263、ルシオ
皆さんこんばんは。
いつもご高覧くださりありがとうございます。
さて今回は、情報整理と保護をした男性の話です。
「毎回思うんだが、なぜ行く先々で色々と見つけられるんだ?」
魔道船に戻って来たケイ達に、出迎えたダットがそんな言葉を口にした。
こちらもわからないとしか言いようがないが、ダットもアルバから連絡を貰った時点で何かの冗談かと、その時居合わせた船員達と目を丸くしながら顔を見合わせたのだという。
保護した男性を二人の船員と共に待機していたバギラにたくし、担架に乗せて船医室前にケイが魔法である程度回復させた。
鑑定では衰弱と低体温を完治させたが意識不明の部分は残ったままで、バギラ曰くある程度回復していることから、このまま安静にさせればいずれ気がつくのではと見解を示す。
バギラと共に担架に運ばれた男性を見送りながら、ダットからどうなっているのかと説明を求められる。
「あいつは何者なんだ?」
「鑑定では、1500年前に生存していたアスル・カディーム人とシャムルス人のハーフだと出ていたが、タレナとシルトによるとナザレの部下の一人らしいんだ」
「はぁ~?っていうと、1500年前まで生存していた人間ってことか?」
「まぁ、そういうことになるわな。いずれにせよ見つかった場所と服装から医療系の研究員かそれに従事している人物じゃないかと思ってる」
信じられないと首を振るダットに、普通ならそうなるだろうなとケイは苦笑いを浮かべた。
ダットに本人が気がつくまで船に置いておくことは可能かと伝えると、問題はないと返ってくるが、いかんせん場所が場所だけに出来る対応は限られる。
ただ外傷がないため必要最低限で事足りるようで、その人物がいつ目覚めるかは船医であるバギラも予測できないことは素人であるケイ達でもわかる。
「そういえば東部地区のメインシステムは起動したけど、この後はどうしたらいいのかしら?」
【すでに東部地区のメインシステムから、北部地区・南部地区を浮上させるシステムの準備は完了しています】
ケイの腕輪からアルバの声が出力された。
この腕輪はアグナダム帝国時代に通信装置としても使われていたようで、アルバが起動した際に自動的にシステムとして組み込まれており、音声出力される仕組みになっている。
「中央地区は浮上できねぇのか?」
【システム上北部および南部のシステムを起動させない限り、大陸の浮上は難しいと思われます。とくに中央地区のメインシステムは、他のメインシステムよりも複雑な構造となっています】
「要は、北部と南部のメインシステムを起動しないと駄目だってことか?」
【そのほかにもいくつか手順がありますが、まずは北部地区と南部地区のメインシステムの起動を推奨します】
どうやらアグナダム帝国のシステムの構造上、東部・北部・南部のそれぞれの地区のメインシステムを作動させないとならないようだ。
アルバからそれぞれの地区を繋ぐのが中央地区となっているため、現時点で北部地区と南部地区を浮上させてもただの独立した大陸にしかならず、必然的に移動手段が船しかない。
「システムを復旧させるには北と南のどっちを先にしたらいいんだ?」
【それぞれのメインシステムを起ち上げるのでしたら順番はありません。しかし一つ問題があります】
「問題?」
【メインシステムは私が管理していますが、システムを管理する為にはサポート役が必要になります】
アグナダム帝国では、メインシステムをアルバとそれぞれの地区に従事しているサポートの存在が必要なようで、先ほどケイ達が保護した男性は、東部地区のメインシステムを管理している内の一人ではないかという話が上がる。
ケイにしてみればアルバがいるからそれでいいのではと思ったのだが、AIであっても咄嗟のエラーの対応については、自分よりも臨機応変が出来る人の存在が必要だと答える。
「AIでそれを理解できるって、オレの国でもあんま聞かねぇな」
「ケイの国にもAIってあるんじゃないの?」
「そりゃあるけど、アルバのように自分の行動に疑問を抱き、自発的に助けを求める技術ってあんまり聞かねぇな。そもそも俺の知ってるAIって、基礎の部分を作るにしたって人から膨大な量の情報を与えられ、複雑なプログラミングを形成するのが大前提になってくる。これはアルバもそうかもしれないが、ここが結構大変だって聞いたことがある」
「なんだか複雑そうね」
シンシアは複雑そうねと顔を顰めたが、地球の技術もケイがダジュールに来てから少なからず進んでいるかもしれないものの、当時の自分が聞いた限りでは、AIも生き物の子供と根本は変わらない印象を感じた。
その後保護をした人物の関係で、そのまま魔道船へ待機することになったケイは、一旦その場を解散しブルノワと少佐を連れて自室へと戻った。
「黒腫の影響は結構深刻だったようだな」
部屋でブルノワと少佐が遊んでいるなか、ベッドに寝っ転がったケイは先ほどアルバからスマホの端末に復元されたデータを受け取り、その内容を確認していた。
その内容は、原因不明の黒腫という病気の経緯が記されており、わずかながら映像や画像として残っていたものがあったことからその画像を開いてみる。
「・・・んっ?これは、アフトクラトリア人にも症例があったってことか?」
その画像の右下に、被験者:アフトクラトリア人の男性の文字がある。
