274、守られたモノ
皆さんこんばんは。
いつもご高覧くださりありがとうございます。
さて今回は、メインシステムの再稼働が出来ない原因を究明するべく地下へ向かった話です。
「やっと追いついたわ~」
暫くして縄ばしごから仲間達が下りる来た。
シンシアから本当にあんたは落ち着かないわねと小言を言われながらも、なにも言い返さないケイに疑問を抱く。
「ねぇ、どうしたの?」
「これを見ろよ」
ケイが見つめる先には、横一列に並んだヒガンテの姿があった。
アルバの話ではたしかここは倉庫だと聞いたのだが、荷物があった跡が何もない。しかも鑑定とサーチをした結果と実際に目にした情報に相違が見られ、地下フロアの構造はどうなっているのかと首を傾げる。
「アルバから聞いた情報と俺がサーチとマップをした情報とで食い違ってるんだ。仮に地下が在庫管理の場所だったとするならば、フロアが地下一階のみでヒガンテが収容できる高さがあるとなると、単に荷物を管理する場ではないかもな」
「アルバの情報が違ってたってこと?でも、AIならそういった情報も知ってそうな気はするけど?」
「正直その辺りの解釈は難しいな。そもそもアルバもアスル・カディーム人が創りだした存在だから、それ以外にも情報を持っている機関があったとしても、管理している部分の元が違うと共有できないんだ。まぁ、その情報機関を共有すれば話しは別なんだろうけど」
アルバのとは違う独立した情報機関があったとなると、把握してほしくないか、あるいは後から変更されたが、アルバの方に情報が更新されていなかった可能性もなくはない。
いずれにしろ、独立したサーバー・情報機関等の経緯については今となっては知ることもできないが、もしかしたら、もう少しこのフロアを調べてみたら何か分かるかもしれないと考える。
『ワウ!ワウ!』
その時、ショーンがヒガンテの壁に向かってしきりに吠えた。
足元にいる少佐にケイは、はいはいと思いながらしゃがむと落ち着かせるように頭と腹を撫でまくる。
頭と腹を撫でられた少佐は、三頭とも好きな部位だったのか砕けた表情をしたのだが、ショーンはいやいや!騙されん!と頭を振り、話を聞けと言わんばかりに撫でていたケイの手を思いっきり噛みついた。
「珍しいな~ショーンが噛みつくなんて~」
「もう、つっこまないわよ・・・」
噛みつかれたままのケイは、少佐をそのまま持ち上げるとブラブラと揺さぶっていたのだが、隣にいたシンシアは何度も見た光景にツッコミを入れる気力もない。
「ショーンはどうしたんだ?」
「さぁ、こいつ普段はあんまり吠えねぇんだけどな~・・・悪いが明かりくれ」
「わかった」
アダムが持っていたたいまつを、目の前にあるヒガンテの足の間に照らしてみる。
ケイとアダムがその場でしゃがみ、その明かりを頼りに暗闇の奥に目を凝らすと、何体ものヒガンテが折り重なるように存在していた。それはまるで何かから守るように、計算されたように隙間なく進路を塞いでいる感じが窺える。
「うわぁ~これはまたびっしりいるな~」
「これは全部ヒガンテか?だとしたら、結構な数だな」
「俺のサーチとマップには、この奥に空間が繋がっているんだけど、これじゃあよく見えねぇな」
しゃがんだままのケイとアダムは、大量のヒガンテの数に圧倒されるように思わず口にした。
現に二人の目線からではショーンが何に対して吠えたのか分からない。
第一、ケイのサーチとマップでは起動していないヒガンテは、生命として察知されないため壁として認識されている。その辺りは意外と厄介なのだが、四の五の言っても仕方がないと腰を上げようとした時、再度他に情報はないかと目で辺りを見回したケイが、何かに気づきしゃがんだ体勢から更に体を屈めた。
「ケイ、何かあったのか?」
「あぁ・・・見つけたぜ。やっぱりそうだった」
立ち上がろうとしたアダムが、ケイの行動に気づき声を掛ける。
ケイは屈んだ体勢のまま、一瞬だけ視界の端に青い光が走るのが見えたのだ。
それは少佐の目線からではないと見逃してしまうほど細く小さな光だったが、瞬時に光の元は奥の空間だということを認識したケイは、どうにかして奥に行ってみるしかないなと思い直した。
「さっきショーンが吠えていた原因は、奥の空間にある光だったみたいだ」
「光?奥に空間って、ここにあるヒガンテ達はなんのためにあるの?」
「状況から察するに、この奥にある空間を守っていたってことかもな」
空間を守るというワードに首を傾げたシンシアだったが、大陸が沈んだ時にヒガンテ達が侵入してくる水から奥にある空間を守っていたのかもしれないと考える。
現に奥の光が見えないほど密集しているヒガンテのなれの果てがあることから、よほど重要なものがあることを示唆しているのだが、それと同時にアルバから地下にあると思われる施設がメインシステムの再稼働を阻害しているため、どちらにせよこの奥に行かなければ中央大陸への道は開けないだろう。
「それで、この奥にはどうやっていくのよ?」
「吹っ飛ばしてもいいなら俺が素手でぶち抜くんだけど、場所が場所だけに崩れたりしても嫌だしな~」
ヒガンテ自体が動けばいいんだけどとケイが頭を掻いたが、目の前にあるそれらは水が浸入してきた時に場所を守るためにかなりの損害を受けていた様子で、どれもこれも体に廃材や施設の一部と思われる鉄パイプ等が刺さっている。
