28、式典とその後
本日式典を迎えます。
国王の挨拶って本当はどうなんでしょうね?
宮殿に急いだケイ達は、その足でルークス達が待つ部屋まで戻ってきた。
扉を開けると、ルークスと先ほどまで横たわっていたマーダが会話をしている。
上半身を起こし、事の出来事でも聞いているのだろう、真剣な表情から驚愕の表情へと変わり青くなっていく。
「ルーク!」
「皆さんお戻りになられましたか!」
アレグロとタレナがベッドまで歩み寄ると、二人は自分達は大丈夫だというジェスチャーをする。
念のためマーダとルークスに鑑定をかけると、それぞれの称号の欄からカタラ関係の称号が消えたことを確認する。
「ルーク、もう大丈夫だ。二人とも称号は消えている」
その言葉にルークは安堵の表情を浮かべた。
ルークスから話を聞いたであろうマーダも、複雑な表情をしながらも安堵の色が見えていた。
「そういえば紹介がまだだったな。私はマーダ・ヴェーラ、砂漠の都市マライダの国王をしている。このような格好で申し訳ないがまずは礼を言わせてくれ」
深々と礼をしたマーダに続き、ルークスも感謝を述べ礼をする。
「あ、そういえば墓のこと何だけどいろいろあって荒らしちゃってさ~」
マミークイーンになったカタラのせいで、死体が動きボコボコにして荒らしたことや、地下に侵入する際に扉をを殴って破壊させ大惨事を起こしたことに関しては謝罪した。
マーダは自分たちの命があるのはケイ達のおかげということもあり、咎めることはしなかった。
二日後。
砂漠の都市マライダで、国王即位十周年の式典が盛大に執り行われた。
国内外からもたくさんの人が押し寄せ、街のあちらこちらで歌や楽器の演奏が聴こえ、街中が一気に華やかな雰囲気に変わる。
ケイ達はその光景を、中央の広場が見える宮殿のテラスからみた。
「人がギッシリじゃん」
「式典だからじゃない?」
出されたコメタを口に含むと、ジャスミンのような匂いと風味が広がる。
青色をしたお茶からこのような風味が出ることが謎である。
お茶を運んできた侍女に尋ねると、ヴィリロスから西に進んだ場所にコメタの花畑が存在しており、その花を乾燥させるとお茶にしたときに青い色が出るそうだ。
その説明をされても、いまいち理解できなかった。どうやらそういうモノらしい。
宮殿から、マーダ達を載せた馬車が出て行くところが見えた。
王族らしく金色の装飾が施された白い馬車を、プリ・マが3頭で引いている。
馬車は街中を時計回りに一周するように行進をする。
人々は笑顔で手を振り、時には声を掛ける人も多くいた。
国王に即位して、十年の集大成ともいえるこの日をようやく迎えられた。
マーダや彼を慕う者、街中の人々が安堵と感謝に満ちているそんな気さえした。
中央広場の一角で馬車が止まる。
馬車の出入り口から石畳の上に赤い絨毯が敷かれている。
その先には、この日のために特別に作製された台が置かれている。
車輪の大きさの関係上、高い位置に馬車の出入り口あるため、絨毯と馬車の間に簡易的な階段が置かれる。
そこからマーダとルークス、護衛のルラキやアレグロにタレナの姿が現れる。
赤い絨毯を堂々と歩き台に向かう姿は、やはり国王なのだと改めて実感する。
それに、用意された白い礼服も相まって十年の重みを感じる。
成人してほどなくして国王となったマーダにとって、一つの節目を迎える今日は一体どんな気分なのだろう。
ケイ達は遠目からその光景を観ていたが、想像で図ることしかできなかった。
「皆様、本日はご多用のところ、国王即位十周年記念式典にご来臨賜りまして、心より御礼を申し上げます」
壇上に上がり、このような挨拶から入る。。
「思い起こせば十年前、成人してすぐに国王に即位し、国をまとめて行けるのか不安な時期もありましたが、皆様のお力添えとご支援をいただき、なんとか乗り越えることができました。今、この喜びの節目を迎え、あらためて皆様のご厚情に感謝申し上げるしだいでございます」
さすが国王と言うだけあって、堂々とした佇まいである。
「これからも国のために国民のために邁進いたしますので、皆様には一層のご指導、ご鞭撻をお願い申し上げます。本日は、誠にありがとうございました」
マーダの挨拶に、割れんばかりの拍手と声援が街中に響き渡る。
