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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
アレグロの救済とアグナダム帝国
293/359

285、タレナとシルト

皆さんこんばんは。

いつもご高覧くださりありがとうございます。

さて今回は、大聖堂に向かったタレナとシルト、それを追うケイ達の話です。

時を同じくして、タレナは眼前に(そび)える建物に足を踏み入れた。


何故か初めて見るはずなのに懐かしく、また悲しみがこみ上げてくる気がした。

それが失われた記憶の影響なのかは分からないが、まるで何かに誘われるように奥へ奥へと足を進ませる。


まず、彼女の目の前にエントランスのような空間が広がっていた。


構造上、この建物は二階建てのようで見上げると吹き抜けの天井の一部が崩壊し、その間から星空が輝いている。

また目線を前方に向けると、円形と三角形を組み合わせた模様の床が広がり、その先には所々崩壊している部分がある階段が左右に一つずつ。その奥には、別の場所へ続く二枚扉が見える。


静寂の中、タレナの足音だけが反響しより一層不気味さを感じさせる。


奥へと続く二枚扉の間には等間隔に支柱が建てられ、天使や精霊の姿を模した飾りが施されており、相当な年月が経っているにも関わらずその造形の美しさは保たれている。それから柱を通り、奥の二枚扉までやって来たタレナが扉に手を掛け、ゆっくりと押し開くと別の場所へと広がる。



おそらくそこは礼拝の施設なのだろう。


床には黒く汚れたロングカーペットが奥へと続き、その両側には礼拝用の長椅子が左右六脚ずつ並び、目線を奥に目を向けると女神像とおぼしき石像が佇んでいる。

女神像は、大陸で見たアレサ像や点在している五大御子神を模した女神像とは異なり、愁いを帯びた表情の女神像がこちらを見つめている気がした。


タレナは、この女神像こそがアスル・カディーム人が信仰していたメルディーナの像であることを察する。


ケイからは、彼女の予期せぬ行動で自分が死に、この世界へと強制的に送ろうとした悪女という言葉を聞いたことを思い出す。

本来、自分たちが崇拝している神を冒涜されることは憤りを感じるはずなのだが、タレナ自身は黒腫から完治した後遺症でその辺りの記憶が丸々飛んでいる。

記憶がないことに関しては、なぜ自分と姉であるアレグロが時を経て、他の大陸へと流れ着くことができたのか、という謎が解明されていない。


タレナは女神像の前まで歩み寄ると、二段上の段差にある像を見上げ、まるで失った記憶を探るように目を閉じた。



目を閉じたタレナの脳裏にある情景が思い描かれ、それが視界に投影されるように広がる。


『タ・・・タレナ・・・?』

『姉さん!早く行きましょう!』


アレグロの腕を掴み、大聖堂の礼拝場から急いで二人が駆け出ようとする。


地震の影響で建物は大きく揺れ、天井から照明の一部や天窓のガラス、支柱の一部が倒壊する。


大盛堂から外へ出ると暗雲立ちこめる空から激しい雨が降り注ぎ、海からの水が大陸を包み込み始めていた。慌てふためいている人々の間を通り過ぎなが、らタレナとアレグロが住宅地を抜けてカロナック大橋方面へと走り抜ける。


「大陸が沈むぞ!」と、誰かの声が道中で聞こえた気がした。


大人や子供など関係なく、怒声や泣き叫ぶ声、慌てふためく声がこだまし辺りに響き渡る。

二人は耳に入ってくる様々な音と情報を聞き流しながらも、無我夢中でカロナック大橋へと辿り着くと、視界の端で既に中央地区・東部地区が沈みかけ、遙か彼方にある南部地区も地震の影響で沈み始めているところが映る。


『タレナ、もう無理よ・・・』


カロナック大橋近くの街道でアレグロが立ち止まる。


『姉さん、カロナック大橋の影響は大陸側まで行けばなんとかなるわ!』

『この天候で橋まで行くのは危険よ・・・』

『でも、生きていれば“姉さんの魂を元に戻すこと”ができるはず!』


自分の運命を察したのかアレグロは力なく項垂れているが、タレナは希望を持ち諦めずに生きていれば解決できると励ます。


しかしその願いもむなしく、雨風が吹き荒れるカロナック大橋は大波に揉まれて浮き沈みを繰り返していた。当然、我先にとカロナック大橋を渡ろうとした人々はその津波に巻き込まれ、まさに地獄絵図が広がっている。


そして二人がいる海沿いの街道も地震の影響で大波が押し寄せてくる。


大陸を多いつくさんばかりの大波がアレグロとタレナに迫り、二人は恐怖に震え耐えながら互いに肩を寄せ合い、迫り来る津波の前で目を瞑った。



目を開けたタレナは、先ほどの幻の様な光景と現在の状況に混乱していた。


夢を見ていたといえばいいのかわからないが、本来なら戻らない記憶になるはずなのだが、まるで“今”体験したかのように両手が震える。

以前、ケイが「何かしらの状況で思い出すこともあるかもしれない」と言っていたが、まさかここに来て思い出すとは思わなかった。


タレナが見上げた先には、先ほどの女神像がこちらを見つめている気がした。


アスル・カディーム人を生み出したメルディーナ。

彼女が創りだしたアスル・カディーム人は、予期せぬ事態により歴史から姿を消した。もしそのメルディーナが目の前にいたのなら、どんな気持ちなのだろうか。とタレナは不意にそんなことを思い巡らす。


