん!あれを!」


タレナが示す先にポッカリと穴が開いている。


シルトとインイカースの能力は十分に理解していたが、威力がダインの時以上なのであれがもし戦争にでも使われた日にはと思うと恐怖に感じる。


『マズいな・・・皆、早く建物の中へ!』


シルトの言葉と同時に大穴が形成された部分から再生が始まり、ここまで黒腫が巨大では彼の威力でも足りないことを意味している。

たしかに中央地区全土に広がっているとなると無理もないと判断したアダム達は、完全に再生される前に突入するべきだと考え、思い切って巣窟になった王宮へと足を踏み入れたのだった。



一方ケイ達は、枝のような黒腫に追われる形で建物の上部へと駆け抜けていた。


階段を上がるとフロアの両端に部屋とおぼしき壁で仕切られた小部屋が続き、吹き抜けになっている部分から、一階で見た巨大な支柱が延々と上へ続いている。

マップとサーチを平行して展開し続けているケイの視界は、常にマップの赤い表示に目が眩みそうになっている。


「【バーンフレイム】!」



小部屋の両側から無数のストーンヘッジが飛び出し、シンシアの悲鳴と同時に火属性魔法を展開し撃退を試みる。しかし、あまりの数の多さに無理だと判断したケイはマップを頼りに南側にある階段方面と直行し、進路を妨害するストーンヘッジを素手や魔法ではじき飛ばす。


「ケイ!後ろから迫って来てるわよ!」

「分かってるって!おまえこそもっと速く走れねぇのかよ!?」

「悪かったわね!私だって一生けんめ・・・きゃっ!」


腕を引いて走り続けるにはシンシアの足が遅すぎると判断したケイは、瞬時に少佐を彼女に抱き込ませると同時に抱き上げた。


耳元でまたなの!?と困惑したシンシアの声が直撃するが悠長にしている暇はなく、南側にある上に続く階段を駆け上がり、今度は上のフロアの北側に面している階段へと走り抜ける。その途中で、再度壁や天井からストーンヘッジが出現するが、知るかといわんばかりにケイが飛び上がり頭を踏みつけるように突破する。


北側の階段は折り返し階段のようで、以降は踊り場から他のフロアに行ける構造になっていたようだが、今はフロア自体が完全に潰れてしまったのか、瓦礫に埋め尽くされ壁が築かれている。

行ける場所が限られているとなると、ケイはとにかく黒腫の追跡から逃れようとシンシアと少佐を抱えたままその階段を駆け上がるしかなかった。

何者かの気配を感じながらも黒腫の追跡から逃れようと上へ上へと進み、同じ頃アダム達もシルトのおかげで建物内部へと踏み入れます。

はたして合流できるのでしょうか?


閲覧&ブックマーク&感想などありがとうございます。

細々とマイペースに活動していますので、また来てくださいね。

※誤字脱字の報告、または表現の提供をありがとうございます。

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