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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
アレグロの救済とアグナダム帝国
273/359

265、南部地区

皆さんこんばんは。

いつもご高覧くださりありがとうございます。

さて今回は、南部地区へとやって来たケイ達の話です。

仲間達とバギラがやって来ると同時に、甲板で船員達に指示を出していたダットが一段落着いたのかケイ達の元へやってきた。


「なんだ?ルシオさんも一緒だったのか?」

「さっき遇ったんだよ。あれだけの衝撃があったから誰だって様子を見たくなるなるだろ?」

「バギラが心配するだろうがな」


目線をバギラの方に向けると、無理をして動いたルシオと付き添いの船員が彼に注意を受けている。

やはり船医として見過ごせないのだろう。しきりにルシオの身体を見ながら彼の肩に持参したブランケットを掛け、身体が冷えているし体調が戻っていないのだから部屋に戻るべきだなどと述べる。


「ルシオさん、大丈夫なのか?」

「口ぶりからはっきりしてるみたいだけど、体力面で考えるとイマイチかな」

「昨日意識が戻ってすぐに行動するって、彼はよっぽと気力がなければ難しいだろうな」


端から見ていたアダムが、心配そうにルシオを見つめる。


「ところでダット、早速だが南部地区へ向かってくれないか?」

「北部は後回しで良いのか?」

「あぁ。実は少しルシオと話したんだが、あいつの友人が残したデータがあるようなんだ」

「データ?」


ダットにルシオの友人である研究者が残した黒腫に関するデータの回収をしたいと言い、中央地区を浮上させるには北部地区・南部地区双方のメインシステムの起動が必要だと説明をすると、ダットからデータの回収は可能なのだろうかと疑問を投げかけられる。


たとえ海に沈んだ大陸を浮上させることは出来ても、データの回収の保証は難しいだろうと思われるのが、先ほどのルシオの口ぶりから考えると、もしかしたら東部地区のメインシステムのように、一部だけ保持している可能性はあるのではと考える。それと、ケイはもう一つの可能性を思い浮かべる。


「メインシステムのデータ回収自体なら問題ないだろう」

「問題ないって、確かに東部地区のデータは運良く回収できても今度は分からないのにか?」

「もしメインシステムが俺の国にあるモノを参考にして作られたのだとしたら、たぶん消失したデータも回収できるかもしれない」

「ち、ちょっと待て!なくなったモノを回収?そんなこと出来るのか!?」


もちろんケイが考えていることが、アグナダム帝国のメインシステムでも可能ならの話だが、ここでバギラと船員に支えられたルシオがケイ達の元へ向かって来る。


「皆さんお取り込み中のところすみません。どうか私を東部地区へ置いていってはいただけないでしょうか?」

「なっ、ルシオさん!何を言っているんですか!?」


彼は離れたところでケイ達の会話を聞いていたようで、突然の願いを申し出る。


もちろんバギラは、どんな事情があれど病み上がりの人を置いてはいけないと反対をしたが、ケイは理由を尋ねると自分でなければ・・・と住まなそうな表情をする。


「私は東部地区のメインシステムを管理していますので、この場所から離れることが難しいのです」

「メインシステムの不具合が発生した時に、対応出来る人間必要ってこと?」

「はい。もちろんバギラさんや皆さんの気持ちも分かります!どうか・・・」

「アルバ、メインシステムを“遠隔”で操作って可能か?」

【はい。性能が高い媒体があれば、直接メインシステムを操作する時と同じような操作は可能です】

「じゃあ、これでもいいか~」


ケイは創造魔法を発動させると、ある物が彼の手に現れる。


それは、地球でお馴染みのタブレットである。

A4サイズのシルバーの背面とシンプルな見た目だが、メインシステムを遠隔で操作するに辺り、高性能でなければならないと思い創造したのだが、いかんせんパソコンや機械関係は詳しくないため、完全にケイのオリジナルである。

もちろんアルバにこれでも大丈夫かと確認をして貰ったところ、これでも性能的には問題ないということで、それをルシオに手渡す。


「あ、あの・・・」

「ルシオ、これで東部地区のメインシステムの管理は出来るから頼めるか?」

「えっ、あ、はい」


ケイと手元に渡ったタブレットを見比べながら呆けた顔のルシオに、なんとも締まらない間というカオスな状態にまたやらかしたか!と仲間達は頭を抱えたのは言うまでもない。



魔道船は東部地区から南部地区へ進路を進め、ルシオは体調のことを考え、バギラ達に連れられ船医室へと戻った。


「それで、ルシオさんは使いこなせそうなの?」

「アルバのヘルプもある大丈夫だろう。さっきバギラに様子を聞いたら、必死こいて操作を確認しながら覚えてるってさ」

「そうなの・・・ルシオさん、大丈夫かしら~」


暫くしてからバギラを見かけた際にルシオの様子を尋ねたところ、医務室のベッドでiPadに試行錯誤しているようで、しかもアグナダム帝国にはケイが渡したような機器がないのでかなり苦戦していることも語られる。