そんな彼女の後方から、誰かが近づいてくる足音が聞こえた。


振り返ると暗がりにある二枚扉の近くから誰かのシルエットが浮かび、タレナが目を凝らすとその人物に驚きの表情を浮かべる。


「シルト、さん・・・?」


タレナの前に現れたのはシルトは、彼女から5mほど手前で立ち止まった。


こちらを見据える表情は固く、その目線からはどんな面持ちなのかを察することができずタレナは困惑する。


『私は、唯一の家族である妻を失った・・・』

「シルトさん?」

『何故、妻は死ななければならなかったのか?私は、君と同様にその前後を思い出すことができない・・・』


その発言にタレナは驚愕の言葉を浮かべた。


今までそんなことを口にしたことはなく一瞬何かの冗談なのだと思っていたが、シルトの真剣な眼差しから、もしかしたら彼もまた自分と同じ状況だったのではと感づく。しかしタレナ自身も記憶が欠如しているため正確なことは分からず、全ては憶測でしか考えることができなかったのだが、次の瞬間思いがけない状況が彼女に降りかかる。


『だが・・・』と口にしたところで、突如シルトが自身の背中に差している大剣・インイカースを引き抜き、その剣先をタレナに向けた。


(シルト!止めるのじゃ!)


インイカースにはめ込まれている人魂魔石からスピサの制止する声がしたが、シルトは聞いていないのか、一歩一歩とタレナに歩み寄る。


「シ、シルト・・・さん?」

『君が悪いわけではない・・・ただ、私は真相を知りたい。だが、それはできなくなった以上、もうこの方法しかないのだ』


シルトはまるで懺悔するかのような表情でタレナに語りかけると、その大剣を振り下ろそうとした。



その頃ケイ達は短距離の空の旅を経由して住宅地区の真上を飛行すると、その向こうに小高い丘が見えた。


「あそこが大聖堂になります!」


シブレが指さした先には、中世の神殿のような造形をした建物が闇夜に紛れて存在感を醸し出している。それが荒廃した大陸に建っているのだから、テーマパークにある某迷宮も真っ青である。


「シブレ、あの大聖堂って言うのは神官もやってたアレグロとタレナが居た建物って認識で良いのか?」

「はい。お二人は人々に癒しと祈りを与える女神様などと口にする者も少なくありませんでした。誰かのためになるのなら、自己犠牲は厭わない方々でしたから」


シブレから見たアレグロとタレナは常に他人を重んじる人柄だったようで、たくさんの人々に尊敬され愛されていた。親兄妹のみならず、全ての老若男女に平等に接し、困ったことがあれば手を差し伸べる心優しい姉妹であると同時に国のために力になろうとしていた様子だった。


ケイ達が住宅地区を通過し、大聖堂に続く階段のところで降り立つとその光景に圧倒される。


元々このあたりは小高い山が連なる地域だったようだが、人口増加が比例すると共に山を切り崩し丘になるように整地すると、そこに大聖堂を建て、傾斜を利用して階段を取り付けた。この傾斜は山の名残で、階段の周辺は草木で生い茂り山の名残を残している。


階段を上る途中で、大聖堂の前で降りれば良かったと後悔しながらも上へと進んで行く最中で、急に何かの衝突音がケイ達の耳に届いた。


「きゃっ! ねぇ!この音なんなのよ!?」

「分からないけど、どうやら大聖堂の方からしてるみたいだ!」


衝撃音に驚いたシンシアの肩が飛び上がり、ケイに担がれたブルノワが音に驚き耳を塞ぎ、大聖堂からした衝突音ではないかとレイブンが声を上げ、急いだほうが良いとケイに伝えると、それぞれ顔を見合わせてから慌てた様子で階段を駆け上がった。



「シ、シルトさん!?や、止めてください!」


シルトによって振り下ろされた大剣は、寸前で躱したタレナの居た地点を衝撃と同時にえぐるように床に亀裂が入った。

回避したタレナは彼に止めるようにと懇願したのだが、耳には届いていないようで振り下ろされた大剣を再度握り直すと今度は垂直にタレナに振り向けた。


慌てたタレナは更に後方に退避すると、今度は彼女のすぐ手前に立っていた女神像が木っ端微塵に粉砕される。


腰の位置から振り切られた女神像は、大剣の鋭利さを物語るように垂直に断面が切断され、その衝撃で上半身が吹き飛んだ部分が壁に当たり、壁の一部が崩落すると同時に地面に瓦礫と化す。


シルトのただならぬ様子に危機感を抱いたタレナは、何とかして彼を止めさせようと説得を試みたが彼女の声は耳には届いておらず、一瞬洗脳の類いの魔法をかけられているのではと考えたが、彼の様子からは正気であるがなにか自暴自棄のような雰囲気を感じ取る。


「シルトさん落ち着いてください!私も一緒に考えますから・・・どうか!」


三撃目の行動に移ろうとしたシルトに再度声を掛けたタレナだったが、緊張と焦りからか後ずさりしようとした際に足がもつれて尻もちをつく。



「シルトーーー!何してんだ!!止めろ!!!!」



今まさにタレナに向けて大剣を振り下ろそうとしたとき、二人に割って入るようにケイの怒声が辺りに響いた。

タレナを攻撃し始めたシルトを間一髪で割って入ったケイ達は、自分たちのその光景に目を疑います。

はたしてシルトに一体何があったのでしょうか?


閲覧&ブックマーク&感想などありがとうございます。

細々とマイペースに活動していますので、また来てくださいね。

※誤字脱字の報告、または表現の提供をありがとうございます。

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