275、生き残った人々
皆さんこんばんは。
いつもご高覧くださりありがとうございます。
さて今回は、大台数のコールドスリープに頭を抱えるケイ達の話です。
「ここまでされると、逆に清々しいな~」
唖然としたケイから出た言葉の通りに、コールドスリープが点灯している青い光が一面に広がるように辺りを照らしている。
まるで白色が際立ちそうな程の光に、少し眩しさを感じ思わず目を細める。
コールドスリープに囲まれた場所の中央に、操作する装置が残っている。
恐らく装置と連動しているようで、モニターには十数秒ごとに各方角にあるコールドスリープの状態のような項目が映し出されている。
正直表示されている細かい項目などの意味はよくわからないが、少なくともこの周りにある装置を含めて全て問題なく動いていることは理解できる。
ヒガンテの数から推測するに、ここにあるものは壊れることがないよう厳重に手を尽くしていたのではないかと考える。
そうなると、東部地区や南部地区もコールドスリープの残骸があったことから、実はそれらもこの状況と同じように、本来ならば数多く人々が眠っていたのではと思いにいたる。
しかも、台数が目視で確認しただけで200以上はあるだろうと想定していたのだが、これがメインシステムの再稼働を阻止しているとなると、ルシオやリアーナの時と同じように、他のアスル・カディームを蘇生させなければならないことを意味し、ケイ達としては難色を示す。
「ケイ!ちょっと来てくれ!」
少し離れた場所でアダムが声を上げたのでそちらに向かうと、コールドスリープをまとめている装置の傍らに一体の白骨化した遺体があった。
骨格の様子から男性だと判別できたが、一部腕や足などに欠損がある。
それが大陸沈没の前か後かはわからないが、着衣している服装からこの場所にいた関係者ではないかと推測できた。
「こいつは、装置の責任者か?」
「かもしれないな。この装置の近くにいたから、ルシオさんかリアーナさんに聞けばこの人物が誰かが分かるかもしれない」
ここでケイが遺体に何かを見つけ、その近くで膝をついた。
日本人の性なのか、遺体に手を合わせてから気になっていた首元に手を伸ばすと、銀色のチェーンを見つけ遺体からそっとそれを外す。
もちろん遺体であれど人の物を取って良いのかという道徳的な倫理はあるが、ケイはそれがネームタグであることを理解し、確認のために遺体に鑑定をかける。
「ケイ、それは?」
「ネームタグだな。名前は・・・サイウォンって奴らしい。北部地区の管理責任者って書いてある」
鑑定でも遺体の人物の情報が表示されている。
念のためにアルバに聞いてみると、やはり北部地区のメインシステムをまとめている男性だと言う。ここにあるコールドスリープを動かすため、自身を犠牲にしたというところなのだろう。
「アルバ、メインシステムの再稼働を邪魔しているのは、この装置でいいのか?」
【はい。おそらくですが、外部からコールドスリープの装置を操作させないようなセキュリティが作動されていると思われます】
「それを解除すればいいってことだな・・・ん?ってことは、どっちにしろここにあるコールドスリープも解除しなきゃ駄目だって事だよな?」
【はい。ちなみにこの場所にあるコールドスリープは、245台稼働しています】
北部地区のメインシステムを動かすためには、どちらにしろこの場所にあるコールドスリープを全て解除しなければならない事をケイ達は理解した。
しかも追い打ちをかけるようにアルバから稼働数が告げられ、想定以上の台数に思わず「嘘だろう!?」とケイは頭を抱えるしかなかった。
「・・・ねぇ、どうするのよ?」
「どうするって・・・これのこと、だよな?さすがの俺でもキツいって」
「どちらにしてもコールドスリープを解除しないと中央地区にいけないわよ?」
「わかってるって、とりあえずダットに相談してみるしかないか。アルバ、ダットに今の状況を伝えてくれ。それから今後の事を考える」
【承知しました】
アルバがダットに連絡を取っている間、ケイ達は改めてコールドスリープが稼働している辺りを見回してみる。
三方向に並べられたコールドスリープは、一見三段重ねにされているように見えるのだが、よく見ると装置と装置の間にガッシリとした骨組みが組み込まれており、ケイ達の方からは棺の形をした側面に取っ手のような部分がどの装置にも数ヶ所設置されている。
どうやら二段目と三段目は引き出しの要領で動かすことが出来るようで、一段目はその二段を抜き取った後に、連動している制御装置から骨組みが下がるような仕組みが施されている。その辺はハイテクなのに、要所要所で大がかりな部分は古き日本の機械を彷彿とさせる。
さて、これからどうするべきかとケイはぼんやりと機械類を眺めながら思案した。
同じ頃、ダット達が待機している魔道船にケイ達からメッセージが届いた。
「ダットさーん!ケイさんから伝言が届いていまーす!」
「わかった!今行く!」
甲板で海上の様子を眺めていたダットに、船員の一人がケイからのメッセージに気づきそれを伝える。
ダットが動かしている魔道船は、当初安全に航海する為に魔除けの水晶がマストの先端に付いており、舵に取り付けられているスイッチと連動していることから周囲の魔素を取り入れて雷や竜巻などを発生させることが出来る仕様となっている。
現在、アルバの存在が確認された後から、魔道船はケイにより一部仕様を変更している。
それは舵の部分に新たに設置された二台のモニターである。
これは、各地区のメインシステムにあるデータをアルバ経由で保存することができるいわばハードディスクのような働きをしている。
一台はデータの保管用として使用し、もう一台はアルバによるデータの解析及び各地区にあるメインシステムのコントロールを補助する仕様が施されている。