シンシアはケイの常識はずれな魔法に何も言うまいとスルーをきめ、ルシオを心配しながら、進行方向の彼方に見える南部地区に目を移した。


「それで、南部地区にいるルシオさんの友人のデータはどこにあるんだ?」


ケイから話を聞いたアダムは、ルシオが示した友人からのデータのことを尋ねた。


「それが詳しい事は言ってねぇんだ。もしかしたら本人から聞いただけで、ルシオ自身もそれがどんな状態であるのか知らねぇんじゃないかと思う」

「探しようがないってことか?」

「いや、全く手立てがないわけじゃない。ルシオの友人も研究者をしていたようだから、おそらくメインシステム内にデータを保管している可能性はある。状況から考えると、それをルシオに送る前に本人の身に何かあって送ることができなかったのかもしれない。どちらにしろアレグロの本体は中央地区に移されたと言っていたから、北部・南部両方を行くことになるけどな」


ルシオの話からその友人である研究者は、黒腫についての情報を掴んだ可能性があったのは間違いないだろう。しかしそれを伝える前に、何らかの事件または事故に巻き込まれ、結果として、ルシオにその情報が行き渡らなかったことになる。


「でも、医療が整っている東部地区から移すって普通ならあり得ないわ」

「もしかしたら“裏”があるかもしれないな」

「裏って?」

「黒腫に侵されたアレグロを見て、何かに気づいた人物が別にいた・・・とか」


冗談でしょ!?と聞き返したシンシアだが、もし理由を周囲に洩らすことなく移したのだとしたら隠蔽目的の可能性も出てくる。決めつけは良くないが、これから南部地区に向かうにあたりケイの推測と、残された証拠がキーになる。


そんな思いを抱きながら、ケイ達を乗せた魔道船は南部地区へと進んだのだった。



魔道船は、南部地区の外周を沿うようにアルバに指定された南部地区の東側にある港跡へと辿り着いた。


アルバによると、本来は自然豊かな田園風景が一望出来る南部地区だったが、今は自然の面影がないほど何もない砂漠のようなただ広い風景が広がっている。

遠くには建物の一部とおぼしき柱が一本辛うじて立っている状態だけがあり、これといって何かを示す目印のようなものが見当たらない。


【ここが南部地区です】

「田舎に住んでる、ウチのじいさんの家より何もねぇな」

【本来は農業と漁業を中心に発展してきた地区のため、外観上は他の地区より見劣りはするかと。ですが以前は自然豊かな場所だったことから、希少生物の存在も確認できました】

「南部地区は田舎っぽい地区ってことか・・・」


アルバの案内でメインシステムがある場所へ向かうことにしたケイ達は、船をダット達に任せ、そのまま港から西に進むことにした。


アグナダム帝国が没落する前は緑豊かな自然が広がっていたが、今はその面影もないほど荒廃し、遠くにはいろんなものが付着した荒れた山々が見えた。

本来の大陸の美しさを失っても守りたいモノがシャーハーン王にはあったのか?

それはケイには理解できない考えであり、世界大戦が残した結果であると考えるとなんだかやるせない気持ちになる。


そんな風景を前に、ケイは世界大戦がただの種族の抗争とは考えられなかった。


改めて他の大陸が残した文献のことを思い返しては自分の中で考えた時、もしかしたら自分たちは何かを見落とし勘違いをしているのではと、ふと考えた過ぎる。

それが、実はアグナダム帝国側にあったのだとしたらと思いついた時、ケイの中である仮説を立つ。


それはこれから向かう南部地区のメインシステムにも関係があり、推測が正しければ大陸全土に関わることになるかもしれないと、ひとり妙な気持ちを持ったのであった。



【ここが、南部地区のメインシステムがある場所になります】


アルバの案内で辿り着いた先は、一軒の古びた建物だった。

外観は色が判別できないほど腐食や劣化が進んでいるが、古代ローマに伝わる建築様式と特徴が似ていることから教会であると推測できた。


「これ教会だよな?てっきり独立した建物があると思ったけど?」

【当時のアグナダム帝国の法律上、景観を損ねることなくメインシステムを設ける方法としてカモフラージュも果たしていました】

「東部地区でも思ったんだけど、全部地下に造れば新たに建物を造るよりマシじゃねえのか?」

【実は、ある一定の深さより下に地下を造ることが出来ませんでした】


どうやら一定の深さまでしか地下を造ることができなかったようで、それより下は大陸を自由に行き来する移動手段が構築されていたそうだ。


一種の地下鉄のようなものなのだろうと、ケイが推測をする。


跡地にはなるが、アグナダム帝国は見れば見るほど地球の技術と共通する部分が多々見られる。それは故意に歴史を弄ったメルディーナの結果であり、歴史に翻弄された人々の成れの果てということなのだろうか。


特に自分たちの国に戻ったタレナとシルトは、どんなことを思い感じているのか。


ケイは二人に気づかれないよう横目で様子を伺うと、表情には出さないものの、なんとも言えぬ目線で在りし日の田園風景を思い浮かべているような、そんな雰囲気を感じていた。

アグナダム帝国・南部地区は、元々農業や漁業を中心とした田園風景が広がっていた。

ケイはタレナとシルトの事を気遣いながらも、メインシステムがある場所へと向かうことにしました。

次回の更新は1月6日(水)夜です。


閲覧&ブックマーク&感想などありがとうございます。

細々とマイペースに活動していますので、また来てくださいね。

※誤字脱字の報告、または表現の提供をありがとうございます。

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