283、タレナを探して
皆さんこんばんは。
いつもご高覧くださりありがとうございます。
さて今回は、船内の日常とタレナを探し回る回です。
タレナを探して自室から移動したケイは、まず食堂へと向かった。
そこには何人かの船員が談笑や早めの夕食を取っている姿がちらほら見え、その中に酒を片手に談笑していたレイブンとダニーの姿があった。
「なぁ、だれかタレナがどっか行ったか知らねぇか?」
「俺達はさっきからここに居るけど、見かけてないよ」
「レマルクが、夕食の件でタレナの部屋に行ったら居ねぇみたいなんだ」
二人の前には夕食前だというにも関わらず、ルフ島で作られている枝豆とすでに何本か空いている酒瓶が置かれ、飲酒の影響で顔を少し赤らめながらも陽気に笑い合う姿からケイの声かけにこちらを向くや「さぁ?」と首を傾げる。
空いた酒瓶を見てみると比較的度数の高い物のようで、レイブン以上にダニーがハイペースでその酒を飲み干している。
ヴィンチェ曰くダニーはかなりの酒豪のようで、いつも娘のエイミーに翌日喝を入れられているそうだが「酒は水だ!」と豪語しているらしい。
飲酒あるあるなのだろうか?酒を好まないケイにとっては分からない領域である。
「もしかしたら、アダムかシンシアのところにいるんじゃないか?」
「二人はどこにいるんだ?」
「アダムはヴィンチェさんと甲板に行くところを見かけたよ。なんか珍しい魚が釣れたとかで盛り上がってたみたいだし、シンシアはアルペテリアとルシオさんのところに行くって言ってたから」
よく把握しているなと、ケイがレイブンを感心する。
自身はパーティといえども、船内での行動は基本干渉しないことにしている。
自分もオフの時はゆっくりしたいこともあることから、各々やりたいことも違うため、用があるとその辺に居る船員に聞けば良いと思っているからだ。
特によくすれ違うレイブンにその都度聞いていたこともあってか、実は最近になって聞く前にどこに誰が居るという事を教えてくれるようになった。
アダムとシンシアからは、サーチとマップを使えばいいのではと言われたのだが、そこまでして急用な用件というのはほぼなく、それについては散歩のヒモじゃないんだからとナシの方向で考えている。
夕食前の酒盛りの二人と別れたケイは、その足でシンシアのところへ足を運んだ。
通りすがりの船員にルシオのところにいるシンシアのことを尋ねると、最近になって客室に移ったルシオの場所を教えて貰った。
本当はいつもの様に会議室か船医室に向かおうと思ったのだが、通りすがった船員から医務室はリアーナから鉄槌を喰らったピエタが寝ているから止めた方が・・・と言われる。ケイの知らないところで全船員にブルノワと少佐の件が知れ渡っているようで、チラッと彼らを見るやこっそりと伝えられる。
あぁ~と納得すると、船員と別れてシンシア達が居るルシオの客室へと向かったのだった。
「ルシオ!ちょっといいか?」
客室の扉叩き、ほどなくしてルシオが顔を出した。
ケイの姿を見るやどうかしたのかと聞かれたので、シンシア達が来ていないかと尋ねると、部屋の奥から椅子に座った状態の二人がひょこっと顔を出した。
「ケイ、どうしたのよ?」
「タレナ見てないか?レマルクが夕食の献立で聞きたいことがあるって、探し回ってるんだ」
奥に居る二人は見ていないと揃って首を振る。
ルシオから二人はずっと自分と一緒に居たと告げられ、シンシアから当時の生活様式や暮らしぶりを質問を受けていた様子だった。
やはり領主の娘だけあってその辺の情勢が気になるのか、異国の地で生活をしようとした理由なども尋ねられ、苦笑いを浮かべながら彼女は熱心なんだねと意外そうに答える。
「シンシア!あんまりルシオを困らせるなよぉ?」
「失礼ね!ケイほどじゃないわ?それに、あれだけの生活水準や文化的発展が進んでいるって興味あるだけよ?」
心外だと言わんばかりにしかめっ面のシンシアに、すいませんねと棒読みで返したケイが踵を返して他を探そうとしたところで、シンシアも心配だからついていくとルシオの部屋を出ると、残されたルシオとアルペテリアも自分たちも別で船内を探してみると二人の後に続いた。
ケイとシンシアが甲板に向かうと、船員達の歓声と共にたくさんの魚が詰め込まれた木箱の光景が広がった。
甲板の端には、船員達に囲まれながら釣り竿片手にドヤ顔をしたシブレと腰を降ろし脱力した様子のヴィンチェとアダムの姿がある。
見ると三人の傍らには、2m程の赤い目をしたモグラのような生物が打ち上げられており、釣り糸が絡まった開いた口からは銀色のギザギザの歯がチラリとその鋭さを見せている。
「お前ら、なにやってんだ?」
ケイとシンシアの姿を見るやアダムが「釣りをしていた」と返し、その様子を見る限りハードな運動部の部活後のようにしか見えないのだが、なぜかホクホク顔のシブレがこんなことを口にする。
「いや~まさか、またコレが釣れるとは思わなかったよ!」
「ってか普通の釣りなんだろ?なんでそんなに「やり切った!」って顔なんだ?」
「あ、あぁ~ごめんごめん!これは【アカメモグ】といわれる魚で、捕獲することが難しい魚なんだ」
