288、ストーンヘッジの群を突破せよ
皆さんこんばんは。
いつもご高覧くださりありがとうございます。
さて今回は穴に落ちたケイ&シンシアと大聖堂ではぐれたアダム達の話です。
「もぉ~~~なんなのぉ~!?」
突然の地震に驚く間もなく床が崩壊し、気づいた時には暗闇の広がる空間に居た。
混乱したままのシンシアの意識が徐々に落ち着きを取り戻し、この時ようやく自分が落ちたのだと理解し、誰に言うわけでもなく、この状況にため息と怒りが入り交じった声を口にしながら上体を起こすと、自分のお腹の上に何かが乗っている感覚がした。
目線を少し前に向けると、暗闇に浮かぶ六つ光が間近にある。
シンシアは一瞬悲鳴を上げそうになるが、聞き慣れた『・・・ワウ~』というショーンの困った様な鳴き声に、その正体が少佐だと納得をする。
「少佐も一緒に落ちたのね。暗くて何も見えないけど、一緒に居たケイは大丈夫なのかしら?」
少佐を抱きかかえながら彼らに語りかけるようにケイの事を尋ねると、今度は自分の下から人の唸り声がした。
「・・・大丈夫じゃねぇよ~」
「ケイ?どこに居るのよ?」
「お前が俺の上に乗ってんだよ~。重いから降りろって!」
重いって失礼ね!と文句を口にしたシンシアだったが、先ほどから自分の座っている地面が妙に柔らかいことからそれがケイの背中だと気がつき、腰を浮かせて立ち上がると、「いてぇ~」と言いながらケイが立ち上がる動作音が隣から聞こえる。
それから鞄を開け、中から明かりになるような弄る音とそれが見つかり引っ張り出す際の金属が当たる音が静けさのなかにやけに響く。
「よし!これで少しは明るくなっただろ?」
スゥっと火が灯り、ケイの手にしたランタンが辺りを仄かに照らしているが、視界はせいぜい2~3mしか見通すことができず、シンシアが手にしていたランタンは壊れた物だったのではと疑問を投げかける。
「それって新しいランタン?」
「いや、前に使ってたヤツを創造魔法で改良した。魔石を用いたランタンって意外と見つからないし、それなら壊れたやつをリサイクルした方が安上がりだとおもってな」
ケイの持っているランタンは、以前ルフ島での出来事で壊れてしまったのだが、魔石を用いたランタンというのは希少価値が高く、直せる職人があまりいないことから一般的にはあまり流通していない。またそれを知っているケイは、壊れたランタンを自身の魔法で改良し、再度使用出来るように手を加えていた。
このランタンは、仕組みこそ魔石を用いたランタンと同じ構造なのだが、一つだけ違うところがある。
実は魔石自体能力が何もない空の魔石を使用しており、そこにケイの魔力をガンガン詰め込んでいる。
灯りを灯すには、ランタンの底にあるツマミを捻ると圧縮された魔力が魔石に反応し、魔石に蓄えている魔力を放出しながら灯りを形成し灯す構造になっている。
いわば電池と同じような構造に近く、シンシアがどのくらい持つのかと尋ねると一回で大体7~8時間程度と返ってくる。
「壁とか床とか黒いし、灯りがあっても暗いわね」
「位置的に大聖堂の真下であることは間違いないけど、どっか上へ出る道があればいいんだけどな~」
ケイが何気なくサーチとマップを展開すると、妙な違和感に気づき顔を顰める。
マップの真上に無数の敵対する赤いしるしが広がり、まずいと思ったケイが右手で隣にいるシンシアの手を掴む。もちろんシンシアはそれに驚き手を引こうとしたのだが、彼女の力ではその手を外すことができずケイに抗議の目を向ける。
「これはなに?」
「・・・上に何か居る」
「えっ?何かって?」
シンシアがふと見上げると、暗闇に浮かぶ無数の光が二人を見下ろしている。
ケイは、少佐を抱えたままのシンシアを横抱きに持ち上げ、ランタンの取っ手をショーンに咥えさせると素早くその場から走り出した。
