279、大陸で起きたこと
みなさんこんばんは。
いつもご高覧くださりありがとうございます。
さて今回は、合流したヴィンチェ達から大陸の状況を聞く回になります。
魔道船内の会議室に通された一同は、それぞれ席に着くことになった。
ケイ達が横一列に座り、対面にはヴィンチェと仲間であるダニーとエイミー、その横にはイーサンと机の脇にダットとバギラも立会人として同席した。
「あれ?そういえばアレグロさんは?」
アレグロの所在をヴィンチェから尋ねられ、ケイは言いにくそうにジャヴォールで起きた出来事を伝えると、当然ヴィンチェ達と過去に一度面識のあったイーサンは驚愕の表情を浮かべたのは言うまでもない。
「え・・・じゃあ、僕たちが出会った彼女は人形の身体で過ごしていたってこと?」
「あぁ。実は大分前から体調が悪かったみたいで、ダインの辺りから徐々に悪化していったんだ」
アレグロの魂が宿った人魂魔石はケイの方で大事に保管している事を述べ、それがアグナダム帝国時代にて彼女の身に起きたことの延長線上であると考えていた。
また黒腫に侵された人々は治療法を求めてケイ達のいる大陸へ渡ったことも、実は少し前に起きたヴィンチェ達が遭遇した出来事と関係がある。
「ケイがあのことを教えてくれたおかげで、こっちは多少怪我人は出たけど死者はなかったよ」
「そうか・・・で、状況はどうなった?」
「大陸の大都市が一番被害を受けていると聞いてる。でも特に一番酷い場所はミクロス村だろうね。幸い村人は全員無事だったけど、地盤地下の関係で村ごと陥没してなくなったよ」
ケイとヴィンチェの会話について行けていない面々が顔を顰め、アダムから二人は何のことを話しているのかと尋ねた。
「なぁ、二人ともなんの話をしてるんだ?」
「そういや、皆には言ってなかったっけ?実は俺達がダインに向かった後、ガイナール達にある連絡をしたんだ」
「連絡?」
「ストーンヘッジに遭遇したことを覚えてるだろ?あれ、もしかしたら大陸の地下遺跡に存在する可能性が出てくるかもしれない、って」
ケイの言葉に驚愕の表情を浮かべ、全員の思考が一瞬停止するような空気がした。
ダインに滞在した時点で航海をしてから数週間は経っていたため、ケイは自分たちがいない間の大陸の様子がわからないことから、実はその時にガイナール・ベルセ・ナット・ヴィンチェに地下遺跡の状況には気をつけてくれと伝えていたのだ。
なぜそんなことを言ったのかとアダムが尋ねると、ケイ達が大陸を回った際に目にした地下遺跡は青銅を基調とした遺跡だったことを思い出した時にダインで遭遇したストーンヘッジの周りに広がった色と非常によく似ていたことを思い出す。
そこでケイは、もしかしたら地下遺跡の青銅は月花石が汚染された色ではないかと思いついた。
それに大陸の各地にあった女神像が幻のダンジョンを形成し、その正体が実は女神像によって地下に充満した魔素を大陸外に排出していた役割を担っていたと考えると、ストーンヘッジの発生条件として魔素によって月花石が変化した結果なのではないかと考えにいたる。
実はこれ前々からケイが想定していた内容だったのだが、ヴィンチェからケイ達と合流する一週間ほど前に警告を受けた事態が起きたと述べられる。
その時ヴィンチェ達はミクロス村に赴いており、人達を助け出したと同時に村の地下遺跡からストーンヘッジの群が現れた。その時たまたま調査の為に村に訪れたイーサンの部隊と連携して制圧し、事態を重く見たイーサンの後に続くように保護した村人達とバナハのロアンに報告した後にウェストリアにそのまま向かった。
「そういや、大陸を出る前にカロナック大橋を調べてみるって言ってたが、結局あれはどうなったんだ?」
「ケイにメッセージした内容のことかな?以前その文献がウェストリアにあるって言ったのを覚えているかい?僕たちが発見した文献には、ビェールィ人がカロナック大橋に関わっているんじゃと思ってたんだ」