「ところでケイ、ここにあるヒガンテを直して動かすことはできないの?」
「ヒガンテをか?」
「だって考えてみてよ、ケイのしている腕輪ってヒガンテの腕輪じゃない?それに創造魔法を使えば直せると思ったんだけど?」
あ、そっか!とシンシアの言葉にケイがポンと手を叩く。
どうやってヒガンテを押しのけようかとばかり思っていたのだが、創造魔法があれば容易ではないかと気づく。
ちなみにヒガンテについてアルバに訪ねてみると、彼らは魔鉱石という鉱石が体内に埋め込まれ、シャーハーン王の魔力と連動するように起動していたのだという。
「魔鉱石?随分古いモノを使っているのね」
シンシアが田舎くさいというような表情で、魔鉱石の事を口にする。
鉱石に関して知識のないケイが魔鉱石の事を訪ねると、彼女の代わりにレイブンが答える。
「なぁ、その魔鉱石ってなんだ?」
「魔鉱石は、今で言うところのミスリル鉱石や魔石みたいなものだよ。元々魔素や魔力を保持することが出来る鉱石で、たしか三十年前前では普通に流用されていたんだけど、それに代わるものが出てきてからめっきり使用されることがなくなった鉱石なんだ」
「それってもう取れないのか?」
「いや。今も一部の地域で採掘されているけど、以前よりは利用価値も下がっているし、燃料の足しにしか使われないんじゃないかな」
レイブン曰く、魔鉱石自体は今もエストアやフリージアの一部で採掘されるが、三十年前までは魔素や魔力をため込む性質を利用して様々なものが展開されていたのだが、似たような性質のミスリルや魔石が一般的になっている影響をもろに受け、結果的に今では石炭と同じ位置づけになったようだ。
そう考えると、ヒガンテを修理直してもケイが持つヒガンテの腕輪と連動しているため、結果的にケイからの魔力供給頼みになることから、コスパが悪いなという印象しか残らない。
「ヒガンテを直してもいいけど、使い道あるか~?図体デカいし邪魔くさいし~」
本音を言えば、2m超の巨体が整列することを想像するとどうも圧迫感が否めないのだが、ここを突破しない限りどうにも出来ないため、とりあえずケイが持つ創造魔法でこれらをなんとかすることにした。
「・・・・・・ねぇ、なんでこうなるのかしら?」
呆れた様子のシンシアがケイにこう尋ねた。
文字通り、先ほどまであったヒガンテの山をなんとかした結果、綺麗に整列された銀鎧の兵士の姿が一面に広がり、その奥には何かの光とおぼしき青い光がこちらに差し込んでくる。まるでSF映画のワンシーンのような光景に、色々と思うところはありつつも、とりあえずシンシアがケイの行いにツッコミをいれる。
「いや、だって壊すよりマシだろ?」
「さっきと言ってることが違うんだけど?直すと言っときながらまるっきり違うものになっているじゃない!?」
整列されたヒガンテ改め銀鎧らは、その全てが人型で体格から男性型・女性型と個体差がある。特に頭部はフルフェイス使用で表情が読めず、大国の騎士を思わすような出で立ちで左右に四列ずつ整列をしている。
「ヒガンテの要素がないけど、こんなに変わっていいのか?」
「その点は問題ない!あのままだとはっきりいって邪魔くさいから、ヒガンテにフォルムチェンジできるようにはしてある」
【ヒガンテはあの状態のままで使用することができないため、今後を含めて人型フォルムで稼働させることを了承します。ですが、現行では力が10%ほど低下することが予測されます】
「まぁ、アルバがいうなら大丈夫・・・なのか?」
敬えと胸を張るケイを余所に、原型がないけど本当にいいのかと納得いかないアダム。アルバから全体の稼働には問題はなく、ヒガンテ時とでは力関係で能力が低下すると伝えられるが、よほどのことがない限り問題はないと位置づけられる。
「さて、ヒガンテの壁問題は解決をしたが・・・」
ケイが前方にある青い空間を見据える。
ヒガンテの壁問題を解決するや、見たこともない青い空間が全体に広がっている。
近づいてみると地下の構造がドーム型になっているようで、青い光は壁一面に広がっているのがわかる。
「ケイ、これってもしかして・・・」
「あぁ・・・これがヒガンテが守ってきたモノだろうな」
冗談だろう?と振り返るアダムに、ケイ自身もここで壁になっていたヒガンテの意味を理解する。
そして壁一面に広がっている青い光は稼働しているコールドスリープのようで、数にしておおよそ200台ほどあることから、これらがメインシステムの再稼働を阻害していた原因でもある。
ケイ達は、消えたアスル・カディーム人達は一体何処へ消えたのか?という答えがまさか近くに存在していたことなど想定していなかったため、その光景に唖然としたのは言うまでもなかった。
メインシステムの再稼働を阻害していたモノは、数多く配置されているコールドスリープの機械だったことを突き止めたケイ達は、まさかの出来事に唖然とする。また、後にこれがアグナダム帝国の謎に一歩近づくこととなるとは思ってもみませんでした。
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