その直後、生き物の奇声と唸り声が合唱の様に広がり、次々と上部から着地するとケイ達を追って何かが迫ってくる。
「ちょっと、あれってストーンヘッジじゃないの!?」
「たぶん大聖堂の真下の空洞がヤツらの住み家みたいになってるかもしれない。壁も床も全部黒いってことはそういうことだったってワケだ」
「この状況で冷静に分析しないでよぉ!」
耳元で響くシンシアの抗議の声に煩いと思いながらも、黒い空間が続く道なりをマップを頼りに駆け抜けていくしかなかった。
同じ頃、アダム達は突如出現した床の大穴からストーンヘッジの集団に驚いた。
群の襲撃を避けるため、建物を出ようと踵を返し来た道を全力で走り抜け、入り口を出たところでシルトが入り口ごと塞ごうと、近くにある支柱を巻き込みながらインイカースで叩き切ると、崩壊と同時に扉を塞ぐ形で瓦礫が積み上がる。
瓦礫と化した大聖堂の入り口の反対側では、体当たりをする衝撃とストーンヘッジの不気味な奇声が辺りにこだまし、それはまるで捕食者を逃がしたと言わんばかりの怒りを含んだ奇声に近いものがある。
「ケイ達、大丈夫なのか?」
穴から落ちたケイ達の安否を気遣うアダムに、イシュメルがもしかしたらとこんなことを口にする。
『もし二人が北部地区を南に進んでいるのだとしたら、おそらく地下の移動施設に向かっているのかもしれない』
「地下の移動施設?」
『アグナダム帝国の地下は、かつて大陸内の移動手段でもある“列車”というものが通っていたんだ。地上は大陸全土に建物が建ち並んでいたから、大陸内の移動と言えば地下の列車がメインだったので、私の推測が正しければ自ずとそこに行き当たるかと・・・』
イシュメルの話では、大陸内を一周するようにレールという物が地下に設置されており、魔素を燃料とした列車が運行していたようだ。
またレールは二線存在し、それぞれ外回り・内回りと大陸を巡っていたそうで、当時の列車は十両編制だったことから、今でいう日本の電車の構造と非常によく似ている。
また本来なら各地区に3~4つほどの停車駅があったそうだが、大陸自体がこのような状態になっているため、現状がどうなっているのかは不明である。
「ケイの事だから大丈夫かもしれない。アダム、とりあえずケイに連絡を取ることはできるかい?」
「アイツが出るかわからないけど、とりあえず一度鳴らしてみるよ」
レイブンの提案にアダムが所持しているスマホを取り出そうとした時、建物の隙間からストーンヘッジが何体か這い上がってきていたので、シルトがそれに気づき素早く退治したが、ここにいては危ないと危機感を抱いた一同は、一旦魔道船の方に引き返し体勢を調えようと考える。
「イシュメルさん、大聖堂の地下は地下の移動施設と直結していたりしますか?」
『本来は大聖堂に地下は存在していませんが、移動施設と隣接している部分はあったと記憶しています。もしかしたら、大陸が沈んだ際に構造上の原因で空洞が発生したのかもしれません』
イシュメルの想定が正しければ、ケイ達は地下の移動施設経由で地上に出られる場所があるかもしれないと考えたアダムだったが、問題はどうやって合流するかという点に行き当たる。
アダム達はケイのようにマップやサーチといった位置把握のようなスキルを所持いないため、頼みの綱は土地勘があるイシュメルしかおらず、大聖堂の地下のように他の場所でもストーンヘッジが生息している可能性も否定できない。
いままで東部地区・南部地区と巡ってきたもののここに来てからストーンヘッジに遭遇するとは想定外だったが、あのストーンヘッジの群は、亡くなったアスル・カディーム人またはアフトクラトリア人の成れの果てなのかもしれないと、アダムは一瞬だけその考えを過ぎらせた。
『もし二人が地上へ道を見つけたとしたら、ここから一番近い場所でいうと住宅地の南側が一番近いかと思われます』
「二人と合流できればいいけど、ストーンヘッジがいないとも限らないしな」
