289、合流地点へ
皆さんこんばんは。
いつもご高覧くださりありがとうございます。
今回は地上組と地下組の合流地点の話です。
ケイ達が地下でストーンヘッジの群に追われている頃、時を同じくしてアダム達は大聖堂から住宅地の南側にある、地下の移動施設の方角へ向かっていた。
イシュメル曰く、直線にすると大体250~300mほどの距離なのだが、入り組んだ住宅地に加え荒廃し倒壊した建物がいくつも見られ、ケイのように捜索系のスキルがないアダム達は、その場所に向かうにも難儀させられている。
『やぱりこの先も塞がれている・・・迂回する道を探した方がいいかもしれません』
住宅跡地が連なる場所をいくつもの角を曲がり、辿り着いた先に倒壊した建物の瓦礫が壁のように立ちはだかっている。
本来この道は、住宅地の中心部分となる広場に続くメインストリートと呼ばれる大通りだったそうで、その通りを進んで行くと先ほど話に出た地下の移動施設に続く階段がある場所に到達するはずなのだが、眼前にそびえ立つほどの瓦礫がアダム達の行く手を阻んでいる。
「イシュメルさん、ここ以外に反対側に行く道はありますか?」
『あとは少し遠回りになりますが、東側に迂回するように南に向かう道と西側に裏通りと呼ばれる入り組んだ道がありますが、近道をするのであれば西側のルートが速いかも知れません」
イシュメルの話では、西側のルートはこの辺りに住んでいる人でも迷うことがあるほどの入り組みようだと記憶している。
彼は幼少の頃から何度もこの地に足を運んだことがあり、建物の配置が1500年前と変わっていないことから、入り組んだ裏道も道案内できるのではと考え、アダム達にそう提案をした。しかしそれとは裏腹に、アダムは建物が倒壊する事を懸念してその提案に賛同するべきかと悩んだ。
現にレイブンに抱きかかえられているブルノワは、裏通りがある方向へと目をやると、なにかが怖いのか首を振ってからプイっとそっぽを向いてしまった。
その様子から先ほどのようなストーンヘッジの群がいないとも限らないと考え、少し遠回りになるかもしれないが、東側を迂回する道を選択するべきかと思い直す。
そんな時、ブルノワを抱いていたレイブンがタレナに彼女を渡す行為を目にした。
「レイブン、なにをするつもりだ?」
「あ~いや。もしかしたらこれを何とかできるかもしれない、と思ってね」
そう言いながら、壁と化した瓦礫を前にレイブンが背負っている大剣の柄に手を掛けると、アダムは瞬時に「なるほど!」と彼の行動の意図に気がついた。
レイブンは続けてすぐ後ろに居るシルトに向かって「バックをお願いします」とだけ伝えると、その言葉の意味を理解したのかシルトがわかったと頷き、同時にいつでもいいぞという意思表示のようにインイカースに手を掛ける動作を取る。
その様子を少し後ろに下がって見ていたタレナは、抱きかかえられながら不安そうなブルノワの表情に大丈夫と伝え、唯一、これから二人のすることの意味を理解できていないイシュメルは疑問に思いながらもその動向を見守る。
アダムとレイブンはそれぞれ鞘から剣を引き抜くと、互いのタイミングを計るように一瞬互いに見やってから同じ動作を取った。
「いくよ!・・・・・・せーのーーー!!」
レイブンの合図に、二人は壁と化した瓦礫に向かって助走をつけて同時に剣を振り上げた。
先ほどまで無風だった気候に一瞬だけ風が舞い上がる感覚が身体に伝わった瞬間、なんの前触れもなく振り上げた剣から雷光を纏った突風が吹き荒れる。
それは周囲の建物が根こそぎなくなるのではというほどの竜巻へと変化し、その勢いのまま瓦礫の壁に向かって直進し衝突をした。
二人の剣から発した雷光を帯びた竜巻は、壁を構築していた瓦礫を勢いを任せたまま巻き込み、何かが拉げ捻れ切れるような異様な音が轟音として夜の荒廃した住宅地に響き渡る。
障害だった壁は吹き飛び、衝撃で飛んだ残骸は周囲の建物を傷つけ抉り、過ぎ去れば棒状や先端が鋭利な残骸が周囲の壁に突き刺さっている。
これがアダムとレイブンのアクティブスキル【輪唱】の威力である。
『見事なまでの合わせ技だな』
「以前、試しにやったきりだったから不安だったけど、何とかなったようだね」
「まぁ~人前でやる技じゃないしな」
少し間を置いて、二人が武器を収めた。
ほどなくしてうまくできてよかったと胸をなで下ろす二人に、事前に輪唱スキルの事を聞いていたシルトが感心の声を上げ、武器に添えていた手を下ろす。
先ほどレイブンがシルトに言っていた意味は、壁の反対側でストーンヘッジの様な魔物がいないとも限らず、発動した後に襲われる可能性も考えてのことだった。
あの一言でレイブンの言いたいことを理解したシルトに感謝すると共に、合流地点へ急ごうと告げる。
『・・・えっと、タレナ?彼らのあの能力は?』
「アダムさんとレイブンさんの合わせ技で【輪唱】というスキルです。普段は威力が大きいことからこのスキルをあまり使わないと言っていました」
状況をイマイチ理解できていないイシュメルがタレナに尋ねると、二人のスキルについての説明を受ける。
二人のアクティブスキル【輪唱】は、同対象を攻撃した時に確実に破壊・葬ることができるというもので、以前ケイが創造した武器である雷光のアラネスとラファーガの特殊能力の一つでもある。
ただ威力が高く、試し切りの際に偶然発動した時には周囲の物が根こそぎ吹っ飛んだことから、使い方を誤れば大惨事というある意味紙一重スキルとも言える。