彼の成果がここで報われた、ケイはそんなことをふと考えたのである。
式典が終わり、ケイ達はその日の夜にマーダから晩餐会の招待を受けた。
今回の功労者である彼らに、お礼がしたいという形で実現したのだ。
「私が今ここにいるのは君たちのおかけだよ」
テーブルに運ばれる料理に舌鼓を打つ彼らに、マーダが感謝の意を述べた。
あと少し遅れていたらと思うと、マーダもルークスもこの国もどうなっていたかわからなかったからだ。
「気にすんなって!終わりよければ全てよしっていうしな!」
肉厚の牛のステーキを頬張るケイがそう返す。
「でも、まさか街中で会った整備士が、国王だとは思わなかったわ」
果汁酒を手にシンシアがそう切り出す。
「兄さんは噴水の魔道具がお気に入りなんだ」
ルークスの話によると、マーダは時間があれば見に行くため、たびたび予定が狂うことがあったそうだ。
前々から魔石の交換の話は出ていたものの、なかなか合う物がない。
マーダ脱走阻止のために探し回っていた時に、オークションで魔石が出店される情報を聞き、買い付けにやってきたというわけである。
「毎日、中央広場に行くから私もタレナも探すの大変だったんですからね?」
そのたびに、アレグロとタレナが探し回りルラキが問い詰める。
成人を過ぎたましてや国王だということを忘れてしまいそうである。
「でも、式典も無事に終わったからいいじゃないか」
「でしたら魔石の問題も解消されましたし、公務もより一層励みますよね?」
ルラキの鋭い視線に言葉に詰まるマーダ。先ほどのしっかりした印象が皆無である。
「でも、ケイさんは多才な方なんですね」
タレナが関心したように話題を振る。
「武芸もできて、魔法も扱える方なんてあまり見かけないもので・・・」
「そうか?自分じゃわからないけど?」
「私の水と風の二属性でも珍しいと言われるのに、三属性なんて本当はどこかに仕えていたとかじゃないの?」
アレグロの言う通り、ダジュールの魔法専門職は、一般的に一つの属性持ちが多いといわれるが、希に複数の属性を持つ者も存在する。
割合としては、二属性持ちが100人に1人、三属性以上は1000人に1人いるかいないかになる。
「俺はいたって普通。アレグロだって、魔法の威力と正確さはさすが護衛をやっているだけあると思うよ?」
ケイがアレグロを褒めると、褒められた本人は慣れていないのか顔を赤くさせる。
「それに、タレナだって槍さばきは相当だったじゃん?長柄系をあそこまで扱える人もいないよな」
タレナの武器は、長柄槍と呼ばれるもので、突くだけでなく獲物を引っかけて投げられるように工夫されている武器になっている。
その分、力や体力がいるため、女性であそこまで扱える人間はなかなかいない。
彼女もまたアレグロ同様顔を赤くしていた。
「ケイがまともな発言をしてる」
「明日は槍かマグロでも降るのかしら?」
「二人ともさすがにそれはひどいんじゃあ・・・」
アダム達が各々口にすると「お前ら覚えておけよ」とケイが恨み節で返す。
晩餐会がお開きになり、ケイ達はそのまま宮殿に泊まることになった。
「お酌する?」
テラスでマーダが佇んでいる姿を見かけ、ケイが話しかけた。
彼が持参したであろうお酒が、なくなりかけていたためコップに注ぐ。
テラスから見える噴水は、この日も青白く光っていた。
「あの噴水は、父が民のために造らせた物なんだ」
十五年前、彼がまだ十歳の頃に、暑さで苦しんでいる民を彼の父が私財を投げ売って造らせたのがあの噴水だった。
「初めて噴水に水が湧いた時をまだ覚えているんだ…みんなの笑顔とそれを見つめる父の姿。私は父を尊敬していたんだ」
目線を噴水から酒の入ったコップに移す。
「ケイは私のことを聞かないんだな?」
間をおいてから、マーダが問う。
「ルークスから鑑定の事を聞いて、正直聞かれても仕方ないと身構えていたんだが・・・」
「聞いてほしいなら聞くけど、言われてないしそれに鑑定する前からわかってた」
驚愕の表情でケイを見つめる。ケイはそれに答えるように言葉を続ける。
「最初礼服を見た時、肩幅が俺より小さいと思った。その後違和感にも気づいた」
「違和感?」
「ボタンの位置だよ。この国はどうか知らないけど、男性用だとボタンは右についてるんだ。それが左についている・・・ここまで言えばわかるよな?」