「ビェールィ人って、ベルセの先祖ってことなんだろ?」
「うん。正確にはビェールィ人は魔法に長けた人種だったようなんだ。現にカロナック大橋を建設するにあたり、魔機学というものを元に造られたと記されていたんだ」
ヴィンチェ達は、ウェストリアの地下宝物庫にてビェールィ人に関する文献を発見し、そこにはカロナック大橋は東側と西側の二つに分かれ、それぞれビェールィ人とアスル・カディーム人が管理をしていたと記されていた。
また東側は魔法と機械を用いた技法で、橋を消したり元に戻したりできる技法が用いられている表現が見つかった。
当時アグナダム帝国と大陸を数多くの船が行き来した記録が残っており、橋の建設にジャヴォールとの交流もあったことから、魔人族の技術を参考に設計された節があった。
状況を推測するに互いに交易などの交流があったため、航海の妨害にならないように時間で橋の仕掛けが作動するようなやり方をしていたようだ。
「魔機学を用いたカロナック大橋の建設ってことは、当然仕掛けを動かす部分もあったってことだろ?」
ケイの言葉にそれなんだけど・・・と苦い顔を浮かべ、隣に座るダニーとエイミーの方を見やると二人はその時の事を思い出したのか、あれは結構しんどかったというようなげんなりとした表情を浮かべる。
どうやら仕掛けを動かすためには決まった順序があるようで、その仕掛けがあった場所というのは、以前ケイ達が訪れたフリージアの地下神殿だという。
「ウェストリアで見つけた文献には、ビェールィ人が拠点としている場所がフリージアにある地下神殿に橋を動かす装置があったんだ」
「隠し通路ばっかで、見つかったのは良いが仕掛けを解くのに時間がかかったぜ」
やれやれと首を振るダニーにそんなに複雑なのかと尋ねると、魔力と魔素のバランスによって橋が制御されていた。
しかし修復士であるヴィンチェ以外のダニーとエイミーは魔法の適性がなく、ヴィンチェに頼りっぱなしなことに面目ないというような表情を見せる。
まぁ、こればかりは個人の素質であることから仕方のないことだろう。
「そうだ!ヴィンチェ!アルペテリアさんの話はしなくていいの?」
「あ、そうだ。すっかり忘れてた」
エイミーから話を振られたヴィンチェは、彼女の言葉に思い出した様に手を打ち、アルペテリアのことについてケイ達に話をした。
「アルペテリアがどうかしたのか?」
「実は彼女も途中まで一緒だったんだ」
ヴィンチェの話では、ベルセのところで世話になっているアルペテリアがヴィンチェ達の旅に同行しているという。
その理由として、地下神殿の仕掛けを解くために一部の仕掛けが彼女がいないと成立しないということから今回同行をお願いしてもらった。
ちなみに橋の仕掛けは、フリージアの地下神殿から一度ミクロス村の地下遺跡にそこの仕掛けを解除し、更にウェストリアの地下の宝物庫から遺跡跡地にある仕掛けを動かす必要があり、その間で今回の大陸全土の異変騒動に巻き込まれたようだ。
「で、その本人はどうしたんだ?」
「実はここに来る途中で体調を崩したみたいで、イーサンの部隊の一部と大陸に残っているんだ」
アルペテリアは、大陸側の橋を起動させた直後に突如体調を崩した。
幸い、第五部隊が簡易テントを持参していたため、急遽橋の近くを野営地としてテントを張り彼女を休ませていると述べる。
最初は慣れない長旅のせいだろうと思っていたようだが、テントで同室になったエイミーから頭痛を訴えていたようだと言い、もしかしたらその反動でなにか思い出すのかもしれないとヴィンチェは感じていたようだった。
タレナさんもいるし、本当なら彼女も連れて合流するはずだったんだけど・・・とヴィンチェが伺うように彼女の方を見やると、これ以上無理をさせてはいけないと会えないことは残念だけどアルペテリアの方が大事だと首を振る。