アダムとレイブンの活躍にブルノワはきゃっきゃと笑い、タレナも二人を称えているが、イシュメルはまるで話題についていけない学生のような理解できていない自分がおかしいのだろうかと顔を引きつらせ困惑している。
「イシュメルさん、言っていた場所はこの通りの先で良いんですよね?」
『え?えぇ。ここを直進すると地下の移動施設へ続く階段があります』
言いたいことが口に出そうになっているイシュメルは、急ごうというアダムの言葉に口をつぐみ、皆の後に続き先を急いだ。
「そういや、さっき着信あったな~」
同じ頃、未だに防火扉の反対側でストーンヘッジの群が体当たりしている音をバックに、ポケットからスマホを取り出したケイは着信の相手を確認した。
相手はアダムからで、ケイ達がもし移動しているのなら地下に直結している移動施設があるという旨の内容だった。そのメッセージを確認したケイは、あっ。と小さく声を上げてからすぐさま返信をした。
「アダムからの連絡?」
「あぁ、どうやらアダム達も地下の移動施設へ続く階段に向かっているみたいだけど、合流できそうにないんだよな」
「どういうこと?」
「さっき通ってきた道あったろ?サーチとマップかけてたけど、大陸が沈んだ影響で上に続く道が軒並み潰れちまったせいのようだ」
シンシアから地上に上がれないのかと尋ねられ、少なくとも地下の移動施設から地上に続く階段までの通路自体が塞がれているため、別のルートを探すしかないと返す。
「アルバ、北部地区にある移動施設から地上に上がる道は他にないのか?」
【結果から申しますと、北部地区周辺にある地上へのルートは大陸沈没の影響でルートが塞がれています。ただリスクはありますが、浮上していない中央地区には地上に続く地点がいくつか生きているようです】
「リスクがある、ってどういうことだ?」
【中央地区、特に王宮がある地域一帯が黒腫の影響で“巣窟”と化しています】
黒腫の巣窟に疑問を抱いたケイが問い返すと、中央地区にある王宮全体が黒腫に覆われ、建物としての機能は失われストーンヘッジの巣窟になっているという。
あくまでもアルバの調査の段階でなのだが、いずれにせよ地上へ上がるには中央地区を浮上させ、巣窟をかいくぐるしかない。
「アルバ、中央地区を浮上させろ」
「ち、ちょっと本気で言ってるの!?冗談でしょ!??アダム達には何も言ってないじゃない!?」
「地上に上がるにしろアレグロの本体が中央地区にあるとするなら、いずれは行かなきゃならないだろ?それにアダムにはメッセージで【中央地区経由で地上へ上がるからそっちで落ち合おう】とメッセージを送ってる」
先手を打ったケイの言葉にシンシアは頭を抱えた。
言うならば、レッドボアの集団に囲まれた冒険者が木の棒一本で立ち向かうような状況に、少佐を含めて不安しかない。しかし四の五の言っても北部地区には地上へ続く道がないことから、地下経由で中央地区へと向かい、そこから地上へ上がるしかない。
奥へと続く地下通路の足元には非常灯が配置され、等間隔に照らしている橙色の明かりが奥へと続く暗闇を不気味に感じさせる。もちろんケイの手元にはランタンが握られているが、それも相まってか高架下のトンネルのようななんとも居心地の悪さは否めない。
二人が進行方向を50mほど進んだ辺りで下に十段ほどの続く石階段が見えた。
「ケイ、奥に空間が見えるんだけど?」
「あれは・・・線路か?」
非常灯の明かりが照らす先に、線路の一部とおぼしきレールが二つ見えた。
階段を下り目線を奥へと向けると、高い位置に設置された非常灯が左右に広がりドーム型を形成した天井を仄かに照らし出している。
壁はレンガ調で長年沈没した影響なのか壁や天井は黒く変色し、生ぬるい湿気った空気が二人と一匹に纏わり付く。
「ということは、ここは駅のホームか?」
「駅のホーム?」
「アダムからのメッセージで、アグナダム帝国の地下は他の場所へ行き来する為の列車が存在しているんだってよ。まぁ、地球にも当たり前にあるから、線路を通ればいずれは中央大陸に着くだろうな」
ホームの構造から始発終着駅のようで、線路の向かって左側には列車の一部とおぼしき車両が停まっている。
二人が左側に足を進めると非常灯に照らされた列車は五両編成のようで、後ろから三両目までは強い衝撃が加わったのかホームの一部を巻き込んで原型を留めていないほど潰れている。
「前の方は綺麗に残ってるな。ということは、ホームに入ってきたときに停止線を越えて壁につっこんだんだろうな」
「前の方は使えるのかしら?」
「たぶん前の二両は使えるんじゃねえかな。あとはレールの状態によるけど」
壁に激突していない二両は、全体的に劣化しているものの損傷はあまりなく少し調整すれば使えるのではと見てとれる。
アルバに中央地区の大陸を浮上させることを頼み、あわよくば体力温存のためにここにある無傷の二両に乗って中央地区へ向かうことができるのか?などと、ケイは思案したのだった。
地上でアダム達がパワープレイをしているなか、ケイとシンシアは地下の移動施設にて列車のような乗り物を発見しました。
果たしてアダム達と合流することはできるのか?
閲覧&ブックマーク&感想などありがとうございます。
細々とマイペースに活動していますので、また来てくださいね。
※誤字脱字の報告、または表現の提供をありがとうございます。




