276、てんやわんやの魔道船
皆さんこんばんは。
遅くなって申し訳ございません。
さて今回は、コールドスリープされた人々の収容作業の回です。
ダットから返信が返って来たのは、それから30分後の事だった。
アルバ経由でスマホに届いたメッセージには、大人数を迎える準備をしておくのでよろしく頼むというような内容だった。
文面はいたって簡素だが、30分で結論を出したことに関しては急かせてしまったことと、無茶振りをして申し訳ないという自覚はケイにもあった。
船員をはじめ今回の旅を通して精霊や人魚族などが加わり、彼らをまとめるダットの力量には頭が下がる思いしかない。これこそ縁の下の力もちということだろう。
「ダットの方は準備が出来てるってさ。まぁ、今回は結構人数が多いからバギラの負担が増えそうだけどな」
「でも完全にこっちが無理を言っているのに、ずいぶん決断が早かったわね」
「そりゃ、俺だって毎回悪いなとは思ってるさ~」
「自覚があるなら、少しは考えなさいよ?」
ジト目で見つめるシンシアに、これでも自分なりに考えて行動しているとケイが答えるが前例が多々あるため強く否定できない。
ましてや1500年前に沈んだ大陸を浮上させ、海底神殿はいつの間にかケイの所有物となっているなど、もはや誰かに仕組まれていたのではと思うほど事が運ぶ始末。
そんな中、ダット達の了承は大きな一歩となった。
現にコールドスリープされたアスル・カディーム人を放置することも出来ず、ましてや壊れてしまったヒガンテをケイの創造魔法で大国の騎士のような出で立ちにフォルムチェンジしてしまったというおまけ付き。
こうなったらヤケ!とまでは行かないが、責任を持って事を治めるしかない。
「それでこのコールドスリープを解除するには、どうしたらいいの?」
「たしか、この機械からセキュリティを解除すればアルバの方で操作が出来るって言ってたから・・・ん~~~なんかいっぱいあるな~?」
コールドスリープをアルバの方で操作するためには、目の前にある機械にかけられたセキュリティを解除する必要がある。
しかし、いざ操作位置に立つと無数にあるボタンの配置にどれに何を押したら解除できるのかわからずにアダムとシンシアがお手上げの状態で首を振る。
「どのスイッチを押したら解除できるんだろうか?」
アダムとシンシアの隣でレイブンが押してもいいものかと思案していたのだが、三人の間からケイの腕が伸び、バン!と真ん中の赤いスイッチを押した。
突然のことに一瞬目が点になった三人は、ハッと我に返るやいなや慌てた様子でケイを制止したのだが、本人はケロッとした表情で何か?と開き直りのような態度をとる。
「ちょっと!?なんで勝手に押しちゃうのよぉ!?」
「いや、大体相場は真ん中だろう?」
「知らないわよ!ヘンなところを押して壊れたらどうするのよ!?」
「そんな簡単に壊れねぇって、心配しすぎなんだよ~」
まるで一昔前のブラウン管テレビは叩けば直ると言うようなニュアンスを含ませているが、世代的にはケイの親世代なので仲間達おろか、今の若い人達でも知らないだろう。
あたふたする三人と大丈夫だと謎の自信感に溢れているケイの前に『セキュリティ解除』の文字がモニターに映し出された。
ほらぁ~と言いたげに胸を張るケイに、嘘でしょ!?と目を丸くする三人。
「えっ!?なんで解除できるのよ!?」
「だ・か・ら~困った時は大体真ん中だって言ったろ~」
「今回はたまたま上手くいっただけだろう?というか、その相場は真ん中っていうのはなんなんだ?」
「俺ん家は、代々困ったことがあったら“とりあえず真ん中を選べ”って決まってんだよ~」
瑞科家の独自ルールを言い切るケイとその意味が分からず首を傾げる三人達を余所に、セキュリティ解除されたところにアルバの操作の手が入る。
モニターに映し出されたプログラムのような羅列が自動で入力され、画面が切り替るごとに情報の書き換え作業を行い、数分後にはアルバ用のプログラムに書き換えられた画面が指示を待っているかのように待機していた。
【コールドスリープの操作を行うためのプログラム書き換え作業が完了しました】
ケイ達のやりとりが済んだ後、アルバが報告を行う。
今後の操作はアルバでも行うことができるが、まずは目の前にあるコールドスリープをなんとかしなければならない。
「ねぇ、コールドスリープを解除するのはできたとしても、どうやって彼らを運ぶの?この数を私達だけで運ぶなんて難しい気がするんだけど?」
「とりあえず、ここと魔道船の甲板を繋ぐゲートを創ってから、段階的にアルバにコールドスリープを解除しつつ運ぶしかないな。もちろん俺達だけじゃ数が足りないから、こいつらにも働いてもらうつもりだ」
ケイが後ろで待機している銀鎧のヒガンテ達を指さす。
ケイにより修復された新生・ヒガンテたちは、その声に反応するように互いに向き合う姿勢から統制の取れた動きでケイ達の方に向き直り、その姿は大国の兵士を思わせるような異様な雰囲気を感じる。
「えっ・・・これってケイの言うこと聞くの?」
「一応俺の言うことや周りの状況を独自で判断することはできるようにしてるが、今の段階じゃ動かせるようにしてあるだけで、言葉によるやりとりまではいってない。まぁ、その辺は落ち着いたら考えるさ」