そこにはアフトクラトリア人の男性の背中が写し出され、その一面に大きく広がった黒い痣のようなものが浮かんでいる。それはアレグロの異変と同じような症状に似ているが、それが何を示すのかはわからずじまい。
他の画像にも女性や子供の症状例があったが、どれも同じようなものでとくに目新しいものはなかった。
「これが動画か」
次にフォルダーに入った動画を開いてみる。
動画は一分弱と短いものだが、そこには医療施設の一室に運ばれた女性が医師や看護師四人に手足を押さえられながら治療を行っている姿があった。
『痛い!痛い!痛い!痛い!いだぁぁぁぁい!!!!』
『おいっ!早く鎮静剤の準備を!』
『は、はい!』
『痛い!痛い!痛い!痛い!やめでぇ!やめでぇぇぇぇぇぇ!!!!』
激痛に悶え苦しむ女性が医師や看護師の手を振り払い、しきりに腕や首などをかきむしり、それを医療従事者が必死に押さえつけているという場面で、奥から別の医師が注射器を手に戻ってくると、苦しみ悶えている女性の首筋に注射針を打ち込む直前で動画が停止する。
ケイは、その動画に何かヒントがないかと何度も見返してみた。
「これは・・・・・・?」
動画を二十回ほど見返した辺りで、ある場面の一点に疑問を持った。
それは悶え苦しむ女性のアップ姿で、よく見ると女性の両手と首筋に数ヶ所黒い突起物が肌の中から浮かんでいるように見えた。
先ほどの画像を開き、動画に映っている女性と画像の被験者の状態を比べると、画像に写っている女性と子供の背中に、動画の女性と同じような黒い痣とは別に肌が盛り上がっている黒い箇所が見られた。
「黒腫の病状のひとつか?だとしたら、アフトクラトリア人の男にはないってどういうことなんだ?」
おかしなことに画像の女性と子供、それと動画の女性には黒い突起物が身体に現れていたが、画像に写っていたアフトクラトリア人の男性の方には、黒い痣が広がっていただけで突起物のような症状が見当たらない。
もしかしたら女性と子供特有の症状かと考えたが、もう一つ気になることがあったのでアルバに尋ねようとしたところ、そこでタイミング良く部屋の扉が叩かれた。
「ケイさん、お休み中のところ申し訳ありません」
船員の内の一人である緑のバンダナを巻いた若い男性が、申し訳なさそうに扉の隙間から顔を出した。
「大丈夫だ。なんか用か?」
「あ、はい。バギラさんから伝言を預かってます。先ほど保護をした男性の意識が戻りましたので来てくださいとのことです」
その言葉にケイは飛び起き、その反動で遊び疲れたブルノワと少佐が驚きのあまりに目を覚ました。
「わかった!今行く!」
一旦スマホをポケットに入れ、半分寝かかっているブルノワと少佐を小脇に抱えると、船員と共にバギラが居る船医室へと向かうことにした。
「ちょうどよかった。みんなも今来たばかりなんだ」
船医室へ向かうと既にみんなが揃っていた。
バギラから検診の結果、保護をした男性は体力が落ちているものの、ケイの処置もあって健康状態には問題なく、少しの間だけなら話をしてもいいと許可を得ることができた。
医務室のカーテンを開けると、バギラのサポートとして別の船員が上体を起こした男性に水を差しだしていた。
男性は長らく身体を使っていなかったようで、少量の水を含む途中にむせ返していたが、なんとか少しだけ水分を取ることができ、上体をベッドに戻したところでケイが男性に声を掛けた。
「あんた、大丈夫か?言葉はわかるか?」
「え・・・えぇ・・・・・・」
「俺達があんたを見つけて保護をしたが、名前は?」
「わ、私はルシオ、といいます・・・ナザレ様、の部下をし、てました・・・・・・」
ルシオは長らく自分の声帯を使っていなかったことに驚き、次に辺りを見回して自分が今どこにいるのかと呆然と考えている様子だった。
また見たこともない場所で、自分がベッドに寝かされていることからなんとなく理解できている様子だが、混乱し落ち着かない様子も窺える。
「あの、ここは?」
「ここは魔道船の船医室だ。ルシオ、もしかして大陸の人間か?」
「えっ?なぜそれを・・・?」
「俺達はその大陸から来た。それと、今は世界大戦から1500年以上も経っている」
「えっ?あ・・・えっ・・・え・・・」
ケイの言葉に言葉にならない声を出し、驚きのあまり上体を起こそうとしたところで、傍に居たバギラと船員に落ち着くようにとベッドに寝かせる。
「俺は鑑定持ちで、悪いがあんたの事を鑑定させてもらった。アスル・カディーム人とシャムルス人のハーフで、研究者という認識でいいか?」
「は・・・はい・・・・・・」
突然のことにルシオは驚きすぎたようで、状況がのみこめないまま必死に思案している様子を見せる。まさか、自分が眠ってから1500年も経っているとは誰が聞いても混乱をするだろう。
「とりあえず、今日は休ませた方が良いでしょう。本人もまだ意識がはっきりしてないようですし、明日また様子を見に来てはいかがでしょう?」
「そうだな。あんまり時間を取ってもなんだしな」
バギラから打ち止めの声が入り、本人も混乱している様子から明日また様子を見に来ると言い、この場をバギラと手伝いの船員を残して一同は船医室をあとにした。
東部地区のメインシステムから情報を共有し、黒腫について気になることがわかりました。
また保護をした男性・ルシオが目を覚ましまし、今後の方針も決めることになります。
次回の更新は12月30日(水)夜です。
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