27、王家の墓
マーダはどうなるのでしょう?
ケイ達が問題解決に挑む。
「兄さんが倒れたって、どういうことなんだ!?」
ルークスがタレナに詰め寄り両肩を掴むと、焦りと動揺の表情で問いただす。
「それが、執務中に急に・・・」
タレナの話では、執務室で書類の整理をしていた途中で、椅子から立ち上がった瞬間に倒れたそうだ。
「今、お部屋でお医者様が診ておられます」
自分が呪われ、兄が倒れる。ルークスにとっては二重のショックである。
唯一の肉親を前に何も出来ない自分がもどかしかった。
「ケイさん、一緒に来て頂けませんか?」
ルークスは頭を下げて懇願をする。
カタラの呪いを言い当てたケイなら何か助言してくれるかもしれない。
その後は自分が兄弟を助ける、そんな面持ちだった。
ケイはルークスの意向を汲んで、その後についていくことにした。
「ケイさん!なぜルークス様と一緒に!?」
マーダの部屋の前で、ルラキに会った。
彼も、このことを聞きつけ急いで駆けつけたという。
アダム達は、先ほどの応接間で待っていると言った。
「私からお願いしたんだ」
ルークスの発言に驚いたが、今はそちらまで気を向ける余裕はなかった。
部屋に入ると、ベッドの上で一人の青年が横たわっていた。
「兄さん・・・」
ルークスが駆け寄りベッドの脇まで来ると、左手を握った。
青年は意識がないのか眠ったまま反応がない。
「ルークス様」
専門医であろう初老の男性が、心配そうな面持ちで声をかける。
「あ、すまない。兄さんの容態は?」
「今は眠ったままですが、この状態が続けば衰弱は避けられないかと・・・」
慎重に言葉を選び伝える。
「なんで・・・」
「ルークス様!」
力なく項垂れるルークスにルラキが肩を支える。
その様子を尻目に、ケイはマーダとおぼしき青年を見やった。
(あれ?こいつ・・・)
ケイはその青年に見覚えがあった。
先日、宿屋を案内してくれた工具箱を持った青年だった。
整備士にしては髪が切りそろえられており、どこか気品が漂っていた印象を持っていたが、まさか国王だとは思わなかった。
そしてここに向かう途中で、ルークスから兄の鑑定の願いを受けたことを思い出す。
【カタラの寵愛】即位した者が異性の場合は、十年間の繁栄を約束する。しかし代償として魂を捧げること。
「やっぱりな」
ケイはそれを見ると、先ほどの仮説が正しいことを確信した。
「そういえば、あなたはここで何をしているの?」
タレナと瓜二つな顔に、褐色の肌と橙色の長い髪の女性が声を掛けてきた。
彼女も、以前オークションで、ルークスの護衛として同行していたタレナの姉・アレグロだった。
「ルークに頼まれた」
「ルークス様が!?」
ルークスとケイを見比べながら聞き返す。
「カタラという言葉を聞いたことあるか?」
ケイの言葉にアレグロとタレナが首を横に振る。
「八代目の名前でございます」
専門医の男がそう答えた。
彼は長きに渡り、一族の体調を診てきたといい、八代目以降の検死も行ったという。
「ケイさん、どういうことですか?」
ルラキが問うと、おそらく九代目以降が亡くなったのは【カタラの呪い】の称号せいであり、マーダが倒れた原因は【カタラの寵愛】の称号の影響があると答える。
その瞬間、ルラキと専門医の顔色が変わった気がした。
「なぁ、カタラって人の遺体ってどうなったんだ?」
「我が国のしきたりに則って、『王家の墓』に埋葬しております」
「確か北西にあるヤツだよな?」
「はい、そうです」
ルラキの言葉にケイは八代目の遺体がまだあることで、呪いが継続されているのではと思い、それをどうにかすれば称号の欄からは消えるのではと結論づけた。
確証はないが、一刻の猶予もない。
「とりあえず俺はこれから『王家の墓』に行ってみる!」
「ケイさん、私も行きます」
青白い顔をしたルークスがそれに続く。
「ルーク、お前はここで待ってろ」
「ですが・・・」
ルークも話の内容から、埋葬している遺体が原因ではないかと思っていたようだ。
「悪いが、アダム達にそれを伝えてくれ!」
ケイが踵を返し部屋を出る。
その際ルークスが何かを行ったようだが、ケイには聞こえることがなかった。
宮殿から出ると日差しが強く、顔にジリジリと当たる感触がある。時刻的には正午に差し掛かるのだろう。
走って北門から出ると、後ろから自分を呼ぶ声が聞こえる。
「ケイさーん!待ってくださーい!」
振り返ると、タレナがプリ・マに乗って追ってきたのだ。
「タレナじゃん?どうした?」