この男はどこまでやるんだ?といいたそうな表情を浮かべたシンシアだが、ここで言い争っても時間の無駄だと諦め、自分たちのできることに取りかかるべく思考を切り替える。
「まずは、この辺りの壁でいいか・・・『創造魔法:ゲート設置』」
ケイの声に連動するように壁の一部に手をかざし、創造魔法でゲートを設置する。
目の前にレリーフが象られた品のある銀細工の二枚扉が出現すると、作業を行う前に碇泊している魔道船の甲板に繋がっているかを確かめようと、扉の取っ手に手を掛けた。
「どわぁぁぁぁっ!!!!」
扉を開くと驚いた様子のダットの姿に作業の途中だったのか、船員達があんぐりとした様子でケイの方を向いているのが見えた。
「おぉ!繋がった繋がった!」
「えっ・・・あ、ケイか???」
あまりの出来事にダットが驚きその場で尻もちをついている。
突然の状況に理解が追いつかないのか、呆然とこちらを見つめるダットに大丈夫かと手を差し伸べ起き上がらせると、数テンポ遅れてからダットがその姿を確かめるように身体を触って確かめる。
「ケ、ケイなのか?」
「何言ってんだよ~?幽霊でも見たような面だな」
「いやいやいや!急に甲板に見たこともない扉が現れたら驚くだろう!?」
ダットの口撃に船員達が一斉に頷き、ケイの後ろからアダム達が顔を出した。
話によると、ケイ達の帰還に合わせて準備を進めている途中でいきなり銀の扉が出現したそうだ。仮に予告されても同じように驚くしかないだろう。
「ケイ、どうやってゲートを繋げたんだ?」
「原理は、屋敷とアーベンにあるアダムの借家を繋げたときと同じ方法でコールドスリープがある場所とここを繋げただけだ」
「簡単に言ってるけど、普通ならできないわよ?第一、その説明じゃよくわからないわ。もうちょっと分かりやすく説明できないわけ?」
「そこは察しろよ~」
「聞いた私がバカだったわ~」
大雑把なケイの説明に頭を悩ませるアダムとシンシアだったが、言っても無駄だということは今までの経験で痛いほど理解しているため、話が進まなくなると考えて次なる作業工程へ進むことにした。
その場にいるダットを含めた船員達に今までの経緯をおさらいを兼ねて説明し、コールドスリップを段階的に解除するため手伝ってほしいと頼むと、予め送ったメッセージのことだと理解したダットが、ケイの指示に従うようにと船員達に伝える。
「アルバ、コールドスリープを一番下の段から全部解除してくれ。それから俺達が運び出すから、俺の合図で作業を進めてくれ」
【はい、承知しました。これよりコールドスリープ:三段目の全解除を行いますので、準備の方をお願いいたします】
「ケイ、あれはなんだ?」
コールドスリープの装置の方に戻ると、ぎょっとした表情でダットたちが銀鎧のヒガンテの集団を指さした。
見たこともない像のように微動だにしない銀鎧のそれに、船員たちが顔をこわばらせ、警戒しているそぶりの者や何人かはダットの後ろに隠れるような弱腰になっている者の姿が見える。
「あれはヒガンテだ」
「ヒガンテ?」
そういえばダットたちは、元・巨人のことは知らないんだと気づき、バナハの試練の塔の出来事を交えて説明すると、はぁ~~~と納得しているのか溜息をついているのか、はたまた未知すぎて逆に理解が追い付かないけど返事はするというダットの返事がした。
まぁ、こんなこともあるさと肩をすくめ、アルバの解除時間を告げるアナウンスと共に先に行ったアダム達に追いつくようにパタパタと後を追う。
「ケイ!一番下は先に引き出した方がいいんだよな?」
「あぁ!そのままだと解除しても蓋が開かないから、側面にある取っ手を引っ張るように手前に出してくれ」
「わかった!」
ケイ達と船員を引き連れたダット、それとヒガンテの集団が加わった体制でコールドスリープの解除作業に入るのだが、ここだけの話、人数を増やしても作業が大変だったことには変わりなかった。
「ダットさーん!三段目の作業終わりました!」
「おーい!だれかこっちを手伝ってくれ!」
「こっちも来てくれ!」
もはや魚市場のセリのように作業現場には常に声が飛び交っていた。
船員たちの3分の2が作業にあたっていたのだが、なにぶん見たこともない装置に勝手がわからずに最初はてんやわんやしていたのだが、二段目以降の作業は何とか連携が取れるようになってきた。
「悪い!一番上のやつ、俺じゃ届かないから誰か手伝ってくれ!」
「今行く!!」
一番上のコールドスリープの作業になると、本来なら二段目三段目が抜かれると同時に骨組みが下がってくる仕組みになっていたはずなのだが、浸水した際に骨組みが錆びていたようで、作業が難航している面があった。
そして全ての作業が終わった頃には、日が完全におちて深夜までかかったことを物語り、満身創痍で全員が甲板に腰を下ろしたのだった。
何とかダットと船員たちの力を借り、魔道船に収容することができたケイ達はとりあえず疲れている様子。果たして生き残ったアスル・カディーム人たちは何を語ってくれるのでしょうか?
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