270、リアーナの部下と警備兵
皆さんこんばんは。
遅くなって申し訳ありません。
さて今回は、ブルノワと少佐にある意味敵!?と警備兵の青年の話です。
ケイ達が船医室の扉を開けると、かなり形容しがたい状況が広がっていた。
まず目に飛び込んできたのは、女性を羽交い締めにしている船員の姿だった。
どうやら保護をしたもう一人の女性が目を覚ました様子で、何故か目線の先にいるものに対して「可愛い・・・」と、変質者の様な目つきで見つめている。
次におまわりさんこいつです!案件の女性の先には、リアーナに引っ付き泣きわめくブルノワと完全に敵意むき出しの少佐が唸り声を上げている。
「ダットさ~ん!バギラさ~ん!助けてくださいよぉ~~~!!」
羽交い締めにしている船員の顔が引きつった状態で、ケイ達と共に入ってきたダットとバギラに対して助けを求めている。しかもよほどその女性の行動と様子が怖いのか、半泣き状態で今にも逃げ出したい気持ちがヒシヒシとこちらにも伝わってくる。
「おい!おい!なんなんだ!?」
「何があったのですか!?」
「この人が目を覚ました時にブルノワちゃんと少佐が顔を近づけたみたいで、いきなり「天使が来た!」っていいながら引っ付こうとしてたんすよぉ!」
「こいつは変質者か何かか?」
ケイは、なんのこっちゃ~と思いながらも大泣きしているブルノワと威嚇している少佐に声を掛けると、すぐさま『パパ~~~!!』と良いながらリアーナからケイに抱きついてきた。
「ピエタ!いい加減にしないか!」
「あ、痛ーーーい!!」
ブルノワがケイに向かったあと、リアーナが羽交い締めにされている女性の元まで来ると、まるで師弟関係を結んだ師匠のように、力一杯女性の頭部に拳骨を落とした。
当然、普段の生活では聞いたことのない音と衝撃に女性は蹲り「リアーナさん酷いですよ~」と涙半分にリアーナに抗議している。
女性は黒髪に小柄で幼い顔立ちも相まって可愛らしい印象があるが、やっていることは変質者のそれに近いので、ブルノワと少佐じゃなくても警戒はするだろう。
実に勿体ない話である。
「リアーナ、ピエタが目を覚ましたって本当かい!?」
「ルシオも居たのかい、そうなんだよ~この子ったら、目が覚めるやこの子達に迫ろうとしてたんだよ。いい加減にその癖を治しな!って言ってるのに」
全く困った子だと言わんばかりに、リアーナとルシオが頭を押さえ蹲っている女性に目を向ける。
「なぁ~話の途中で悪いんだが、こいつ大丈夫か?」
「あぁ、いつものことだよ。そういえば紹介をしていなかったね。この蹲っているのは、あたしの部下の“ピエタ”だよ」
ため息混じりに紹介をされたピエタは、リアーナの部下でアグナダム帝国の全メインシステムの調整などを行っていた経験がある人物でもあった。
特にシステムのことに関してはかなり詳しく、リアーナも絶対の信頼を置いているのだが、いかんせん性格に難があるようで、可愛いモノや生き物をみるとそれがたとえ危険生物であろうと触りたくなるそうだ。
天才となんとかは紙一重というが、どうやら本当だったらしい。
リアーナは、ケイにしがみつくブルノワとピエタを警戒している少佐に、怖い思いをさせてごめんという想いを込めて頭を撫でた。
その後ろでは恨めしそうにピエタがその光景を見つめているが、顔に出ているとリアーナから指摘&拳骨寸前態度に土下座をしている。
「ねぇ・・・この人、本当に大丈夫かしら?」
「かなり変わっている人だね」
「リアーナさん、お体に触りますからその辺で・・・」
シンシアとレイブンの引きつった笑みを余所に、まくし立てる様な口調で説教を続けるリアーナの姿に身体に触るからとピエタの間に入るバギラ。
もはやカオスと言っても良い雰囲気に呆れた様子を見せたケイ達だった。
その日の午後、リアーナから当時の状況を聞くことが出来た。
船医室の一角にある談話スペースに腰を下ろすリアーナと、その向かいにケイとルシオが座った。彼女は一時的な記憶障害の関係で正確には覚えていないこともあるようだが、答えられるところは答えようとケイの願いに承諾する。
「ところでさっきの子たちは大丈夫だったかい?」
「ブルノワと少佐のことか?ピエタを完全に怖がってるみたいでさ~、ここに行くときも来たくないってごねてたから、仲間に任しちまった」
「ほんとに悪かったね~。あとであたしからもキツく言っておくよ」
先ほどの雷が落ちたかのような説教で十分じゃないかと思ったのだが、リアーナ曰く、ピエタはあれでめげるような性格じゃないと頭を振る。
その証拠に今居るソファーの位置からベットの方を覗き見ると、眠ったまま『モフモフ~~~』と不気味な寝言が聞こえてくる。
ルシオもピエタの人なりが分かっているようで、大人しく引き下がった日には大陸中が季節はずれの大雪に見舞われ、ある時は飛んでいる鳥がなぜか気絶した状態で落ちてくるといった面倒くさいポルターガイストを引き起こすので、むしろあれはあれで通常運転なのだそうだ。
「ところで話は変わるが、リアーナ達は俺達に保護される前の事は何処まで覚えてるんだ?」
「あたしが最後に覚えているのは大陸が沈む直前までかね~。ナザレ様から命を受けて南部地区を海に沈めたんだ」