「アダムさん、イシュメル兄さまが言うように、その場所へ行ってみた方がいいかも知れません」
タレナからそれで駄目なら考えようとアダムを諭し、レイブンの方を見やるとリスクはあるが危険と判断したら魔道船に引き返そうと返す。
アダムはスマホを取り出し素早くメッセージを打ってから送信すると、長居は無用と大聖堂から住宅地の南側にあるであろう地下の移動施設の入り口へと足を向けたのであった。
「うわぁ~こんな時に着信かよ!?」
その頃ストーンヘッジの追跡を振り切ろうとしているケイは、ポケットに入れたままのスマホの着信音に「忙しい!」とツッコミを入れる。
緊迫した状況にそぐわないなんとも抜けた音楽とバイブレーションが着信の合図を示し、それがメッセージであることを理解すると相手が誰かと想像がつく。
また、ケイの右側から横抱きされているシンシアが後方から迫るストーンヘッジの群に速く!速く!と急かし、彼女が抱いているヴァールとサウガは、ケイとシンシアの隙間から追ってくる群を足止めしようと雷撃と氷塊を交互に打ち出し、ランタンを咥えているショーンが足元を照らすが、巣窟と化している場所ではあまり意味をなしていない。
もはや状況がカオスとしか言えず、移動式のカーニバル状態を彷彿とさせる。
「ねぇ!この先はどこに続いているの!?」
「たぶんどっかの施設に続いてるけど、行ってみねぇとわからねぇ!」
【この先は、アグナダム帝国地下の移動施設に直結しています】
スマホのスピーカー機能を通してアルバが答える。
どうやらこの先に地下鉄のような場所が存在しているらしく、アルバに何とかストーンヘッジを撒けないかと聞くと、地下の移動施設に防火扉があるので、遠隔操作で群の追跡を防ぐことができると答える。
そうこうしている間に、前方に奥に続く丁字路とおぼしき場所が見えた。
マップによると、本来ならその通路の左右はそれぞれ他の場所に通じていたはずなのだが、大陸が沈んだ影響で瓦礫の山で塞がれ、また今居る地点も大陸沈没後にできた空洞のようで、アルバからここは元々存在していないと伝えられる。
【丁字路から10m先に防火扉があります。私が扉を閉めますので急いでください】
急かすアルバに人と動物を抱えているケイはこれでも急いでいると返したかった
突然のアルバからのカウントに、内心早い!早い!とケイとシンシアはツッコミを入れたかったが、この状況では悠長にも言っていられない。
【防火扉開閉まであと10秒】
防火扉まであと50mのところでカウントダウンが始まる。
さすがのケイも「嘘だろ!?」と声を上げるが、このまま突っ切るしかないと締まり始める防火扉に向かって走り続ける。
後方からは先ほどより多く発生しているのか、ストーンヘッジの群が迫ってくる四足歩行の不気味な駆け足が聞こえ、映画さながらのパニックホラー感が否めない。
時折、ケイ達に伸びてくるストーンヘッジの手足が身体を掠める度にシンシアが小さく悲鳴を上げ、足止めを続けていたサウガとヴァールも疲れが見られる。
【防火扉閉扉まで・・・3・・・・・・2・・・・・・1・・・・・・】
アルバのカウントに合わさるように、防火扉の幅が人一人半ぐらいに閉まる状況を横目に、ケイが滑り込むように扉の奥へと突き進むと、後方から防火扉が閉まる厚みと重みのある鈍い音が辺りに響く。
そしてその直後、後を追って直進していたストーンヘッジの群が、止まりきれずに扉にぶち当たる音が次々と聞こえ、助かったと言わんばかりに二人は安堵のため息をついた。
穴に落ちたケイとシンシアは、何とかストーンヘッジの群を振り切り安堵する一方で、ケイ達と合流しようとアダム達は地下の移動施設に続く場所へと移動します。
果たしてどうなることやら~
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