「アカメモグ?魚?これどう見ても、モグラにしか見えねぇんだけど?」
アカメモグは、アグナダム帝国北部地区の東側の海域に生息している魚である。
ケイの言う通り見た目は完全にモグラなのだがれっきとした魚で、通称・水モグラと言われている。
毛皮を纏って見える外見は一本一本細い鱗で構成され、日中は海底に潜り日没を過ぎてから海面で活動するいわば夜行性で、シブレ曰くこの鋭い歯は網を食いちぎり漁を妨害することから、漁師の天敵と言われるほど捕獲が難しいことで知られている。
現に魚の調達で素潜りをしていたマカドとヴェルティヴェエラ・ノヴェルヴェディアが何度かアカメモグを見かけており、他の船員が仕掛けた投網を食いちぎり駄目にする事例があったそうだ。
しかしその反面他の魚とは違い、毛のように見える細い鱗は一見硬く見えるが、容易に曲げることができる柔軟性を持っているため、アグナダム帝国ではその性質を利用して物を縛り付けておける針金の役割を果たしている。
そんな捕獲が難しいアカメモグだが、ケイとシンシアの目にはシブレが手にしている釣り竿一本しかなく、本来そんな凶暴性を持つ魚を木製の枝に釣り糸をつけた簡易な竿で釣れるのだろうかと疑問が浮かぶ。
「ヴィンチェ、もしかしてあんたなんかしたか?」
「あはは。実はちょっと手を加えたんだけど、まさかこんな大物を釣るとは思わなかったよ」
アカメモグを釣り上げた釣り竿は、実はヴィンチェが手を加えた一本だった。
元々は誰が使ったのかわからないぐらいボロボロで劣化していたが、修復士のスキルによって生まれ変わった釣り竿は、あれよあれよという間に魚の山を築き、しまいには【強制釣り上げ】という釣り師からは喉から手が出るほど欲しいスキルが付加されている。
しかしヴィンチェは、このかた釣りをした事がない。
その時一緒に居たエイミーから釣りのレクチャーを受けたが、イマイチ勝手が分からないせいか、自身が直した釣り竿にも関わらず何故か釣れず、気落ちしていたところにアダムとシブレがやって来たそうだ。そこでヴィンチェが釣りかと懐かしんだシブレに手渡したところ、ものの数分でアカメモグを釣り上げたところにケイ達がやって来たというわけである。
ちなみにアカメモグは煮ても焼いても美味しいそうで、解体スキルを持っているエイミーが包丁を入れようとしたのだが、彼女自身が体格が小柄だったこともあり、仕方なく食堂にいるマカドを呼びに走っているところだった。
その後マカドを連れてエイミーが戻ってくると、アカメモグの姿を見るや驚きの声を上げ、そのままでは船内に運び込めないため、近くに居た船員を巻き込み解体ショーが行われた。
「あ、そういや、タレナ見なかったか?」
解体ショーを見学しながら隣に居るアダムとヴィンチェに声を掛ける。
夕食の件でレマルクが探していたと伝えると二人とも見ていないと首を振り、本当に何処に行ったんだとケイも首を傾げる。
「どっかにいるんじゃないのか?」
「俺もそう思ったんだけど、レマルクが結構前から探していたみたいでさ」
「・・・あれ?でも、たしかケイはサーチのスキル持ってなかったっけ?」
ヴィンチェの指摘に船内に居るなら使う必要なんてないだろうと返したのだが、しかし念のためにと試しにサーチを使うとあれ?と首を傾げる。
サーチとマップのスキルを併用して使用しているのだが、船内の何処にもタレナの反応がない。
いつもならマップには個人を探しやすくするようにマーキングをしているのだが、それが消えているとなると、船外に移動した事を示している。
「あの~もしかしてタレナさんを探しているのなら、少し前に船の外に散歩に出かけると行って降りて行きましたが?」
ケイ達の隣で解体ショーを見学していた別の船員から、衝撃の事実が伝えられた。
一瞬空気が止まったかと思うと、次の瞬間には周りにいた仲間の船員達から「それなら早く言えよ!!」とツッコミをくらっていた。
船員の話では、ヴィンチェ達が甲板に来る少し前に作業をしていたところ、ふらりとタレナがやって来て散歩をしてくると言って船を降りていったようだ。
その時、日が暮れるから止めといた方がと伝えたのだが、タレナはすぐに戻りますとだけを言い残してその場をあとにしたらしい。
「はぁ~とにかくタレナを探すしかないな」
「私はレイブンを連れてくるわ」
「俺はダットさんに伝えてくるよ!」
シンシアが食堂に居るレイブン達を呼びに走り、アダムがこのことをダットに伝えようと急ぐ。
ケイはやっぱり先ほどの話し合いの件で、タレナの気持ち的になにかあったのではと考え、ヴィンチェに捜索の準備をしてから探しに行くと伝えたのだった。
船員からタレナが船から降りたと聞いたケイは、皆を集めて彼女を探しにいくことにしました。
タレナは一体何処へ向かったのでしょう?
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細々とマイペースに活動していますので、また来てくださいね。
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