またルシオとリアーナが手にしているタブレットとも連動しており、こちらの作業補助も兼任していることから、もし今後不自由な部分が出たらその都度設定・設置を行うことにしている。
今ダットが見ている左のモニターには、アルバ経由でケイからのメッセージが表示され、タッチ式であることから指でアイコンをタップすると画面が切り替わり、ケイから届いたメッセージの内容が表示される。
今でこそ慣れた手つきでモニターの操作を行うダットだが、アルバと連動するにあたって戸惑いを強く感じたのは彼自身であった。
当初ケイの言っている意味が分からなかったダットは、当然呆けた顔で何を言っているんだ?と疑問にしか思わなかったのだが、その話を聞いた他の船員が未知の領域ということも相まって、かなり不安に感じていたことをかなり気にしていた。
そうでなくても今まで以上に海上で過ごすことが多く、大なり小なり船員達はストレスを抱えていることを察し、こまめに全船員にフォローを入れるなど気を使ってはいたものの、やはり尻込みをしてしまう部分もあった。
しかしその気持ちをくみ取るかのように船員達から、ここまで来たらとことんケイさん達に付き合いましょうよ!という声を受け、ダットの中で決心がつき、何でもやってやると意気込みながらケイ達のフォローへと回り、今となっては元々頭が柔らかかったこともあって新しい技術にも次々と順応している。
「・・・・・・はぁ?コールドスリープが245台???」
ケイから届いたメッセージを読み進めたダットは、一瞬自分の目がおかしくなったのかと目を擦り、再度画面を凝視する。
ケイから届いたメッセージには、北部地区のメインシステムを稼働するためには、地下にある245台のコールドスリープを解除する必要性と、そのためにコールドスリープされたアスル・カディームたちを一時的に船に保護をしてもいいかという内容が記載されている。
さすがにこれは・・・とダットが頭を抱える。
現在魔道船の船員は、ドゥフ・ウミュールシフの精霊たちと人魚族のヴェルティヴェエラとノヴェルヴェディア、それにケイ達を含めると100名超と大所帯となっている。
大陸に居た頃は客船や貨物船などの業務をこなしていたこともあり、多い時で200名ほど居たこともあったが、今回は状況が状況なだけにケイ達の方もこのまま放置するのはと思っていたようだ。
幸い客室の方はケイの能力を使えば人数分を収容することは可能なのだが、それ以外の部分、食事や身の回りの世話などを考えると問題も色々出てくるのは目に見えている。
「ダットさん、どうかされましたか?」
甲板にやって来たバギラが険しい表情のダットに声を掛ける。
普段しないような表情が気になったのか、思わず尋ねたバギラにダットは歯切れの悪い返事を返した。
「バギラか・・・いや、ちょっと困ったことがあってな~」
「困ったことですか?」
どうやらケイ達からのメッセージを受け取ったのだが、内容が内容なだけにどうしたものかと悩んでいたようで、モニターに映し出された内容を読んだバギラも何かの冗談かと絶句するしかなかった。
「でも、今の魔道船でしたら250人近く増えても問題ないですよね?」
「場所の提供だけならな。そこに食料もろもろを考えると、長期になったらさすがにキツい」
今の魔道船は人数を一時的に収容だけなら十分な広さはあるのだが、そこに食料問題やアスル・カディーム人の長期的な船暮らしに対するストレス耐性の有無を考えると、本当の事をいえばしっかりとした場所の提供が必須ではないかと考える。
もちろんケイ達もその部分を考えて独断と決められなかったことから、ダットに相談をしたのだろうとも察することができる。
ルシオやリアーナ達の状況とは異なることから、ダットは全船員達を甲板に集めて意見を尋ねることにした。
「野郎ども!ケイ達から245人のアスル・カディーム人の保護を頼まれた!そこで俺はオマエ達の意見を聞こうと思う!」
想定通り、船員達は唖然とした後で口々に戸惑いと不安を口にした。
ダットもこれを伝えた方が良いかと思い悩んだのだが、長引けば中央地区に辿り着けずに、アレグロの本体である身体の状況もわからないまま。
もちろんケイの言っていることは理解できるが、それと同じぐらい船員達にも個々に考えはある。船長である前に一人の人間として、無理に事を進めても当然納得しない船員たちからの反発はあるだろうと考えたとき、一人の船員が声を上げる。
「ダットさん!アスル・カディーム人たちを迎え入れましょう!」
ダットの思いとは裏腹に、その声に乗じてそうだ!やろう!と声が上がる。
「お前ら、いいのか?」
「なにいってるんすか?今更っすよ!」
「困った人たちを助けるのが、俺達の仕事じゃないですか!やりましょうよ!」
正直絶対に一人は反対するだろうなと予想していたが、船員達は今更200以上増えても変わらないとドッと笑い声を上げた後、ダットはケイ達が戻る前に客室などの準備を伝える。
「野郎ども!気を引き締めろよ!!」
「へい!アニキーーー!!!!」
各々持ち場に戻る姿を見てダットは、アルバ経由でケイに返事を返した。
すると、一つの疑問が上がる。
「そういや、どうやってあの数運ぶんだ?」
返信をしたのはいいが、245人をどうやって運ぶんだろうと首を傾げながらもケイ達が戻るまで船員達に次々と指示を出したのであった。
メインシステムを動かすためにコールドスリープの解除を決行しようとするケイ達と、一方で重大な決断に戸惑いながらも準備を進めるダット達。
北部地区のメインシステム稼働前に、ケイ達に一つの大きな問題が立ちふさがったのである。
閲覧&ブックマーク&感想などありがとうございます。
細々とマイペースに活動していますので、また来てくださいね。
※誤字脱字の報告、または表現の提供をありがとうございます。