「ルークス様の命で、王家の墓に同行をいたします」
タレナの話だと北西にある王家の墓は、人の足だと時間がかかるため通常はプリ・マに乗るらしい。ヴィリロスから来る時も、これに乗ったことを思い出す。
「姉もアダムさん達を連れてくるそうなので、私たちだけでも先に行きましょう!」
「俺、馬乗れねぇよ?」
「大丈夫です!私の後ろに乗ってください!」
ケイはタレナの言葉通りに後ろに乗り、二人を乗せたプリ・マは北西の王家の墓を目指した。
「ここが『王家の墓』です」
到着した王家の墓は、ケイが地球で見た三角のあの建造物によく似ていた。
「ピラミッドじゃん」
「王家の墓は、歴代の国王が安置されている場所でもあります」
王家の墓は、地上三階に地下五階という構造になっており、上の部分は観光名所となっているが、地下は一般人が立ち入り出来ないようになっている。
高さは約150mと地球のピラミッドよりは少し高めで、お祭りなどで祭壇として使用されることが多いそうだ。
一階の奥に地下に続く階段がある。
そこには一般人が立ち入らないように、二人の兵が配置されていた。
「タレナさん、お疲れ様です!」
「どうかされましたか?」
敬礼をした二人に、タレナが簡潔に説明をした。
二人の兵は顔を見合わせ、「しかし・・・」と唸った。
「タレナ、こいつら国王が死んでもいいんだってさ」
ケイが挑発する発言をする。
「そ、そんなことは言っていない!」
「タレナさん、何かの間違いですよね?」
二人の兵に首を横に振り、ルークスの命でここに来たと言った。
「早くしなければ手遅れになります!お願いします!」
懇願するタレナに狼狽える二人の兵。
「だぁぁぁ!面倒くせ!!」
そのやりとりに痺れを切らしたケイが、地下に続く扉を素手で殴って破壊してしまった。
ひしゃげた扉に唖然とする三人。
「お前ら!王様の命よりこっちが大事ってんなら、兵なんか辞めちまえ!」
ケイはそう言い残すと、地下に続く階段を下りていった。
「あっ、姉さんが後から来ると思います!通してあげてください、お願いします!」
一礼をし、タレナもその後を追った。
その際二人の兵は、一瞬辞めた方がいいのかと迷ったとか迷わなかったとか。
地下に続く階段は、人一人半ほどの広さしかなく辺りが薄暗く足下が見えづらい。
ケイはバッグからランタンを取り出すと、明かりを灯した。
「ここって、普段人が入ったりするのか?」
「普段はほとんど立ち入りません。年に一度行われる『レサル』という祭で開放します」
『レサル』という祭りは、マライダで行われる日本で言うところのお盆にあたる行事のことで、魂を供養するために地下にある墓地に祈りを捧げるそうだ。
「地下って墓地になるの?」
「はい。主に王族の方々の墓になります」
一般の墓地はマライダ内にするが、王族などはここに安置されるのだという。
「そういえば私、初めて入りました」
「えっ?国王の護衛だよね?」
「はい。でも私と姉はもともとこの国の人間ではないので・・・」
タレナと姉のアレグロは、二年前にマーダ・ヴェーラの護衛として働き出したそうだ。
「出身はどこなんだ?」
「それは・・・」
タレナが発言しようとした時に、階段を下りきった。
地下の空間が広がっているが、ランタンの明かりだけでは奥まで見通せずタレナが持参した松明に火をつける。
「へぇ~中ってこうなってんだな」
照らした空間は、地下一階の中央から下に吹き抜けになっており、そこから覗くと地下五階の床がかすかに見える。
正面と左右に一ヶ所ずつ下っていける階段があり、壁は空洞になっておりそこに棺が収められている。
普段立ち入らない場所にしては空気は重くない。おそらく、空気の循環を意識した空気穴が存在するようだ。
「これ全部死体か?」
「そのようです。ここには約200体ほど安置されていると言われています」
右を見ても左を見ても棺だらけである。まるで映画やドラマのワンシーンを見ている気分になる。
二人は注意深く中央の階段を下っていった。
タレナが途中にある壁かけ松明に次々と火を灯すと、徐々に明るくなっていき全貌が見え始める。
「思った以上に広いな」
地下五階に到達し階段付近にある松明に火をつけると、他の階より広い空間が姿を現す。
「こちらは、歴代の国王とその側近が安置されているそうです」
目をこらして見てみると、奥にも棺が置かれた穴が見える。
奥に進むにつれて、冷気を感じるようになる。
二人が中央まで来ると、重い物が音を立てて開く音が聞こえる。
「ケイさん!」