「ナザレって、アレグロとタレナの兄だよな?命令されたってどういうことだ?」
「当時、南部地区はアルペテリア様が代表をしていたんだ。彼女は若いながらもしっかりと南部地区をまとめててね、あたし達も頼っている部分はあったのさ。だけど、世界大戦が始まる数ヶ月前にシャーハーン王と共に他の大陸に視察に出ると言ってね、その時代わりを務めたのが彼女の兄であるナザレ様なんだ」
世界大戦以前からリアーナはナザレから、もし戦争が起こったのなら大陸を沈めてくれと言われたそうだ。またその彼も、その直後に船で移動したことがアルバの記録に残っていた。
「じゃあ、なんでコールドスリープなんかされたんだ?」
「あの時あたしは大陸と共に人生を終えるはずだったんだ。大陸が沈むところを見届けてからね。だけど、その直後に一緒に働いていたアフトクラトリア人達があたしとピエタを無理矢理コールドスリープさせたんだ」
「ケイさん、実は僕も彼女たちと同じなんです」
ルシオもまた、同じように東部地区で働いていた仲間達によってコールドスリープさせられていた。
二人の話を聞き、ここでケイの中で一つの疑問が浮かぶ。
そもそもアスル・カディーム人を裏切ったのはシャムルス人とアフトクラトリア人ではないのか?実は、その仮説自体が間違っているのではという疑念が生まれた。
もし仮にアフトクラトリア人がアスル・カディーム人を嫌っているなら、一緒に道連れにするはずである。それにシャムルス人とのハーフであるルシオもその対象となるなら、わざわざ凍りづけにして生かす必要はない。
そうなると、先ほど会議室で提示した月花石による黒腫に侵された人々によって狂わされたのではと感じる。あくまでもケイの中での仮説なのだが、もしかしたら他にも何処かの段階で真実が歪められていたのかもしれない。
リアーナからナザレが海を渡り大陸に向かったと証言の通りならば、彼は一体何処へ行ったのだろうと考える。恐らく視察のために先へ行ったシャーハン王とアルペテリアの後を追ったのは間違いないとして、残りの一人であるイシュメルの消息も謎である。
それとタレナの方は思い出した部分が多くあるのだが、なぜか世界大戦直前から数ヶ月前の一部分だけがすっぽりと消えている。
また、そこからマライダに保護をされるまでの間も全くと言っていいほど覚えていないが、アレグロの件もあってシルトを閉じ込めたことを悔やんでいる様子があった。そのシルトも記憶障害が残っているのか、自分に関する記憶に関して曖昧な部分も多い。
その部分に関しても、実はまだ何かあるのではとケイは感じていたことは自分の内に留めて置いたのだった。
最後の一人である男性の意識が戻ったのは、その日の夕方頃だった。
ケイ達が船医室に足を運ぶ頃には、男性は目を覚ますや上半身を起こすと状況が飲み込めないのか、驚き固まったまま辺りを見回していた。
意思疎通を試みようとしたところ、言葉が通じなかったため、シルトと同じ状況かと認識したケイは、創造魔法で腕輪型の翻訳機を作製し彼に手渡した。
「えっと、俺の話してる言葉はわかるか?」
『は、はい・・・あの~ここは?』
「ここは魔道船だ。俺達は南部地区でコールドスリープされたあんたを含めた奴らを保護した冒険者で、俺はケイっていうんだ」
『保護して頂きありがとうございます。私はシブレと申します。アグナダム帝国警備隊・第五番隊の隊員です』
シブレは目を覚ましてすぐにも関わらず、状況を把握したようで落ち着いた様子でケイの質問に答えた。
彼もまたルシオとリアーナ達と同じように、仲間達によってコールドスリープをされていた。彼はケイに他の仲間の所在を尋ねたのだが、あの場で見つけられたのはシブレを含めて三人しか居なかったと答えると、そうですかと目を伏せた。
「なんか声、かけづらいわね」
「仲間を失っているんだ無理もないだろうな」
シンシアとアダムが肩を落としているシブレの姿になんと声をかけていいのか分からずに成り行きを見守っている。
「シブレさん、私は上手くはいえませんが、きっとみなさんもあなただけでも助かってよかったと思っていますよ」
「えっ・・・あ、はい。でも他の場所に居る皆も生きていたらいいんですけどね・・・」
落ち込んでいるシブレにタレナが声を掛けると、一瞬驚いた表情を浮かべ、彼女の言葉にこくりと頷く。しかしよほどショックだったのか、それ以上は口を開くことはなく、バギラからも今は体調を優先で、と間に入ってくる。
シブレの話しぶりから警備隊はかなりの人数が居たと思われ、ケイ達があの場で見る限り、今のところ彼一人だけが生存しているということになる。
それに下手に口に出せば傷つくのはシブレ自身ということを知っているからこそ、ケイ達は黙って彼の様子を見守るしかなかった。
リアーナの部下がヤバい件については触れないでおこうと思います。
また、警備兵をしていた青年・シブレは、自分だけが助かったことにショックを覚えている様子。
アグナダム帝国の真実が少しずつ見えてきているようです。
次回の更新は、申しわけありませんが来週の1/25(月)夜となります。
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