「あとウェストリアの仕掛けを解く時に異変に巻き込まれた時、実は君の使用人に会ったんだ」
「はぁ?えっ、誰だ?」
「たしか・・・ローゼンって言ってたかな?」
ヴィンチェが外見の特徴を伝えると、間違いなく屋敷の使用人のローゼンであるようで、ケイから屋敷を購入した際に使用人を雇った事も聞いていたが、実際に対面したのはその時が初めてとなる。
「その事について私からお話させてください」
二人の会話に割って入るようにイーサンが口を開く。
「実は、以前から大陸各地でウェストリアで獣医師会がらみの事件が多発していまして、その捜査線上に上がったのが獣医師会の会長でした」
「話が急だな。でもローゼンとなんの関係があるんだ?」
「実際にローゼンさんから話を伺ったのですが、獣医師であるスメタナという若い獣医師が獣医師会を追放になったようで、路頭に迷っていたところをローゼンさんをはじめとした屋敷の人たちにお世話になったようです」
話を聞いてみると、獣医師であるスメタナという人物がとある事情により本拠地であるウェストリアを異動になり、異動先であるアルバラントで不当解雇を宣告されて困っていたところをローゼンに助けられたそうだ。
それからその青年は暫くケイ達の屋敷で居候として過ごした後、ローゼンと共に抗議を行うためウェストリアに向かったところ、ストーンヘッジの群と遭遇しヴィンチェ達とイーサンの部隊と出会ったという形になる。
ところで先ほど話に出ていた獣医師会の会長という人物だが、元々バナハの第三部隊の隊長務めていた職歴があり、彼が退位した後にイーサンが第五部隊に配属になったため直接のやりとりはない。
「結局のところいえば、その獣医師会の会長は亡くなりました。自身の罪に呑まれた、といったところでしょう」
「罪?」
「殺人・誘拐・違法薬物の所持諸々余罪が出てきていますが、その重罪として会長は“人を異形に変える薬”を使用していたものと思われます」
その言葉にケイは目を細め、ヴィンチェから動機として自分の理想とする動物を創り出したいという理由から今回の犯行に至ったようだ。
彼が所持している薬品には、汚染された月花石の欠片が含まれていたようで、その副作用で動物や会長の取り巻きたちを“人工のストーンヘッジ”に仕立て上げた。
しかし、自身もその異形の者に殺されたという結末を迎えたのだからなんとも皮肉な話である。
それからローゼンのことを尋ねると、大事を取ってバナハに滞在して貰った後にアルバラントに戻ることがイーサンから伝えられた。
同時にヴィンチェから大陸全土に渡る異変の収束には、ルト・ボガード・パーシアが多大なる貢献を果たしたことが伝えられる。
パーシアが勇気を持って人々を守り、ボガードがストーンヘッジと対峙し、ルトが消失させる術を持っていたというのだから驚きしかない。
ローゼンを含めた四人はケイ達の屋敷の使用人だと知ったイーサンが、やはり主が凄いと使用人も一芸に長けているんだなと感心した様子を見せていたが、ケイとしては少しばかり手助けしただけで、あとは放置していたとはいえず苦笑いを浮かべるしかなかった。
大陸では、ケイが以前想定した通りの異変が起こっていたことを知った一同。
その騒動を治めた中心的な人々が屋敷に居る四人の使用人達だと知り驚きました。
一方でアルペテリアに助けて貰ったヴィンチェ達でしたが、ここに来る前に彼女は体調を崩した様子が語られました。
ーお知らせー
四月以降になりますが、異世界満喫冒険譚のサイドストーリー『屋敷の使用人たち』の投稿を開始したいと思います。
時系列的には、ケイ達が新大陸へ向かった190話以降の大陸の日常と異変の話になります。
しばしお待ちください。