タレナの声に辺りを見回すと、壁にあった棺が次々と音を立てて開く。
棺から現れたミイラ達が、武器を片手にこちらに迫って来ようとしている。
「まぁ、予想はしてたけどな!」
二人を囲んだ十体のミイラが一斉に飛びかかる。
「やぁぁぁ!」
タレナが槍を手に、前方のミイラをなぎ払う。
そして、後ろを向き剣を捌いてからミイラを一突きし、そのまま他のミイラをなぎ倒しながら投げ飛ばす。
「どけぇ!」
ケイは左から来る集団に向かって走り出す。
剣を振り下ろすミイラを寸前で躱し、頭部に拳を叩きつける。
そのまま右のミイラを蹴り飛ばし、左からの攻撃を翻しながら剣を奪って頭部を破壊する。
「ケイさん!武器は持ってないんですか!?」
「そんなモン現地調達で十分だ!」
タレナがなぎ倒し、ケイが剣で頭部や身体を破壊する。
「【バインド】!」
前方から来る五体のミイラを魔法で拘束する。
「それに俺は魔法専門職だ!」
「えっ!」
タレナが思わずケイの方を見る。革の装備をしているため、前衛の職業とばかり思っていたのだ。
「初めて知りました」
「アダム達も同じこと言ってた」
軽口を叩いているが、数が一向に減らないのだ。
「大元を叩かなきゃ駄目ってか?」
「でもこの数では・・・」
二人を取り囲んだミイラ達が一斉に飛びかかってくる。
「【ウィンドアロー】!」
三本の矢を形成した風の魔法が三体を貫く。
「くらいなさい!」
二本の矢が二体を貫通する。
「とりゃぁぁぁ!!」
「てやぁぁぁ!!」
上空からアダムとレイブンが飛びかかる。
剣で叩きつけられた二体はその衝撃で沈んだ。
「間に合ったようだな!」
アダム達が二人に駆け寄る。
アレグロの話を聞いて、急いで追いかけてきたそうだ。
「姉さん!」
「タレナ怪我はない?」
「私は大丈夫」
妹の無事を確かめたアレグロは安堵の表情をした。
「安心するのはまだ早いみたいだぞ」
ケイが目線を奥に移すと、黒い影の様なものがに見えた。
それはゆっくりこちらに向かってくる。松明の明かりで徐々にその姿が現れる。
薄汚れた包帯にその間から赤黒く変色した肌が見える。
そこから漏れ出る吐き気をもよおすほどの悪臭。
これがミイラの親玉のようだ。
マミークイーン
レベル 45
HP 420/420 MP 210/210
力 165
防御 182
速さ 160
魔力 230
器用 62
運 10
スキル 闇属性魔法(Lv3) アンデッド召喚(Lv3) 自己再生(Lv4)
カタラのなれの果て。
闇属性魔法や死体を操って対象者を攻撃する。
再生能力を有しており、物理攻撃の効果は薄い。
火または光属性魔法が有効。
「こいつを倒さないと駄目だってことか」
ここまで魔法を使用しなかった理由は、建物内で火を使った場合逃げ道がなくなり巻き込まれる可能性を危惧したからである。
ケイはそれに代わる魔法を創造、実行に移すことにした。
「俺があいつをなんとかする!お前達は周りの奴らを何とかしてくれ!」
ケイの発言にアダム達が頷く。
前方から来るミイラをアダムとレイブンがなぎ倒す。
その間をケイが走り抜け、それに合わせてシンシアの矢とアレグロの風属性魔法で向かってくるミイラを吹き飛ばす。
「タレナ!槍を貸せ!」
剣を振って正面を切り開くと、元々脆かったのか刃が根元から折れる。
距離的に創造する暇がないので、タレナにそう叫ぶ。
「は、はい!」
タレナが勢いよく槍を投げ飛ばす。
「お祓い開始!【セイクリッド・ジャベリン】!」
【セイクリッド・ジャベリン】光属性魔法。アンデッド系を浄化する魔法。
受け取った槍に光属性の魔法を掛けると、そのままマミークイーンに突き刺した。
悲鳴を上げて身体から白い炎が立ち上る。
白い炎から逃れようと身体をよじるが、浄化する魔法のため消えることはない。
徐々に抵抗の意思が失われ、地面に這いつくばりながらもこちらに向かってこようとしたが浄化の炎には勝てず、最後には灰になって消えていった。
残されたタレナの槍を拾い、彼女に返す。
「光属性魔法使えるの!?」
「いつもは火と風中心だけどな」
ケイの返答にアレグロは尊敬の眼差しを送った。
三属性を扱える人物はダジュール内でもごくわずかのため、魔法専門職の彼女にはケイが魅力的に映った。
「とりあえずこれでいいと思う。確認のために戻ろうぜ!」
マミークイーンを倒したことで称号は消滅するはずと思い、六人はマーダの様子を見にマライダに戻ることにした。
ケイはちゃんと考えられる人です・・・たぶん。
次回は5月31日(金)更新予定です。