「フフッ…アハハハハ!」
マーダが声を上げて笑い出す。ひとしきり笑った後こう話を続けた。
「君で二人目だよ!このことを言い当てたのは!」
「俺以外にもいるのか?」
「ベルセ、ベルセ・ワイトだよ!」
彼の口からフリージアの公爵令嬢の名前が出る。口ぶりからどうやら彼女とは仲がいいようだ。
確かマーボー料理も、彼女の考案だった。
「でも、まぁ話していいかな・・・」
「ルークのためなんだろう?性別を偽ってでも国王になったのは?」
ケイの問いにマーダが頷く。
「成人してすぐの頃に街に行商人がやって来たんだ。商人から鑑定用のルーペを購入してルークスをみたことがきっかけだった」
その際に、称号を見て恐怖を覚えたそうだ。自分が国王になればルークスは死なずにすむ。そう考えて必死に周りを説得し続けた、自分が憎まれても恨まれても構わないぐらいに。
「ルークには言ったのか?」
「いいや。口には出さないものの、本当は気づいていたのかもしれないな・・・」
コップに残った酒を飲み干す。
「ケイ。もう一つ頼まれてほしいことがある」
マーダはケイの方に身体を向けると、目線を合わせこう告げた。
「アレグロとタレナを仲間に加えてほしい」
「・・・どういうことだ?」
怪訝な表情のケイにマーダは話を続ける。
「二人はこの国の人間じゃないんだ」
「そういえば、タレナからそんな話を聞いたな」
王家の墓でタレナからそう言われたことを思い出す。
マライダの人間の多くは、黒または茶色の髪や目の色をしている。アレグロとタレナは橙色の髪に青い目と変わっていると言われればそう感じる。
「どうやら二人は記憶を失っているようなんだ」
アレグロとタレナは、二年前にヴィリロスの浜辺で発見されたそうだ。
その際に記憶が欠落しているようで、名前以外は何も覚えておらず、二人の記憶が戻るまで護衛として引き取ったが戻る様子がなく今に至る。
「本来なら、二人の故郷を探して旅をしたいと思っていたんだ」
自分のために動いてくれた二人に恩返しがしたい。そう思ってはいても国王としての責務がある。
マーダはその間で揺れ動いていた。
「わかった、引き受けるよ」
「本当か!?」
「俺は冒険者だし、そのうち二人の故郷も見つかると思う。ま、どのぐらいかかるかわかんねぇけどな」
「それで十分だ。その代わり、君が困っていたら全力で助けよう!」
マーダは喜色満面でそう答えた。
「で、どういうことなんだ?」
翌日、アーベンに戻る際に荷物を手にアレグロとタレナが入り口で立っていた。
それをアダムが問う。
「あぁ、それなら・・・」
ケイが簡潔に説明をすると、リックを含めた四人が想定通りの表情をした。
「・・・というか、二人はそれでいいのか!?」
アダムが二人に話しかける。
「問題ないわ!なんて言ったってケイ様は偉大な方よ?魔法に関してぜひ教えてほしいし、もちろん言われなくてもついていくわ!」
「記憶の事はそのうち戻るかもしれません。同行に関しましては、マーダ様の了解も得ております」
二人は既にマーダから話を聞いていたようで、興奮した様子で語った。
「もちろん!私たち二人は料理も洗濯も掃除もできるし、身の回りのお世話は任せて頂戴!」
特にアレグロのテンションが高い。アダムは振り回される未来に目眩を感じた。
「私たちに相談もなしに入れるなんてどうかしてるわ!」
「言いたいことはわかるけど、護衛をしてたから即戦力は申し分ないと思う」
シンシアはむくれた顔で不満げな返答をしたが、レイブンは二人の戦力は実際に見ていたので別に構わないと返す。
「なんにせよ、依頼は達成したし後はリックを送るだけだな」
そう言って、見送りのマーダとルークスそしてルラキの方を振り返る。
「ケイ、何から何まですまない。アレグロとタレナを頼む」
「マーダ様は私がしっかり見張っていますので、ご心配なく。それと、二人が故郷に戻れる日を願っています」
釘を刺したルラキに、マーダが冷や汗をかく。
「皆さん道中お気をつけて。また、お近くに寄りましたら声をかけてください」
ルークが一礼をして見送る。
アレグロとタレナを加えたケイ達は、マーダ達に見送られながらアーベンへと戻って行ったのである。
アレグロとタレナが加入。
ちょっとは華やかになる・・・かな?
次回の更新は6月3日(月)です。




