284、大聖堂
皆さんこんばんは。
いつもご高覧くださりありがとうございます。
さて今回は、消えたタレナとシルトを追って船を降りたケイ達の話です。
「タレナの姿が見当たらないって本当かい!?」
シンシアに連れられて甲板に来たレイブンが驚愕した表情でケイに尋ねた。
それ以前にレイブンだけがついて来たことに対して、ダニーはどうしたのかと尋ねると、どうやらあのあと酔ってテーブルに突っ伏してしまったらしい。
ケイが来た段階で二人ともかなり飲んでいたのだが、ヴィンチェの話ではあれでもかなり酒が強い方だという。そうなると、顔を赤らめただけのレイブンはそれ以上に強いんだなと妙に感心する。
レイブンが苦笑いを浮かべているその隣で、小柄でありながら般若の面のような表情を浮かべているダニーの娘であるエイミーがまたかと怒り滲ませている。
正直、十二才でその貫禄が出せるのはなかなかだと思うのだが、あまりの形相にこちらにとばっちりが来ることがないよう、なるべく目を合わせないでおくことにする。
「ケイ、すまねぇな。ウチの野郎どもが何人か船から降りるところを見ていたみたいなんだが、止めなかったのは俺の責任だ」
同時にアダムに連れられやって来たダットが面目ないという表情を見せる。
実は、甲板で作業をしていた船員たちの中にもタレナの姿を見たという者が何人かいたようで、その時気にも留めずスルーしてしまったことに責任を感じてダットが頭を下げて謝罪する。
「ダット、顔を上げろよ。俺もまさか船を降りたかもなんて思ってもみなかったから気にすんなって!」
「でもよぉ・・・」
ガタイのいい成人男性がまるで捨てられた子犬のように眉を下げる様子に、逆にこちらが申し訳なくなる。タレナが船を降りたことに対してはケイも予期できなかったため、気にするなと肩を叩く。
「あと、さっきからイベールがシルトさんを探してたみたいなんだが、見当たらねぇみたいなんだ」
「えっ?シルトもか!?」
そういえば、レマルクがタレナを探していた時にイベールも同じ件でシルトを探していたところを見た気がする。そこでケイはもしやとサーチと船内のマップを展開したのだが、予想通りシルトもタレナ同様船内に反応がない。
「サーチ使っても二人の反応がないってことは、シルトもタレナの後を追ったか一緒に降りた可能性はあるな」
「シルトもって、二人は何処に行ったのよ?」
「・・・もしかしたら“大聖堂”の方かも知れません」
そう答えたのはシブレだった。
彼は元々北部地区にある大聖堂の警備も務めていた経験があり、タレナとシルトはもしかしたらそこへ向かったのではと述べる。
「大聖堂ってなんで分かるんだ?」
「アレグロ様とタレナ様は神官としても有名でしたから、記憶がないタレナ様は無意識に拠点としていた大聖堂に向かった可能性はあるかもしれません」
そんなことってあるの?と隣にいるシンシアは首を傾げたが、記憶喪失者が無意識に関連のある場所へ向かうという事例があるので彼の話を否定できない。
シブレの話がたしかだというならば、シルトも同行またはタレナを追っているかもしれないと思い、とにかく二人の後を追うのが先だとケイは考える。
「ヴィンチェ!ダット!悪いが俺達はタレナとシルトを連れ戻してくる!」
「今すぐか!?」
「大丈夫かい?」
「行ってみないとわからねぇが、このまま二人が戻るのを待つより早いだろ?」
「それでしたら、自分も同行します!」
心配そうな様子を見せるダットとヴィンチェに、とにかく二人に追いつくのが先だとケイが返すと、シブレが道中の道案内でしたら同行しますと挙手をする。
一般人もといコールドスリープから目覚めて日が浅いシブレを同行させるのはどうなのか?と疑問に思うのだが、地理的なものは大分変わっているであろう北部地区は、大聖堂に向かう道中に広範囲に住宅地が建ち並んでいる関係で道が複雑なのだという。
ちなみに他国との交流が盛んだった当時は、地元の人でも迷子になるほどの入り組んだ道だというのだから、よほどなんだろうなと別の意味で感心する。
「いやシブレ、あんた大丈夫なのか?」
「元々軍に所属していたので、復帰には自信があります!」
「なんの自信かわからねぇがそういうもんか?」
ここに居ないバギラからは無理をしなければいいと言われていたようで、自発的にシブレが手をあげても、後から連れ出した自分たちが怒られるのは勘弁という目でダットを見やると「バギラには言っておくから無理させない程度に頼む」と、一見男気のある素振りを見せながらも口の端で引きつっている表情が窺える。
「これからタレナとシルトを探しに行くけど、おまえら大丈夫か?」
「私は大丈夫よ!」
「俺も大丈夫だ」
「今からでも問題ない。とにかく今すぐ二人を探しに行かないと!」
三人から了承を得たケイはアダムの返しに「とっとと行こうぜ!」と答え、シブレを同行させた形でタレナとシルトを追って急いで船を降りた。
時は、ケイ達がタレナとシルトを探し船を降りる少し前に戻る。
先ほどの話し合いで自分の記憶喪失の一因が“黒腫から完治した影響”だということを知ったタレナは、その後部屋に籠もり考え事をしていた。
しかし、いつの間にか自身の身体が船を降り、北部地区のどこかである住宅地のとある一角に立っていたところでハッと我に返る。
無意識に船を降りてしまったことに焦りを感じたタレナは、前後左右に伸びる道をぐるりと見渡すが自分がどっちから来たのか分からず混乱した。
しかも運悪く既に日没を過ぎたようで、星月夜に照らされた荒廃した住宅地の光景しか見えず、空を見上げれば反射した船の明かりが見えるのではと思ったのだが、その住宅地は高い建物が建ち並んでいるせいで空がよく見えない。
自分の前にある道の先に建物の間から丘のようなものがチラリと見えたので、高い場所からなら船の位置がわかるのではと考え、とりあえず進行方向に歩いて向かうことにした。
(ここは・・・?)
タレナが住宅地を抜けると、その先に小高い丘が見えた。
丘の上には暗くて細部までは良くは見えないが建物の跡があるのだが、タレナのいる位置からでも建物の全体像が見えたので、かなり大きな建物だということは理解できる。
またその道中には、丘の上にある建物に向かって石階段が続き、階段の両端に等間隔で西洋風の外灯が立てられているが、そのほとんどが壊れていたり支柱の根元から折れてなくなっていたりとその意味をなしていない。
高い位置から今居る場所を割り出そうとタレナが石階段を上る途中、一歩ごとに幻のような夢の様な情景が見えた。
幻の中で歩いている自分は、白装束に金色の装飾をあしらわれた姿で、石段を上る自分の背後から人々の声援や歓声が上がり、その隣には同じような装束を纏ったアレグロがこちらを向き笑顔を見せる。
幻から覚めたタレナの眼前には、荒廃した住宅地が広がっていた。
おそらくかつての面影はあったであろうが、そのほとんどが朽ち落ちている。
それから前方のやや左側に目を向けると、遠くの方で船の明かりらしきものが空に反射し仄かに光っているのが見える。位置的に完全に真逆の方向に歩いていると知ったタレナは、急いで船へと戻ろうとしたところ、ふと先ほど遠くに見えた建物が気になり振り返る。
石階段の先に広がる巨大な建造物。
まるで西洋の神殿を彷彿とさせる建物は、遠くで見るよりずっと巨大で星月夜にも関わらず年月が経ってもその存在を嫌でも知らしめられるほど圧倒される。
この時タレナは自身が今何を考えているのかとまるで他人事の様に感じ、ただ階段の上で立ち尽くしているだけだった。
時を同じくしてタレナとシルトを探して大聖堂方面に向かったケイ達は、北部地区の一画に存在していた商業区の先にある住宅地を目の前に唖然とした表情をした。
「なんだこりゃ!?九龍城砦か!?」(※90年代まで存在した城塞)
「キュウリュウ?よくわからないけど、本来であればここが北部地区にある住宅街になります」
商業区を抜けた先に区画された緩やかな丘を上ると、中央に向かって緩やかな傾斜と共にゴースト化した集合住宅が連なっている光景が広がる。
シブレの話では、かつて人口の三分の一以上がここで住居を構えていたそうだが、それも今は昔。人の気配が全く感じられない寂れ廃れた建物だけが残り、魔物よりもお化けが出てきそうな雰囲気を醸し出している。
無論幼いブルノワと少佐は尻込みをし、シンシアに至っては弱腰になっている。
「なぁ、これ迂回する道ってないのか?」
「住宅地区は海風から高層住居を守ることを想定して地盤が決められているため、迂回する道がないのです」
「これって迷ったら駄目よね?二人に追いつけるのかしら?」
「実は、この住宅地は歩いて通り抜けることを想定していない造りでして」
「通り抜けられないってこと?」
「いえ、一応通り抜けることはできます。ですが、本来であれば国内を飛行する飛空挺や地下を移動する列車というものをメインで使ってますので・・・」
どうやら、当時の人々は地下に施設がある地下鉄や空を移動する飛空挺というもので国内を行き来していたようで、徒歩で向かう事は可能ではあるが時間がかかるというのだ。
高度な文明を築いたわりには、そのあたりなんだかな~と思ってしまう。
しかし二人の事を考えると悠長に通り抜けている場合ではないと考えたケイは、三人に「とにかく急ぐぞ!」とだけ伝えると、自身と四人に【フライ】の魔法をかけた。
「えっ?う、うわっ!!?」
「シブレさん、落ち着いてください。これはケイの魔法です」
「え?ま、魔法?彼がか!?」
急に自身の身体が浮遊する感覚に包まれたシブレが慌てた様子を見せたが、アダムが何とか諭すと、一瞬呆けた表情でケイ達を見るや、そうか・・・と半ば無理矢理自身を納得させる素振りを見せる。
シブレには悪いがちゃんとした説明をする時間がないので、飛んで住宅地を越えるとだけ伝えると、アダムとレイブンがシブレをサポートする形をとり、それを確認したのちに大聖堂方面へと飛行していくのだった。
無意識に船を降りたタレナはいつの間にか北部地区にある大聖堂へと向かい、シブレの話でタレナとシルトを追ったケイ達は果たして二人と合流することができるのでしょうか?
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